ブラック企業にすり減らされた社畜が主人公になれるアプリを手にしたらどうなるか→ 作:ぱちぱち
『完全インストールはあれよ。完全って意味よ』
「お前に聞いた俺がバカだった感じ?」
『一也は確かにちょっとおバカよね。でも気にしないで良いわよ。このお姉さまが困った時には助けてあげるから』
そう自信満々に寝言をほざく『さやか』は放っておくとして、だ。
とりあえず現状で分かった事は、昨日アプリ『NEET NOW』の通知に現れた完全インストールという一文について、明確に言葉で説明できる人物はこれで誰も居ないという事だ。なんだよ完全って意味って。
これは何かを知っている風な言葉を吐いていた「マネージャー」もとい「熊沢栄」もそうであり、彼もなにかが変わったというのは分かるんだがそれがどう変わったのかは言葉には出来ないと言っている。ああ、あと一つ明確に変わった事はある。昨日から「栄」をレンタルする事が出来なくなったのだ。
いや、それだとちょっと語弊があるか。アプリを使って「栄」を呼ぶことは出来るんだが、その際にレンタルではなくインストールという手順を踏む形になったのだ。
アプリ上でも「熊沢栄」及び「電脳歌姫ろっくんろー」の項目はこれまであったプレミアムレンタル作品一覧から無くなっていて、代わりにインストール作品一覧という項目がプレミアムレンタルの上に表示されるようになりそこに「栄」も移動している。
いや呼べるんならそんなに変わらんだろうと思われるかもしれないが、大きな変更点は他にもある。まず、これまで「栄」をレンタルするときは常にレンタル料金を支払っていた。この支払はなんか勝手に銀行口座からお金が抜かれていたり何故か課税対象になったりと不可思議な点が多かったが、まぁ兎に角これまで彼のレンタルには1日3万円という結構な料金がかかっていたのだ。だが、完全インストール後はこれが必要なくなった。どこにも項目が無いし「栄」をインストールしても銀行口座が一切変化しないから多分間違いないだろう。
これだけなら助かるだけなんだがもう一つ大きな変化があり、こっちの方でちょっと困っている。というのも「栄」のインストールをすると、これまでとは違って姿かたちが完全に「熊沢栄」のものになってしまうんだよね。
「電脳歌姫ろっくんろー」での「熊沢栄」、つまり「マネージャー」は姿かたちがないキャラクターだった。これはクマの人形ごしにヒロインにあーだこーだと指示を出したり指導したりするためで、俺はこれまでこれが視聴者たちが感情移入しやすいように制作陣が意図してこの形にしたと思っていた。でも、今回の完全インストールとやらが起きた際に実は違うんじゃないかというのが判明したのだ。
アレは要するに、「栄」が表に出たくなかったから。自分は宇多野りくを導く裏方で居たいという意思からああいう作品に仕上がっているのだ。ソースは完全インストールの際に俺の脳裏に刻まれた走馬灯みたいな「熊沢栄」の生涯ね。
その結果、プレミアムレンタルを行い際には表に出たくないという「マネージャー」の意思が反映されて姿かたちは一切変化が無かったという訳なんだが、完全インストールとやらが起きた後は話が変わってくる。
何故なら「栄」はもう「マネージャー」ではなく、かつて「プレイヤー」だった「熊沢栄」であるからだ。
――つまり、他人の陰に隠れるのはもうしないで良くなったから、自分の姿を取り戻したと
「そうなのか?」
――いや、俺に聞かれても、その。困る……
俺の問いかけに「栄」は低温のイケボで逆に問いかけてくる。いや、アニメの方ではクマから聞こえてくるからこういう声だってのは分かってたんだけど、今までは『…………!』みたいな感じで感情をぶつけてくる感じだったから全然なれないんだよね。
あと、なんというか若干天然気味というか泰然としてるというか結構大きな変化が互いに起きてるのにこいつは終始この調子で、一人だけ慌ててる俺の方がなんかおかしいのかと思わされてしまう。いや、もしかして俺の方がおかしいのか? 『さやか』どころか他のプレミアムレンタル権者たちも全然慌ててないもんな……?
『いや、俺たちも驚いてはいるぞ。ただまぁ、そうなるんだろうなと思ってただけで』
――なんじゃそりゃ
『だってなぁ。あのレンタル料とかいうのマジで適当だったし、姿にしたって他の連中と同じになっただけだろ。これまでがおかしかったんだって』
――そう言われると納得しかない
諭すような『メンチ』の言葉を耳にすると、まぁそうだよなとしか言えないというか。中には1万円から1円になり最終的に10円に納まって運営に文句をたらたら垂れ流すような奴が居る位あそこの値付けは適当なんだ。『かすが』なんか『組織』とかいう馬鹿みたいな要求してきたくらいだからな。
それが無くなる点に関しては支払う側の俺よりも支払われる側のプレミアムレンタル権者の方がどうでもいいらしい。
姿にしたって他の奴と一緒じゃんと言われるとね。全くもってその通りで、魂羽織が創られる前なら兎も角現状だとそこまで困るような事でもない。むしろ『マネージャー』だった頃の仕事を振る相手が出来た分ラッキーなくらいだし。
あれ? もしかして俺が思ってるほど困らない……か? ただの心配性でおろおろしてただけなら最高に格好BADなんだが。
…………い、一旦この件は保留にしとこう。良く分かってない事をくよくよ悩んでも良くないしね!
さて、心の中に棚を作ってそこに黒歴史予備軍を放り込み、厳重に封をした後はお仕事の時間だ。VVVエキスポの後始末は待ってくれないからな。
「クマコーさん! 発表された可変型重機の販売先は国内だけという事ですが!」
「ノーコメント」
「クマコーさん! クマコー社長! 購入を打診した第三世界からの声を無視したとの声が上がってることはどうお考えでしょうか!」
「ノーコメント」
第三回VVVエキスポで発表した可変型重機は話題性も抜群で、連日各種報道機関はガンガン可変型重機についてを取り上げ続けている。当然売ってくれという声も非常に多いんだが、なんせ作ったばかりの車種だから整備できる場所も限られてくる。という事で暫くは日本国内、ある程度販売実績と整備などについて問題点の洗い出しが終わったら米国でも販売すると発表していたんだが、その事に付いてこれまで松戸真楠自動車がメイン顧客としてきたアラブ諸国からかなり声が上がっているらしい。
これまで付き合いがあった相手からうちにはそれを売ってくれないのかと言われると松戸真楠自動車さんとしても非常に困るわけで、なにかしら手立てはないかと相談が来てるんだが……VVVとしては問題ないけど日本政府と米国政府がうんって言わないんだよねぇ。輸出された可変型重機がテロリストの装備にされても困るわけだし。
というかその点で言うと米国に売るのもちょっと危ない所ではあるんだよな。何故なら米国政府が用意したテントが何故かイスラム圏に居る筈のテロリスト野営地に使われてて、明らかに横流しルートが存在するというのが最近ニュースになってたからだ。マックス氏も米国政府の3分の1は他国と繋がってるから気を付けろって言ってたし、安易にあのロボットを売るのはためらわれるのだ。
これらの懸念点を解決できて、かつそれらを日米政府に納得させられるなら松戸真楠自動車さんの要望も解決できるんだがね。一度『あきら』えもんに相談してみるか。
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