ブラック労働で過労死数歩前だった俺の心の癒しだった動画アプリがマジモンの神アプリだった 作:ぱちぱち
「前にね。見えたの。ラッパを持ったおねーさんがね。鹿さんと猪さんをつれてすごくたのしそうに歩いてるところが」
『それは初めてあきらと会った時の事かい?』
「ん……もっとまえ。あきらお姉さんを見た時、思い出したの」
『そっか。なるほどねぇ』
楽しい楽しい女子会から数日後。時間を縫ってレンタルした『坂東メンチ』で蝶子ちゃんと再度のお話合いを行う。『メンチ』の状態で蝶子ちゃんと話したことは無かったんだが、彼女はやはり一目で俺と『メンチ』が同一人物だと見抜いた。
『蝶子ちゃんは所謂『先読み』だな。たまーにいるんだよ。才能ある子の中に。あー、ようは予知とかそう言うの』
「よち?」
『ああ。そう言うのが見えてもあんまり人には言っちゃダメだよ。まぁ、悪い事になるかもしれないから変なものが見えたら一也に言いな。なんとかするから』
「ん」
『あと、俺たちの事は誰にも言わないでくれ。多分、いろんな人が困るから』
「アキコお姉さんにも?」
『ああ。アキコちゃんには……そうだな。一也が困るから、黙っててほしい。お願いできるかい?』
「わかった」
『メンチ』はそう言って、ごく自然に蝶子ちゃんの頭を撫でて『うん、いい子だ』と口にする。こういう所でいやらしさを感じないのがモテる男の秘訣なんだろうな。俺も参考にしなければと思うんだが、このイケメンと同じことが出来る自分が全く想像できない。
蝶子ちゃんを呼んだタクシーに乗せて帰した後は、ひなちゃんの実家である蕎麦屋『えびな』でちょっと早めの夕食を食べながら脳内会議だ。
まず、『蝶子ちゃんは身内に。つまりVVVの中に取り込まなきゃいかん。あれは目を離してたらその内酷い事が起きる』というのが彼女と話した『メンチ』の意見だ。
これは、彼女が一発で俺達を見分けられるからというのもあるが、彼女自身の資質についても『メンチ』は言及している。古来から『先読み』の才に優れた子は、家族もろとも不幸になる事が多いのだ。
『権力者に囲われて一生飼い殺しならまだマシ。災害を予知したら元凶扱いで殺されるなんてのもまぁ聞く話だわな』
――ああ。まぁ、なんとなく理解はできる
災いを予見した人物が迫害されるなんてのは、まぁ、どこにでもある話なのだろう。それこそ神話にだって預言者が迫害されて~なんてのがあるくらいだ。もちろん神話レベルの予知能力者はそうそう世に出ないが、『メンチ』が危惧しているのは、彼女にはそうなるポテンシャルがある“かも”しれないという点だ。この“かも”ってのが面倒を引き起こす。
人は自分が信じたいものを信じる生き物だからな。ポテンシャルを勝手に過大評価して手を出そうとする奴らが出てきてもおかしくはないし、そう言う考えなしな奴らは本当に後先考えないことが多いから大惨事を引き起こすかもしれないのだ。
そして蝶子ちゃんの才能が期待と違っていたら、全ての責任を彼女に押し付けようとするだろう。
『と、言うのがこのまま放置した場合の最悪のパターンだな。そもそも「先読み」は才能があるだけじゃそんなに意味がないからな。あれもれっきとした技能だから、なにも学ばなきゃフツーの子としてそのまま成長するってルートもありえはするぜ?』
――でも、そうはならない場合が不味いから今のうちにVVVで囲って守れるようにする、と。
『メンチ』の言いたい事は理解できるのだが、かといって疑問は残る。うちみたいな小さな会社がそんな大事になりそうな人材を上手く隠し通せるかって所だ。『メンチ』の口ぶりだと蝶子ちゃんの能力、才能と呼ぶべきものを阻害するとか封印するとかそういう事は考えて無さそうなんだが。
『その点については良い考えがある。と言っても、鬼畜クマの知識を借りねーといけなそうだけどな』
――ほー。マネージャーの力となるとVタレにするって事か? 確かに蝶子ちゃんにはマネージャーが興味を示してたな。でも、あんまり目立つのは良くないんじゃないか?
『逆だよ逆。樹を隠すなら森の中って言うだろ?』
意味ありげな『メンチ』の言葉に訝しさを感じたが、まぁ『あきら』みたいな爆弾が横に居るならちょっと予知っぽい事を言っても誤魔化されるかもしれないな。つい先日科学雑誌に投稿した『九十九あきら』名義の論文が海外で絶賛されてるらしいし、話題性って意味でアイツを超えるのはちょっと難しいだろう。Vタレ関係ない所で話題になってるせいで微妙にオーイシアキコの方が『九十九あきら』と混同されてアキコさんが配信中に謎の自称科学者ニキに凸られてお労しい事になったりしてるけどまぁその辺はコラテラルダメージという事で(鬼畜クマ仕草)
「2期生のデビュー? あきらちゃんがデビューしたばっかりなのに?」
「アレをデビューと呼んで良いかは置いといて、元々の想定ではオーイシアキコである程度数字を掴んでから次のVタレをデビューさせる方針でしたよね。タイミングとしてはバッチリだと思うんですよ」
次の日。昨夜は『メンチ』が一晩借りっぱなしになった為、なぜか若干つやつやした感じのアキコさんに相談の体で次のVタレについての話を振る。絶対に『メンチ』の正体は言わないでおこうと固く心に誓いながら詳細の話しになるタイミングでレンタルしたマネージャーの意思を表に出す。
『バイトが増えましたし、ヒナちゃんもそろそろ配信のイロハについては問題ないと思うんです。彼女と、それに『あきら』と一緒にここに来てる蝶子ちゃんはVタレの素質があると思うんですよ』
「ちょこちゃん? ちょこちゃんは、でもお喋りとか苦手そうなイメージだけど」
『社長のようにトークスキルがあった方が良いですが、必要な事を話す事が出来れば十分ですよ。Vタレにも色々な形がありますし』
そう言ってマネージャーは少し間を置き、アキコさんの反応を見ながら言葉を紡ぎ始める。
『あの子、昨日『メンチ』とちょっと話したみたいなんですがね。占いとかそういうのに才能がありそうだとアイツが言ってたんで、そういう方向性のVタレとしてならアリだと思うんですよ。もちろん本人の希望次第ですが』
「そうね。本人の希望次第だし、親御さんにも許可を受けないといけないわ」
『ひなちゃんはアキコさんと同じく結構王道派のVタレになりそうですし、差別化を図る意味でも専門性の高いタイプのVタレを同期デビューさせるのは良いと思うんですよね』
「なるほどねぇ。あら、でもそれだと少し不味くない? 蝶子ちゃんは興味があるだけで別に占いとかに詳しいわけじゃないんでしょう?」
アキコさんの最もな言葉に、マネージャーは確かにその通り、と前置きを置いてピンと右手の指を立てた。
『もちろんです。ですので、彼女の立ち位置はむしろ生徒側。占いを学ぶために占い師に指示する見習いの少女、という路線で行こうと思います。彼女自身の若さと口の拙さも、その路線であればむしろ武器になる』
「そうなると師匠役が必要ね。あ、もしかしてメンチくん? 彼、霊感があるからそういうのも出来そうだしねぇ! それならメンチくんが暫くはこっちにいてくれるのかしら! もー、だから昨日は急に帰ってきたのかしらね!」
『それも一つの案ですが、今回は違いましてね』
隙あらば惚気ようとするアキコさんに苦笑しながらマネージャーはそう口にする。あれ、俺がマネージャーから打ち合わせされた内容はひなちゃんと蝶子ちゃんを一緒にVタレデビューさせて、『九十九あきら』の衝撃で蝶子ちゃんをその他のVタレくらいの位置づけにするって話だったんだけど。
内心で首をかしげていると、マネージャーはここが勝負所とばかりに身を乗り出し、アキコさんに自説を離し始めた。
『蝶子ちゃんは生徒役である以上、先生役が必要になると私も考えました。ただ、ここで普通の占い師を連れてきたりするのは少し芸がないですよね? もう一工夫を考えた時に、非常に都合のいい人材が見つかりましてスカウトしたんで蝶子ちゃんと師弟というキャラ付でデビューしてもらおうかと』
――え。なにそれ聞いてないんだけど?
俺の心の中の声はアキコさんには届かない。届いている筈の鬼畜クマは特に反応を返さず、アキコさんの反応を注意深く見ていた。
「おお! 流石はわが社の名マネージャー! 手が早いわねぇ。美人さん?」
『ええ、まぁ。美人ですし、喋りも上手い人なんでね。師匠役として画面に出るにはうってつけの人ですよ。それに、『実は俺の親戚でもあるんで』』
――おいこら鬼畜クマ野郎
俺の心の中の声に、鬼畜クマは心の中でふっと笑ってアキコさんへのプレゼンを再開した。この野郎、やりやがった。
俺の親戚、という言葉にアキコさんが「なんだ、ならあきらちゃんと同じね!」と安堵したように口にして、スカウトの事後承諾を快く許してくれた。普通の会社なら絶対に通らない話だと思うんだが、これがワンマンスタートアップ企業の怖さか。『この緩さにいろいろと助けられてるんだから我慢しないとな』って? うるせーバーカバーカ。やるならやるで最初から言いやがれこの鬼畜クマ野郎! お前目の前に居たら絶対にぶっ飛ばしてるからな!
なんて心の中で叫んでもマネージャーはただ心の中でふっと笑うだけだった。この野郎、どっちに転んでも面白そうだと思ってやがる。その反応にはぁ、っと一つため息をつき、スマホを取り出して『NEET NOW』のアプリを開く。アキコさんがOKを出した以上、この話をなしにするという選択肢はなくなった。この段階でそんなことすると「え!? そんな急になしって、じゃあスカウトした方にも謝らないと!」とアキコさんが余計に気に病むことになってしまう。そんな事になったら気まずすぎて死にたくなるぞ。俺が。それはそれで楽しそうだと思ってやがるなクマこらこの野郎。
まぁだまし討ちをされたのが気に入らないだけで、アニメを見る事自体は全く問題ない。だまし討ちされたのが気に食わないからクマ野郎にはいつか仕返しをするとして。そもそも鬼畜クマ野郎はこう言う事をする奴だと作中で知ってたのに、安易に頼り過ぎてた自分が悪い……俺、悪いかこれ??? いや、まぁレンタル時間の停止が出来るようになってから、大分アプリの使い勝手も良くなったから仕事中も支障は出なくなったし。アニメを見るのはそもそも趣味だから負担じゃないんだが。
……お。このアニメ面白そう。全24話か……気合入れてみれば今日で終わるな。よし、コーラとポップコーン補充しとくか。途中で足りなくなったら折角の感動が台無しになるかもしれないからね。
山里一也(男)25歳
視聴履歴
『ドキドキ! 魔女っ子大戦争』(レンタル終了)
プレミアムレンタル権『不死鳥の魔女』(運営に怒られたので値上げしました。料金10円)
『煉獄列島』(レンタル終了)
プレミアムレンタル権『閻魔の地上代行人』(料金1000円)
『電脳歌姫ろっくんろー!』(レンタル終了)
プレミアムレンタル権『鬼畜クマネージャー』(料金30000円)
『九十九あきらは終末世界を諦めない』(レンタル終了)
プレミアムレンタル権『天災科学者』を獲得しました。(料金:ひなちゃん家のご飯)
『安楽椅子の占い師』(レンタル期間 7日)
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