ブラック労働で過労死数歩前だった俺の心の癒しだった動画アプリがマジモンの神アプリだった   作:ぱちぱち

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第21話 産声

 VVVという新興のVタレ事務所がある。

 

 所属Vタレは二人。出来たばかりであるため仕方ないのだが、ほとんど個人勢と言うべき人数だ。企業所属と名乗っても鼻で笑われるような零細事務所のVVVで、実際にちょっと前まではそんな扱いを受ける事もSNSとかではあったみたいだけど、現在この事務所は界隈の注目を集めに集めている。

 

 といってもそれはVタレ界隈ではない。

 

 

コメ:(英語)なるほど。ブレードなしのホログラムには機材のスペックが足りないか

コメ:(ドイツ語)うちの大学のコンピューターでも演算能力が足りない。既存の市販コンピューターじゃどれも無理じゃないか?

コメ:(英語)アキラの論文を見なかったのか? 専用の立体投射機を用意すれば解決する問題ばかりが議論されてるぞ

 

 

 アカデミア界隈で、になる。

 

 

「どうしようあきらちゃん、私、今自信を失いかけてるわ」

『ええ!? どうしたんだいアキコちゃん!』

「声真似似てなげふんげふん。うえええん! あきらえもーん! 私の配信なのにコメント欄が科学の話ばかりだよぉう!」

『なんだそんなことかぁ。しょうがないなぁアキコちゃんは! テレテレッテレー! こまくはかいばくだぁん! これを使うとながら配信をしてる不届き者は全員鼓膜が吹き飛ぶよ!』

「や。そこまでは求めてないかな?」

 

 

コメ:草

コメ:(英語)おっと。俺はどうやら命拾いをしたようだな

コメ:(オランダ語)こまくはかいばくだん? 今聞き逃したんだが鼓膜を破壊する爆弾とアキラは言ったのか?

コメ:聞き逃してないじゃん

 

 

 これはVVV所属のVタレである『九十九あきら』さんが原因で、VVVが扱う技術が明らかに現状の世界水準を超えている事からその開発者である彼女と彼女が出願した特許、および学術誌へ投稿した論文が世界中の科学者たちの注目を集めているから起きている現象だ。

 

 そして世界中の科学者や有識者が食いついた事からVVVの存在を知り、一般的なVタレファンなどの認知度も上がってきたことによってもう一人のVタレ。というよりも『九十九あきら』はあくまで技術者としての立場でたまに配信に出てくる立ち位置である事から、本当の意味ではただ一人のVタレであり更にVVVの社長であるオーイシアキコの認知度も上がってきている。

 

 そして、この認知度の上昇を上手く使ってアキコさんは一気に登録者数を増やしていった。ほどよく面白く、ほどよく聞きやすいアキコさんの配信は驚異的なリピート率を誇るようで、『九十九あきら』によって齎されたファンの流入を見事に取り込んでいった。

 

 現在、オーイシアキコと『九十九あきら』が参加するVVVの公式チャンネルは登録者数30万人越えの、大手と言われる企業のVタレでもそうそう居ない数字を持っており、バズり方が急激すぎたためまだ審査が終わっていないが近々収益化も通る見通しである。1万人の壁とか10万人の壁とかいうものを軽々と超えていき、VVVは注目の事務所という立ち位置にまで上り詰めた訳だ。

 

 故に、新しいVタレがデビューするタイミングとしては確かに、今なのだろう。

 

 それは間違っていない。戦略としては正しいのだと、頭の中では理解できる。

 

 理解できるのだけれども。

 

 

「でもでもでも急に! 急だよホント急にデビューするって言われて! 頭真っ白になって今も頭真っ白です! 私の頭は真っ白ピッカピカって髪の毛はあるんだけど! 親からもらったふっさふさのね!」

 

 

コメ:また髪の話ししてる……

コメ:そんな急にデビューさせられるもんなんかw

コメ:(英語)ふーん、可愛い子じゃないか

コメ:元気が有り余ってるって感じ

 

 

「いや。いやぁ。一応ね、前からもし機会があればVタレやってみないとは言われてたんだよ? アキコさんに。私も、アキコさんとか見てて。いいなって思ったりしたから考えてたんだよ? でも、デビュー決まったっていきなり言われて次の日にこのモデル用意されるのはさ! 真っ白ピカピカになってもおかしくないよね!?」

 

 

 私の言葉にコメント欄が一斉にwとか草とかが一斉に流れていく。それを見るのが、気持ちいい。アキコさんが言っていた。自分の言葉に一喜一憂するファンの皆と話すのが楽しいって。その気持ちが、私にもよくわかる。

 

 これは、気持ちいい。楽しい。そして、ちょっとだけ怖い。マネージャーさんである一也さんも言っていた。配信とは、最高に楽しくて面白くてそして恐ろしいものだって。それが、今、心の底から分かった気がする。

 

 デビュー配信。アキコさんと『あきら』さんが誘導してくれたVVVのファン達の前で、私は『私』を演じて喋る。

 

 今、彼らの前に立つ私は蛯名ひなではない。VVV所属の新人Vタレ、『雛まつり』。アキコさんや『あきら』さんから受け取ったバトンを無理なく熟せるほどの実力はまだないけど、そんな私の悪戦苦闘もそれを眺める視聴者さんたちには「新人が頑張っている」という姿に見えている筈。

 

 今は、これでいい。現在の私に求められているものは、きっとこれだから。

 

 でも、いつかは私一人の実力で、アキコさんたちのように視聴者さんたちと楽しくお話が出来るようになる。

 

 それが当面の、目標。

 

 

「あ。じゃあそろそろ次の子と交代しますね! ファンの呼称とかSNSのタグとか、色々手伝ってくれてありがとう!」

 

 

コメ:良いって事ヨ

コメ:まつりちゃんが正統派美少女すぎてVVVの子だと思えない

コメ:(ドイツ語)おいおい、アキコだってかわいいだろ!

 

 

「あはは。ありがと! 次の人“たち”はすっごくすごいから、楽しみにしててね!」

 

 

 コメント欄を眺めて、そのコメントに言葉で返事をして。私の言葉に訝しむコメントを見てちょっとだけ意地悪な笑顔を浮かべながら配信部屋から出る。部屋から出ると体の周りを覆っていたホログラムが無くなって、私は『雛まつり』から蛯名ひなへ戻った。

 

 うん、こんなの誰だって騒いじゃうよね。『あきら』さん、私とあんまり年も変わらないはずなのにこんな機械作れるなんて凄すぎ。

 

 そんな事を考えていると、準備をしていた“次の人たち”が入ってきた。一人は、最近VVVに遊びに来ていた蝶子ちゃん。会話に独特の間があったりして雰囲気のある子だから多分マネージャーさんがスカウトしたんだろうなって思ってたら、やっぱりVタレになった子だ。

 

 そしてもう一人。黒いドレスを見に纏った背の高い黒髪の女性が、『いい仕事だった』と褒めるように柔らかい微笑みを浮かべて私を見て、『お疲れ様』と口にした。

 

 昨日、初めて会った人なのに、なぜか前から知っている気がする不思議な女の人。蝶子ちゃんは私と違って専門的な分野を主軸にするVタレになるそうだから、その分野の専門家を“先生役”としてお招きしてるらしい。

 

 あまり口数は多くない人みたいで、交わした言葉は一言とか、二言くらいだけど。透き通るような綺麗な声が、ずっと頭に残る。そんな人だ。

 

 

『行こうか、アゲハ』

「ん。先生」

 

 

 二人の言葉は少ない。でも、それだけでいいからこその少なさなのだろう。その一言で息を合わせたかのように、二人は同じタイミングで控室から配信部屋へと足を踏み進めた。

 

 

『諸君』

「みんな」

 

 

 そして、機械やコンピューターに囲まれた部屋の中で。

 

 

『未知を知りたくはないか?』

「みらいを知りたい?」

 

 

 私の同期生である『揚羽みらい』と“先生”。『リリーベル・リ・ラスティーネ』は、産声を上げた。

 

 




山里一也(男)25歳


視聴履歴
『ドキドキ! 魔女っ子大戦争』(レンタル終了)
プレミアムレンタル権『不死鳥の魔女』(運営に怒られたので値上げしました。料金10円)
『煉獄列島』(レンタル終了)
プレミアムレンタル権『閻魔の地上代行人』(料金1000円)
『電脳歌姫ろっくんろー!』(レンタル終了)
プレミアムレンタル権『鬼畜クマネージャー』(料金30000円)
『九十九あきらは終末世界を諦めない』(レンタル終了)
プレミアムレンタル権『天災科学者』を獲得しました。(料金:ひなちゃん家のご飯)
『安楽椅子の占い師』(レンタル期間 7日)


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