ブラック労働で過労死数歩前だった俺の心の癒しだった動画アプリがマジモンの神アプリだった 作:ぱちぱち
「うっひょっひょっひょっ」
アキコさんがおかしくなった。
PCの画面を見てはニヤニヤと笑い、ふと正気に返ったかのように顔を上げて周囲を見回して、自分に視線が向いているのに気付いてちょっと顔を赤らめ、またしばらくしたらPCの画面を見て変な笑い声をあげる。大体1時間ほどこのルーティーンが繰り返されている。
またエゴサでもしてるんだろうか。エゴサはいけない、心が壊れるとあれほど言ったというのに。『仕方ないにゃあ』と作業を中断して席を立とうとしたとき、聞き覚えのある声が俺の耳に入ってくる。
「『どうしましたアキコさん。さっきから、その。随分楽しそうですけど』」
「え! 聞く? 聞いちゃうぅ~? もー、一也くんが聞きたいならしょうがないなぁ!」
「うん、やはり面倒な事になりそうだ」
「一也さん、あとおねがいしまっす!」
明らかに面倒な反応を見せるアキコさんの姿に鹿谷さんたちバイト勢が南無南無、と手を合わせて今回の犠牲者、『山里一也』にエールを送る。それを『九十九あきら』の姿で横目で眺めているのは、少し不思議な気分だ。アキコさんにウザ絡みされる自分はこういう風に周囲には見えていたんだな。
『ドッペルゲンガー』の働かない宣言を聞いた後、俺たちは労働条件のすり合わせに入った。『ドッペルゲンガー』が最初に求めたものは週休2日だった。もちろんこれは『ドッペルゲンガー』をレンタルした上で、自由に行動するという意味での話だ。そして一日の業務時間はフレックス制の8時間である。
「『「郷に入っては郷に従え」だったな。日本の業務時間は把握しているからそこは合わせよう。それとプレミアムレンタル期間の料金は休日に使う小遣いという事で良い。そうだな、一日3万、二日で6万はどうだ』」
「高すぎる。あっという間に資金が枯渇するわ」
「『仕方ない。俺のレンタル期間は1週間にしてやる。その都度6万だ。4週で24万。本来の俺の月収は¥レートで200万に近いものだった。それから比べれば破格だろう?』」
「それはお前の本体の給料だろうが。まぁ、でも週で6万は飲める」
こんな感じで俺と『ドッペルゲンガー』の間で条件が詰められて行き、最終的に『ドッペルゲンガー』は週に5日『山里一也』としてVVVの仕事を行い、また俺の状況に合わせて補助を行うという事で契約は成立。契約の内容、特に料金の部分は『ドッペルゲンガー』の小遣いになるため随時見直しを図るという特約も付けた上なのでちょっと向こうに有利な条件かもしれないが、ブラック企業時代と違って料金的な面での負担は、この契約によってそれほど苦にはならなくなった。
なぜならば。
「キャーッ! ピンクちゃん! ピンクちゃんが一着だわ! ね、メンチくんメンチくん! ピンクちゃんが一番よ!」
『おぉー。最近低迷してたピンクスカートが本当に頭に来ちゃったか。もしかしたらアキコちゃんとピンクスカートは相性が良いのかもしれないな』
「ね! 一也くん一也くん! 「『一着はG13勝のアカガミスキー。今回の面子では鉄板ですよ』」って言ってた一也くん! 今の感想は?」
「『もう競馬なんて止める! って言いたいかなぁ』」
こういう事が出来るようになるからだ。
今までは山里一也と『坂東メンチ』を両立するために色々小細工をしなければならず、こういった資金稼ぎに赴くことが出来なかったのだが、『ドッペルゲンガー』が山里一也役をこなしてくれるためにこうしてアキコさんと一緒に競馬場デートならぬ資金稼ぎに赴くことが出来るようになった。これがまぁ、デカい。
『ドッペルゲンガー』、マジで便利すぎる。これで『ドッペルゲンガー』の方で他の変身が出来てたら最高なんだが、『ドッペルゲンガー』曰く「『それは多分出来ない。というか、やったら俺が死ぬ』」と割と全力で嫌がられた。死ぬってのがどういう意味かは分からんが、過労死するかもって意味じゃ確かにその通りだから文句も言えん。
「ところでメンチくん! これ、ピンクちゃんは12番人気だったよね! 結構配当ってもらえるのかしら?」
『そうだなぁ。32倍返しだな。アキコちゃんは幾らかけてたんだい?』
「100万円!」
『おおー、良い買いっぷりだねぇ! よっ! 女社長!』
流石にそっちの意味での帯馬券とは思わずそう口にすると、アキコさんは「3200万かぁ……今のマンション買うにはまだ足りないなぁ」と少し残念そうな表情でそう口にする。ヤバいな、この人すっかり金銭感覚がマヒしてる。来年の税金はちゃんと残しとかないと。
ちらりと視線を向けると、『ドッペルゲンガー』は分かったとばかりに頷いた。この人に会社の財布を渡してはいけない。俺たちの中で一つの共有事項が出来上がった。
『ま、そんな俺はピンクちゃん頭で連複と連単とってるんだけどね』
「キャーッ! 流石はメンチくん!」
「『高額換金所のお姉さんがまたかって顔で見てきそうだなぁ』」
紙切れになった馬券をゴミ箱に捨てながら、『ドッペルゲンガー』がそう口にするが、土日開催の中央競馬でこいつはすでに5万くらいスッてるからね。たまにこっちの買い目と同じものを買って取り返したりしてるんだけど、だいたい「『一番人気が1着を取る確率は高い。一番人気だから当然ですね』」とか自信満々に言っては外して、たまに的中しても一番人気だから低配当で全然取り返せず気付けば今週のお小遣いはほとんど紙切れになっている。
こいつもこいつで熱くなったらとことん突っ込むタイプだな。気を付けとかないと。
「え。ええと、その。またこちらのお口座に振り込む形でよろしいでしょうか?」
「はい! んー、口座の0増えるの気持ちいい~! 今日はありがとね、メンチくん! それに一也くんも!」
『良いって事よ! アキコちゃんには一也の奴も含めて世話になってるしな』
「『お世話してる方が多い気がするけどな』」
「むふふふ。私社長is偉い。君社員isお世話係。オーケー?」
いつにもましてテンションが高いアキコさんを『ドッペルゲンガー』と二人であやしながらマンションに帰る。アキコさんも最近、何故か所属Vタレのせいで炎上するって不幸があったから少し気落ちしてたんだが、競馬場から帰るころには随分と機嫌が直っていたみたいだ。『ドッペルゲンガー』のお陰で『メンチ』をレンタルするハードルが大分下がったから、これからは週1くらいは『メンチ』になった方がいいかな? ただ心の中の鬼畜クマ成分が『彼女はちょっと可哀そうなくらいが一番輝く』って言ってるんだよなぁ。二週に1度で良いかな?
「明日になったらここのマンションのオーナーと話してくるわー! 前々から購入を打診されてたし、いっそここを正式にVVVの所有物件にしちゃおうかしらね。資金も出来たし!」
「『来年の税金』」
「うぐっ」
うん、二週に1度で良いか。あんまり上機嫌モードが続くとどっかで失敗しそうだな。アキコさん。あと財布のひもはきっちり締めとかないと(使命感)
「『だがまぁ、このマンションを購入するのは良いと思うぞ。防犯として考えて』」
『ん。そうだな。そろそろ必要か』
お風呂に入ってくると言って自室に戻ったアキコさんを見送り、自室のリビングのソファに座ってしばし。ぽつりとそう口にした『ドッペルゲンガー』に、『坂東メンチ』がそう反応を返す。
防犯。確かに、このマンションにはいろいろと盗まれたら不味いものがある。『九十九あきら』の開発した機材なんかは特許も出願している最中で、現状このマンションにしか存在しないものばかりだしな。企業スパイ天国とも言われる日本で住むんだから、そうした備えは必要か。
「マンション自体で警備会社と契約はしてるはずだが、うちが購入するならそこを見直してもっと厳重な警備にした方がいいか」
「『いや、まるで足りんな。警備は必要だが、日本の民間警備は荒事に慣れてないところがほとんどだろう? 殺しの経験を持っていて、裏切らない奴を雇うべきだ』」
「いや、ここ日本……」
「『九十九あきらの技術を欲しがる連中にそんな言い訳は通用せんぞ。九十九あきらが神出鬼没に見えるから今は手を出してないだけで、その内ここに襲撃をかけるくらいの価値はある。俺の本職が何か知っているだろう?』」
そう言って、『ドッペルゲンガー』は山里一也から本来のセシル・ファラウェイに姿を変えた。セシル・ファラウェイ本体の仕事は国連超常現象課に所属するエキスパートだ。アニメの中の話と言うなかれ。彼の中ではその経験は、人生一つの重みを伴ったものであるのだ。
そのセシル・ファラウェイが警告する以上、現状は非常に危ないという事なんだろう。日本という平和ボケした国だから実感がないだけで、もしこれが他の国であったならとっくに襲撃されていてもおかしくないほどの技術力を『九十九あきら』は示した、という事だ。
しかし、ではどうすればいいのか。物理的な脅威に対して、全てを守るには俺の手は足りなすぎる。『ドッペルゲンガー』を足しても二人分だ。VVVに所属する全員を守るには、それこそ体が足りなすぎる。身体を増やしてすぐに体が足りないと嘆くことになるとはな。
「『なに、そこまで考え込む話でもない。言ったろ、日本の民間警備は当てにならん。実践を経験した、裏切らない奴を雇うべきと』」
「いや。それが日本だと無理難題なわけで」
「『まぁ、日本にも傭兵上がりだとかそういう経験の持ち主は居ると思うがな。が、数を揃えるなら確かに日本人では無理だろう。日本人では』」
「……つまりなにか。外国の傭兵でも雇えって言うのか? それこそどうやりゃいいか分かんねーぞ」
「『そうだろうな。その手の仕事は専門職となる。俺も傭兵に依頼する事はあったがあれは組織のバックアップが行ってくれていたからな。俺自身はその方法を知らない。ところで」』
そこで言葉を切って、『ドッペルゲンガー』はニヤリと笑って俺を指差す。
「『日本のことわざに「餅は餅屋」というものがあるらしいな?』」
「……お前なぁ」
げんなりとした表情を浮かべてそう口にすると、『ドッペルゲンガー』はケラケラと愉快そうに笑った。
山里一也(男)25歳
視聴履歴
『ドキドキ! 魔女っ子大戦争』(レンタル終了)
プレミアムレンタル権『不死鳥の魔女』(運営に怒られたので値上げしました。料金10円)
『煉獄列島』(レンタル終了)
プレミアムレンタル権『閻魔の地上代行人』(料金1000円)
『電脳歌姫ろっくんろー!』(レンタル終了)
プレミアムレンタル権『鬼畜クマネージャー』(料金30000円)
『九十九あきらは終末世界を諦めない』(レンタル終了)
プレミアムレンタル権『天災科学者』を(料金:ひなちゃん家のご飯)
『安楽椅子の占い師』(レンタル終了)
プレミアムレンタル権『未来を知る者』(料金:1億円or生徒とのランチ権1回分)
『ドッペルゲンガー』(レンタル終了)
プレミアムレンタル権『もう一人の俺』(料金:週休2日三食昼寝付き週6万)
『世界最強の傭兵隊長だった俺が女子高生になった件について』(レンタル期間 1週間)
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