ブラック労働で過労死数歩前だった俺の心の癒しだった動画アプリがマジモンの神アプリだった 作:ぱちぱち
「僕と蛯名は友達だ! 友達に朝から声をかけて何が悪い! 声をかけてちょっと肩や背中を叩くくらい誰でもやってることだろ! 腰のあたりに手があったって言ってるのは僕に暴力を加えたあのチビ女だけだろうが! 蛯名がそう言った!? 蛯名は僕を見てなかったから見える訳ないだろ! カメラ!? あれは胸ポケットに差してたのをあの暴力女に抑え込まれた時に落としたんだよ! 蛯名がやってるみたいに僕も動画配信をやろうと思って買ったばかりのカメラだよ! 壊れてたら弁償させてやる! あの暴力女を捕まえろよ!」
というのが取り押さえられた後、練間くんが事情聴取をされた際に語った内容らしい。どうやって知ったかというと、『九十九あきら』が作った小型の、それこそハエくらいのサイズの小さなロボットを警察署に忍び込ませて直接録音してきたのだ。
流石にね。俺達も警備についたその日にいきなりやらかすとは思ってなかったから突貫で用意したんだよこれ。この少年、目を離したらヤバイと思って。そしたら、まぁ、案の定って感じだった。
ちなみにこの少年の言葉を受けて『雨宮かすが』も事情聴取を受けたんだけど、その際に『雨宮セキュリティー』の社長であり、当日はVVVの依頼でひなちゃんの警護に付いていた事。そして、当然仕事上で必要なため『雨宮かすが』も警護中の一部始終を撮影するカメラを携帯しており、その画像データを音声付で警察に提供した所すぐに帰る事が出来た。
それに少年が持ってたペンカメラの映像も当然警察の方では見られていて、そこにはバッチリと少年がカメラでなんとかひなちゃんのスカートの中を写そうとする一部始終が撮影されており、少年の供述は全て偽証だと判断されたみたいだ。むしろ自分で撮影した映像があるのになんで嘘ついたのかが疑問なんだけど、多分、彼の中ではその瞬間は本当にそう思ってるのだろう、というのが直接相対した『かすが』の見立てだ。
『本物のうそつきは、嘘をついてるという自覚がないものだ。口にした言葉が彼にとっては本物であるから、彼らは本気で自分が正しいと信じて噓八百を並べ立てるんだよ。だって、真実は彼にとって都合が良いものじゃないんだよ? だったら都合のいい嘘が彼にとっての真実になるんだ』
――それ、普通に生きる事もできないんじゃないかな?
『ああ。だから彼は周囲から孤立していたようだ。それこそ、本当に彼の中では一番親しい友人は蛯名嬢だったのかもしれないな』
俺の言葉に『かすが』はそう応える。親しい友人に対して起こすやらかしじゃないと思ったんだが……なんだろうな。もしかしたら、練間くんは他にコミュニケーションの仕方が分からなかったのかもしれない。対話をするという当たり前の行動が彼には出来なかったとしたら。そう考えると、彼が起こした行動もなんとなく分かるかも…………
いや分からんわ。普通に考えて友達相手のコミュニケーションが脅しになる奴はやっぱおかしいって。
『そうだな。脅しがコミュニケーションになる奴らが居ないとは言わんが、日本の一般的な学校に通う学生でそれはかなりおかしい。脅しというのはな、相手より上位に立つために行われることが多いんだ。対等な関係のコミュニケーションを持とうとする場合、絶対に行うべきではない。それを躊躇なく行ってきたという事は……』
『かすが』はそこまで言って少し黙り込んだあと、俺を経由して『九十九あきら』に話しかけた。
『このハエ型のロボット、もう一台作ってもらえないか? 確認したい事があるんだが』
『オッケッケー! なになに? かすがちゃんもロボットの良さに目覚めた感じー?』
『ああ、これは非常に素晴らしいロボットだ。うちの会社でも採用したいんだが数は作れないか?』
『手作業になっちゃうからちょっと数は難しいかなー! でもあと一台ならすぐ出来るよ!』
『了解した。一也、このロボットを練間少年の家に放ってくれ。確認したい事があるんだ』
そんなやり取りをした後、『かすが』のレンタル時間が終わった頃合いで『あきら』のレンタルを開始し、要望の合ったハエ型ロボットを作成する。超小さなピンセットで作り上げたハエそっくりな精密機械は動力の関係で限られた範囲でしか動けないが、限られた範囲内ならばかなりの使い勝手を誇る。
ハエ型ロボットの複眼は小型カメラになっていて、そのカメラで撮影した映像を近くの無線LAN経由でVVVの事務所にあるPCに送ることも出来るし、スマホやPCに取り付いたらこのハエロボット自体が中継器のような役割になって外部、つまりVVVの事務所から遠隔地にあるPCやスマホを操作する事も出来るのだ。
練間くんの家、つまり隣町の病院にこのロボットを放った後、『かすが』は『あきら』に頼んで病院内の情報を全て、事細かに集め始めた。もちろんバリバリの犯罪なんだが、『かすが』曰く「バレなきゃ問題ない」との事。いや問題あるんだが、ただ、やらなきゃ不味いと『かすが』が断言するため俺としても強く止めろとは言いきれない。
病院なんか調べてなにになるんだと思いながら毎日朝夕の送り迎えを行い、その後『雨宮セキュリティー』の仕事を処理した後に『あきら』や『リリーベル』へ交換するといった日々を1週間ほど過ごしていると、練間くんが留置所から出たとの連絡が警察から入ってきた。未成年を長期にわたり拘束するとは、と練間くんの弁護についた弁護士が引き取っていったらしい。
おいおいと思うかもしれないが、彼の場合はそもそも証拠が十分すぎるほどに揃ってるから聞くことがもうないらしい。情報源はそば処「えびな」の常連に居る警官がこそっと蛯名さんに伝えてくれたそうだ。未成年という事と、未遂に終わっている事。学内の嫌がらせなどを加味したとしても、恐らく接近禁止命令が出るくらいかな。と独り言のように呟いてもいたらしい。
これでも学外の人間が取り押さえたからかなり大事になった方らしく、もしも練間くんを取り押さえたのがひなちゃんの友達とかだったら騒ぎにすらならなかった可能性があるとの事。学校の先生もたいがい事なかれ主義だし、警察からしても地元の名士と地元で人気の老舗がモメるなんて面倒ごとは嫌がるんだとか。
解放された練間くんは今も声高に「暴力女を逮捕しろ! 僕は無罪だ!」と警官に向かって叫んでるみたいだけど、誰も相手にしていないそうだ。まぁ、彼に関しては恐らく接近禁止命令も出るだろうし、蛯名さんと彼のご家族との間でなんらかの取り決めが行われるだろう。ひなちゃんに近づきさえしなければ、もう無視していい相手……の筈だ。
だが、『かすが』の見立ては、そうではない。だから病院にハエ型ロボットを放って、調査を進めていたのだ。この件について俺は正直やり過ぎじゃないかと思っていた。病院なんか調べてどうするんだと。
だが、ハエ型ロボットが集めてきた情報を精査している内に、考えは変わっていった。
コミュニケーションの仕方ってのは、幼いころから学んでいくものだ。家族と触れ合い、外の世界と触れ合い、少しずつ育っていくものだ。近所の公園、保育園や幼稚園、小学校、中学校、そして高校に大学と、少しずつ環境が変わって行く中で経験を蓄積していき、社会に出るために磨かれていくものだ。
そのコミュニケーションの仕方が、脅しと脅迫。つまり他者とのかかわりが支配するかされるかしかない人間がいるとする。
じゃあ、そいつは、それをどこで学んだのか。どこでどう生きれば、そんな生き方になってしまうのか。
その答えが、VVVのPCに表示された時。
俺はその内容に息を呑み、『かすが』はお人形と評された顔を歪めて舌をペロリと舐めた。
獲物を前に舌なめずりをする獣のように。
山里一也(男)25歳
視聴履歴
『ドキドキ! 魔女っ子大戦争』(レンタル終了)
プレミアムレンタル権『不死鳥の魔女』(運営に怒られたので値上げしました。料金10円)
『煉獄列島』(レンタル終了)
プレミアムレンタル権『閻魔の地上代行人』(料金1000円)
『電脳歌姫ろっくんろー!』(レンタル終了)
プレミアムレンタル権『鬼畜クマネージャー』(料金30000円)
『九十九あきらは終末世界を諦めない』(レンタル終了)
プレミアムレンタル権『天災科学者』(料金:ひなちゃん家のご飯)
『安楽椅子の占い師』(レンタル終了)
プレミアムレンタル権『未来を知る者』(料金:1億円or生徒とのランチ権1回分)
『ドッペルゲンガー』(レンタル終了)
プレミアムレンタル権『もう一人の俺』(料金:週休2日三食昼寝付き週6万)
『世界最強の傭兵隊長だった俺が女子高生になった件について』(レンタル終了)
プレミアムレンタル権『生真面目系殺伐女子高生』(料金:組織)
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