ブラック労働で過労死数歩前だった俺の心の癒しだった動画アプリがマジモンの神アプリだった 作:ぱちぱち
『だからお前は地獄に墜ちるんだよ』
その言葉を耳にした瞬間、練間院長はソファから飛び上がる様に立ち上がり、対面に座る『かすが』の首に両手を伸ばした。
言葉すらなかった。ただただ、純粋に殺意のみを表情に滲ませた練間院長の暴挙に、『かすが』は落ち着き払った様子でそれを眺めている。練間院長は決して大柄な人ではないが、それでも成人男性の平均的な体格を有している。彼の両手は、『かすが』の細い首を絞め上げるのに十分な大きさと力を持っているものだ。もし何もせずに首を両手で捉えられれば、いかに前世で世界最強の傭兵隊長と言われた『かすが』であろうとも不味い。
『ちなみにだが』
そう。何もしていなければ。
『この一部始終は動画で配信してありますので、言動や行動には注意した方がいいですよ。院長先生』
「は……はいしんっ!?」
首に両手が届く、その瞬間。『かすが』の口から出てきた言葉に、院長先生の動きが止まる。彼の頭の中では恐らく、動画、配信、この二つの単語がグルグル回っている事だろう。
その答え合わせのために、『かすが』は首に回った手を気にも留めずに手元にあるアタッシュケースから小さなタブレットを取り出し、震える院長の手を首から離して、優しくタブレットを手渡した。
その画面には、暴れ川のようにとんでもない速度で流れていくコメントと、同時接続者数5万人の文字。そして、呆けたように口元からよだれを垂らし、タブレットを手に持った院長自身の姿が写し出されている。
「……はえ?」
『ああ、私の姿が見えないのは私の胸元にカメラがあるからだ。といってももし仮に私の姿がカメラに写ってもVタレ姿になるから実在の姿で映るのは院長先生だけになるそうだ。うむ、このタブレットの数字を見るに、私はVタレとしてはかなり有名人になったようだな。本業のために仮置きでアカウントを作ってみたのだが、組織運営のためには複数の収入があった方がいいか。うむ、では』
呆けたまま、顔色を真っ白に変えていく院長先生を横目に。胸元につけていたペンカメラを取ってカメラを自身に向け、『かすが』はいつも通り平坦な。だが、少しだけ満足そうな声音でカメラに向かって笑いかけた。
『初めまして、皆の衆。私は警備会社を経営している警備会社運営系Vタレの雨宮かすがという。自分が上手い事していると思い込んでいた悪党を暴露して晒しているのは我が『雨宮セキュリティー』はご覧の通り、依頼主に害意や悪意を持って接する社会の闇に紛れた外道からの攻撃にも対応しているからだ。概要欄に弊社のURLがあるから興味がある方は是非そちらに問い合わせを』
――人の髪が真っ白になる瞬間、初めて見た。
『極度のストレスに襲われる事によって一瞬で老人のように老け込む、という奴だな。戦場で九死に一生を得た兵士がそうなるのを見たことがある。秘密を暴き出されるというのはやはり高ストレスなんだろうな。出来るだけ秘密は作らずに生きる方が、賢いぞ。一也くん』
――耳が痛いね。でも、ここまでやるべきだったのか?
反応を返さなくなった院長を残して部屋から出て、病院の中を歩く。受付の辺りが騒然としているのは、恐らく先ほどの配信を見た野次馬か警察か、はたまた関係者か。まぁ、わざわざそこに突っ込んで騒ぎを大きくするのもバカらしい。やるべきことはもうやったんだから。
やるべきこと、だとは思うんだが。やり過ぎた感が否めないけどな。
『そうでもないぞ。あれだけ大事にすれば万物の声とやらのヘイトも多くが私に向けられるだろうし、そもそも連中も動きづらくなる。院長が絡んでいた不法行為はSNSなどで大量にばら撒いたからな。流石に被害者の写真や行為の動画などは警察にだけしか送っていないが』
――まぁ、そりゃそうか
院長は薬物とそれによって強制した行為中に撮影された画像や動画で被害者を脅していた。それがどんな内容だったかは、言わずもがなって奴だ。もしもアレを目にすれば、医者という存在に対する信頼。信用というものが、音を立てて崩れ去るだろう。
そしてそこまでは俺も『雨宮かすが』も求めてない。真っ当な、人のために医療に携わる人の方が圧倒的に多いんだから、その人たちの邪魔をするのは良くないだろう。
まぁ……その画像や動画に映っていた、被害者以外の関係者に関しては地獄を見てもらう事になるだろうがね。テレビで見た事のあるようなお偉い人とかが明らかに正気を失っている1○才くらいの子と裸でピースしてる写真なんて、悍ましすぎてブラックジョークかと一瞬自分を疑ったほどだ。
『ちなみに送ったあて先は各都道府県の県警本部と警視庁、あとは関係してそうな国の大使館にも送ってあるから、どれだけの権力者でも握りつぶすのは難しいだろうな。送った際の文面にどこに送付したかも載せているから今頃楽しい事になっているだろう。あ、SNSにもどこに証拠を送ったか投稿しておくか』
――怖っ
『イキイキとしてるなぁ。かすがの旦那。俺が残しちまった不始末で迷惑をかけた。礼を言わせてくれ』
『フィクサー気取りの連中は全て死ねばいいと思ってる性質でね、私は。礼を言われるほどではない。時にメンチくん、今の私は女子高生だからお嬢さんが正しい』
頭の中で今回の関係者二人。数か月前、元凶となってしまった事故物件を解放し今回の事件の遠因を作った『メンチ』と『かすが』の会話を頭の中で聞きながら、多目的トイレに入り、事前に調べてあった隠しカメラを回収する。これも脅しに使われた物品だ。残していても碌な事はないだろう。
他にカメラがない事を確認して『かすが』のレンタルを一時停止して元の姿に戻る。そしてすぐさま『坂東メンチ』のレンタルを開始し、『メンチ』の姿で病院を出る。『メンチ』もまぁ目立つ容貌しているが他の面々はあからさまに髪が赤かったり外人顔だったりと目立つどころじゃないからな。鬼畜クマ野郎? アイツの場合そもそも俺の顔のままだからな。VVVと『かすが』は契約を交わしているとはいえ、それ以上の繋がりは現状ない。なら、あくまでVVVと『雨宮セキュリティー』は仕事上の関係だとした方が色々都合がいいはずだ。
あ、動画配信の際にアキコさんが宣伝してるけど、いや。まぁそれは仕事上の関係で良いかな。動画内容でVVVの話が出た時はピー音になるように設定してあるから、視聴者から見た情報だと院長先生の悪事に『かすが』の警備対象が巻き込まれたので成敗したって内容になっている筈だ。
『良い宣伝になった。これで組織運営にも弾みがつくだろう』
――対価に求めるほどだからそうなんだろうが、本当に好きなんだな。そういう、経営とかってのが
『もちろんだとも。女子高生も楽しいが、やはり私は率いる者だ。ごんたくれ共を訓練でヒーヒー言わせ、実務で指示を出し、そして時折今日のようなストレス解消も行える。やはり組織運営は楽しい。天職だ』
心の中で弾むようなその声に、絶対普通の組織運営とは違うよなと思いつつ、でも反論はしない。下手に反論するとどんな言葉が飛んでくるか分からない凄みが、『かすが』にはあるからだ。危うきには近寄らないのが一番だよ。
山里一也(男)25歳
視聴履歴
『ドキドキ! 魔女っ子大戦争』(レンタル終了)
プレミアムレンタル権『不死鳥の魔女』(運営に怒られたので値上げしました。料金10円)
『煉獄列島』(レンタル終了)
プレミアムレンタル権『閻魔の地上代行人』(料金1000円)
『電脳歌姫ろっくんろー!』(レンタル終了)
プレミアムレンタル権『鬼畜クマネージャー』(料金30000円)
『九十九あきらは終末世界を諦めない』(レンタル終了)
プレミアムレンタル権『天災科学者』(料金:ひなちゃん家のご飯)
『安楽椅子の占い師』(レンタル終了)
プレミアムレンタル権『未来を知る者』(料金:1億円or生徒とのランチ権1回分)
『ドッペルゲンガー』(レンタル終了)
プレミアムレンタル権『もう一人の俺』(料金:週休2日三食昼寝付き週6万)
『世界最強の傭兵隊長だった俺が女子高生になった件について』(レンタル終了)
プレミアムレンタル権『生真面目系殺伐女子高生』(料金:組織)
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