ブラック労働で過労死数歩前だった俺の心の癒しだった動画アプリがマジモンの神アプリだった 作:ぱちぱち
「アレさ……本当にかすがちゃんなの?」
『アレ?』
「ほら。ネットで今すっごい事になってる病院のやつ」
『ああ。そうだよ』
ひなちゃんの朝の送り迎えは相変わらず『かすが』が担当している。これを初めてからすでに一月が経過しているが、一番最初の練間少年の愚行以外はとくにこれといった騒動もなく、今ではすっかりひなちゃんと『かすが』は友人のような会話をする仲になっている。
もちろん、これは表だけの話。裏側では通学路に突っ込もうとしたトラックをドッペルゲンガーこと『セシル』が頑張って制圧したり、捉えた相手の身に着けていた電子機器から指示役の所在を確認してひなちゃんを学校に送り届けた『かすが』がカメラを持ち自社の兵隊を連れて指示役の元へ突撃し趣味の暴露をしたり、前教主の薫陶を受けた霊能力者と思われる教祖と『坂東メンチ』の霊能バトルなど数々の戦いが繰り広げられている。
『もっと人手が欲しいな。宗教団体は教育して人手にするのが難しいから、相手としては余り美味しくない』
――ナチュラルに敵対組織の人を洗脳するって言ってます???
その戦いの結果、たった一月で政財界に深く根を張っていた宗教団体「万物の声」は宗教テロ組織として世界中に認識され、練間院長のような構成員たちによって行われていた不法行為も白日の下に晒され、インターネット上で大拡散の大バズり。何故か地上波テレビなどでは一切報道がされないが、その報道されないという事実すらも燃料に関係各所が大炎上となっている。
この状況を受けてVVV、ではなく雨宮セキュリティーは自社運営のニュースサイトを設立。『九十九あきら』が作成した情報収集AIによって世界中から集めたニュースを自動翻訳した記事にし、各国ごとやテーマごとなどにカテゴリ訳して文字通り世界中の情報を扱う『AmamiyaNEWS』を作り上げた。
もちろんAIが集めた情報の為真偽不明なものもあり、各記事には冒頭に「今回の記事の確度はA」だとか「今回の記事は情報が不鮮明なため確度D」という形で信頼度も表記している。Dくらいの確度の記事はデマの可能性があるわけだ。
このニュースサイトには目新しい事はなにも書かれていない。ただどういった事が起きたのかと、情報元はどこなのかという事実だけが記載されている。面白い文面にしようだとか特定の思想を応援するだとかそういうものは一切入っていない。
だが、だからこそこのニュースサイトの価値に気付いた人が多かった。既存のニュースサイトにはどうしたってそのサイト運営の意思が記事に透けて見える事が多い。だが、『AmamiyaNEWS』にはそれらがほぼ存在しない。情報元となったソースの文面を処理して、起きた事とその結果だけを記事にし続ける『AmamiyaNEWS』は非常にフラットな情報源となった。
宗教テロ組織と戦う警備会社、社長が女の子、などという要素で注目度が上がっていた『雨宮セキュリティー』の新サービスは、瞬く間に情報の二次仕入れ元として活用されるようになっていく。そこらのAIが出してくる真偽不明な情報と違い、『AmamiyaNEWS』で扱われる情報には余計なものが付いてこず、情報元が何なのか、確度がどの程度のものなのかまで教えてくれるからだ。
この『AmamiyaNEWS』が盛り上がる度に、発端となった練間院長の所業とそれによって起きた二次被害、政財界の闇についてがどんどん捲れ上がっていく。
そしてつい先日、この件を炎上させるためのガソリンどころかダイナマイトが放り込まれた。
練間院長が行方不明になり、そして次の日。神奈川県のとある港湾でコンクリートに詰められた姿で発見されたからだ。
発見したのは『雨宮セキュリティー』の隊員だった。要監視対象者である練間親子の動向は常に把握するよう努めていた事と、練間院長から全てを話すため警護をという打診が来ていたからだ……と『AmamiyaNEWS』では説明しているが、本当はハエ型ロボットを練間院長の服に忍ばせていただけである。
そのハエ型ロボットから手に入れた映像によると、練間院長はまず付き合いのある政治家に呼び出され、詰問された後に警視庁へ連れていかれ、そこで政治家の都合が良い証言を取らされたあとに帰宅すると言われて乗り込んだ車の中で薬を飲まされ泥酔。そのままコンクリ詰めにされて死亡した、という訳だ。
怖い。明らかにトカゲのしっぽだ。まぁこのままだと現在議席を持つ政治家の半分くらいが今季の国会終了後にブタ箱行きだから、こうなるのもまぁ仕方ないのかな。
恐らく近々院長が消されるのは予測していたため、この映像を手に入れた瞬間に『かすが』は動き始めた。院長を消した一連の流れの実行役から手繰っていき、指示をした人間を特定。恐らく今回、もしも芋づる式になった場合にもっとも根深い、底に居る人物。現職の国会議員であり、とある野党の党首を務める超大物政治家の名前を確認した段階で、『かすが』はこの情報を売った。
現職の総理大臣に。
「なんかまたそうせんきょ? ってのが起きるみたいだね! この前もしてなかったっけ?」
『ああ、なんでも議員特権ってのが問題になってるみたいでな。国会中は国会議員は逮捕できないんだよ』
「へー? たいへんなんだね」
『ああ。たいへんだな。暫く趣味が満喫できないのは残念だ』
「へー。かすがちゃんの趣味ってなに?」
『……なんだろうな?』
多分、この解散選挙が起きた瞬間に現職の議員の半分くらいは逮捕される、なんて事は言葉に出さず、『かすが』はひなちゃんとの談笑を続けた。全てが捲れ終わった事には、もう興味がない。それが『雨宮かすが』という人物の、自分の趣味に対するスタンスである。
山里一也(男)25歳
視聴履歴
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