ブラック企業にすり減らされた社畜が主人公になれるアプリを手にしたらどうなるか→ 作:ぱちぱち
確かに偉い人が来るとは聞いていた。マックス氏が招待するような人物は大体どっかの界隈の超大物だったりするしそれはちゃんと覚悟できてたんだ。挨拶して名刺を渡す心の準備だって完ぺきだ。でも。
『私こそが米国大統領ッッッッ!!!!! この国の魂だッッッッ!!!!!』
これはね。パーフェクトじゃん。頂点偉い人じゃんそういうのは想定してないって。
『君が立体投射機の開発者か! アレは素晴らしいものだ。お陰で私は久しぶりに女房と二人でチキンフィンガーを食べてきたんだ! 変装もなしでだぞ!』
『変装しないと街を歩けないって大変だねぇ。あ、私九十九あきらです。あきらって呼んでね!』
『もちろんだよ、あきら。おっと、こんなに可愛い子を呼び捨てると女房に浮気を疑われるかもしれない。君たち、証言は任せたよ』
HAHAHAHA!
米国大統領の言葉に周りを取り囲んでいる護衛なのか秘書なのか分からない人たちが一斉に笑い声をあげる。これがアメリカンガヤ笑いか。たまに米国のドラマとかで流れてくる奴まんまだ!
聞き覚えのある?光景にちょっとだけ感動していると、米国大統領が『あきら』からこちらに視線を向ける。その瞬間、彼の周りでガヤ笑いをしていた護衛らしき人たちがすっと大統領と俺の間に、さりげない形で入り込んできた。もちろん片手は懐にINだ。何かあったらすぐに抜いて撃つんだろうな、あれ。
『構わない、彼は危険ではないだろう。もちろんその気になったら分からないが』
「その気になる理由がありませんので……」
クラウザーさんといい、一介のサラリーマンに過剰反応しすぎな気がするんだけどね。危険な空気に敏感な人はこうやって警戒してくるから、流石に困る。『日華』だと多分こうはならんから、多分俺が未熟なのが悪いんだろうが。自分が放つ気配なんてどうやって調整するんだろうか。
『あきら』と大統領以外が緊張する中、彼はしごく普通の足取りで俺の前に立ち、右手を差し出した。あ、陰に隠れて何人か抜いた。怖い怖い。
『ダニエル・モーガンだ』
「お会いできて光栄です、モーガン大統領閣下。山里一也と申します」
『カズヤか。
「ははは……」
『HAHAHAHA! ジョークさ、ジョーク! まぁもし機会があったら是非伝えてくれたまえ!』
どこまで掴まれてるんだこれ。思わず笑ってしまったが、この大統領、眼圧がすっごい。めっちゃ笑顔なのに物理的に圧力を感じそうなくらいの目力がある。この圧力でこっちはちゃんと知ってんぞ? って空気が言葉の節々から漂わせてくるから、気が弱い人とかはこの瞬間にゲロっちゃうんじゃなかろうか。
まぁ、一般的ジャパニーズビジネスマンとしては答えづらい質問には苦笑いで返すしかないんだけどね。
講演会自体はかなり盛り上がったと言って良いんだろうか。他の講演会ってのを経験したことがないから何とも言えないが、今回は仕込みとしてVVVの配信チャンネルで講演会自体を放送し、『あきら』の立つ舞台の背後に置いた巨大スクリーンに配信の様子とどのようなコメントが流れているかを表示。世界中の言語がどんどん自動翻訳されていく姿は来場していた人たちに衝撃を与えたらしい。
そしてその驚く会場の様子が何故かネットの民に面白がられて同接数が凄い事になっていき、途中サーバーがダウンしかけたがそこはマックス氏が準備していただけあり金の力で解決。新規のサーバーをその場で借りて人海戦術でなんとかしたそうだ。
『あきら』の話した内容も立体投射機がどのような発展をしていくかという話や、背後で実演されている自動翻訳機能についての話に終始し、講演会はトラブルなく大盛り上がりという最高の結果で幕を閉じた。
講演会自体は、トラブルなく幕を閉じた。
つまり、その後が問題だったわけだ。
『貴女のようなイエローモンキーがこんな技術を作れるわけがないでしょう。実際はどこから盗んだ技術なんですか?』
『おっとすっごいの来たねー!』
『おい、このバカをつまみ出せ! どこの会社だ!』
当然マックス氏が準備した講演会だ。彼が懇意にしている報道関係の人も呼ばれているんだけど、その中にどうも招かれざる客が紛れ込んでいたらしい。ひっどいゴシップ記事の記者がマイクを持ってそう『あきら』に質問してきたのだ。
まぁそんな質問を投げかけた瞬間につまみ出されるのは当たり前なんだが、どうも今回はこのつまみ出されたというのを演出したかったのか。つまみ出された彼はその瞬間『写真を取れ! 私は暴行を受けている! マックスによる言論弾圧だ!』と叫び始め、それを撮影する連中が結構な数居たらしい。凄いな、やらせや演出は当たり前。これが本場のイエロージャーナリズムか。
一部始終『あきら』の配信画面で映っているんだが、それはどうするつもりなんだろうな。このネット全盛期に切り張りした映像でなんとか別の発言にしようとするのか?
『ふざけるな! 自分から喧嘩を売って追い出されたら暴力だと訴える! その浅ましさがメディアの信用を失墜させているとなぜ分からん! わざわざ日本から未来に繋がる技術をもたらしてくれた少女に取る行動がそれか!』
そしてこんな面白そうな。もとい、絵になるような騒動を見逃すような方ではなかった。自称米国の魂こと大統領閣下が自身に群がるメディアを引き連れてのご登場である。モーガン劇場開幕だ。主演モーガン大統領で助けられるヒロインは『あきら』になるのかな、これは。
モーガン大統領は『あきら』を取材陣から庇う様な立ち位置に入ると、ちらりと俺に視線を向ける。あ、ヤバイと『メンチ』印の霊感が背筋を走ったので立体投射機を起動してクマの人形の姿になる。隣に居たカメラを持った女性がひっくり返りそうなくらい驚いていたが、申し訳ない。緊急避難という事で。
『彼女は優れた技術者だ! 先ほどの講演会で私は彼女の話を全て理解する事は出来なかった。それほどに難解な内容であったが、だが一つだけ分かった事はある! 彼女は自分の技術を誰よりも理解している事、そしてそれらの技術は応用すれば合衆国は更に発展するだろうという事だ! それをただ黄色人種だからと否定し、決めつけ! 偽物と断罪する! 君の顔を覚えているぞ! 私はお前の顔を覚えている! お前は去年、私に対して黒人やメキシカンに対しての人種差別を辞めろと叫び、私が言ってもいない事を記事にして囃し立てた男だな! その口で貴様は黄色人種を差別するのか! これがオールドメディアのダブルスタンダードだ!!!』
すげぇ、としか言いようがない迫力だった。全てのカメラが、全ての視線が彼に向けられている。これが大統領。米国という世界最強の国を動かす男か。人格とか諸々、好きになっちゃいけないタイプの人なのに、その発言につい引き込まれてしまう不思議な魅力を感じる。これは、少しでもこの人に共感を持ってしまったら惹き込まれてしまうんだろうな。逆に彼と合わない人は殺してでも排除しようとするだろう。それほどの熱量を確かに、この老人は身に宿している。
そうやって観察していたからだろう。先ほどの視線の意味を。その時に感じた悪寒の正体に俺はこの瞬間気付いた。合衆国大統領が、話しながら俺に近づいてくるのだ。
『私は誰も差別しない。何故なら私が合衆国の大統領だからだ! 法律によって定められた人権に従い、私は合衆国内に居る全ての人間を人種や国籍に差別なく扱っている! 不法には法で返し! 悪意には憤りを覚え! 正義には称賛を行うだろう! そしてもしも私がそれらを忘れた場合は!』
もう俺の前にたどり着いたモーガン大統領は、いたずらっぽい笑顔を浮かべた後に小さく『良い判断だ、素顔よりはそちらの方が良い』と口にし、俺の右手をとって自分の顔に持っていき。
『このように、クマに殴られてしまうかもしれないね』
と茶目っ気たっぷりな笑顔を浮かべて、俺の右手を頬にあてる。どうやらこれで大統領を殴ったクマになってしまったらしい(諦念)
山里一也(男)26歳
視聴履歴
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