ブラック企業にすり減らされた社畜が主人公になれるアプリを手にしたらどうなるか→ 作:ぱちぱち
『素晴らしい……私が思い描いていたものが、そのまま形になっている!』
『イロくんこーいうのが欲しいって言ってたからね! 元々作ってたAIの思考ルーチンを弄ってガワをつけただけだけど上手くできたでしょ!?』
『あきら』が作成したVタレAI、仮称『VAI』の出来栄えにマックス氏が感嘆の声をあげた。彼が見ている画面の先には彼女が望んでいた金髪ツインテールの少女が、PCに備え付けられたカメラを使って彼の事を興味深そうに眺めている。
この『V・AI』は『あきら』が未来で作っていたロボットに使用していたAIに近いものを採用している。流石に未来の技術を『あきら』だけでは再現しきれなかったため演算能力は劣るが、見たものを理解し、言葉をしゃべり、学習していけば意思疎通も可能になってくる程度には柔軟な思考を行う事が出来るらしい。
内部のデータは見せてもらったが、『あきら』の10分の1程度の俺では半分も理解できなかった。同じように見せてもらっているマックス氏が雇ったAI開発者も俺とどっこい位しか理解できてないようだし、恐らくこれまでに実現してきた『あきら』の技術の中でもぶっちぎりで未来を走ってる代物だろう。だからこそマックス氏のお気に召したようだが。
『イロリー。イロリーが言っているサムライバーガーのソース抜きが美味しいとは思えません。ただの肉とチーズに味付けされたソースが破れる事は通常考えられないからです』
『少し言葉が堅いな、VAI。僕と君は友人だ。友人同士は、式典などを除けばもっと砕けた口調で話すものだよ』
『hmmmm……たとえばどんなふうに?』
『そうだね。さっきの言葉ならこう言うんだ「ねぇイロリー。バーガーからソースを抜いてどうするのよ。肉とチーズだけで美味しいなんておかしいわ」ってね!』
マックス氏の言葉を聞いて、VAIはもう一度「hmmmm」と口にしながら首をかしげる。彼女のデータをマックス氏のPCに入れてからそろそろ1時間ほどだが、彼と彼女はこのようなやり取りをずっと繰り返しているのだ。
「楽しそうだな」
『友達とお話するのって楽しいもんね! ふつーだよふつー!』
思わずぽつりとこぼした言葉に『あきら』がそう返事を返す。友達か。確かにPC画面を隔ててこそいるが、マックス氏のVAIへの話しかけは幼い友人に話しかけているようにも思える。彼にとって、今日持ち込まれたデータの塊であるはずのVAIはすでに友達になっているのかもしれない。
誰とでも友達になれるVタレAI。うん、キャッチフレーズはこれで決まりだな。
『あきら』が作成したシステム部分ではもう触る事はない。そう判断が下されるまで時間はかからなかった。
『いえね、私も自分が世界一のAI研究者だとは思っていませんでしたよ? でもね、世界トップレベルには居るという自負はあったんです。昨日までは』
「はぁ……」
『あれはないでしょぅ。完璧です。パーフェクトです。100年未来いってます。勝てるか!!!』
周囲が急ピッチで準備に進む中、俺はマックス氏が雇っているAI研究者のメンタルケアをしている。彼らの心はボドボドになってしまったようなのだ。いや、まぁ。それはもう気持ちは痛いほど分かるんだけどね。これやるの俺じゃないだろって思うんだけど本来対応するべきマックス氏がVAIに夢中になっちゃってるからね。気付いた以上無視するのは寝覚めも悪いし、ねぇ?
いやー、アレはしょうがないですって。貴方たちが劣ってるとかじゃなくて全人類レベルで追いつけてないんですよ。人類史にたまに出てくるじゃないですかああいうの。アレですアレ。ああいうのは世の中を支えるなんてミリも思ってないんですから。貴方方の方がずっと立派ですよ。
そう言って励ましたら、少しずつ技術者たちの瞳に光が戻ってきたのでダメ押しに百山さんが持ち込んでいたアコギを借りて演奏会である。人間、気分を盛り上げたい時には歌を大きな声で歌って踊るのが良いんだ。古事記にだってそうやって引きこもった主神様を誘い出したって書いてあるしね。
流行りの音楽は皆さん余り好きじゃないという事なので『NEET NOW』で聞いたアニメの主題歌を耳コピ演奏していると、騒ぎを聞きつけたマックス氏がタブレットを片手にやってきた。どうやらVAIのデータをタブレットに移して一緒に会社を見回っているらしい。
『見てごらんヴァーイ。ここが君が今後お世話になるAI開発部門の開発室だよ。まぁ、君を創り出したアキラはこの部屋には居ないけど、安心してくれ。君のメンテナンスや手助けはここにいる皆がやってくれる。今はダンスで忙しそうだけどね』
『そうですねイロリー。んっ。失礼。そうね、イロリー。でもここの機材はとっても高価だけど、私の出入りが出来ているように設定されてないわ。このままじゃロスが大きくなりそうだけど』
『それも含めての手助けさ! 最も最初はアキラの力を借りて行う事になるだろうけどね。所で、カズヤは本当に多芸なんだね。聞いた事が無い曲だけどなんて曲か分かるかい、ヴァーイ』
『いいえ、イロリー。今、カズヤが演奏している楽曲はネットワークを介して閲覧できる範囲では存在しません。98.9%の確率でオリジナルの楽曲だと思われます』
『作曲まで出来るのか……なるほど。アキラが信頼しているのは伊達じゃないって事だね。そうだ、音楽だよヴァーイ。君のプロモーションビデオを作る際には音楽を付けないと!』
俺が演奏しているうちに部屋を覗いていたマックス氏は、なんだか良く分からない内に騒ぎ始めてなんだか分からない内に部屋から出ていった。あ、あれ。本当にVAIにAI開発室を見せるためだけに来たのか?
いきなり来ていきなり去っていった最高責任者の奇行に首をかしげていると、演奏を聞いていた技術者からリクエストが入ってくる。なになに、日本のカントリー曲が聞きたいと。よござんしょ、リクエストが来たならば答えるのが弾き語りの務め。それでは演奏させて頂きます。津軽海峡掘り炬燵。
山里一也(男)26歳
視聴履歴
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