ブラック企業にすり減らされた社畜が主人公になれるアプリを手にしたらどうなるか→   作:ぱちぱち

96 / 96
第96話 彼女の歌が始まった。

 ヴァーイをツブヤイターに実装するには幾つかの問題がある。ソフトの方はほぼ完成と言って良いが、サーバーなどのハード面がまだヴァーイを動かすほどの性能ではないのだ。このため、現在急ピッチでツブヤイターのサーバー関係は増強しているのだが、これが終わるのがどれだけ早くても1月後。

 

 流石にそこまでは待てないため、VVVのスタッフは一度日本に戻る事になった。と言ってもヴァーイが実装された際には式典を催すそうなので、その時はまた渡米する事になるだろう。少なくともアキコさんと『あきら』は。

 

 俺も呼ばれるかもしれないが、正直今回のヴァーイ開発ではそこまで役に立ってる気がしないので行かなくてもいいかな、と思っている。式典の招待客としてなら『あきら』の翻訳係もいらないだろうしね。

 

 

「っつーわけで俺達日本に戻るから。またこっちの事務所の管理よろしくな」

 

『嫌あぁぁぁぁぁ!! 超来客が多くて大変なんですけど! 私はヴァーイなんてミリも知らないのに聞かれるんですけどぉ! 一也さぁん! 残って!!』

 

「いやー残りたいけどビザが問題でなー。技術的な事は配信で『あきら』に聞いてくれって言っといてくれ。じゃ、頼んだよ『ひばり』(鬼畜クマ成分)」

 

 

 名残惜しい所ではあるが、日本でも仕事があるからな。いやー、忙しい忙しい。帰りもマックス氏のプライベートジェットに乗って悠々自適の飛行機の旅だわ、まったく忙しいぜ。

 

 まぁ、俺と『あきら』は本当は残っても良いんだけどね。なんかこのままアメリカに居たら1か月後くらいに総合格闘技のリングに自分が立ってるって夢を見てしまってな。『リリーベル』に相談したら十中八九予知夢だからって断言されちゃったんだよ。

 

 

『まぁ、その内見るとは思ってたけど。結構日が空いたわねぇ。蝶子の方がやっぱり才能はあるのかしら』

 

「才能関係あるのか、これ」

 

『あるわよ。見ない人は一生見れない。99%才能に左右されるのよ、予知って』

 

 

 ちなみにタロット占いは技術ね、と口にして『リリーベル』はキセルの端を噛む。近くに蝶子ちゃんやひなちゃんら未成年組が居るから火はつけていないが、何もしないと口が寂しいのだとか。俺はタバコ系は嗜まないが、そういうもんなのかねぇ。

 

 まぁこのままだと間違いなくに面倒ごとに巻き込まれるみたいだからさっさと日本に帰ろう。多分『ひばり』の近くに居て何かに巻き込まれたんだろうな。じゃなきゃ一般サラリーマンが体中にタトゥー入れてる筋骨隆々の男とリングの上で殴り合うなんて起きる筈がない。とっとと日本に帰ろう。うん。

 

 

 

 

 

 

「と思ってたんだけどなぁ」

 

「? 師匠、どうしたんだすか」

 

「いや、こっちの話」

 

「旦那! 旦那! あっちでも路上パフォーマンスがやっとんで! すげぇテクのおっさんがサックス拭いとる!」

 

 

 右隣を歩くピンク色のギグバッグを背負った百山さんの言葉にそう返事すると、百山さんはちょこん、と首をかしげてこちらを見上げてきた。彼女は165cmと日本人女性としては少し高めの身長だが、『日華』をレンタルした時に180cm台に身長が伸びていた俺相手だと頭一つ分くらいの差がある。26歳なのに身長が伸びるってなんだよと思ったが、多分これも『NEET NOW』の影響なんだろう。最早何が起きてもおかしくないぞ、『NEET NOW』。

 

 そしてそんな百山さんとは反対側を御園みつきさんが陣取り、周囲で演奏するストリートミュージシャンたちに歓声を送っている。後ろをちらりと見ると、同じように3期生の他の面々――満腹たべるに不動くさり、そして幻の5人目と名高い……っと、それは流石に失礼だな。彼女はコラボが苦手という事で現状の3期生の配信スタイルだと中々配信が出来ていないだけで、楽器の練習配信を毎日やっている努力家なんだから。

 

 まぁ、つまりは3期生全員がこの場に居て、俺は彼女たちの引率として路上ライブで有名なオースティンのシックスストリートに連れてきているという訳なんだが。流石は路上ライブの聖地とも呼ばれるシックスストリート、演奏してるストリートミュージシャンのレベルが半端ない。この場で一番レベルが低いミュージシャンですら百山さんを覗いた3期生全員よりも上だろう。半年以上鬼畜クマのレッスンを受け続けた彼女たちよりも。中には百山さん以上の腕前のミュージシャンだって散見されるほどだ。

 

 その事は彼女たちにも分かっているのだろう。歓声を上げながらも、周囲のミュージシャンたちを見る3期生たちの視線は声音とは裏腹に鋭いものだった。

 

 うん、悪くない。帰国の準備をしている最中、百山さんに「あのぉ、お願いがあるんだどもぉ」と遠慮がちにシックスストリートの路上ライブを見たいと言われた時は例の総合格闘技の件もあったしどうしようかと迷ったからね。俺が迷ってる間にいきなりクマ野郎が表に出てきて即決でオースティンに来る事が決まっちゃったんだけども。

 

 今現在もクマの奴は彼女たちの姿を見てやる気満々で、俺の頭に指導指導指導教育教育教育実践実践実践と電波を送ってきている。本気でウザいが、まあ、この子たちの成長にちゃんと寄与してるから良いか。

 

 

「|お、君たち日本人かい? 俺、日本人大好き! どうだい5人一緒にそっちの暗がりで俺らと夜のミュージカルしないか?《F〇ck!》」

 

消えろ、ぶっ飛ばされんうちにな(F〇ck)

 

 

 とはいえ、可愛い子が5人も集まるとこういう事も起きてしまう。レッサーアメリカンイングリッシュ(下等アメリカ英語)で話しかけてくる不埒者を適度にいなしながら道を歩いていき、やがて人通りも少なくなってきた。どうやらこの辺りまでが路上ライブが行われている場所らしい。

 

 満足気にシックスストリートの感想を語る3期生の様子に、来てよかったと思いながらさて、そろそろ今夜の宿へ向かうかと口を開けようとしたとき。自然と惹かれるように視線が動き、道端に空き缶を置いた一人の女の子が目に入った。

 

 マネージャーだ。マネージャーが俺の身体を動かしている。

 

 その子は恐らく10代後半に入ったくらいの白人の女の子だった。たった一人、清潔そうだがお洒落とは程遠い洋服を着て、緊張からかこわばった顔で周囲を見ている。喉の調子を確かめている所を見るに、恐らく歌を歌うつもりだろう。楽器もなく、ラジカセすら持たずに。周囲の人もまばらなこの場所で、彼女はこれから歌おうとしている。

 

 見るからに場慣れしていない。ぱっと見だと少し夢を見た素人がこの場の空気に充てられているようにすら見える彼女は、しかし空気を纏っていた。周囲から隔絶した、アヒルの中に白鳥が混ざっているような異物感をマネージャーは感じていた。

 

 

『ろっこ』

 

「え、あ、はい?」

 

『あの子を見ろ』

 

 

 マネージャーは俺の口を使ってそう百山さんに告げる。

 

 

 

 彼女の歌が始まった。

 

 




山里一也(男)26歳


視聴履歴
『ドキドキ! 魔女っ子大戦争』(レンタル終了)
プレミアムレンタル権『不死鳥の魔女 赤神さやか』(運営に怒られたので値上げしました。料金10円)
『煉獄列島』(レンタル終了)
プレミアムレンタル権『閻魔の地上代行人 坂東メンチ』(料金1000円)
『電脳歌姫ろっくんろー!』(レンタル終了)
プレミアムレンタル権『鬼畜クマネージャー マネージャー』(料金30000円)
『九十九あきらは終末世界を諦めない』(レンタル終了)
プレミアムレンタル権『天災科学者 九十九あきら』(料金:ひなちゃん家のご飯)
『安楽椅子の占い師』(レンタル終了)
プレミアムレンタル権『未来を知る者 リリーベル・リ・ラスティーネ』(料金:1億円or生徒とのランチ権1回分)
『ドッペルゲンガー』(レンタル終了)
プレミアムレンタル権『もう一人の俺 セシル・ファラウェイ』(料金:週休2日三食昼寝付き週6万)
『世界最強の傭兵隊長だった俺が女子高生になった件について』(レンタル終了)
プレミアムレンタル権『生真面目系殺伐女子高生 雨宮かすが』(料金:組織)
『魂羽織』(レンタル終了)
プレミアムレンタル権『至高の人形師 人形残夢』(料金:人形作成・開発費)
『拳創成期』(レンタル終了)
プレミアムレンタル権『無双女帝 日華』(料金:気持ちよく昼寝できる環境)
『テレポーター三沢ひばりは平穏に過ごしたい』(レンタル終了)
プレミアムレンタル権『ハードラックテレポーター 三沢ひばり』を獲得しました(料金:休日)


更新の励みになるのでお気に入り・評価よろしくお願いします!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

転生してイージーモード!(作者:ハニラビ)(オリジナル現代/日常)

普通に生きて普通に死んだ男がチートを得て現代日本にTS転生したお話。作者はバカだからよぉ、難しい話は無しにしねーか?(ただのバカ)


総合評価:3567/評価:8.6/連載:15話/更新日時:2026年05月24日(日) 18:02 小説情報

クラス転移したけど俺だけステータス表記が違った(作者:星野林(旧ゆっくり霊沙))(オリジナルファンタジー/冒険・バトル)

学校で進路を悩んでいた斎藤隆史(サイトウ タカシ)はクラスに馴染めずに居た。▼そんな最中、突如異世界にクラスごと召喚もとい拉致され、魔王と戦えと言われる。▼そして各自に役職と能力が付与されているからとステータスを開くように言われてステータス画面を見ると……皆が普通のRPG表記なのに、俺だけポケ◯ンみたいにレベル形式だし、技ってのが見える。▼そして始まる異世界…


総合評価:2703/評価:8.28/連載:82話/更新日時:2026年07月31日(金) 06:25 小説情報

転生したら異世界の宇宙最強の龍でした!〜0から星と生命を作り出して一大文明の支配者になったので現代日本へ帰還します。自分は日本が一番暮らしやすい。〜(作者:電動ガン)(オリジナル現代/コメディ)

目覚めたら無だった。何も無い。宇宙さえも。自分の身体を見る。銀色の甲殻、長い尻尾これモンスターだ!?よく見ると俺の他にも二頭のモンスターが。ドラゴンだこれ!!▼俺たち三頭の女神龍は宇宙創成の前の世界にいる。俺たちを生み出した主神の指示で世界を作り生命を繁栄させることとなったけど・・・・・・それ何年掛かるの?▼何億年も掛けて生命が宿れる星を何個も作り、失敗し、…


総合評価:2382/評価:7.58/連載:121話/更新日時:2026年07月30日(木) 22:51 小説情報

うわぁぁ!!! エルフだ!!??!(作者:葛城)(オリジナルファンタジー/日常)

例によって例のごとく、神様のミスで異世界TS転生しただけでなくエルフになった人の話▼なお、異世界ではエルフはお伽噺の住人扱いされるぐらいで、本当にエルフっていたんだって超驚かれる存在である▼※セルフレイティングは、いちおう念のため


総合評価:3332/評価:8.31/連載:10話/更新日時:2026年07月04日(土) 23:35 小説情報

祖父の遺品整理をしていたら封印AIが起動したので、地球中の異星遺産を回収して成り上がる(作者:パラレル・ゲーマー)(オリジナル現代/冒険・バトル)

三十五歳、売れないフリーライターの久世恒一は、親に頼まれて東京にある祖父・久世宗玄の家を整理することになる。▼変人扱いされていた祖父の家で彼が見つけたのは、封印された異星文明の管理AI《イヴ》と、現代ではチート級の価値を持つ超技術だった。▼最初の遺産《セル・チューナー》は、地球のバッテリーを桁違いの高性能品へ変質させる基幹技術。▼スマホは一ヶ月充電不要。死に…


総合評価:2581/評価:8.01/連載:49話/更新日時:2026年05月26日(火) 21:44 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>