それでも良い人、興味がある人は是非見て下さい。
第1話 知っているカードデッキ
少年の意識が急浮上する。直前までの記憶は東京都高度育成高等学校行きのバスに乗った。それで瞼を閉じて寝てしまったことであった。
「んっ……んんん……」
「あっ、起きた」
「へっ?」
少年の目の前には美少女がいた。茶髪の少女で、真っ直ぐ少年を見ている。少女は今にも少年の肩を揺らそうと両手が伸びてかけていた。
「あの、ごめんね。実は、席を譲って欲しいの」
起きたばかりで状況が掴めなかった。しかし、自分に出来ることならと席を立って少女に問い掛ける。
「誰に譲れば良いんだ?」
「あっ、おばあさんこっちですよ!」
少女がおばあさんを呼んだ。少年にはおばあさんの足が震えている風に見える。だから席を譲って欲しいって言ったのかと納得した。おばあさんはこちらを向くと頭を軽く下げた。
「ありがとうねぇ」
「いえ、気にしないで下さい!」
「どうぞ、遠慮せず座って下さい」
おばあさんは席に座った。少年は立つことになったが、元気一杯なのとさっきまで寝ていたので平気だった。
バスが東京都高度育成高等学校に到着する。制服を身に纏った生徒達が降りていく。少年もその一人であった。
「ここが高度育成高等学校か」
「ねぇ、少し良いかな?」
「ん?」
少年は隣を見る。さっきの少女がいた。何か言いたいことでもあるんだろうかと少年は考える。
「さっきは席を譲ってくれてありがとう。迷惑だったよね?」
「いや、別に迷惑とは思ってないよ。眠っていて元気だったから」
「それでもだよ。ありがとう。私、櫛田桔梗」
「俺は
少年、基山真司は転生者だ。前世の記憶がある。生まれて数年は日本にいる人々の髪色に驚きを隠せなかった。基山の髪は黒髪のショートヘアになっている。
最近では先生にここ、高度育成高等学校を勧められた時も驚いた。前世では、個人的に聞いたことがなかったからだ。先生の話を聞いて、魅力を感じたからここに入学したのだ。
「よろしくね、基山君」
「ああ、よろしくな。櫛田さん」
基山と櫛田は校門を潜り抜ける。学校の掲示板を見ると基山はDクラスの配属となった。
「私はDクラスだった」
「俺もDクラスだったよ」
「それじゃあ、教室まで一緒に行こう」
「分かった」
基山と櫛田は校内に入る。歩いていくとDクラスの教室へと到着した。櫛田、基山の順番で教室の中へと入っていく。既に生徒が多くいる。黒板に貼り付けられている紙の通りに席へと移動した。
鞄を横に掛けて席に座る。席にはネームプレートが置かれていた。基山は静かに先生が来るのを待つ。すると後ろから軽い衝撃が走った。後ろの人物が基山に触れたらしい。
基山は気になって後ろを振り向いた。そこにはどこか無気力な瞳をして、無表情な少年がいた。
「すまない。その……自己紹介をしようと思ってな」
「そうなんだ。俺は基山真司。よろしく」
「……綾小路清隆だ。よろしく」
基山は普通に綾小路と自己紹介をした。普通の自己紹介をしたはずなのに、心なしか綾小路の瞳が輝いている気がして首を傾げる。
「? どうかしたのか?」
「いや、スムーズに自己紹介が出来てな。……少し感動している」
「そう、だったのか。良かったな?」
深く聞くつもりはなかったから苦笑いで済ました。ただ多少浮かれていたのだろうか、声を少し潜めた綾小路は言葉を続ける。
「隣の堀北には一回自己紹介を拒否されたから、その、緊張していたんだ」
「そうなんだな。……ただ、そういうことは本人の前で言っちゃ駄目だと思うぞ」
綾小路は基山の言葉を聞いて、ハッとして隣にいる堀北と呼ばれた少女の方を向く。少女は睨んでおり、綾小路は背を小さく丸めたように見えた。自業自得と簡単に言えるが、少し可哀想だ。
次の瞬間には少女は何も言わずに基山の方を向いた。
「貴方も私に自己紹介しろって言うのかしら。拒否させてもらうわ」
「いや、無理に聞くことはしないけどさ。もう苗字知ってしまったというか……。俺は基山真司。出来れば君から名前を聞きたい」
「……はぁ。堀北鈴音よ」
堀北は半ば諦めたように名前を教えた。その後視線を本へと戻した。ガードこそ固いが、悪い人には見えなかった。基山は堀北の様子を見て微笑むだけにした。
「……すまない。巻き込んでしまった」
横から小さい声で綾小路が謝罪した。確かに本人の前で愚痴を溢したのは駄目だが、それ以外は特に気にするようなことでもない。
「良いよ、2人も名前を知ることが出来たんだから。俺は気にしないよ」
「ありがとうな」
すると教室から始業を告げるチャイムが鳴った。基山はすぐに振り返る。同時に女性の先生が入ってきた。
「私はDクラスを担当することになった茶柱佐枝だ。この学校には学年ごとのクラス替えは存在しない。3年間、私が担任としてお前達と学ぶことになると思う。よろしく。今から学校の特殊なルールについて説明させてもらう」
茶柱先生は資料を回して説明を始める。その説明にはSシステムと呼ばれるものもあった。
更にSシステムで10万ポイントが支給されたり、毎月ポイントが振り込まれたりすること。この学校は実力を図るということまで基山やクラスメイト達は聞いた。
「質問は無いみたいだな。では良い学生ライフを送ってくれ」
茶柱先生は教室から退出する。
その後は自己紹介をした。平田洋介という好青年が発端であり、自己紹介する流れになった。ちょっとしたトラブルが起こったものの、自己紹介は進んでいく。そして基山の番になった。
「基山真司です。趣味は料理で、好きな飲み物はコーヒーです。よろしくお願いします」
割と無難な自己紹介をしたが、みんなには受け入れられた。平田の指名で最後に綾小路が自己紹介をすることになった。
「綾小路清隆です。好きなことは特にないですが、えー、皆さんと仲良くなれるよう努力します。よろしくお願いします」
綾小路は視線を一回だけ基山に送る。明らかに失敗したと伝えているみたいだったが、正直どうフォローすれば良いか分からなかった。結局、この自己紹介をフォローしたのは平田だった。
この後の入学式は特別なことはなく、普通の流れで終わるのだった。
入学式が終わった後は日用品を買ったり、食材を買って料理を作ったりした基山。買い物をしている途中で無料商品を見つけた。考えてみたけど、ポイントが無い人の救済処置としか思えなかった。
1日のやることを終えた基山はベッドの中に入る。
(今日は初日だからっていうのもあるけど疲れたな。慣れていけたら良いな)
これからどんな未来が待っているのか、楽しみな気持ちを持ちつつ眠気がきた。
「おやすみ~」
……基山が寝て少し時間が経過した。日を跨いで、深夜0時になった。耳鳴りが聞こえてきた。
「うっ、ううぅ……」
基山は勢いよく起き上がり辺りを見渡す。視界は揺れていた。この耳鳴りの音は前世のテレビ番組で聞いたことがあった。視界にフードを被った誰かが現れる。
「誰……?」
「戦え……ライダーとして、自らの願いを叶えるために」
ノイズの混じった男の声であった。しかし同時に、こんな声だったかと基山は疑問が浮かんだ。耳鳴りが大きく深くは考えられないが。
フードを被った男性は机に何かを置いた後、消えていく。耳鳴りが止んだ後、基山は再び意識を落とすのであった。
朝、基山は起きる。
(あれは夢だったのか?)
基山は深夜と変わっているところがないか確認する。
(確か机に何かを置いていたような……)
基山は机に置かれた物を見る。
「……えっ?」
机に置かれていた物に見覚えがあった。前世で好きで見ていた物語『仮面ライダー龍騎』。その、仮面ライダー龍騎のカードデッキが机の上に置かれていた。
「あれは、夢じゃなかったのか!?」
基山真司は知っている。仮面ライダー龍騎がどんな物語か。どんな結末になるのか。だから最初に来たのは恐怖。何故なら、ライダー同士で戦い合う運命にあり、誰かが死ぬかもしれない戦いなのだから。
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