ようこそ戦わなければ生き残れない教室へ   作:仮面の観測者

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第13話 グループチャット

 あの後、一之瀬と連絡先を交換して教室へと戻った。教室の中には異様に静かだった。何事かと思った基山は軽井沢達に話を聞く。すると教室に沖谷が来て、堀北の勉強会が崩壊したことを聞いたらしい。

 堀北の教えが厳しくて、須藤が口論して退室。池と山内と一緒に図書館を抜け出してきた後、別れて教室へと来て勉強会への参加を表明したとのことだった。

 

 平田は勉強会を再開する。基山も松下に感謝した。

 

「気にしないで良いよ。だけど次からは事前に言ってね」

 

「ごめん、約束出来そうにない」

 

「……しょうがないなぁ。今日は特別だからね」

 

「ありがとう」

 

 貸し借りにはならなかった。松下の心の大きさに感謝しつつ、基山は再び教える側へと回った。

 沖谷は最初こそ、遠慮していたが段々と慣れてきたのか、基山や周りにいる生徒へ質問していった。大きなトラブル無く、勉強会を終えることが出来たのだった。

 

 

 

 基山達と寮へと戻ってきて、自室へと入って数分。佐藤麻耶は携帯と向き合っていた。個人のチャットで池と打ち合っていた。

 

『頼む、佐藤ちゃん! どうか俺達のグループに入ってくれ!』

 

『どうしたの? そんな風に誘うなんて』

 

 佐藤は個人的にチャットを打っている方だった。空気の流れに敏感だからだ。

 

『今日、とっても悪いことがあってさ。佐藤ちゃんに慰めて貰いたいんだ』

 

「うーん」

 

 佐藤が考えていることは5月初日に基山が難癖付けられたことであった。その原因の1人が池である。正直参加したくない。

 

『なんで慰めて貰いたいの。もしかして勉強会のこと?』

 

『そうなんだよ! 聞いてよ! 堀北の奴さぁ――』

 

 池から溢れ出す堀北の愚痴。これを聞いた佐藤は基山と比較していた。

 

(基山君は一緒に考えてくれた。私達の視線に合わせてくれていたんだ。……恵まれているんだね)

 

 佐藤は取りあえず、池に返答した。

 

『災難だったね』

 

『でしょ! だからさ、佐藤ちゃんには俺達の話し相手になって欲しいんだ。頼むよ!』

 

 佐藤はどこかで池達に同情していた。空気も読み過ぎるあまり飲まれていた。だから――

 

『分かったよ。参加する』

 

『ありがとう佐藤ちゃん! やっぱり話の分かる女子が最高だね!』

 

 佐藤はグループチャットに参加した。メンバーを見るとある事実が発覚する。

 

「男子しかいないじゃん。……でも基山君もいるんだ」

 

 メンバーに基山がいたことは意外だった。ただ、今はチャットに集中する。流れは堀北さんのことでいっぱいだった。須藤に至っては殴るかもしれないと気持ちを露わにしている。みんな、堀北のことを嫌っているのは明確だった。

 佐藤は空気に飲まれていることを自覚しないまま、『堀北さんのこと、徹底的に無視しない?』とある意味、いじめをしようと提案する、時だった。

 

『気にするな。むしろさ、ありがとう。俺を頼ってくれて』

『俺さ、今だから言えるけど、佐藤さんの期待を裏切りたくなかったのかもしれないからさ。それに協力もしてくれただろ。だから、お相子ってことで』

『そうかもね。それでも、みんなといれて、嬉しい。俺の居場所がちゃんとあるんだって分かる』

 

「っ」

 

 送信しようとしていた手が止まる。基山の言葉が蘇り、堀北を嫌う空気から脱却した。

 

「……私って、最低だ」

 

 基山が難癖付けられた時で分かっていた筈だ。人を傷付けることがどれだけ嫌なことか。自分自身だって泣きそうになった。

 それを今度は自分がやろうとした。空気に飲まれていたからといって、やって良いことではないだろう。佐藤は文章を消した。しかしチャットはむしろ加速していく。

 

『てかさ、堀北を無視しないか?』

 

『それな。なんか、仕返ししないと気が済まない。むしろ虐めて泣かしちゃう? 上履き隠したりしてさ』

 

 主に池と山内が堀北を虐めないかとチャットを打っていく。その様子を空気から脱した佐藤は恐怖した。

 

「えっ、あ……」

 

 チャットが打てない。やめようの一言すら恐怖で打てなかった。打ったら、自分が標的にされる気がして、耐えられないと考えた。他人を庇う勇気が無かった。

 

(誰か、助けて……)

 

 さっきまで同じことを打とうした。都合の良い話なんてない。そう思いながらも祈らずにはいられなかった。瞼を閉じる、携帯を持っている手が震える。チャットの音がした。……勢いの良かった、チャットの音が消えた。

 不思議と思った佐藤は目を開ける。

 

『なぁ、この話やめようぜ』

 

 このチャットを打ったのは、基山だった。また基山からチャットが来る。

 

『確かに池達の言う通り、堀北さんにも悪い所があったと思う。それを否定する気はない。それでもやって良いことと悪いことがある』

 

『じゃあなんだよ。お前は堀北の味方になるのか』

 

『お前らがもし本当に堀北さんを虐めようとするなら、全力で邪魔するし、堀北さんに寄り添うと思う。たとえ本人にすら拒絶されてもだ』

 

 あまりに真っ直ぐだった。佐藤は気付かない内に涙を流していた。胸の内には安心感が溢れている。

 

「基山君は、変わらないな」

 

『それに、自分が嫌なことは人にはするなって母さんが言っていた。だから、やめておけ。しっぺ返しが来るかもしれないぞ』

 

「お母さんの言葉。響くなぁ……基山君らしいや。……私も、私も!」

 

 勇気は貰った。佐藤はこの学校に来て初めて、空気に反逆する。

 

『私も、基山君の言う通りだと思う。そんなことしたって、堀北さんに嫌な想いをさせるだけだよ』

 

『佐藤ちゃん!?』

 

『池君達の言うことは分かるよ。私も、堀北さんのこと無視しようって言おうとしたから。でも、それは最低だって分かった。だから、池君達にも最低なことをして欲しくないの!』

 

 佐藤は自分が思っていることをこのチャットに載せた。これでも止まらないなら、何度でも説得する気力がある。

 

『でもよ、堀北の奴ムカつくんだぜ? 無視くらいは良くねえか?』

 

『そうだそうだ! お前らは堀北のことを何も分かってない! だから痛い目を見せなきゃいけないんだ!』

 

 佐藤は説得するためにチャットを打とうとした、その時であった。

 

『こんな会話知ったら、櫛田に嫌われるだろうな』

 

 綾小路が参戦した。池と山内のチャットが流れなかった。一先ず、落ち着いたと見て良い。

 

「ふうぅ……」

 

 佐藤は安堵したように息を吐く。胸の中に1つの考えがあった。

 

「基山君……」

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