あの後、一之瀬と連絡先を交換して教室へと戻った。教室の中には異様に静かだった。何事かと思った基山は軽井沢達に話を聞く。すると教室に沖谷が来て、堀北の勉強会が崩壊したことを聞いたらしい。
堀北の教えが厳しくて、須藤が口論して退室。池と山内と一緒に図書館を抜け出してきた後、別れて教室へと来て勉強会への参加を表明したとのことだった。
平田は勉強会を再開する。基山も松下に感謝した。
「気にしないで良いよ。だけど次からは事前に言ってね」
「ごめん、約束出来そうにない」
「……しょうがないなぁ。今日は特別だからね」
「ありがとう」
貸し借りにはならなかった。松下の心の大きさに感謝しつつ、基山は再び教える側へと回った。
沖谷は最初こそ、遠慮していたが段々と慣れてきたのか、基山や周りにいる生徒へ質問していった。大きなトラブル無く、勉強会を終えることが出来たのだった。
基山達と寮へと戻ってきて、自室へと入って数分。佐藤麻耶は携帯と向き合っていた。個人のチャットで池と打ち合っていた。
『頼む、佐藤ちゃん! どうか俺達のグループに入ってくれ!』
『どうしたの? そんな風に誘うなんて』
佐藤は個人的にチャットを打っている方だった。空気の流れに敏感だからだ。
『今日、とっても悪いことがあってさ。佐藤ちゃんに慰めて貰いたいんだ』
「うーん」
佐藤が考えていることは5月初日に基山が難癖付けられたことであった。その原因の1人が池である。正直参加したくない。
『なんで慰めて貰いたいの。もしかして勉強会のこと?』
『そうなんだよ! 聞いてよ! 堀北の奴さぁ――』
池から溢れ出す堀北の愚痴。これを聞いた佐藤は基山と比較していた。
(基山君は一緒に考えてくれた。私達の視線に合わせてくれていたんだ。……恵まれているんだね)
佐藤は取りあえず、池に返答した。
『災難だったね』
『でしょ! だからさ、佐藤ちゃんには俺達の話し相手になって欲しいんだ。頼むよ!』
佐藤はどこかで池達に同情していた。空気も読み過ぎるあまり飲まれていた。だから――
『分かったよ。参加する』
『ありがとう佐藤ちゃん! やっぱり話の分かる女子が最高だね!』
佐藤はグループチャットに参加した。メンバーを見るとある事実が発覚する。
「男子しかいないじゃん。……でも基山君もいるんだ」
メンバーに基山がいたことは意外だった。ただ、今はチャットに集中する。流れは堀北さんのことでいっぱいだった。須藤に至っては殴るかもしれないと気持ちを露わにしている。みんな、堀北のことを嫌っているのは明確だった。
佐藤は空気に飲まれていることを自覚しないまま、『堀北さんのこと、徹底的に無視しない?』とある意味、いじめをしようと提案する、時だった。
『気にするな。むしろさ、ありがとう。俺を頼ってくれて』
『俺さ、今だから言えるけど、佐藤さんの期待を裏切りたくなかったのかもしれないからさ。それに協力もしてくれただろ。だから、お相子ってことで』
『そうかもね。それでも、みんなといれて、嬉しい。俺の居場所がちゃんとあるんだって分かる』
「っ」
送信しようとしていた手が止まる。基山の言葉が蘇り、堀北を嫌う空気から脱却した。
「……私って、最低だ」
基山が難癖付けられた時で分かっていた筈だ。人を傷付けることがどれだけ嫌なことか。自分自身だって泣きそうになった。
それを今度は自分がやろうとした。空気に飲まれていたからといって、やって良いことではないだろう。佐藤は文章を消した。しかしチャットはむしろ加速していく。
『てかさ、堀北を無視しないか?』
『それな。なんか、仕返ししないと気が済まない。むしろ虐めて泣かしちゃう? 上履き隠したりしてさ』
主に池と山内が堀北を虐めないかとチャットを打っていく。その様子を空気から脱した佐藤は恐怖した。
「えっ、あ……」
チャットが打てない。やめようの一言すら恐怖で打てなかった。打ったら、自分が標的にされる気がして、耐えられないと考えた。他人を庇う勇気が無かった。
(誰か、助けて……)
さっきまで同じことを打とうした。都合の良い話なんてない。そう思いながらも祈らずにはいられなかった。瞼を閉じる、携帯を持っている手が震える。チャットの音がした。……勢いの良かった、チャットの音が消えた。
不思議と思った佐藤は目を開ける。
『なぁ、この話やめようぜ』
このチャットを打ったのは、基山だった。また基山からチャットが来る。
『確かに池達の言う通り、堀北さんにも悪い所があったと思う。それを否定する気はない。それでもやって良いことと悪いことがある』
『じゃあなんだよ。お前は堀北の味方になるのか』
『お前らがもし本当に堀北さんを虐めようとするなら、全力で邪魔するし、堀北さんに寄り添うと思う。たとえ本人にすら拒絶されてもだ』
あまりに真っ直ぐだった。佐藤は気付かない内に涙を流していた。胸の内には安心感が溢れている。
「基山君は、変わらないな」
『それに、自分が嫌なことは人にはするなって母さんが言っていた。だから、やめておけ。しっぺ返しが来るかもしれないぞ』
「お母さんの言葉。響くなぁ……基山君らしいや。……私も、私も!」
勇気は貰った。佐藤はこの学校に来て初めて、空気に反逆する。
『私も、基山君の言う通りだと思う。そんなことしたって、堀北さんに嫌な想いをさせるだけだよ』
『佐藤ちゃん!?』
『池君達の言うことは分かるよ。私も、堀北さんのこと無視しようって言おうとしたから。でも、それは最低だって分かった。だから、池君達にも最低なことをして欲しくないの!』
佐藤は自分が思っていることをこのチャットに載せた。これでも止まらないなら、何度でも説得する気力がある。
『でもよ、堀北の奴ムカつくんだぜ? 無視くらいは良くねえか?』
『そうだそうだ! お前らは堀北のことを何も分かってない! だから痛い目を見せなきゃいけないんだ!』
佐藤は説得するためにチャットを打とうとした、その時であった。
『こんな会話知ったら、櫛田に嫌われるだろうな』
綾小路が参戦した。池と山内のチャットが流れなかった。一先ず、落ち着いたと見て良い。
「ふうぅ……」
佐藤は安堵したように息を吐く。胸の中に1つの考えがあった。
「基山君……」
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このままで良い
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一人称視点で書いてみて
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完全に作者に任せます!