ようこそ戦わなければ生き残れない教室へ   作:仮面の観測者

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第15話 基山のルーズリーフ

 堀北生徒会長と戦ってから1週間が経過した。あれから堀北達は勉強会を再開した。教室でも堀北達が須藤達に勉強を教えている姿を見ることが多くなった。

 このまま上手くいけば良い。そういう考えがあった。

 

 基山は今日もいつも通りになりつつある勉強会の準備をしようとした時だった。その前に櫛田が立った。

 

「みんな、ちょっと聞いてくれるかな!」

 

 櫛田の一言で基山含めたみんなが聞く姿勢になった。その櫛田は重苦しい表情をした後、衝撃の事実を口にする。

 

「中間テストの範囲が、全教科変わってたの……!」

 

「……えっ?」

 

「ど、どうして?」

 

「茶柱先生が伝え忘れてたみたい……」

 

(茶柱先生が伝え忘れた? そんなミスをする人には見えないけど……)

 

 みんな唖然としていた。その中でも櫛田は変更になったテスト範囲を教えてくれた。基山はノートにテスト範囲を書き込む。

 

 その後の勉強会だが……みんなやる気を無くしていた。テスト範囲が変わっていたことにより、言い訳の出来ない絶望感が襲っていた。それは軽井沢達も同じであり、むしろ前もってやっていたことから絶望感が増している。

 

「どうする?」

 

 平田が基山に今日はどうするのか聞いた。基山は考えは1つしかなかった。

 

「今日はやめよう。みんな気持ちの整理をしたいんだ。範囲は聞いたから、出来る人は個人で勉強してみてって感じでいこう」

 

「分かったよ」

 

 平田がみんなに今日の勉強会は中止にすると伝えてくれた。みんな絶望を抱えながら帰っていく。

 

「基山……」

 

「軽井沢……」

 

 軽井沢が基山の元へやってきた。その表情はまさに絶望していると顔に出ているようなものだった。頑張ったからこそ、ダメージが大きいと分かった。

 

「あたし達がやってきたことって、なんなの。茶柱先生はそんなことも分からなかったの」

 

「……」

 

「あたし悔しいよ。無意味って突き付けられているみたいで、悔しい! 認めたくないよ!」

 

 残っていた佐藤達とクラスメイトが足を止める。きっと軽井沢と気持ちが同じなのであろう。

 

「どうすれば良いの……諦めた方が、いっそ楽になるのじゃないの?」

 

「……確かに諦めた方が早いし、楽だと思う」

 

 基山の意外な言葉に軽井沢は目を丸くする。ただ、基山は言葉を続けた。

 

「だけど俺は、もう少しだけ苦しんでくる。最後は笑って終われるように、な」

 

 基山はそう言い残して教室から出ていった。

 

 

 

 18時50分。基山は寮の自室にいた。机の上下には図書館で借りた参考書、資料が何冊もあった。あとはこれらと自分の頭をフル活用して作るだけである。それが一番の難関であるが。

 ふと携帯を見てみると一之瀬から連絡があった。

 

『大丈夫? テスト範囲の件』

 

 随分前に送られていたみたいだ。基山はすぐに既読を付けれなかったことに申し訳なさを少し抱えながら、返答した。

 

『まぁ、なんとかするよ。それでさ、一之瀬さん』

 

『うん? なにかな?』

 

『明日の俺を見ても、怒らないでくれ。結果として受け取ってくれ』

 

『どういう意味!?』

 

『俺が諦めるわけにはいかないってことだ。それじゃ、また明日!』

 

 携帯を机の上に置いて基山は気合いを入れる。

 

「俺は、諦めるつもりはないからな」

 

 19時。基山は全教科のテスト範囲をルーズリーフに不器用な解説と共に書き込むのだった。

 

 

 

 翌日、朝の教室は重苦しいものがあった。理不尽とも言える全教科のテスト範囲の変更。昨日の時点よりかはマシだが、心はどんよりと重いものが付き纏っていた。

 

 その中で恵達は教室の中、集まっていた。みんな今までの勉強会でやっていたところが全変更となって、気分が重かった。集まったのは良いが、誰一人喋れない。そんな中、言葉を出したのは麻耶だった。

 

「ねえ……昨日のテストの範囲変わったよね。私、少しやってみたけど……正直自信無いんだよね!」

 

「自信無いの!?」

 

「……分かります。私も、少しはやったから……」

 

 寧々が突っ込んで、勉強会に参加してから話すようになった愛里が共感した。

 

「でもさ、基山君ならそれも成長だって言ってくれそうだよね」

 

 麻耶が笑って言う。

 

「「あぁ……」」

 

 確かに言いそうだ。重かった口から多少言葉が出た。きっと麻耶はこの重苦しい状況を自分なりになんとかしたいんだ。この流れを逃さないと恵が喋り出す。

 

「確かにそうね。あいつなら、きっと言うわ。……実は帰った後ちょっとやったのよ。前よりは考えられるようになっていたわ。解ける問題は限られているんだけど、ね」

 

「それも立派な成長、だって言いそう」

 

「そうだと思う」

 

「……実際にいたら、言うと思います」

 

 基山の実際に言うと思う言葉で少しだけ場が盛り上がる。そんな中、ずっと黙っている千秋。笑ってはいるが、その瞳は不安を隠しきれてない。

 

「千秋はどう思う。この状況のことでも構わないわ」

 

「……そうだね。かなり厳しい状況の中にいることは間違いない。残りの時間で頑張っても覚えられるものは限られてくるから。……はっきり言って奇跡でも起こらない限り、苦しい状況は変わらないわ」

 

 千秋の言葉でまた少しどんよりとした気持ちになりかける。

 

「……ごめん」

 

「良いわよ。むしろ、誰かが現実的な意見言えるだけで安心出来るから」

 

 恵の言葉に嘘偽りは無かった。そしてみんなも恵の言葉に頷いてくれた。そして朝のHRが始まるまで残り5分くらいになって彼は現れた。

 

「お、おはよう……」

 

 恵は自分の耳を疑った。基山の挨拶にいつもの元気がこれぽっちも無いからだ。思わず、扉の方を見ると手櫛で整えたような髪をした基山がいた。基山は恵達を見ると近付いた。

 恵達は絶句する。基山の顔が元気がない。半目で、瞬きは多い。目の下には濃いクマが出来ていた。

 

「ア、アンタ、どうしたのよ!?」

 

「いやぁ、徹夜しちゃって。一応終わった後で寝たんだけどさ、まだ眠いよ」

 

「て、徹夜、ですか?」

 

「あっ、時間無いから見れる分だけ見てくれ」

 

 基山はルーズリーフを出した。それを恵達に見れるように机の上に置いた。

 

「なに、これ?」

 

「ああ、全部じゃないけど変わったテスト範囲を軽井沢達に分かりやすい形でまとめた」

 

「「!?」」

 

「ちょ、ちょっと見せて!」

 

 千秋が食い付いたようにルーズリーフを見る。ペラペラと紙を捲るのは速いし、表情が驚愕に染まっていく。半分くらい見終わると、千秋は基山を見つめた。

 

「これ、ホントに全部じゃない? この量だとほぼ全部に見えるんだけど」

 

「まぁ俺の勘と先生だったら何処出すかなって考えながら作ってみたんだ。もう時間は無いから、昼休み辺りにこれを印刷するだけ」

 

「……基山君は今日ノート取るの禁止ね」

 

「へ?」

 

「当たり前でしょ。徹夜してノートを取れるほど人間そんな風に出来てないから」

 

「いや、でも少し寝たから大丈夫――」

 

「大丈夫じゃない、よね?」

 

 千秋が基山に圧を掛けている。表情こそ笑顔だが怖かった。こんな千秋を見るのはみんな初めてだ。

 

「……はい」

 

「よろしい」

 

 

 

 

 昼休み。いかにも眠そうな基山とルーズリーフを持っている千秋と一緒に恵は印刷機がある教材作成室へと向かっていた。千秋が一歩前を歩んでおり、恵と基山が隣を歩いていた。

 

「ねえ、なんで徹夜なんかしちゃったわけ?」

 

「俺は諦めたくなかったんだよ」

 

「どうして?」

 

 基山は真っ直ぐに言葉を出した。

 

「限定的とはいえ俺は、先生だからな」

 

 たったそれだけの理由でこんな無茶をするのか。自分のことをもっと大切にして良いのに。……気付けば恵は基山の手を取り、握っていた。

 

「バカ……ホント、バカなんだから」

 

 だからもう少し苦しんでくるとか言ったのかと理解する。

 今だけは、彼氏役とか関係なく、ただ基山真司という無茶する少年を労いたかった。。

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