第18話 ボコボコにされるライダー
佐倉愛里が見たのは喧嘩の一部始終であった。赤い髪のした少年、須藤が3人組の男子達を一方的に殴っていた。こうなった経緯を簡単に振り返れば、些細な口論から激しい暴言へと変わったからであろう。
7月が近付いている暑さからか、それとも普段見ないことを見てしまったパニックからか。気付けばカメラのレンズに喧嘩の光景を写していた。
(なんでこんなこと……。どうしてこんなこと……)
心の中に須藤に対して、ほんの少しの失望があった。どうしてこうも簡単に裏切れるのか。これが公になれば、クラスにだって影響があるかもしれない。
なにより、基山が、みんなが助けようと決意したのに。
佐倉は何枚か撮り終えると、須藤が歩き出す。それに対して、若干の恐怖心を抑えながらこの場所から立ち去る準備をする。
「……後で後悔するのはお前だぜ、須藤」
佐倉は男子の一人が言ったことを聞き逃さなかった。どういうことと考える暇は無く静かに、それでいて素早くこの場を立ち去った。
一先ず、特別棟を去った佐倉は考えていた。
(どうしよう。このこと、公になっちゃうよね。……どうしてこんなに問題が積み重なるの)
佐倉が抱えている問題はこれだけではなかった。自分の秘密に関わることで誰にも言えなかった。……この件だって誰にも言えない。そう思った佐倉の頭に浮かんだのは、不器用な基山とそれに集まった勉強会のメンバーだった。みんなで集まった後、グループチャットを作ったのだ。
「手を、貸してくれるかな……」
一筋の希望を胸にして、取りあえず寮の部屋に帰っていった。
夜、基山の部屋には制服姿の基山と軽井沢がいた。軽井沢は1週間に何度か勉強を教わりに来ていた。既に合鍵を持っていることも把握している。
勉強会のメンバーも時々、勉強を教わったり遊びに来たりしていた。
「よし、今回はここまでにするか」
「ふぅ~。まだまだアンタは不器用ね」
教え方は多少上手くなった気がしたが、軽井沢から言わせればまだまだ不器用とのことだった。
「そうかな? 結構上手くなった気がするけど」
「まだまだ成長途中よ、アンタは」
「それ、良い言い方だな!」
基山は軽井沢の言葉に少し感動する。まさか軽井沢から成長途中という言葉が出てくるとは思ってもいなかった。軽井沢は半ば呆れていた。
「はいはい。それじゃあ、あたしは帰るから」
「分かった、気を付けて――」
帰るんだぞと言おうとした瞬間だった。
――キイィイン
耳鳴りが響く。基山は戦う時の目を自然としているだろう。軽井沢は見ており気付いた。
「アンタ、まさか――」
「ごめん、もうちょっとここにいて!」
「ちょ、ちょっと!」
基山は軽井沢を部屋に残して一人で出た。
夜の特別棟という場所に基山は来ていた。特別棟の鏡面に映るミラーモンスター、バクラーケンとウィスクラーケン。そして戦っている仮面ライダーガイの姿があった。見るからに劣勢で攻撃をもろに受けている。
基山はすぐに龍騎のカードデッキを突き出す。Vバックルが実体化。右腕を斜めに上げる。
「変身」
カードデッキをVバックルに装填。仮面ライダー龍騎へと変身を遂げる。
「しゃっ!」
右腕を上げて気合いを入れる。ミラーワールドへ移動するため鏡面に入り、ライドシューターで出入り口を駆け抜ける。
ミラーワールドに入ると、ガイに杖で攻撃しようとしていたウィスクラーケンにライドシューターで体当たりした。ウィスクラーケンは吹っ飛ぶ。
「加勢するぜ!」
「チッ。クソッ!」
言葉こそ悪かったがどうやら加勢を認めてくれたらしい。背中合わせでも攻撃してこないのが証拠である。
「俺はさっき吹っ飛ばした奴と戦うから、お前は対面している奴と戦ってくれ」
「……分かった」
龍騎はアドベントカードを引いてドラグバイザーに装填する。ガイもアドベントカードを引いて、左肩のショルダーガード部にあるメタルバイザーに装填する音がした。
【SWORD VENT】
【STRIKE VENT】
龍騎はドラグセイバーを装備。ガイも手甲型の武器、メタルホーンを装備したのであろう。龍騎はウィスクラーケンに向けて駆け出した。
龍騎はウィスクラーケン相手に互角以上の勝負を繰り広げていた。ドラグセイバーと長柄の杖が激しくぶつかり合い、火花を散らす。
長柄の杖を無力化するために龍騎は激しくぶつかり合った。ウィスクラーケンが杖で突こうとした時、龍騎は初めて横に避けた。
――今だ!
龍騎はウィスクラーケンの腹にドラグセイバーで切り付けた。ウィスクラーケンは後退。そのままの勢いでドラグセイバーを振るい続けた。ウィスクラーケンは杖で防御するが、龍騎が同じところを何度も攻撃した結果、その杖は真っ二つに折れた。
龍騎はドラグセイバーを3回振るって、ウィスクラーケンを吹っ飛ばした。
アドベントカードを引いて、ドラグバイザーに装填する。
【FINAL VENT】
ドラグレッダーを呼び出して、構えを取る。
「はっ! はああああぁ……たっ!」
高く跳んで、空中で錐揉み回転した後、ライダーキックの体勢に入った。同時にドラグレッダーが龍騎の背後から火炎攻撃をして、燃え盛る火炎を纏いながら、急降下した。
「たあああああっ!」
ドラゴンライダーキックがウィスクラーケンに当たり、爆散した。
「ふうぅ……あっちは……」
龍騎はガイとバクラーケンがいる場所を見る。まだ戦っており、バクラーケンの触手にガイが囚われていた。
(助けないと!)
龍騎が駆け足で向かっている最中、突如バクラーケンから火花が散った。明らかに見えない何かに攻撃されていた。バクラーケンは思わずガイを手放して、透明な何かに警戒する。
「余所見とは良い度胸じゃねえか!」
ガイはアドベントカードを引いて、メタルバイザーに投げ入れるように装填した。
【FINAL VENT】
呼び出されたメタルゲラスがバクラーケンを突き飛ばす。
「くたばりやがれ!」
ガイはメタルゲラスの猛突進に合わせて足を肩に乗せる。体を地面と平行にさせて、メタルホーンを突き出したガイ。突進の勢いがバクラーケンに当たり、バクラーケンを消滅させるのだった。
「はぁ……はぁ……」
ガイは息を荒げている。龍騎はミラーモンスター2体だったんだから無理もないと考えていた。そのままガイに近付く。しかしガイはメタルホーンを構えた。
「ま、待て。俺はライダー同士戦うつもりはないんだ」
「ふざけんじゃねえぞ。ライダーなら、戦えよ!」
「そんな状態で戦ったら、本当に脱落するぞ。それでも良いのか?」
「っ! 俺は、まだ……」
ガイに迷いが見えた。龍騎はこれ以上戦えばガイが耐えられないと考えた。それにライダー同士戦うつもりがないのも事実だ。戦うとしたら止めるためである。今は説得に集中しようとした時、声が響いた。
「そこまでにしましょう」
透明から仮面ライダーが現れた。その姿を龍騎は知っていた。
(仮面ライダーベルデ……)
「けどよ、俺ら2人なら」
「透明になっていたらまだ分かりますが、もう解けてしまいました。今の私達では彼には勝てませんよ。それに、私達にはこれ以上戦う理由がありません。ここまでボロボロになったのですから、十分ではありませんか? それとも……王に怒られることを望みますか」
「いや、それはないぜ。……お前の言う通りだ。ここは撤退させてもらうからな」
ガイとベルデは歩き出す。
(ボロボロになった。それに王か……)
まるでボロボロに傷付くことを前提にしていた喋り方だった。龍騎はガイとベルデを見る。ガイはフラフラとしていて危なかった。
後で2人を探してみようと考えて、龍騎も現実の世界へ戻った。
基山は特別棟の周りでガイとベルデの変身者を探していると案の定、動けない少年とその傍に少女がいた。
「大丈夫か?」
「ああっ? お前、まさか……」
「ああ、合っていると思うぞ」
基山は龍騎のカードデッキを見せる。少年と少女は特に驚くようなことはせず、同じくカードデッキを見せた。少年がガイ、少女がベルデのカードデッキだった。
少年は基山を睨み付けていた。基山も少年を見つめる。動けないところを見るに、本当にボロボロらしい。左頬には既に白い大きな絆創膏が貼られていた。この頬の怪我だけは救急箱が無いから今じゃないみたいだ。
「お前、Dクラスなのか?」
「そうだけど、どうして――」
「てめえ!」
少年は基山がDクラスと分かった瞬間、ボロボロの体で立ち上がった。そこまでは良かったが、何故か少年は基山の胸倉を掴んだ。
「石崎君!」
「椎名は黙っていてくれ! なんで、なんで俺を助けた!」
石崎と呼ばれた少年は基山に問い掛ける。助けるのに理由なんていらないと言える状況ではない。基山は真剣な表情で考えて、答えを出した。
「お前が、人間だからだ」
「は? てめえ馬鹿じゃねえのか。俺はライダーだぞ! どうして倒さなかった! あの状況なら、俺を倒せてクラスにダメージを与えられたんたぞ!」
「……俺はライダーバトルを止めたい。だけどそれ以上に人を守るために戦いたい」
城戸真司に憧れて、行動の基準にしようと考えたあの日から、ずっと胸の中に合った答え。城戸真司に憧れている基山真司としても、人を守れるような人になりたい。
「ライダーも同じ人なんだから、ライダーを守ったって良いはずだ」
「……お前は馬鹿じゃねえ。大バカ野郎だぜ……! 後悔するぜ、お前みたいな奴は。そんなんで、生き残れるはずがねえ……」
「それでも俺はこの考えを捨てるつもりはない。そして戦いにも生き残るよ。今の俺には、消したくない記憶があるから」
「そうかよ。……今度会った時は手加減しねえからな。俺には……忠誠を誓っている王がいるからな」
石崎は基山の胸倉を放すと、フラフラとして立っているだけでも精一杯という感じだった。基山は石崎の腕を肩に回した。
「俺の人助けはまだ終わってないみたいだな」
「お前、ほんと物好きな奴だな。なら部屋の前まで運んでくれよ。……えぇと」
「基山真司。お前達の名前はなんて言うんだ?」
「石崎大地だ」
「椎名ひよりです」
「分かったよ。石崎に椎名さん。取りあえず運ぶか」
基山は石崎を支えながら、3人は寮へ向かって歩き出す。最初は無言だったが、椎名が口を開いた。
「基山君は本当に物語の主人公みたいです」
「そうかな? 俺の憧れの人は主人公……みたいな人だったけど」
「あの黄金のライダーとの戦いを見ました。ライダーと協力して立ち向かうのは、物語の序盤にありそうな展開でした」
「……見てたんだ。全然気付かなかったよ」
基山は心の中で全然気付かなかったと驚いていた。椎名は当たり前のように微笑んでいる。
「私はこの戦いを書き残したいのです。それが私の願いです」
「……そうか。なら生き残らないとな」
「勿論、そのつもりですよ」
それから多少会話をしながら石崎の部屋の前まで到着した。
「ここまで送ってくれたのは感謝する。……だけど俺達は容赦しねえ。この学校でも、ライダーバトルでもだ」
「それは私も同意見です。争いごとは苦手ですが、私達は容赦しません。……皆さん仲良くするのが一番なんですが、綺麗ごとですね」
「そうかもしれないけど、綺麗ごとが一番良いんだよ。たとえ実現するのが難しくても。……言葉はしっかり受け止めた。俺だけでも備えておく」
基山の言葉に椎名は一瞬目を見開くが、すぐに微笑む。基山は言いたいことは言えたので、この場から去ろうとした。
「基山! 俺達の王は容赦なんかしねえ。だから……精々生き延びてみろ」
「ならその王に俺のことを伝えても良いぞ。お前達の信頼が第一だから」
基山は歩き出す。
「ほんと、バカ野郎だぜ……」
石崎の声が基山の耳に残るのだった。
自分の部屋に戻ってきた基山。良い匂いが入ってきた。同時に(基山の)エプロンをかけた軽井沢が姿を現す。基山はやっとここで軽井沢を置いて行ったことを思い出した。
「遅い!」
「あっ、ご、ごめん」
「遅すぎて、ご飯作っちゃったじゃない! ちゃんと食べないと怒るんだから!」
「はい!」
基山は手洗いうがいをした後、軽井沢の料理を食べる。とても美味しかったのだった。
仮面ライダーガイ 石崎大地
仮面ライダーベルデ 椎名ひより
「このシーン良かったよ!」と思ったなら感想や活動報告で教えてもらえると嬉しいです。
面白かった、続きが気になる!と思ってくださった方は、ページ下部のお気に入り登録や評価をポチッと押していただけると、執筆のめちゃくちゃ励みになります!
この小説、このままの文にするか試しに変えた方が良いかアンケート取ります
-
このままで良い
-
一人称視点で書いてみて
-
完全に作者に任せます!