ようこそ戦わなければ生き残れない教室へ   作:仮面の観測者

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第5話 彼氏役の契約

 入学してから2週間が経過した。Dクラスの生徒達は先生が何も注意しないので、好き勝手する傾向が見られつつある。そんな中、Dクラスの基山は――

 

「失礼します。茶柱先生はいらっしゃいますか」

 

「ああ、ここにいるぞ」

 

 大量のプリントを持って職員室に来ていた。手に持っているプリントは授業で使われたものである。ただ、空欄があり過ぎるのが気にしている点であった。

 

「よく持って来てくれた」

 

「気にしないで下さい。平田が手伝ってくれたおかげです。俺一人じゃ、ここまでスムーズに集めることは出来ませんでした」

 

「謙遜も良いが、度が過ぎると嫌味に聞こえるぞ」

 

「そうですか? じゃあもっと自信を持ってみます」

 

 茶柱先生と職員室で会話するのは、これが初めてではない。事の始まりは茶柱先生ともう一人、星之宮知恵先生が何やら会話しながら重たい荷物を運んでいるところに遭遇してしまった。基山の脳内は、城戸さんならどうするか、そして重たそうだなと考えて行動に移した。

 

『重たそうですね。持ちますよ』

 

 最初は拒否した2人。持たれたくない理由でもあるのか、見てはいけないのか。しかし基山は返答する。

 

『任せて下さい。俺、これでも力持ちなんです。それに人の善意は素直に受け取った方が良いですよ。……あっ、これは別に裏なんかなくて、純粋な気持ちなら受け取った方が楽出来るじゃないですか』

 

 基山は茶柱先生と星之宮先生の発言を聞くつもりはないし、荷物の中身を確認するつもりもなかった。ただ、城戸さんの真似と少しでも楽にさせたい気持ちがあった。

 現在に遡るまで、茶柱先生が授業で使った書類を集めては職員室まで来て提出していた。

 

「……お前はもう少し人を疑え」

 

 基山の授業態度は茶柱先生は知っていた。真面目で真剣に取り組んでいる。故にほんの小さな本音が漏れてしまう。だが声が小さく、基山には届かなかった。

 

「? 茶柱先生、何か言いました?」

 

「……いや、なんでもない」

 

「あっ、基山君~。今日もお疲れ様~」

 

「星之宮先生、お疲れ様です」

 

 星之宮先生がやってくると茶柱先生はまたか、という表情を浮かべる。基山は星之宮先生とも交流をしていた。もう何度か会話する仲にはなっている。しかし今日の星之宮先生は一歩踏み込んできた。

 

「ねぇ、基山君。私今日疲れてるからさぁ、肩揉んでくれない?」

 

 お願いする星之宮先生を睨み付ける茶柱先生。いくら何でも生徒にお願いすることではない。そんな中、基山は――

 

「良いですよ。ただ、星之宮先生と茶柱先生どっちもやりますね!」

 

「は? おい基山、私は頼んで――」

 

「えっ? だって羨ましいと思ったんじゃないんですか? それに、疲れてますよね」

 

 半分外れ、半分正解だった。茶柱先生は羨ましいとは思ってない。だが疲れている、正確にはストレスが溜まっていた。

 

「ほら、俺がやりたいだけなんで。この時くらいなら自分の心に従ってみて下さい」

 

「……はぁ、勝手にしろ」

 

「分かりました。それじゃあ5分間ずつでやりますね」

 

 基山は茶柱先生なりの了承だと考えて、肩揉みを開始するのだった。

 

 

 

 職員室から出て寮への帰り道を歩いていく基山。

 

「平和だなぁ~」

 

 クラスの喧騒一歩手前とは違う、平和な時間だった。こんな時間がいつまでも続けば良いなと考えていた。

 

――キイィイン

 

「っ!」

 

 瞬間、基山は駆け出していた。異変がある方向へとただひたすらに走る。

 

 そこは寮とケヤキモールを繋ぐ帰り道。その道を歩いていたのは買い物をした軽井沢恵であった。金髪のポニーテールをしたギャルみたいな少女はその気配を感じ取ることが出来ない。

 今日も良い買い物をしたとしか考えていない軽井沢に恐怖が襲い掛かる。近くにある建物の鏡面からミラーモンスターは現れた。

 

「えっ?」

 

 軽井沢は目を疑う。いきなりコスプレみたいなモンスターが現れたのだ。しかし軽井沢はミラーモンスター、メガゼールの敵意を感じ取ってしまった。

 

「あっ、あ……」

 

 軽井沢は持っていた鞄と袋を落とす。メガゼールが一歩ずつ進む度、軽井沢は後退していく。だが、メガゼールは持っていたハサミ型の武器を持って飛び掛かってきた。

 

「あっ……」

 

 良くて重症、下手すれば死ぬと本能的に分かった。軽井沢は……避けられない。

 

「危ない!」

 

 瞬間、横から基山が軽井沢を抱きかかえて、一緒に横へ倒れ込む。基山が下にクッション代わりになったおかげで軽井沢に怪我は無く、気絶もしなかった。軽井沢がいた場所は軽く凹んでいた。基山はメガゼールを睨む。メガゼールはミラーワールドの方へ逃げていった。

 

(逃がすと不味い。……迷っている暇は無いな)

 

 基山は軽井沢を置いて立ち上がると、カードデッキを前に突き出した。Vバックルが実体化して変身ポーズをとる。

 

「変身」

 

 基山は仮面ライダー龍騎へと変身した。

 

「えっ?」

 

 軽井沢は驚いていた。自分を助けてくれた基山が謎の姿へと変身したんだから。

 

「しゃあっ!」

 

 龍騎は軽く右腕を上げて気合いを入れる。そのまま軽井沢の方を振り向くことなく、ミラーワールドへ行くためにライドシューターで駆ける。

 

 龍騎はミラーワールドに到着する。メガゼールはハサミの刃をした刀を持ってライドシューターから降りた龍騎を睨んでいた。

 

 龍騎とメガゼールが同時に駆け出す。龍騎は拳の近接戦、メガゼールは武器を振り回した。拳が当たるが、同時に武器も当たった。

 

「いってえ……」

 

 龍騎は距離を取ってアドベントカードをドラグバイザーに装填。

 

【SWORD VENT】

 

 龍騎はドラグセイバーを持って再びメガゼールに接近する。ドラグセイバーはハサミ型の刀を制して、メガゼールにダメージを与えていく。

 しかしメガゼールも渾身の一撃を首に浴びせようとする。

 

「っ!」

 

 その一撃をドラグセイバーで受け止めた。メガゼールは驚いており、隙だらけだった。龍騎は前蹴りでメガゼールを少し後退させた後、ドラグセイバーを振り下ろした。メガゼールは倒れ込む。

 

 龍騎はカードを引いて迷わず装填。

 

【FINAL VENT】

 

 ドラグレッダーを呼び出す。

 

「はっ! はああああぁ……たっ!」

 

 ドラグレッダーと共に空中に舞い、キックの体勢に入った。

 

「たあああああっ!」

 

 火炎を纏ったキック、ドラゴンライダーキックがメガゼールに当たる。メガゼールは粉砕されて、Rポイントが入るのだった。

 

 

 

 メガゼールを倒した龍騎は現実へと戻り、変身を解除する。そして軽井沢へと近付いた。

 

「っ!」

 

 軽井沢からしてみればモンスターを退かせ、謎の姿へと変身した男と印象が固定されてしまった。そんな軽井沢の様子を知って尚、基山は心配して声を掛ける。

 

「大丈夫か!」

 

「っ、当たり前でしょ」

 

 そう言って立ち上がろうとする軽井沢に違和感を覚えた。

 

(ぎこちない? 動きに違和感がある? もしかして、どこか怪我をしたんじゃ……)

 

 基山に焦りが走った。軽井沢の違和感の正体に気付いたと思っている基山は軽井沢の真正面に立つ。……立ってしまう。

 

「バカ!?」

 

「大丈夫……か……」

 

 ここで基山は気付いてしまう。制服が捲れ上がっている場所。左脇腹付近に過去の傷跡があったことを。お互いに数秒止まってしまう。最初に動いたのは軽井沢だった。

 

「見ないで!」

 

 軽井沢は勢いよく立ち上がって、左脇腹付近を庇う。本当に見られたくなかったみたいだと基山は理解する。

 

「ご、ごめん! でも、軽井沢さんを傷付けるつもりはないんだ」

 

「……へぇ」

 

 軽井沢の目が変わる。利用しようとしている目だった。

 

「アンタさ、今さっきの姿、バレたくないわよね」

 

「あ、ああ……」

 

「なら、あたしの彼氏役になってよ」

 

「彼氏役?」

 

「そうよ。あたしを守って欲しいの。学校でも、あの変な怪物からも! もしも断ってみなさい。そんなことしたら、貴方の秘密全部ばらすんだから!」

 

「軽井沢さん……」

 

 基山は現在脅されていた。だけど軽井沢の瞳を見るとどうしても脅されていることが頭から抜ける。悲しい目をしていた。壊れそうな心を振り絞って立っていると理解してしまう。

 

(城戸さんを演じれば有耶無耶に出来る。……だけど、そんなことはしたくない)

 

 基山は自分の頭で考える。……そして、答えを出した。

 

「条件がある」

 

「何よ、脅されているのに条件付けるの」

 

「ああ」

 

「……言って」

 

 基山は自分の答えを軽井沢にぶつける。

 

「1つは『軽井沢恵が一人で歩けるようになるまで』。まぁ簡単に言えば、依存からの脱却。もう1つは『本当に好きな人が出来たら、この関係を終了する』」

 

「2つもあるし、貴方にメリットが無いじゃない」

 

「でも、これが俺が出した答え、軽井沢さんとの契約なんだ」

 

 軽井沢は理解出来ない表情をする。やがて観念したかのように口を開いた。

 

「あたしは好きな人なんていらない、青春にも期待しない。アンタなんか好きになるわけないし、こき使ってやるんだから」

 

「ああ、よろしくな。……軽井沢って呼んで良いか?」

 

「……好きにすれば。それじゃ、早速……」

 

 軽井沢は地面に倒れている荷物を指さす。

 

「荷物を持ってくれない?」

 

「……分かったよ、軽井沢」

 

 これが2人が交わした契約であった。

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