翌日、基山は教室に行き挨拶をした。無視されたが。しかし仕方ないこと、心に余裕が無ければ自分のことで精一杯だ。だから何かを言うつもりはなかった。
授業は驚くほど静かだった。あれだけ騒いでいた4月とは大違いである。だが、マイナスは無くなるが増えもしないだろう。
放課後。本来なら誰もいないはずの教室。そこには基山と軽井沢、佐藤、松下、森の5人がいた。みんなそれぞれ席に座っている。
「じゃっ、始めちゃおうか」
「よろしくね、基山先生!」
「いやぁ、俺も遂に先生になっちゃったか」
佐藤の言葉に照れたように頭を掻く基山。松下と森は笑っているが、軽井沢は笑ってない。何か重圧にでも耐えているような表情をしていた。ペンを持っている手もどこか震えている。
基山はそれに気付かないフリをした。なんとかなると考えたから。
「分からなかったら一緒に考えるから頑張ろうな! 分からないを分かるフリするよりも、分からないって言ってくれた方が俺は助かるし、嬉しいぞ。好きな形で良いから、勉強を始めてくれ」
こうして基山の勉強会が始まった。
佐藤と森は分からないところを積極的に聞いてきた。松下も頻度こそ低いものの、基山の教え方を理解して問題を解いていた。問題は……軽井沢だった。
「おっ、軽井沢もやっているな」
質問が飛んでこないから自分から聞いてみる基山。軽井沢は悪い意味でドキッとしている風に見えた。事実、その予感は当たる。
「……当たり前でしょ」
「……でもこの問題、間違えているぞ」
「えっ?」
基山は説明する。軽井沢の様子を見てみると、その説明を聞いても分からない様子だった。
「どこから分からなかった? 大丈夫、一緒に考えるから」
「……うん」
(軽井沢、分からないのは別に恥でも失敗でもないんだ。……俺も頑張るから)
軽井沢の表情が暗くなっていく。基山は気付いていた。周りがどんどん前に進んでいる感じが、軽井沢を追い詰めているのだと。軽井沢がいったいどんな理由で追い詰められているかは分からない。ただ、基山は軽井沢の救い方を知らなかった。
勉強会は進んでいく。松下は普通に、佐藤と森は時間を掛けながら。解ける問題数は違うが、確実に前に次のステップに進んだ。……軽井沢は耐え切れなかった。ペンを力強く机に置いてしまった。
「軽井沢……」
「ねぇ、こんなの将来の役に立つ?」
「それは……」
「それにアンタ達には分からないでしょ! 分からないあたしの気持ちなんて!」
軽井沢は目は鋭く、しかし心が決壊してしまったような表情で基山達を見る。基山達は何も言えなかった。軽井沢は俯くと、先程の強さとは違い、静かに帰る準備をした。
「もう帰る。……あたしに、変身なんて無理なのよ……」
そう言い残して軽井沢は教室から出てしまった。数秒、教室が静寂に包まれる。
「追わなくて良いの?」
佐藤は基山に言う。その答えを基山は持っていた。
「今追ったら逆に軽井沢を傷付けるだけだ」
「じゃあ、諦めちゃうんですか?」
「まさか」
森の言葉を返した後、基山は自分の席に座って鞄からノートを出して、使ってないページを破った。佐藤達は基山に近付く。松下は理解した。問題を分かりやすくしようとしていることに。
「言葉だけじゃ足りないなら、目で理解出来るようにすれば良い」
基山は悩みながらも軽井沢のために必死に頭と手を動かす。松下はそんな基山に問い掛ける。
「ねぇ、どうしてそこまで出来るの?」
「軽井沢の気持ちに寄り添いたいだけだ。それが、バカな俺に出来ることだと思うから」
「……その説明、もうちょっと分かりやすく出来るよ」
松下は言葉を出す。そのまま松下は説明していった。佐藤と森も――
「私、この説明の方が良いかも!」
「こうした方が分かりやすいかも。私も初めはこれで躓いたから」
みんなと一致団結して、分かりやすいページを作っていくのだった。
ページを作り終わった基山は軽井沢を探していた。探していると案外早く見つかった。学校近くにあるベンチに座っていたのだ。目元は赤くて、泣いていたことを察した。今にもまた泣き出しそうだ。
基山はゆっくりと近付いた。
「軽井沢、隣に座っても良いか?」
「……」
軽井沢は少しずれて基山が座れる分だけのスペースを作った。基山は微笑みながらそのスペースに座った。
「今日はごめん。教え方は下手くそだったし、気持ちに寄り添いきれなかった」
「……別にアンタのせいじゃない。あたしが……馬鹿だっただけ」
これが軽井沢の本音であることはすぐに分かった。
「あたしさ、別に勉強が嫌になったわけじゃない。まぁ苦手だけどさ。逃げたんだ、『弱い自分』から。麻耶達に嫉妬して、勉強出来ない自分に劣等感感じて。あたしって……最低だ」
「……なぁ、軽井沢から見て、俺ってどんな人間に見える?」
基山の質問に軽井沢は答える。
「バカでお人好し。恐怖なんて微塵も感じて無さそうで、勇気がある。一番の違いは弱い所がない。あたしとは大違い」
「バカでお人好しなのは認めるけど、俺にだって怖いことや弱い部分はあるよ」
「……そうなの?」
軽井沢は不思議そうな表情だった。
「俺は……悩んだり、迷ったりする。それは明確に弱い自分だと思う。あと怖いのは戦うことに慣れることかな。だって暴力に慣れたら、人の痛みや自分の痛みに鈍感になっちゃうからさ」
「自分の痛みにも鈍感になるわけ?」
「ああ。自分が辛いのに辛くないって思っちゃうの、相手は悲しむだろうから。だから自分の痛さを鈍感にしたくない。……軽井沢」
基山は真剣な表情をして軽井沢と向き合った。
「俺は自分の弱さと恐怖があるのを知っている人が変われる、変身出来ると思っている」
「……アンタ。ホント、バカなんだから……!」
軽井沢は涙を流しながらも表情が一気に良くなっていく。基山は不器用なりに言葉が届いたことが嬉しかった。やがて軽井沢は立ち上がった。
「行くわよ、基山。今度は、逃げないから」
「ああ、そうだな。俺も協力するよ」
基山も立ち上がり教室へ戻ろうとした。
――キイィイン
基山は耳鳴りがした。
「ごめん、軽井沢! 先戻っておいて!」
基山は駆け出す。その時後ろから駆け足の音が聞こえた。後ろを振り返れば軽井沢も駆け出していた。
「いや、なんで!?」
「うっさい! アンタが、基山が背負っているの、私にも背負わせて!」
基山はこれ以上、何も言わなかった。場所に到着するとゼブラスカル アイアンがミラーワールドから出ていた。ゼブラスカルアイアンは軽井沢と基山の姿を見るとミラーワールドに撤退した。
基山は龍騎のカードデッキを鏡面に突き出す。Vバックルが実体化する。ポーズをとる。
「変身」
基山はカードデッキをVバックルに装填して仮面ライダー龍騎に変身した。深呼吸をした後、軽井沢へ振り向く。数秒見た後、鏡面と向き合った。
「しゃあっ!」
右手を口前まで持っていき、気合いを込めた。そのままミラーワールドへと向かった。
現実の鏡面で軽井沢は龍騎とゼブラスカルアイアンの攻防を見ていた。龍騎は格闘戦を仕掛けるが、ゼブラスカルアイアンは互角以上に戦った。龍騎も無傷では済まなかった。
(基山、本当は怖いはずなのに、痛いはずなのに戦っているんだ)
軽井沢は思い知った。基山がどんな場所で、どんな相手と戦っているのか。そして、どれだけ心が強いのか。
しかしそんな龍騎は劣勢に立たされていた。ドラグセイバーを装備しても、ダメージを受ける回数は変わらない。ドラグセイバーの攻撃とゼブラスカルアイアンの拳が同時に当たり、龍騎は吹っ飛ばされてドラグセイバーを手放す。ゼブラスカルアイアンはその隙を見逃さず、接近した。
「基山! (お願い、負けないで!)」
軽井沢は両手を組んだ。
(軽井沢が見ているよな。なら、尚更負けない!)
龍騎はゼブラスカルアイアンの攻撃を紙一重で避けて、右拳を逆に叩き込んだ。ゼブラスカルは後退する。
龍騎はアドベントカードを装填。
【STRIKE VENT】
龍騎はドラグクローを召喚して装備する。ドラグクローをゼブラスカルアイアンに向ける。同じく召喚されたドラグレッダーも準備が出来ていた。
「はああぁ、たあああぁ!」
龍騎はドラグクローをセブラスカルアイアンに向けて突き出した。ドラグレッダーが火球を出して『ドラグクローファイヤー』を発動した。
ゼブラスカルアイアンは体をバネのように伸ばす。火球を受け止めて耐えた。しかし龍騎はアドベントカードを装填した。
【FINAL VENT】
「はっ! はああああぁ……たっ!」
ドラグレッダーと共に空中に舞い、キックの体勢に入った。
「たあああああっ!」
火炎を纏ったキック、ドラゴンライダーキックがゼブラスカルアイアンに当たる。ゼブラスカルアイアンは爆散した。
龍騎は現実へと戻って変身解除した。目の前には軽井沢がいる。
「……おかえり」
「ああ、ただいま」
「それじゃあ早速行くわよ。今度は分かりやすく教えてよね、基山」
「任せとけって、俺達には秘策があるからな!」
「ふーん」
基山と軽井沢は教室に向けて歩き出す。教室に到着すると、佐藤達が基山と軽井沢を見た。
「戻ってきたね」
「……みんな、ごめん!」
「良いよ! それよりもほら、これ!」
佐藤達は基山が言っていた秘策、みんなと考えたページを軽井沢に渡す。軽井沢は目を見開いた。その表情は嬉しさで満ちていた。
「……バカね、あたしは。……ありがとう!」
軽井沢はみんなが作ったページを持って席に座った。その軽井沢を見て基山達は微笑む。
「それじゃあ、もう少し付き合って貰うからな!」
基山の勉強会は続く。
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このままで良い
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