******四日目******
結局、あのあとフェイトさんとはやてさんに会って話をした結果、強制捜査をすることになった。
管理局の本局部隊もいくつか動くらしい。
翌日、なのはさんもフェイトさんもはやてさんも行くとのことで、私も無理矢理お願いして同乗させてもらった。
「いい?絶対に私かフェイトちゃんのそばを離れたらダメだよ。あと、魔法の使用も禁止。」
「は~い。」
なのはさんの言葉を元気な声で了承する。
「それで、・・・第8管理世界ってどんなところ?」
フェイトさんが尋ねてくる。
「えと、自然が豊かな星です。現地名称“ル・シェート”。住民生活区画は全て地下構造体にあって、地上はそのほとんどが観光地になってます。」
「へ~、あ、これだね。うわ~すごい。」
フェイトさんがモニターに資料を呼び出す。
「それで、アスナがいた施設はどこ?」
「はい、ここの第51自然保護区画通称“ホープ”。その1番地の政府支援孤児独立支援教育施設です。」
「えと・・・あれ、該当データがない。」
「ほんとだ・・・」
なのはさんも驚きの声を上げる。
「つまりや、その施設はやばいと言うことやな。」
「はやてちゃん。」
急に後ろから声が聞こえた。
振り返ると長い髪を後ろに流した女性が関西弁でしゃべっていた。
「う~ん、なるべくやったら事前に連絡をいれときたいとこやけど・・・その施設がないんじゃねぇ?」
にやにやと私達を見回すはやてさん。
「そうだね。施設がないんじゃ通信も出来ないよね。」
「私達がそこで変な建物を見つけたから不審施設と言うことで部隊ごと突入しても問題ないね。」
いや、おおありだろう、フェイトさん。
せめて政府に連絡ぐらいいれとけよ。
ま、政府にも間者がいるというのがはやてさんの考えだからそうともいってられないか。
「というわけで、あと五時間後に到着や。内容は施設職員の逮捕、および被害者の保護。あと、実験データとかの押収や。みんな準備してな。」
「「はい。」」
次元航行船は次元空間にとどまることになった。
「職員、及び被害者は順次こちらに転送。転送ポートは随時開いていくから通信を密にな。」
「「「「「「はい。」」」」」」
「転送先は施設から1km離れた森の中。5分で所定の位置について突入開始や。」
「「「「「了解。」」」」」」
「高町一等空位とテスタロッサ執務官、シルフィードさんの三人で先導。順次職員を捕縛、もしくは気絶。被害者は保護。後衛が捕縛した職員、被害者の護送を順次行って下さい。気になるデータや資料があればそれも一緒にお願いします。」
「「「はい。」」」
「あと、もし実験中の被害者がいた場合は順次安全に実験を中止。最悪職員を脅してもええからやめさせてすぐに医療班に送って。」
「「「「「了解。」」」」」」
「よし、なら気引き締めていこう!!」
「それじゃぁ、離れないようについてきてね。」
次元転送先の森に着くとなのはさんは飛行魔法を発動し私と手を繋いだ。
そのまま私にも飛行魔法をかけるとかなりの速度で飛び始めた。
私も必死に置いていかれないようについて行く。
その後ろからフェイトさんが、普段は見ない真剣な顔でついてくる。
しばらくすると、所定位置の正門が見えた。
『あと二十秒。よし、タイミングはOKだね。』
念話での会話の後、フェイトさんが確認のためだした時計を消す。
もう門はすぐそこだ。
『5、4、3、2、1、ミッションスタート!!』
開始の合図とともになのはさんが魔法で門をこじ開けた。
驚いた顔をする守衛の人。
「管理局です。おとなしく投降するなら武装の解除を。」
しかし、職員は慣れた手つきで起動されたデバイスをこちらに向けようとする。
「シュートッ!!」
なのはさんが間髪入れずにディバインシューターをたたき込む。
すると、あっさりと職員は気絶した。
あまりの鮮やかさに私は二の句が継げない。
『なのは、はじめから気絶させるつもりだったね。』
『そ、そんなことないよ。ちゃんと投降してって警告したし。』
『けど、この人がデバイスを出す前にはディバインシューターがたたき込まれてたよ?』
『・・・先手必勝!!攻撃は最大の防御!!』
何か言い訳っぽいことをいいながらなのはさんは建物に入っていく。
私とフェイトさんは若干あきれながらも後に続いた。
ちなみに守衛さんはバインドで縛って放置。
あとから来る後衛の部隊に護送は頼めばいい。
とにかく、施設の制圧が先だ。
『なのはさん、フェイトさん。この時間帯は実験か各自部屋で待機がほとんどです。この廊下を右に行くと個人の各部屋が。左に行くと研究室が並んでいます。』
『了解。ならまずは右かな。』
『まって、なのは。二手に分かれよう。私が右に行って被害者を保護するからなのははアスナと一緒に研究室の方に向かって。』
『・・・そうだね。子供の相手はフェイトちゃんの方が上手だからね。出来ればアスナもフェイトちゃんと一緒がいいんだけど・・・』
『こっちは平気でもそっちはアスナの案内があった方がいいよ。』
『だね。じゃぁ行こう、アスナ。』
『はい。』
なのはさんに連れられて廊下を飛行する。
最初の研究室が見えた。
『そこです、第1研究室。主に毎日の健康診断をここで行ってます。』
『OK。ならはいるよ。』
なのはさんは扉の前で降りる。
私も横に並ぶと彼女はばんと扉を開けた。
中では私が毎日見ていた三人の研究員と一人の少女がいた。
「アスナ!!」
「ネイティ!!」
思わず駆け寄ろうとしてなのはさんに手で制された。
「管理局です。そこの三人の職員は武装を解除しておとなしく投降して下さい。」
レイジングハートの先を研究員に向ける。
一瞬、彼らの顔にパニックが表れるが、すぐに机に向かおうとする。
「動くな!!」
私はシューを瞬時に起動するとその先を机に向けた。
<ロードカードリッジ>
ガシュンと薬莢が飛び出る。
実はこれ、フェイクだ。
あの薬莢はただの空。
本物は数が少ない。
そう易々と消費するわけにはいかない。
『なのはさん、机には端末があってそこから防犯信号が発信できます。絶対に近づけないで下さい。』
『了解。』
そういうと、彼女は職員をバインドで縛る。
安全が確認されたところで私は再びその場にいた少女に抱きついた。
「ネイティ、久しぶり!!」
ネイティ・キャンベルン。
ここの施設で知り合った私の友達だ。
私の隣の部屋でよく夜中に壁越しに話をした。
「アスナ、元気だった?」
「うん、ゴメンね、一人で逃げちゃって。」
「ううん、平気。あれから研究の方が行き詰まったみたいであまりみんな研究室には連れて行かれなくなったんだよ。」
「あ、やっぱり?」
「へ~、心当たりがあるんだ。」
「うん、ちょっとね。」
「・・・それより、早くここから逃げないとみんな焼け死ぬよ?」
「えっ?」
「ほら、忘れたの?対バイオハザード用焼却システム。全部屋完備の装置だよ?」
しまった、すっかり忘れてた。
「なのはさん、すぐにここのメインシステムを制圧して下さい。」
「分かった、シャーリー!!」
話を聞いていたなのはさんが誰かを呼び出す。
『は~い。』
「ここのメインシステム、すぐに制圧して。」
『してと簡単に言われましても・・・どこの端末でしたらいいですか?』
「えっと・・・」
「どこの端末からでもメインシステムにはアクセスできます。ただセキュリティがとても頑丈なんで、せめてIDとパスワードを手に入れないと・・・」
そういいながら私はバインドで掴まっている研究員を見た。
なのはさんも私の視線の先を見てあぁ、と言う。
ネイティも研究員を見る。
「な、なんだ。私は別にお前らに協力するつもりは・・・」
「別にいいですよ。」
「・・・はっ?」
なのはさんの言葉に研究員は間抜けな顔をする。
「別に協力なんてしてもらうつもりはありません。情報は無理矢理吐いてもらいます。」
なのはさんの顔は楽しそうだ。
南無。
私は両手で研究員に合掌した。
哀れみはするけど、同情はしない。
彼らの犯した罪は、深い。
部屋に悲鳴が響き渡ることもなく、真っ白になった研究員からIDとパスワードを無事入手。
シャーリーさんにそれを伝えて無事、メインシステムを制圧できたとのことだ。
「それじゃぁ、次行くよ。」
「はい。」
なのはさんの言葉に私はうなずく。
そして振り返ってネイティを見た。
「もうすぐ、管理局に人が来るから、そしたらその人達について行って。無事保護してくれると思うから。」
「うん・・・・アスナは?」
「私はもう少しお仕事。無事終わったらもどってくるから、そしたらまたいっぱいお話しよ。」
「絶対だよ。約束だよ。」
「うん、約束。」
そういって私はネイティと人差し指を結ぶ。
「アルカ・ティ・エーナ」
「アルカ・ティ・エーナ」
ゆっくりと心を込めて言う。
「それじゃぁ、ね。」
「うん、気をつけて。」
私は部屋の外にいたなのはさんの元に行く。
「準備はいい?」
「はい。」
今度は飛行魔法は使わずに走る。
「あのさ、一つ聞いていい?」
「なんですか?」
「うん・・・アルカ・ティ・エーナ・・・だっけ?」
「はい。」
「あれってなんなの?」
「あぁ、・・・ミッドでは指切りが常識でしたね。」
「あ、やっぱりそういう系?」
「はい。約束事をする時に、人差し指と人差し指を結んで唱えるんです。」
「へ~、発祥とかは分かる?」
「えと、母さんの受け売りなんですけど、アルカ・ティ・エーナというのは古代シェートの言葉で“私の信じるものに誓約します。”と言う意味なんだそうです。」
「自分の信じるもの、かぁ。」
「はい。例えば恋人とか、心とか。宗教では神様とか。そういうのですね。」
「うん・・・いいね、アルカ・ティ・エーナ。」
なのはさんはうなずくと、次の部屋の前に構えた。
私に目線で合図をすると一気に開く。
そこでも研究員を縛って、実験されそう、もしくはされている私の友達を助けていった。
* * * * *
「第50研究室、制圧完了。これで分かっている研究室は全て制圧しました。」
『お疲れ、なのはちゃん、アスナちゃん。一応建物を一周してからもどってきてくれるか?』
「了解、はやてちゃん。一周してからもどるね。」
ピッと回線を閉じる。
「というわけで、もう一度一周してから帰ろうね。」
「はい。」
私はなのはさんと一緒に無機質な廊下を歩く。
途中途中で出会う武装局員に挨拶をしながら一周しようかという時だった。
<マスター。そちらの壁に、生体反応が二つあります。>
「壁?」
シューの言葉に言われた壁を眺める。
なんて事はない、普通の壁だ。
「ここ・・・だよね?」
<はい。その向こう側から。>
私はなのはさんと一緒に壁をたたいたりする。
しかし、何も分からない。
ただ、すごく壁が薄く、その向こうは空洞が広がっていると言うことぐらいだ。
つまり、隠し部屋がある。
「・・・壊すか。」
なのはさんが物騒なことを言うが、そこはあえて賛成する。
他に方法が思いつかない。
「ちょっと離れててね。」
私を下がらせるとなのはさんは壁にレイジングハートを向けた。
「久しぶりの壁抜き、いけるね?」
<もちろんです。ファイアリングロック、解除>
「カードリッジロード。」
<ロードカードリッジ>
なのはさんの杖先に魔力が収束していく。
『けど、壁抜きなんて出来るんですかね。』
『え、どういう事?』
シューの念話に思わず聞き返す。
『いえ、ここの壁、一見普通のに見えますけど、対魔力対物理打撃用高耐性シールドでおおわれてます。』
『つまり、ただの収束砲で打ち抜けるはずがないと。』
『はい、そういうわけ・・・』
「シュートッ!!」
ガラガラガラガラ・・・・
『・・・・・・・・・』
『・・・・・・・・・』
壁が木っ端みじんになって周りの壁ごと崩していく。
『・・・あっさり打ち抜いたよ。』
『・・・まぁ、ただの収束砲ではなかったと言うことですね。』
『これ、本当に高耐性シールド?』
『はい。先程確かめました。』
少々絶句しながらも何も言わず私は部屋に入る。
そこは白色の部屋だった。
中心に二つのベッドが並べておかれ、脇には得体の知れない機械が並んでいる。
コードがベッドの上に吸い込まれていて、そのベッドには・・・・
「かあさん・・・とうさん・・・・?」
私のよく知った二人が寝ていた。
「えっ・・・」
<このお二人が・・・>
なのはさんとシューが驚きの声を上げる。
「けど、なんで・・・父さんと母さんは・・・・」
私はなのはさんの制止も聞かずに二人に駆け寄る。
「父さん!!・・・母さん!!」
私は二人を揺する。
けど、反応がない。
試しに口元に手を持って行くと、息はある。
「こら!!アスナ。一人で勝手に行かない!!」
なのはさんに怒られてしまう。
「す、すみません・・・・」
「けど、本当にこの二人がアスナの両親?」
「はい。父のハリー・シルフィードと母のミーナ・シルフィードです。」
「そう・・・あぁ、二人とも次元航行船に転送するね。この状態じゃ、近くの転送ポートまでは運べないからすぐここに作ってもらうね。」
「お願いします。」
私は頭を下げると再び二人に近づく。
「父さん・・・母さん・・・死んでなかったんだね。」
頬を伝うものを感じるが、私はそれをぬぐわない。
だって今、私は二人の手を握っている。
ぬぐう手なんて無いから。
「母さん、約束覚えてる?ちゃんと治ったら約束守ってね。父さんも。・・・絶対だよ。」
ぱぁっと二人のベットの下が輝き始める。
よく見れば、幾何学模様・・・魔法陣が浮かび上がっている。
「アスナ、転送ポートを開くから離れて。」
なのはさんの言葉に私はもう一度父さんと母さんの顔を見てから離れる。
すると、数秒の後、二人を乗せたベッドは虚空へと消えた。
おそらく、既に次元航行船の医務室にあるのだろう。
「・・・それじゃぁ、アスナ。私達も戻ろうか。」
「・・・はい。」
しばらくぼーっとしていたが、私は部屋を出ようとする。
しかし、突然、入ってくる時に開けた壁のあなが消えていた。
いや、それだけではない。
瓦礫の一つも見あたらない。
瞬間、本能が警鐘を鳴らす。
「なのはさん!!」
「アスナ!!」
名前を呼んだ瞬間、部屋に警報が鳴り響いた。
<警告、警告。施設内に異常な魔力を検知しました。侵入者と思われます。機密保持のため、施設は破壊されます。職員は速やかに退避して下さい。>
続いて、部屋の中の明かりが消える。
上の方にあった窓ガラスもシャッターが降りて、出られなくなった。
私は部屋のドアを引いたり押したり、いろいろしてみるが開かない。
「シャーリー。メインシステムの方で開かない?」
『無理みたいです。管理権限がメインシステムよりも上でアクセス拒否されます。』
「ハッキングは?」
『今やってますけど・・・時間かかります。』
「そう・・・転送ポートの方は?」
『そちらはあと1分強でその部屋内部に開けます。今、他の職員が当たってますので・・・』
<警告、警告。燃焼ガス注入まで、あと三十秒。発火まで三十五秒。職員は速やかに施設付近から退避して下さい。二十五、二十四、二十三、・・・・>
「間に合いそうにもないね。強行突破するよ。」
『了解です。施設内には既に人はいません。あとはお二人だけです。』
「了解。アスナ、私の後ろにいて。」
「む、無理です!!この壁、さっきの壁とは違って砲撃じゃ抜けないようになってます!!金属が溶融するような温度でないと壊れません。」
「分かってるって。大丈夫。私に任せて。」
しかたなくなのはさんの言うとおり私は後ろに立つ。
いくらなのはさんの砲撃がすごくても、この壁はきっと壊せない。
さっきの砲撃を倍にしてもこの壁は打ち抜けない。
仕方ない、あれを使うしかないか・・・
「レイジングハート。エクセリオンいけるね。」
<もちろん、マスター。エクセリオンモード、セットアップ。>
『マスター。』
ゆっくりと準備を始めていると、シューが声をかけてきた。
『なに?』
『いえ、私を使わなくてもおそらく平気かと。』
『何いってるの?いくらなのはさんがすごくても、この壁は・・・』
『いえ、彼女のあの砲撃、データを閲覧したところ十分の一にも満たない威力だったようで。』
『・・・はっ?』
『故に、この壁も悠々と壊してしまうかと。』
『それ、ほんと?』
『はい。今は見守るべきです。』
シューにそういわれては仕方がない。
私は準備をやめる。
するとぱっとレイジングハートが光に包まれたかと思うと長い、槍のような形態になった。
「いくよ、レイジングハート。」
<了解。ロードカードリッジ。>
ガシュンガシュンと十発近く、カードリッジを消費する。
というか、十発!?
確か、カードリッジシステムって瞬間で爆発的な魔法を扱うために作られたシステムだよね。
一発でも十分すごいのに十発って・・・
「ファイアリングロック解除。」
<ファイアリングロック解除。および、進路上に問題なし。>
「うん、いくよ。」
きゅーっと空気中に漂う魔力が収束していく。
それは、まるで夜空を漂う星のよう。
その星が、一点に集中していく。
「カウントお願い、レイジングハート。」
<はい。カウント5、4、3、>
集まった星が、すさまじい輝きを放っていく。
<2、1、0。>
「スターライト・ブレイカー!!」
カウント0と共に収束していた星が一直線に放たれる。
一筋と言うにはとても太い、すさまじい魔力の光が部屋を照らし、壁を・・・壊す。
光が収まると一直線に穴が空き、外の景色が遠くに見えた。
<燃焼まで、あと10、9、8、・・・>
「いくよ、アスナ!!」
なのはさんはさっきの題意力砲撃の疲れを少しも見せず私を抱える。
そのまま、すさまじい速度で飛翔した。
ものの数秒で建物から出て、さらに距離を取る。
そして、元の転送ポートの位置に来た頃。
ズンッという鈍い振動と共に、遠くで爆発が見えた。
真っ赤な火柱が立ち上っている。
「た、たすかった~。」
ようやっとおろされた私は地面にへたり込んだ。
* * * * *
次元航行船の一室に私はネイティと一緒にいた。
「アスナ、外の世界はどうだった?」
「う~ん・・・実は逃げ回ってばっかりでそんなにいい思い出がなかったりして。」
「あ、やっぱり?」
「うん、・・・でもなのはさんのご飯はおいしかったよ。今までで二番目。」
「一番目は?」
「母さんの料理。」
母さんが私に料理をつくってくれたのはもうずいぶんと昔の話だ。
私が連れて行かれる前の日曜日。
もう十年以上前の話だ。
「・・・良く覚えてるね。マザコン。」
「マザコン言わないで。けど、忘れられないよ。おいしかったもん。」
「そう・・・良かったね、お母さんとお父さん生きてて。」
「うん。・・・・」
妙な沈黙が降りる。
ネイティは特に何気なく行ったことだろうけど、私としてはなんと言っていいか分からなかった。
ネイティには両親がいない。
いや、ネイティだけではない。
あの施設にいた子供全員がそうだ。
私もそうだった。
けど、私には見つかった。
本当の両親が。
「・・・幸せに暮らせたらいいね。」
ネイティがポツリという。
「うん。・・・ありがとう。」
私は正直、浮かれたかった。
いや、ネイティの言葉だけを聞けば浮かれていたかも知れない。
でも、ネイティは泣いていた。
おそらく、彼女も思い出しているのだろう。
・・・自分の両親のことを。
「・・・・・・・・」
私は無言で彼女の後ろに回った。
「・・・?」
ネイティは振り返ろうとするが、私はかまわず後ろから抱きしめた。
「もう、平気なんだよ。」
諭すように言う。
「私とネイティはちょっと立場が変わってしまったけど、」
両親がいないという接点で生まれた絆。
とてももろく、薄っぺらいものだった。
「けどね、やっぱりネイティとは友達だよ。・・・ううん、友達でいたい。」
キューッと抱きしめる。
「だめかな。」
私はいってから不安に包まれた。
これは私の傲慢だ。
両親がいないという傷をなめ合って出来た絆。
私はその傷が無くなってしまった。
それなのに、友達でいたいと。
これから私が家族の話をする旅に、彼女を傷つけるというのに。
「・・・ううん、だめじゃない。」
しかし、しっかりと答えてくれた。
ちょっと声がかれているのは彼女の目からあふれる雫のせいだ。
「うれしいよ、アスナ。私、うれしい。」
その雫は、心の痛みによるものだけではないみたいだ。
「ずっと、これからも友達だよ。アスナ。」
うれしさが混じったその涙を頬に伝わせながら彼女は私の顔を見た。
「うん、約束。ネイティ。」
私達の約束の言葉を口にする。
「「アルカ・ティ・エーナ」」
自然とその声は重なり合い、部屋に溶けていった。
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