多重世界の特命係   作:ミッツ

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本日3本投稿します。まずは1本。
なお、今回のエピソードはseason14中に起きた事件とさせていただきます。


さよならシンデレラ 1

 あの頃の私は、美しいお城での舞踏会を夢見るシンデレラでした。

 夢に憧れ、可憐な世界に胸躍らせた、どこにでもいる市井の少女。それが私でした。

 そんな私に、あの人はガラスの靴と綺麗なドレス、カボチャの馬車を用意してくれた。あとは定められた道を進んで行けば、夢にまで見た舞台はすぐそこのはずだったんです。

 けれど、カボチャの馬車はお城に着くことはありませんでした。きっとそれは、私が夢見ることが出来なくなってしまったから。

 夢以外の物が、見えてしまったから…

 

 

 

 

 

 

 都内某所、とあるビジネスホテルの一室に警視庁捜査一課の伊丹と芹沢はいた。彼らの周りでは鑑識官たちが忙しなく働いている。

 つまるところ、ホテルの一室が今回の彼らの仕事現場であり、残忍な犯行が行われた場所である。

 そして二人の目の前のベットの脇には、哀れな犠牲者の遺体がうつ伏せで横たわっていた。

 

「まだ若いのに…むごい事しやがる…」

 

「ええ…」

 

 被害者となったのは若い女性。その首筋にはあごのラインに沿う形で、赤黒い鬱血痕が生々しく残っている。発見したのはホテルの従業員であった。

 

「そういえば、被害者は男と二人でこのホテルに入っているところを従業員が目撃しているんだよな。何か男の方の身元が分かるような証拠は無かったのか?」

 

「はい。それが、机の上あった被害者の財布の中にこんなものが。」

 

 そう言って芹沢が伊丹に手渡したのは一枚の名刺であった。伊丹はそこに書かれている文字を目で追う。

 

「『株式会社346プロダクション シンデレラプロジェクトプロデューサー 武内』 だと…」

 

 

 

 その日の夕方のニュース

『本日の午後、都内のホテルで女性の遺体が発見されました。警察は現場の状況などから殺人事件として捜査を進めています。被害者の女性は都内の大学に通う成田千代(なりた ちよ)さん20歳で、本日の午後12時頃、男性と二人でホテルに入っていくのが目撃されています。警察はこの男性が何かしらの事情を知っているとし、男性の行方を追っています。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 毎度おなじみ警視庁特命係室。この部屋の主である杉下右京と、その部下の冠城亘は昼食後の優雅なひと時を味わっていた。

 

「そういえば右京さん、聞きましたか?女子大生がホテルで殺された事件で一課が昨日の夕方、男を任意同行したそうなんですけど、今日の朝、正式に逮捕状を請求したそうですよ。」

 

 コーヒーを呑みつつ、冠城が杉下に話題を提供する。杉下もマイカップに紅茶を注ぎながらそれに答える。

 

「そういえば、朝から捜査一課の方が騒がしかったですねぇ。なるほど、そういう事でしたか。」

 

「それでですね、その逮捕された容疑者ってのが、芸能事務所346プロのプロデューサーらしいんですよ。」

 

「346プロ…」

 

「結構老舗の芸能事務所で、最近はアイドル事業にも手を伸ばしててかなり景気が良さそうなところですよ。そこのプロデューサーとなれば割とエリートになると思うんですけど、それが殺人だなんて…人生何があるか分かりませんね。」

 

「それを、法務省の役人から警察官に転身した君が言いますか。」

 

 呆れ交じりに杉下は呟くが、それが聞こえているであろう冠城は一切気にした素振りは見せない。

 そうして昼休みをのんびりと過ごしていると、隣の部署に賑やかし役が慌てた様子で現れた。

 警視庁組織犯罪対策部組織犯罪対策第五課の角田だ。

 

「おいおいおい、あんたたちにすごいお客さんが来てるよ!」

 

「うわっ!どうしたんですか課長?そんなに慌てて。」

 

「いいからいいから、早くこっち来て。お嬢さんたちはあんたたちを御指名なんだから。」

 

「お嬢さんたち?」

 

 事情はよく分からないが、誰かが特命係に用があるらしい。それも、角田が大慌てするような女性である。

 まるで見当がつかずに二人が角田の後についていくと、生活安全課の面談室に通される。

 そこにいたのは2人の若い女性だった。二人はマスクをしたり、帽子やサングラスで顔を隠している。

 すると、背の低い方の女性が前に進み出ると、掛けていたサングラスを外し素顔を露わにする。その顔を見て、杉下は納得したように頷いた。

 

「なるほど、課長があれほど慌てていたので誰が尋ねて来たのかと思いましたが、君でしたか。」

 

「はい。お久しぶりです、杉下教官。」

 

 女性は杉下に再会の挨拶をすると深々と頭を下げた。

 そしてその素顔を目の当たりにした冠城もまた、見知った顔に驚きを隠せなかった。とはいっても、杉下のようにお互いが旧知の中という訳ではなく、メディアを通し冠城が一方的に知っているというだけであるが。

 

「片桐…早苗…」

 

 元警察官として巷で話題のアイドルが彼らの前にいた。

 

 

 

 

「片桐さんは僕が一時期警察学校に教官として勤めていた時に、ちょうど学生として入校されていたんです。」

 

「はい。あの時は本当に教官にはお世話になりました。卒業してからも何度かお会いする機会はあって、その度に頼りにさせてもらって。」

 

「へぇ、右京さんとアイドルの片桐さんにそんな関係が…」

 

 場所を特命係室に移し、杉下と片桐は昔話に花を咲かせる。その間冠城はコーヒーを用意し片桐とその付き添いの前に置いて行った。

 

「それにしても、あの『締め落とし暴走機関車』と呼ばれていた片桐さんがアイドルになるとは…本当に人生とは何があるか分かりませんねぇ。」

 

「はは、ま、まぁ昔話はここら辺にして、本題に入らせてもらってもいいですか?」

 

 和やかな話から一転して、片桐の声色に真剣みが増す。それを察し、杉下も真剣な顔で頷く。

 

「昨日都内のホテルで女子大生が殺害された事件を御存知ですか?」

 

「ええ、本庁でも今朝から頻繁に話題となっています。」

 

「その事件の容疑者として逮捕された男性というのが、私たちの事務所のプロデューサーなんです。」

 

「あっ!そっか、片桐さんもそういえば346プロ所属のアイドルでしたね。」

 

 思い出したとばかりに冠城が手を打つと、片桐は首を縦に動かし肯定を示す。

 

「ええ。そして逮捕されたプロデューサー、武内君っていうんですけど、彼がプロデュースしていたのがこの子たちが所属するシンデレラプロジェクトなんです。」

 

 そう言って片桐は隣に座る少女を見る。顔合わせをしてからいまだに一言もしゃべらない彼女は黙って頷いた。その眼には化粧では隠し切れない大きな隈が出来ており、目線は不安そうに片桐と杉下たちの間を行ったり来たりしている。

 

「片桐さん、そちらの方のお名前を教えてもらってもよろしいですか?なにぶん、芸能関係の事は勉強不足でして。」

 

「ああ、すいません。ほら卯月ちゃん、自己紹介して。」

 

 そう片桐に促され、少女は立ち上がると杉下たちに頭を下げた。

 

「島村卯月です…」

 

「どうもはじめまして。警視庁特命係の杉下右京です。」

 

「同じく、冠城亘です。」

 

「それで、逮捕された男性がお二人のプロデューサーという事ですが、それが片桐さんたちが僕を訪ねてきた要件に関わる事なのでしょうか?」

 

 杉下が尋ねると、島村は椅子から飛び上がるように立ち上がり、土下座をせんばかりに杉下に頭を下げた。

 

「お願いします刑事さん!」

 

「ちょ、ちょっと卯月ちゃん!?」

 

「プロデューサーさんの無実を証明してください!」

 

「……はいぃ?」

 

 突然の申し出に流石の杉下も呆けたように返事をしてしまうと、横から片桐が慌ててフォローを入れる。

 

「えーと、私も武内君とは面識があるんですけど、とても殺人を犯すような性格じゃないんです。はっきり言って、今回の逮捕は誤認逮捕じゃないかって思えるほどに…」

 

「プロデューサーさんは優しい人です。見た目の所為で誤解されることもあるけど、いつも必死で私たちを助けてくれる、とてもいい人なんです。そんな人が人殺しなんてするはずありません!だから…」

 

 島村は杉下の顔を真っ直ぐに見つめると、必死の形相で懇願する。

 

「プロデューサーさんを…助けてください…お願いします…」

 

 目の縁に涙を浮かべ、かすれかけた声で島村は頭を下げ続けた。

 一方で頼まれた方の杉下はというと、厳しい表情を崩さずにいる。いや、崩せずにいると言った方が良いかもしれない。

 

「つまり、あなた方の頼みというのは、事件を再調査して武内さんが無実を証明してほしいという事ですね?」

 

 杉下が問うと、片桐と島村は黙って頷いた。

 

「……片桐さん、、島村さん、あなた方は武内さんが犯人ではないという根拠に心当たりがあるんですか?」

 

「根拠ですか?」

 

「ええ。事件の発生が昨日のお昼頃。そして武内さんが任意同行を求められたのが昨日の夕方で、逮捕状の請求が今朝です。初動捜査から逮捕までがこれほどスム-ズという事は、捜査一課は武内さんが犯人だと言うだけの証拠を手に入れていると考えていいでしょう。それを覆せるだけの根拠をあなた方は持っているのでしょうか?」

 

 そう聞かれて、片桐は苦い顔を隠しきれない。

 

「…そこを突かれると痛いんですよねぇ。正直言って私たちが武内君の無実を信じる根拠は、彼の人柄、その一点なんです。」

 

「そうですか…」

 

 何とも言い難い難しい案件であると杉下は判断せずにはいられなかった。

 人柄が信用できると言っても、それはあくまでも身内からの意見であり、捜査一課に訴えたところで鼻で笑われるだけであろう。だからこそ片桐は旧知の中である杉下に話を持ってきたのであろうが、既に逮捕状が請求されている容疑者の疑惑を払しょくするというのは並大抵の労力では敵わない。

 それが理解できているからだろうか、元警官の片桐も申し訳なさそうな顔をする。

 

「やっぱり難しいですか?」

 

「難しい難しくないで言えば、非常に難しいと言わざるを得ません。捜査をする事自体は出来るでしょうが、それが容疑者の無実を証明するためだと知れれば捜査一課の協力を取り付けるどころか、現場からも遠ざけられるでしょう。」

 

「そんな…」

 

 杉下から説明を受けた島村は、この世の終わりを見たかのような表情を浮かべ唇をかむ。その隣の片桐もある程度予想をしていたとはいえ、沈痛な顔をで俯く。

 すると、それを見かねたのか冠城が口を開いた。

 

「右京さん、とりあえず僕たちなりに捜査をしてみるってのはどうですか?」

 

「冠城君…」

 

「このままじゃ彼女たちも納得できないでしょうし、俺たちだけでも彼女たち側に立って捜査してみてもいいんじゃないですか?」

 

「その結果、島村さんたちが望まぬ真相が明らかにされてもですか?」

 

「はい。たとえそれがどんなに残酷な真実だとしても、納得できぬまま心に残し続けるよりかはましだと思います。それに積み重なった証拠よりも、関係者の心証の方が真実に近いってこともあるかもしれませんよ。」

 

 そう言って冠城が杉下の顔を見つめ続けていると、杉下も観念したのか小さくため息をつく。

 

「確かに、君の言う事にも一理あるかもしれませんねぇ。」

 

「それじゃ。」

 

「片桐さん、島村さん。武内さんが逮捕された事件について僕たちで独自に調査してみましょう。」

 

 その言葉を聞いた瞬間、島村の顔に今日初めて笑顔が輝く。だが杉下はその気勢を制するように、人差し指を上に向ける。

 

「しかしながら、状況が状況ですのであなたが望む様な真実は得られないかもしれません。それでもよろしいですね?」

 

「はい。大丈夫です。だって、プロデューサーさんが無罪だって信じてますから。」

 

 最後に深々と頭を下げ、感謝の言葉を残してしま村と片桐は特命係室を後にした。

 そして残された杉下と冠城は、さっそく今後の捜査方針の話し合いに入る。

 

「さて、先ずはどこから手を伸ばしますか?」

 

「まずは情報収集です。幸い手近なところに重要な情報源がありますので、そこに行ってみましょう。」

 

「手近なところというと…あそこですか?」

 

「はい。行きましょう。」

 

 杉下は上着を着ると、冠城とともに部屋を出て行った。

 




残念ながら、シンデレラガールズのキャラクターの出番は今後はほとんどありません。
ま、まあ、この作品の原作は相棒だし、設定はできる限り合わせるつもりなんで勘弁してください。
今日中にあと二本上げます。

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