温泉開発部のモブとしてもな   作:てぐめん

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11. 過保護のカヨコさん

 戦車、生徒、戦車、生徒、ときどき車輪のついた大砲。

 

「うおお……」

 

 朝っぱらから威勢よく音を立てて街を行進していくゲヘナ生徒会の人たち。直接近くで見なければ感じられない、兵器ならではの迫力というものは確かにある。熱気や鉄臭さ、戦の気配とか大体その辺。

 これをお目当てにしているのか、いや単に暇で野次馬しに来たのか、どちらとも判別しがたい一般市民たちがパレードを見に集っていた。かく言う僕も耳を塞ぎながら物見遊山の真っ最中である。

 

 まあ男の子心をくすぐられる気持ちが無いと言ったら嘘になるが、通学時間を丸潰ししてまで見るもんではないかな。いや、でも、うーむ、もうちょっとだけ……。

 

「学校遅れるけどいいの?」

「ぴっ」

 

 あと5分、いや10分なんて思いながら身を乗り出して街道を往く軍隊を眺めていたら、後ろから声をかけられた。カヨコ先輩だった。ちょっと心臓止まった。

 

「あ、ありがとうございます……」

 

 先輩は「うん」とだけ言って背後に佇み続ける。これも随分と慣れてしまった光景である。

 

 上部組織の監視役を名乗るカヨコさんは、ある時から身を隠すことなく、様々な場面で助言をくれる頼れる先輩と化していた。それはもはや監視員ではなくお目付け役に近く、武力もこなせるメイドさんあるいは執事さんが身を守ってくれているような安心感があった。それでいいんだろうか。貴女は敵ではなかったのでしょうか。あまりに本人が自然体でいるものだから聞けずにいる。こうして今日も、カヨコ先輩が自然に雑談し出す。なんだかんだで有益な話が聞けるので僕も自然を装っている。

 

「すごいよね、アレ。 朝からやってて」

 

 先輩は行進を続けるゲヘナ生徒会を、つまらなそうに眺めながら言う。皮肉めいたニュアンスも感じられるが、彼女の所属している組織ではなかったか。

 

「そういうこと言っていいんですか……?」

「私が言ったところで気にしないよ。 直近は色々と忙しそうだし、尚更」

「はぁ……」

 

 何だか触れづらい雰囲気。単に目の前のパレードに対して言ってるだけにも思えるが、発言者が内部の人間となると色んな意味を帯びて感じられる。つまり触らぬ神に祟りなしであった。組織の話の方向に進むのは危ないと短いながら磨かれた第六感が訴えるので、似た範囲で別の話題にシフトしたいところ。

 

「みんな、あんまり興味なさそうですね」

 

 例えば、群衆についてとか。お祭り気分で神輿を観に来ては、一目収めて去っていく、そういうノリの人が一番多いようだった。僕みたいなうわぁ兵器すごいなぁな男児的興味人もないことないが、滞在時間均して5分行かない程度と思われる。こういうもんなんだろうか。キヴォトス歴が浅くて判断に困るな。ゲヘナ的無頓着なのか、銃社会故の自然なのか。そこんところどうなんでしょう?

 

「ウチで関心のある人の方が少ないから」

「まぁそうですよねぇ……なのに最近は頻繁にやってて、大変そうです」

「だから、あれ」

 

 先輩はパレードに随伴する小綺麗なドローンを指さして言う。

 

「対外的なアピールが大半、そう思っていいだろうね」

 

 記録すれば使い道もそれなりにある、彼女はそう言って、内部者故の明らかに確度の高い補足をしてくれるのであった。

 

 親切心……か……? なんだこれ、聞いていい情報なんだろうか本当に。僕の身が危うくなったりしないだろうか。僕は今、過去一で危機に対して敏感でいますからね。そういうの警戒しちゃいますよ。

 

「……あげられるものとか何もないですけど」

「別にいいよ。大した情報じゃない。知ってる人は知ってる、くらいのモノだから。 ……こういう話、興味あるんだ?」

「いや、んー、まぁ……」

 

 そりゃ聞いてはおきたいが……あまりに明け透けに喋ってくれるものだから、警戒心を表に出してしまった。威嚇する猫の如くややピリついた気分でいながら徐々に距離を取るが、なぜかカヨコ先輩の無表情に微笑み成分が足される。

 表情硬い系女子の感情読み取りはセナさんで大いに鍛えられているのでよく分かる、これは本心で和んでいる。なんか分からんが先輩の周囲にほっこりみたいな気配を感じる。好感を持たれること自体には悪い気はしないけど……理由がわからないので怖い。

 

「そうですね……気には、なります。 せめて何が大した情報じゃないかは分かるようになりたいです。 知らなさ過ぎるのは良くないって、実感が湧きつつありますんで」

「……うん」

「……当てつけてとかじゃなくてですね?」

「分かってる。 ああ、いいから、頭下げるとかもやめて」

 

 先輩が腹切って情報開示してくれてるのに申し訳ないと思って謝罪の意を表明しようとしたら止められる。こういうところがカヨコさんの善人たる所以というか、もうシンプルにいい先輩すぎるよ。なんで敵役のつもりでいるんだ、いっそ一緒に温泉開発しましょうよ。冗談を装って半ば本気で聞いてみたけど、これはキチンと断られた。残念。

 

「カヨコさんみたいな先輩がいたら、僕の情報戦ライフももっと豊かになりそうなのになぁ〜、残念だなぁ〜」とか未練がましく言いながら、二人で歩いて学園に向かう。外から見れば仲良しこよし、これで同部活どころか敵対関係なんだから現実ってヤツは奇妙極まっている。不思議だなぁ。

 

 そんな話をして数分くらい歩いた後、先輩が時間差で「丁度いいか」みたいなことを呟いたので、後ろを向けば顔が合う。すっかり夏だというのに、汗一つかいてない常時爆盛れのクールビューティー。

 

「付きっきりで教えるとか、そっちに入部は出来ないけど。 ゲヘナでのちょっとしたコツでよければ、いいよ」

「ほ、本当ですか? 正直めっちゃ助かります、ぜひお願いしたく……!」

「分かった。今日伝えられる範囲になっちゃうけど、よろしくね。 ……いや、出席日数気にしてるんだっけ。放課後の方がいい?」

「こっちが最優先です! 授業は何とでもなりますんで!」

 

 この機を逃してなるものか、勢い十割で先輩との約束を取り付けた。あちらは予定等を確認するためか、「ちょっとごめん」とスマホチェックタイムに突入したので、僕も今のうちに今日休みますの連絡を温泉開発部等に送っておく。こういうマメさが大切なのだ。メグ……ちゃんとか、今無断で休んだら飛んできかねない感じがある。セナさんもかなり怪しい。いつもお世話になっているからこそ、必要な情報共有はすべきである。僕は学んだので、十二分に心得ている。

 

 二人揃って道端によけて、数分くらい端末を弄ってさあ準備完了。いざ往かんゲヘナライフハックツアー!

 

 と、その前に。

 

「めっちゃ今更なんですが、色々と大丈夫でしょうか。 ほら、立場とか……」

 

 念のために聞く。

 カヨコ先輩は僕の質問を受けて無言で考える間があってから、こちらを見ずに、というか目線を逸らして淡々と答えてくれた。

 

「気にしなくていいよ」

 

 これ大丈夫じゃないやつだ……!

 

 

 

 

 

 

 せっかくなのでご厚情に甘え、見習いたいスキルを多く持ち合わせていそうな先輩について回る。一日限定、混沌の国ゲヘナ攻略の旅。とは言っても、彼女の言う通り、生活の知恵的な部分が中心ではあった。

 

 人通りが少なく快適な通学路、朝早くに移動することで不良たちが目覚める前に安全に出歩くこと、近ごろ学園周りに頻出するなんとかヘルメット団の勢力関係。長年学園に通う人にとっては当たり前の、弾薬消費を抑えるための王道かつ暗黙知な戦闘回避法。

 

 またかなり個人的なものとしては、先輩が息抜きで訪れる音楽ショップも。激しい音楽が好きらしく、第一印象の冷徹バリキャリとはちょっとギャップ。仕事に励むだけでなく適度に息抜きする方法も確立しているようで、そういう所も好感度が高い。名実ともにデキる先輩だ、見習っていきたい所存である。

 これで彼女がストレスの全てを発散できているかというと、それはちょっと別の話かもしれないが。上部組織かつ上役っぽい人の気苦労みたいなのは随所から感じ取れた。僕のできる範囲で、息抜きくらいはお手伝いできるといいんだけど。

 

 流れで音楽ショップの裏に行く。ただのお店の裏に何があるかと思えば、カヨコ先輩が野良猫と戯れ出した。小さな鞄のどこから出したのか猫じゃらしやら猫缶やら何やらがポンポン出てくる。彼女の周りにほんわか雰囲気が漂うのを感じつつ、本格的に仕事に疲れたキャリアウーマン仕草でもあった。若干僕も和む。

 

「これも息抜きですか?」

「……次行こ」

 

 極めて真剣な猫可愛がり中の彼女に現状確認をすれば、頬を染めて恥ずかしそうに立ち上がる。最後に子猫を一撫でして、踵を返し移動を始めた。いつかその辺の話も遠慮なくできるようになると嬉しいかもと思ったり。僕相手では難しくても、そういう人が現れるといいね、とも。暫定ゲヘナで一番の常識人かつ苦労人、いい思いも多めにしてもらいたいものである。

 

 主題は生活の知恵のようでもあったが、中には直接サポーター的立ち回りに使えそうな話もたくさんあった。

 

 手始めにカヨコ先輩が多用する武器ショップ。これも知る人ぞ知る系だが、確実に役立つ信頼できるお店の情報。利用する人もなんだかお堅い方々や歴戦の猛者が多いような気がしてくる。先輩が案内してくれたからそういう風に見えているだけ説もあるが。

 

「ドローンをよく使ってたね。だったらこの辺のは間違いない。 機動力もそれなりに、持久性があるから激戦下でも情報収集できる。 選択肢として、ステルス性能に長けたものも良い」

「おお〜! お、お? お〜……」

「……ちょっと値は張るけど」

 

 そこは予算と相談かな、ミレニアムも行ってみるといいかもしれない、等と、やや夢物語的な所に踏み込んだ理想のドローンたちを見物したりもした。いつの日か、部が大きくなったり資金が潤沢になったらぜひ考慮に入れたい所だが、そんな日は来るのだろうか。いや、直接役立てなくても手持ちのドローン運用やカスタマイズには使える知識だから、有益なことには間違いなかった。帰ったら早速試そう。

 

「後方支援が得意な子がいるから、紹介できたらよかったんだけど……しかも今一年で」

「そうなんですか! でしたらぜひお願いを──」

「でも風紀委員やってる子で」

「──するなんて厚かましいことは出来ませんね! よし、次行きましょう!!」

 

 僕が温泉開発部でなければあったかもしれない世界線に想いを馳せる等しつつ、お昼ご飯を食べに移動するのであった。

 

 

 

 

 

 

 和食屋、という感じ。

 百鬼夜行出身の店主が営む、値段がいつもよりは高くなるけど頼めなくもない範囲の価格帯の定食屋さん。日常の消費活動に関わる金額にぼんやり給料の違いのようなものを感じながら、素朴で味の良い焼鮭定食を堪能する。先輩を真似して頼んだので、二人とも同じメニュー。

 

 特筆すべきはその味わい深さ、ではなく、建物の構造にあった。

 大衆的な定食屋さんにしては個室が多く、壁の防音性能も高い。僕らはその個室風の席に座して食事しているわけだが、隣からは人の声らしき音が、しかし会話内容は把握できないレベルの自然な遮音をなされて聞こえてくる。機密過ぎないが聞かれたくはないレベルの情報交換にもってこいの場。そういう風にも機能しているらしかった。僕が知らないだけで、この手のお店は点在してるんだろうな。

 

「今日は何かを教えるというより……私の一日を辿っているだけに近くて」

「はい」

「使えるかは分からない。どうするかはそっち次第」

「ありがとうございます」

「お礼されるような事はしてないよ」

 

 こんな会話が、本当にたまに挟まるくらい。カヨコ先輩は食事中にはほとんど会話しないタイプのようであった。合わせて僕も口数を減らす。

 

 我が部のいつもの大家族的な食卓も楽しくていいし、こうやって食事に集中するのも悪くない。普段より味が鮮明に感じられる気がする。それに、言葉も少ないからこそ重みを感じられる側面だってあった。同じ学園の生徒と食事をしているだけなのに、文化圏の違いみたいなのがあって興味深く思う。

 

「忙しい中、お時間をいただきありがとうございます」

「いいよ。私から言い出したことだし」

「でもお礼くらいは。 特にご多忙なのは見てるだけでも分かりますから」

「直近は暇してるよ」

「そうなんですか?」

「今、反抗期なの」

 

 ……深入りすると、怖い話題な気がする。ジョークと言うかユーモアって感じで先輩の雰囲気に合ってはいる。でも表情もいつものすまし顔だし意図が分かんないんだよなぁ。

 

「私も情報屋って柄でもないから、話半分で聞いてほしいんだけど。 ネットワークみたいなものを意識するといいかも」

「と、言いますと」

「情報がどこからやってくるのか。どこに集中して集まっているのか。 網目の太さ、つまり信頼度や頻度の高さとか、集まった後の行先も大切かもしれない。 そうやって、全体をネットワークとして捉えて俯瞰すると、整理がしやすくなる」

 

「あくまで私は、だけどね」と留保をつけて、白米を口へと運ぶカヨコ先輩。

 

「ははぁ、プロですねぇ……すると、集中する交点の人や場所を把握するのが特に重要になるんでしょうか」

「そうだね。それが人なら、所謂キーパーソンになる。 ……温泉開発部の塩谷ユキも、そういう扱いだった」

「えっ」

 

 急にこちらに矢が飛んできておもくそビビる。何、怖い話が始まろうとしてる?

 

「でも、少し前までの話。健康ランドの一件からはそんなでもないよ。 だから、あんまり警戒しなくてもいいから」

「そ、そうですか……ならよかったんですが」

 

 ここから本格的な取り調べとか始まったらどうしようかと思った。むしろ安心して暮らせる材料が、信頼できる人から与えられるありがたい話だった。しかし、同時に思うこともあって。

 

「……だったら一層疑問なんですが、現在の僕にはそちらにとっての価値はあまりないのでは……?」

「そうかもしれない」

「では先輩はどうしてこんな」

 

 答えは無言と、微笑みだった。

 

 怖いよ。以降は答えられないってことなんだろうけどそこが一番聞きたかったな。色々してもらって更に強欲になれるほどの図太さはないから、僕も黙って話を終わるしかないが。

 

 それほど量の多くない淡白な食事を済ませた後。お互いに落ち着いたタイミングで、もう一回だけ会話が起きる。

 

「まだ慣れないことも多いかもしれないけど、仕方ない。 外部生は苦労するでしょ」

「へ? え、そうですね……?」

「他校みたいなサポートがあればいいのにね。 まぁ、ウチの学園にそれを期待するのは難しいか」

 

 様々を考慮しても妙に優しいなとは思ったけど、話を聞いている内に、外部生への配慮が一つ軸になってることも分かった。僕こと塩谷ユキは外部生だから、地域に馴染むことに苦労するだろう、だからサポートはあって然るべき、という親切心だったらしいのだ。

 

 へぇ〜、僕って外部生なんだ。実に適当なキヴォトス生活を送っているものだから書類の裏取りとかしてなくて知らずにいたが、カヨコ先輩経由でついに発覚した。この辺の話をしている時はあまりに他人事な振る舞いに流石に怪しまれたので、なんかいい感じに笑って誤魔化しておいた。正確には笑おうとして微妙な空気になったのだが、これはどうか許してほしい。セナさんの言う笑うの下手もそのうち直せるように心掛けるので、何卒……。

 

 

 

 

 

 

 すっかりカラスもカァカァ鳴く頃、風紀委員のパトロールが薄いとされる川沿い付近を二人で歩いてぶらぶらする。一通り見せてもらって、あとは解散するだけだった。通るのは生徒か自転車が少し、平和で閑散とした穏やかな風景。

 彼女が案内してくれるゲヘナには暴れる不良も、爆発もあんまり見られなくて、同じ土地を出歩いているとは思えない。これが知っていることの価値なのかもしれなかった。

 

 川に架かる橋の上を大きな列車が走っていく。貨物にも見えるし、厳つい兵器の一部とも取れる。「あれは?」と聞けば、カヨコ先輩は「列車砲かな」と言う。問えば何かしらの詳しい情報が返ってくるのが頼りになる、流石エリートエージェントだ。実際何をやってるかは聞いてなくて、勝手にそう思ってるだけではあるが。

 

 

「今日は一日ありがとうございました。どれも生活の助けになりそうです」

「うん」

「いや全く、世界が違って見えますね」

 

 先輩は「大げさだね」と言ってから、小さく笑う。案外色んな表情を見せてくれるんだな、というのも発見の一つだった。

 

「僕って常識がないので、とっても助かっちゃいます」

「卑下しないの。 ゆっくり覚えていけばいいんだから」

「ですかねぇ」

「焦らないこと」

 

 余裕の体現者みたいな人だから説得力がすごい。分からない事も足りない事も多くて、急ぎ足になっていたのも確かである。急がば回れ、なんだろうな。佳境こそあえて腰を据える胆力が今後の課題かもしれない。

 

 あと、そうだ。忘れない内に言っておかないと。

 

「これでチャラですね」

「……なに?」

「チャラ、おあいこ、言いっこなし、大体そんな感じです。 今日は十分すぎるほどに色々教えてもらったじゃないですか。 ──だから、負い目に感じなくてもいいんです」

 

 本物の諜報員らしき人から話を聞きたかったのは間違いない。しかしそれ以上に、あんまりよくないファーストコンタクトの清算をしてしまおうという目論見があった。 

 

 先輩は明らかに、立場を超越して僕に配慮しすぎている。様々な思惑があるのだろうけど、自己犠牲とも取れるほど僕に時間を割いてくれるのは、むずがゆいというか、居心地の悪さがあった。だからあえて言ってしまう、「気にしないで下さい」と。素直に受け取ってくれないだろうと分かっていても、これは僕の側から言わないといけない事だな、と思っていた。それでようやく均衡が取れるのだから。

 

 半ば予想通り、先輩は「難しいな」と小さく呟く。

 

「誰が悪いかの話をすれば、僕は自分が、とは思っているんですが。 立場によって見え方が変わる部分もありますし、実際の所、全員ちょっとずつ悪いというのが落としどころじゃないでしょうか。 現状僕は何とかなってます。それでいいんじゃないかと思います。 少なくとも、先輩が負い目に思うことはないんですよ」

「そうなのかな」

「はい。 僕はこの通りですので! なのでこれで全部解決です」

「……大人みたいなこと言うんだね」

「こんなチビ捕まえて何言ってるんですか。 ひどいなぁ先輩は」

 

 カヨコ先輩の歩みが遅くなっていく。すぐに消化できる話じゃないのも分かってる。だから、時間をかけて、自然なバランスに落ち着けたら、皆のためになるんじゃないかなぁなんて思うのだ。

 

 会話はここで途切れてしまった。彼女にはもちろん、僕にも考える時間が必要だった。だからこれは、必要な沈黙だった。

 

 先輩が後ろを歩き、僕が少しだけ前を行く。朝と同じ、監視の距離感。歩行者や自転車が僕らを追い抜く。

 

 遠くで列車が走っていく。二人ともなんとなく意識がそっちに向く。過ぎ去るのを待ってから、振り返って話しかける。

 

「最終的に、普通の先輩後輩くらいに落ち着けたら嬉しいです。 一応敵同士らしいですけど」

「……そうだね」

 

 ここで解散するのが良いだろう。あまり気持ちよくは終われなかったけど、好転のきっかけになると信じたい。これでよかったかはあまり分からない。ただ、曖昧に受け身でいるよりはいいんじゃないかと思った。

 

 後ろからチリンチリンとベルの音。通行人の邪魔にならないように、できるだけ隅に寄った。

 

 背後から自転車が通過して、僕らを抜き去っていくかと思えば、キキッと音を立てて止まる。

 

 そして乗っていた人もキキッと笑う。知り合いだろうか、しかし見覚えのない長身だ。あんな妙な笑い方をする知人がいれば忘れるわけがない。

 

 だとすれば、この人は……?

 

 困惑する僕の背後、カヨコ先輩が疲れたような溜息を吐いて、あちらに話しかけるのであった。

 

「何やってるの。仕事はどうしたの……マコト」




情報部編みたいな感じになりそうです。今のゲヘナ有能組はここに集っていた、そういう体でやっていきます。

感想返せておりませんがどれも感謝の思いで拝見させてもらってます、いつもありがとうございます。今後とも何卒よろしくお願いいたします。
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