温泉開発部のモブとしてもな   作:てぐめん

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6. 突撃!隣の健康ランド

 メグさんのコネ入部みたいな感じで所属した温泉開発部。パワー不足、度胸不足、知識は相対的に部長以外よりマシの僕こと塩谷ユキは、収まるべくして後方支援的なポジションに落ち着いた。

 こういうのって現場経験があるとなお良いんだろうが、我らが温泉開発部は典型的な中小部活、すべてがぶっつけ本番である。部長は当然のように言う、「やりながら覚えてって!」と。

 

 

 

 まず、道具などの管理。

 

 お試しに一年生の分、と言っても僕、メグさん、あともう一人の子を合わせて三人程度の、開発資源の管理を担当する。かろうじて残っている先人らのデータを参考に、部長にも見てもらいつつ、継続的な開発が可能な程度に毎回のリソースを割り当てる。

 

 僕以外の他二人が大変豪快な爆薬の使い方をするので、お目付け役も兼ねているようだ。派手に発破したい気持ちは分かりますが、今回ちょこーっと控えると次はここも開発できますよ、あそこの源泉は美肌効果もあってお得ですよ、だから取っときましょう。こんなことを毎回言ってる気がする。

 

 色んな文句を試したが、美容系の単語が一番効果があった。結局のところ女子高生なのだ、身だしなみに興味のない生徒はほぼいない。たとえそれが、毎日のように街を爆破して回る温泉テロリストだったとしてもだ。

 

 開発担当への差し入れもする。

 

 さあ現場仕事を始めようという時、撤去も力仕事も向いてないとなると、本当にやることがない。中途半端に手伝うと同期二人が気を遣ってかえって効率が下がると気付いてから、割り切ってサポートに徹底することにした。

 

 タオルの使用状況を見て、一息ついたタイミングで交換用を差し出す。ちょっとした怪我に対して消毒や絆創膏でケアする。そろそろ喉が渇く頃だから各々の好きな飲み物、ついでにおやつなどを渡すなど。

 

 まさしく運動部のマネージャーといった様相であった。付き合いは短いが、こうも毎日一緒に開発を続けていれば、二人のことは分かってくる。同期ちゃんはスポーツ飲料よりぶどうジュースの方が喜ぶし、メグさんはゴリゴリくんが何より大好きだ。水分補給になっているかと言うとかなり疑問だが、彼女らを常識の尺度で測ってはならない。水分より気分が大事。“なんかアガる”以上に大切な事はない。僕は学んだ。

 

 現場中は、周囲の警戒も重要である。

 

 つまり、風紀委員に見つからないこと、そして捕まらないこと。

 実はここが一番貢献しているような気がしていて、僕ら1年生組だけ圧倒的に牢屋にブチ込まれた回数が少ない。というか、僕は一回も入ったことがない。

 あらかじめ言っておくが、これは自慢ではない。本当に嫌だから必死で逃げ回っている。

 

 頻繁に捕まってはその日の内に帰ってくる先輩を見た感じでは気にしすぎなのかもしれないけれど、嫌なものは嫌なのだ。僕はまだ前科持ちになりたくない。だから逃走経路はいつも複数個確保するし、倉庫で埃を被っていたドローンを使って、接近情報が分かるようにしていた。

 

 といっても、我が部のドローンは性能が酷い、もとい微妙なので、無いよりマシ程度だが。先輩らは捕まり慣れているから、「そこまでしなくてもいいのに〜」とか言いながら頻繁にうざ絡みしてくる。上級生特有のデカいガタイ、あと柔らかい何らかと何らかに揉みくちゃにされて意志が揺らぐ時は多々あれども、僕は決して挫けない。部内で誰よりも清廉潔白な温泉開発者になってみせる。目指すはゲヘナの秩序担当、影の風紀委員。

 

 影の風紀委員、いい言葉だ。

 僕の指針を端的に言い表している。

 

 ちょっと、どうかと思うのだ。前日お世話になった武器ショップに対し翌日平気で爆破テロかますのは。倫理はどうなっとるんだ倫理は、と問えば決まって彼女らは言う。「でも温泉があった方が嬉しくない?」

 

 仮にそうだとしても、所構わずテロしていいと飛躍するのはおかしい。流石の僕も看過するのが難しかった。道徳心が許さなかった、というより、街や学園を歩いている際にゲヘナの常識人サイドに目線で責められるのに耐えきれなくなったと言う方が正確だった。前まで僕もそちら側だったはずなのに、気が付けばこんな所まで来てしまった。どうしてこんなことに。

 

 ああ、そうだ。結局僕は平凡だったのだ。黒に染まりきれなかった軟弱さを笑うがいい。しかし、それがなんだと言うのだろう。明日の生活の方が大切に決まっている。せめて学園で生活する時くらいは、もうちょっと前向きな気持ちで歩きたい。

 

 やっぱりね、テロはやめた方がいいと思う。少なくとも連日連夜、所構わず襲撃するのは。

 

 しかし自称ゲヘナの秩序派の僕こと塩谷ユキ、言うまでもなく、たった一人で出来ることなど限られている。だから手始めに、せめて僕ら一年組だけは治安を守れるように、何かと理由をつけて被害が出ない、あるいは出づらい開発ポイントに誘導している。

 ゴリゴリくんか美容で同期たちは釣れると分かればなんとかなるもんだ。彼女たちには自覚がないだろうが、結果的に前より治安を守れているはずである。

 

 それに、風紀委員との戦闘も起きないルート取りを徹底している。

 戦いのコツはいかに戦わずして済ますか、これをモットーにして、そもそも争わない平和な開発ポイントを、そうでなければ、接敵する前に即時逃走へ舵を切ることをためらわない。どれだけ開発途中だったとしても、あえて接敵回避を優先した。

 

 あっちの人たちも、僕らの代は一味違う、秩序を守ろうとする平穏温和な一派なんだと認識してもらえたら嬉しい。いつの日か、友好的な関係を結ぶ時だって来るかもしれない。今年中に進展が見られたら最高だが、流石に夢を見過ぎだろうか。

 

 何にせよ。

 それも全て、僕ら一年の立ち居振る舞いにかかっているに違いない。僕はそう確信している。であればこそ、毎日の頭脳労働にも力が入るというものだった。

 

 ──さあて、今日も働くぞ。

 

 

 

 

 

 

「風紀委員の奴ら言ってたよ、全然捕まらない一年が居るって。今年の最もアウトローな一年は温泉開発部にいるぞ、ってね!」

 

 おかしいね、和解がどんどん遠ざかっていくよ。

「ユキちゃんすごいねぇ~!」と部長、そして便乗したメグさんにわしわし頭を撫でくり回されながら、遠い目をする。世の中というものは、こんなはずじゃなかったことばかりだね。悟りを開いた僕の口調は、自然とお嬢様学園生徒会の有名人のような形に収束していった。

 

 努力が実らないのは構わないが、真逆に咲くのは、さ。

 効くぜ……。

 

 ちょっと今日はやる気がなくなっちゃったなあ、お暇したいなあと思う僕はタッパのあるメグさん部長コンビに連行され、グレイみたいになりながら街の銭湯へと引っ張られていった。いいですよ、普通に歩きますって、途中で抵抗するもご存知貧弱な細腕にできることは何もなし、この状態は目的地まで解消されることはなかった。

 

 僕はこの人たちの妹じゃない。言うまでもなく、子供でもない。なので店員さん、普通に高校生料金払いますよ。

 そうなんだねぇ、とのんきに微笑みかますロボット店員に学生証を見せつけて、規定通りの値段を払って銭湯店内へと入場した。

 

 

 

「は~……ひっろいですね。施設も出来たばっかりみたいで」

「そうとも。だから下見する価値があるってもんでね」

 

 この度の銭湯下見先遣隊は、僕の体験会と同じ面子と相成った。すなわち僕、メグさん、部長のトリオ。シフトの都合もあるし、部長のなんらかの思惑もあるのだろう。先輩の数は増えれば増えるほど猫かわいがりしてくる可能性が高まるだけなので、この選出はありがたい。あの人たちは僕のことをペットかなんかと勘違いしている節がある。

 

 とはいえ、やる事と言えば学校帰りに銭湯に寄って美味しいご飯を食べるだけ。敵地視察と言うと物々しいが、今日は気楽に遊びに来たとでも思うのがよさそうだった。

 

「また随分と賑わってますね」

「オープンしたばっかみたいだからねぇ。しかも口コミで評判も上々と来た。色々と期待したい所だね」

 

 銭湯というか、大き目の健康ランドと言った方が近い。入口を抜ければ広めのロビー的空間があって、そこを介してマッサージチェアが並んでいる部屋、お食事処、漫画や雑誌が並んでいるゾーンへと繋がっている。そんでどこもかしこも規模感が大きい。

 時間が許せば、食後は適当な漫画でも持ってあの辺でくつろぎたい。今日はとことん、自分をねぎらってやると決めたのだ。開発はお休み、お湯にお食事、最強リラックス空間が僕らを待っているのだから。

 

「二人とも~! はやく~!」

「部長、メグさんがあんなとこに」

「おっと、急ごうか! この辺は上がってからも見れるからね。また後でじっくり見よう!」

 

 自動温泉探査機もといメグさんは、きょろきょろとあたりを見て回る僕たちを置いて、最短ルートで温泉入口の暖簾の前まで到達していた。置いてかれないように、賑やかな施設内を足早にとてとて移動する。

 

 一日も終わろうと夜へ差し掛かっている頃、みんな気が緩んでいるし、メグさんのちょっとした大きな声を気にする人は誰もいない。この大らかさは非常に居心地がいいものであった。気持ち朗らかですらあって、いつもこうであると、ゲヘナ自治区も過ごしやすいのになぁ。叶わぬ願いとは分かってはいるけれど。

 

 しかし、ただ身長が低いだけの僕、はしゃいで駆け回るメグさん、どちらが子供か、という話になってくると思いませんか。ねぇ部長? 

 え、大差ない? アタシから見たらどっちも可愛い後輩だって?

 

 またまたお上手ですねぇ部長は。本当に差がないと思うなら、そのにまにま顔と僕の頭を撫で倒す手を何とかしたらどうですか。髪ボッサボサになるんですからそれ。

 

 

 

「ふぁぁ~~~……」

 

 諸々を爆速で洗って、僕たちはそろって数ある湯の一つに入った。 

 

 もう、最高。日頃の疲れが全部吹き飛ぶ。学校帰りに銭湯に寄るというスペシャル感が、これまた体験を一段階向上させているようにも思う。自分らで掘った温泉ともまた違う、公に認められた施設ならではの安心感。温泉ってやっぱこれなんですよね。いつ風紀委員が来るかとビクビクしてるのってなんか違うなぁって思ってたんだよ。

 

 同じようにふやけた部長は「は〜、いい湯だねぇ……」と気の抜けた声、対照的にメグさんが元気の有り余った様子で「しかもすっごいピカピカだよ!」と続く。あたりを興味津々に見回して、いつもに増して楽しそうなご様子。

 

 やはり、新設なのが一番大きい。何から何まで新品の輝きを放っている。公衆施設にありがちな絶妙な衛生状態は見受けられず、手入れが行き届いており、安心してお湯に浸かることができた。

 

 しかし一応は敵地視察、ただ一つの湯に寛いでいる訳にはいかない。スタンダードな大きな湯を気持ち短めで味わった後は、隣のジャグジー付きに。それから、白色不透明の絹的な湯に。次いで露天風呂、桶の風呂、体力の余っているメグさんと部長は炭酸湯にサウナと、体験できる全ての温泉を巡っていった。もちろん、ウォータークーラーでの水分補給は忘れずに。

 

 いくら温泉が癒しをもたらすとは言え、こうも多種類を一気に味わうと疲れが上回る。僕は途中からのぼせて、外の長椅子で休まざるを得なかった。しかし結局は長風呂後の疲労感、大した負担ではなく、むしろ心地よい類のものであった。

 夏に入りきらない時期の夜風が、さあっと吹いて体を冷やす。なんだか、小旅行に来た気分だ。あながち間違いでもない気がする。たまの贅沢は心身を潤すから、大変良いもんですね。

 

「ごめんごめん、遅くなっちゃったね」

「ユキちゃんおまたせ〜!」

「ああ、二人とも……お疲れ様です……。どうでした、ここの温泉……?」

 

 戻ってきた二人は声を揃えて「良かったよ〜!」と満足気に言った。

 

「温泉がいっぱいあるのがすごいよねっ! 私たちが掘るのって一個でも精一杯だから、色んなのに入れて楽しかったな〜!」

「学園周りじゃ一番多いくらいだったかもねぇ。 メグはどれが気になった?」

「最初のお〜〜っきな温泉かな!部活のみんなと入ってもまだまだ余裕そうなのがすごくって! あと、お肌に良い湯!」

「ああ、絹の湯。 アタシも大体同じかな〜、美肌効果ってのはどこもありがたいねぇ」

 

 プロの温泉開発者達がTier決めに興じている横で、夜空を見てぼけ〜っとしていたら、「ユキちゃんは?」と部長が振ってきた。やべ、なんも考えてなかった。曲がりなりにも部員をやっているので、何か気の利いたことを言いたいもんだが、咄嗟に問われると非常に厳しいのが現状。とりあえず、被りだけでも避けてみるか……?

 

「ジャ、ジャグジーとかですかね。疲れが取れる気がして」

 

 答えた直後に安易さに後悔、いや便乗した方がよかった〜!と笑顔の裏側で反省会をやっていた、のだけども。

 

「ははぁ、また渋いところを! ユキちゃんは目の付け所が違うねぇ!」

 

 もはや僕が何を言っても持ち上げるのではないかという勢いで囃し立てる部長。そして「さすがユキちゃん!」とノリと雰囲気で乗っかってくるメグさん。

 

 ふぅ、あのね。あんまりそういうことはするもんじゃないよ。僕ってやつは褒められたら簡単につけあがるんだから。この中じゃ一番付き合いが長いからね、よく分かってるんだよそういうのは。

 

 何、まだ褒めてくれるの? あ、そう。 ゲヘナで一番可愛い賢い。そんなことないと思うけどね。

 

 あぁ~~~いい気持ち。

 

 有言実行、確かに褒められて際限なくつけ上がり続ける僕を見て、なんだかコイツ元気そうだな、と把握したらしい部長。満を持してといった様子で、出口の方を向いて言った。

 

「じゃ、お目当ての食堂と行こうか!」

 

 

 

 

 

 

 目の前に並ぶ料理の品々。

 食堂の料理は学生でも頑張れば手の届く範囲で色んなものが選べるわりかし良心的な価格設定で、僕らでも旅館の夕食めいた贅沢定食を頼むことができた。

 

 ほかほかと湯気をあげる炊き立てご飯はおかわりし放題、茶碗蒸しはオデュッセイア海洋高等学校のなんか多分だしがすごいやつ、当然のように小皿もたくさん、そして目玉のすっぽん料理。

 リーズナブル故多少小さい器ではあるけど、中は具材がぎゅうぎゅうになった、食べ応えのありそうな鍋料理! 瑞々しい緑の野菜たち、彩にニンジン、豆腐やきのこ類に囲まれて、でっぷり肥えたすっぽんのお肉がそこにはあった。なんでも温泉由来の良質な環境で育ったすっぽんは、成長も早く肉付きがいいんだとか。

 

 僕たちにここまで取り入って、一体どうするつもりだい? そう聞かずにはいられない、華やか極まった夕食であった。

 

「これ、タダで食べちゃっていいんですか……?」

「もちろん。 そのための部費だからね」

 

 もったいぶって妙に深く頷く部長に、やったあ!!!と大はしゃぎする僕とメグさん。この時だけは間違いなく、部長という名のお父さんの太っ腹に大喜びする子供が二人の構図であった。いいだろう、ガキ扱いで構わない、これが食べられるというのなら──。

 皆でいただきますとやってから、前のめりで食事に向かって猪突猛進、さあ、噂の味とはいかに。

 

「うっっっっま……ッ!」

 

 僕、舌がバカだから分かんないけどよ、臭みがなくてぷりぷりのすっぽん肉がこんなに一杯食べられるのって幸せなことなんじゃないか? そして、これもまた肌にいいらしいのだ。僕はともかく、二人も非常に喜んでいるようなので、これ以上に良いことはないと思う。

 

 何かを食べる度に「ん~~~~!」と手足をバタバタさせる勢いで、しかし一周回ってお行儀よく声だけで喜ぶメグさんに、うんうんと料理を見て、僕らを見て、ニコニコしながら定食を堪能する部長。目を瞑って良く味わっている時もあり、年長者の落ち着いた余裕みたいなものが感じられた。

 

 理想を言えば、僕も常に部長のように佇んでいたい。なんとなく1年組をまとめている感じになっているし、その方が司令塔っぽくてかっこいい。でもね、いいの。今日は大はしゃぎデーなんだから。わんぱく子供みたいにはしゃいでわあきゃあ言いながら食べるのが一番楽しいのだ。

 

 羽目を外してごはんおかわり、またおかわり、今って腹何分目だっけ、食べ過ぎて途中からじっと減らないお茶碗を眺めていたり、代わりにメグさんが食べてくれたり、その後もまだまだいっぱい食べ続ける二人を見てすご……と思ったり。修学旅行もかくやと言った賑わいで、料理を堪能したのであった。

 

 

 

 食後のお茶をすすり、ふうと一息。

 

 部長はそろそろ食べ終わりそう、メグさんはもう一杯だけ!を何回もやっておかわりがまだ止まらず。そんな感じで各々のペースがあるので、先に飲み物をいただいて待っていることにした。

 

 なんとなしに辺りを見てみる。広い和風っぽい食堂の大盛況も、ちょっと落ち着きつつあった。

僕らと同じく浴衣を着たゲヘナ生っぽい人たちが一番多い気がしている。角と尻尾を付けてる人が多いし。

 

 相変わらずみんな美人さんですね。いやお世辞とかじゃなく、キヴォトスってみんなそうだから。もはや美人という言葉は機能しないのでは説もあるが、意外とそんなこともなく、可愛い美人、賢そうな美人、蠱惑的な美人、犬系美人に猫系美人と、美人が細分化されていくだけだった。そんで、この銭湯にはクールな美人が多いような。風呂上りでしっとり落ち着いてるからそう見えるだけなのかしらん。

 

 あっちには、つんとお澄まし顔がよく似合う、白髪メイン黒髪混じりのポニテ女生徒。僕らより後から一人で来たようで、そこまでいっぱい食べるわけでもなく、常識的な量を平らげては、先にお茶タイムを味わっていた。

 ソロの銭湯、一匹狼スタイル。もうその姿がクールの体現者と言った感じ。目付きが鋭いのは、図書館で睨まれた彼女を連想させてちょっと近づきがたい感じがあるけど。きっと上級生なんだろうな。部長と似たような、経験豊富から来る落ち着きみたいなのを感じる。

 

 一方では、あー、なんか見ないうちに高く積まれた空の食器しか見えなくなっちゃってる卓があるが、あそこにも上品な雰囲気の金髪美人さんがいたのだ。しかも、なんというか、僕に似ている。

 違う、自画自賛じゃない。本当に、身体的特徴の観点から共通項が多い、と言う意味で似ていたのだ。角もあり、色味の似ている金髪で、尻尾はなさそうだけれど、生き別れの姉がいたらあんなんだろうなという。顔のパーツの感じも似てて。あっちの方が垂れ目だが、それが一層姉らしさを感じさせる。僕はあんな大喰らいでもないし、色々デカくもないけれど。

 

「ユキちゃんってお姉さんいるんだっけ?」

 

 僕の目線を追ったのだろう、同じようなこと思ったらしい部長が聞いてきた。

 

「いない……はずです。 塩谷って苗字は僕しかいない……はずです。 そうですよね?」

「いや知らんけど……」

 

 まあユキちゃんが言うならそうなんだろう、深入りせずにさらっと受け流した部長は、僕と同じくお茶飲み一息フェーズに突入していた。メグさんは、まだ食べてる。好きなようにさせてあげよう。いつもお世話になっているからね。

 

「今日はありがとうございます、こんな贅沢させてもらって」

「あぁ、いーのいーの。 今の内にたくさん経験するのがいいんだから、ユキちゃんたちは大人しくアタシらに甘やかされてなって!」

「そうさせてもらいます。 しかし、すごいですね。これも部費から出ちゃうなんて」

「いつもこうって訳じゃないんだけどねぇ。 なんだか最近は、学園の羽振りが良くってさ」

 

 へぇ、そうなんだ。あ、だから温泉開発部みたいな、腕白元気な部活らがより活発化してるんだ。道理でね。街が騒がしいと思った。なんだか春より爆発してるなぁという直感は勘違いではなかったらしい。

 しかしテロリストたちにお金を与えて、学園の上の人達はどうするつもりなんだろう。悪い治安をもっと極めでもするのだろうか。というか、そのお金はどこから? ここから先は深淵すぎるので、覗き込むのをやめた。

 

「ふぅ、お腹いっぱ~い……」

「お、メグも落ち着いたみたいだね」

「うん、ごちそうさま~! 私お茶はいいから、移動するならしちゃってもいいよ!」

 

 えぇすごい復帰能力。やっぱり毎日温泉を開発していると代謝も違うのかな。僕もちょっとくらい参加できるように心がけようかしら。頭脳労働も体あってこそだからなぁ。

 まだまだゆっくりしたい僕を見抜き、部長の一言でもうしばらくはここに居ることになった。しかしメグさんもそわそわし出したので、ちょっと経ったら移動したほうがいいかもしれない。残ったお茶を飲み切って、いつでも立ち上がれるようにした。

 

「よし、じゃあ二人とも!」

 

 頃合いを見て部長が言う。今日は十二分に堪能した、ごちそうさまでした。夜も深まってきたことだし、最強リラックスコーナーはまた今度挑戦しよう。今日はありがとうございました、部長。

 

 ……。

 

 

 

 二人とも、何?

 

 その言葉の先には何が続こうとしている?

 

 あちょちょ待って嫌な予感。ウソだろ、そんな訳ないだろ、だって、こんなにも味わい尽くして、不満がどこにもあるわけなくって、そんで二人ともこんなに笑顔なんだ、続く言葉が爆破予告な訳ない、そうだよね、ねっ部長ねっ? 撤去なんかしないよねっ!

 

 ねっ、ほらせーのっ!

 

「──ここは撤去しようか!」

 

 爽やかに言い放つ部長。

 

 笑顔で「うん!」と同調するメグさん。 

 

 なんだこれは。あり得ない。 僕は絶句した。

 

 

 

「それは聞き捨てなりませんねぇ」

 

 ほんで背後のあんたは誰!? えっ、さっきの金髪ドカ食い美人!?

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