温泉開発部のモブとしてもな   作:てぐめん

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7. 強襲!美食家テロリスト!

「ユキちゃん、こっちに!」

「ひぃぃ~~っ!」

 

 部長の居る方にメグさんと一緒に転がり込む。

 そしてほぼ同時に金髪ドカ食い美人が、直前まで居たテーブルの方に榴弾を撃ち込んできた。

 

「熱いうちに召し上がれ~!」

 

 着弾、爆発。テーブルとその周辺がドカンと吹き飛んだ。爆風で湯上りの髪がぼさぼさのバッサバサになる、せっかく温泉に入ったのに、なんてのんきな事を言ってる余裕は今はなく、この場を乗り切らなければならない。衝撃波を受けて反射的に目を細めながら、和やかな食堂をあっという間に紛争現場へと変化させた元凶の方を見る。

 

 湯上り姿、僕らと同じ浴衣を着たゲヘナ生と思わしき金髪の女生徒。

 

 容貌に生き別れの姉感があるなあと勝手に親近感を抱いていた彼女は、何がきっかけか分からないが僕らを襲い、食堂に混沌をもたらした。

 多分、部長のテロ予告を聞いたからなんだろう。聞き捨てならんとかうんちゃら言っていたし。であれば、彼女は銭湯を防衛する側なのか。彼女が正義で僕らは悪ということなのか。

 

 しかし正義対悪、という単純な二項対立で語るにしては、混沌とした紛争状況である。近くで起きた爆発そして戦闘に刺激されたらしく、その辺にいるゲヘナの住民たちも何かと理由をつけては争い始め、背後や周辺でもそれアンタら今じゃなくていいでしょという銃撃戦が勃発していた。

 

 部長が先に築いていた横倒れテーブルによるバリケードに身を隠し、射線を切ってはいるけれど。そんな状況だから、四方八方から銃弾が飛んでくる。ああまた頬を掠めていった。怖すぎる、早くここから逃げ出したい。

 

 部長が「風紀委員は?」と聞いてきたのでスマホでドローンの中継映像を見る。映っているのは平常通りの街の人々、その中に戦闘を好まない少数の穏健派的な人たちが逃げていく様子、つまり、いつも通りのゲヘナ自治区。

 

「まだ来てないかと……」

「よし、じゃあ大丈夫だ。 あの娘を片付けてこの銭湯も片付けよう!」

 

 コワ〜ッ。平然と何を言ってるんだ? メグさんも「りょ〜かい!」じゃないよ。なんで最初から絶滅戦争の様相を呈してるんだ。折衷案も考えましょうよ、戦わずに済むに越したことないよ。というかなんで撤去する??

 

「こ、ここ、いい温泉でしたよね……?」

 

 半ば乱戦めいた戦場にビビりながら震え声で部長に聞けば、「まあ湯加減は良かったが」と言う。そうだよね?順風満帆、不平不満文句なしって感じで満喫してましたよね僕ら?なのに一体どうして。

 

「絹の湯、あれは駄目だ。 ()()()()は許せないね!」

 

 偽装。

 あの部長たちの気に入ってた白い湯が?

 

 部長らは言う、あれは自然に湧出する白色系の湯とは違う、入浴剤を利用した肌触りだったのだと。いや証拠不十分!と思ったけど後から成分を調べて、それが天然水でなく水道水がベースとなっていることを含有要素から確認したとかなんとか。ツッコミどころがあまりにも多い、僕は全く気づかなかった。だが偽装の察知も成分分析による裏取りも、部長たちならやりかねない。謎の信頼が確かにある。

 

「嘘はダメだよねっ!」

 

 メグさんも珍しく眉を吊り上げて怒りを表明していた。嘘はダメ、それはそうかも……。じゃあ正論か。いや本当か?罪と罰、色んなものが釣り合っていないのではないか、僕は疑った。

 

 しかし偽装ね……。

 温泉に青春を賭けてきた彼女たちが言うからには間違いないのだろう。そんな彼女たちの核を成す温泉に偽りがある。これは、困った。簡単に言いくるめて矛を収めてもらえるビジョンが見えない。今回に関して美肌うんぬんという黄金文句もそもそも部長相手に口先で勝てるか自体が怪しい。けれども戦に参加するのはちょっと。

 では、穏健派の僕としてはどうするのが正解か。どうすれば、この場は丸く収まるか。

 

「ユキちゃんもそう思うでしょっ!」

「ハイ!」

「二人ならそう言ってくれると思ってたよ! じゃあ、まずはあの金髪娘から何とかしないとね!」

 

 迎合した。

 無理だ。和平の未来は存在しなさそうな雰囲気だった。だから彼女たちには思う存分暴れてもらってスッキリしてもらう他にない。今のところはこれ以外どうしようもない。

 

 いつかキヴォトスに生まれ落ちるかもしれない後輩たちに1つアドバイス。適応のコツは、諦めること。信念に基づいて突き進む彼女たちを止めるのは無理なので、潔くよく開き直りましょう。僕はこうして生き延びました。長いものには巻かれてみると痛い思いをしなくて済みます。

 

「もしもアタシに何かあったらユキちゃん、あとはよろしくね……!」

「ハイ! えっ?」

 

 起爆のできる予備スイッチ的なものを預かり……えっえっ何これ何その死亡フラグ。やめましょうよ縁起でもない、そういうこと言ってると本当に妙な状況を招きますよ。やめてその親指立てるやつ。グーじゃないよ僕に任されても銭湯撤去なんてできないよ。

 

 いや、ちょっと、部長。なんだか不必要に勇足じゃないですか?

 いくら数的有利を取れているからって、あんまりバリケードから身を乗り出すと流れ弾が──。

 

「ぎゃん!」

「部長!?」

 

 言わんこっちゃない!!

 

 すごい勢いの弾丸が部長の頭部にクリティカルヒットした。

 部長が優秀なのは間違いないがどっちかと言うと司令塔タイプでバンバン戦う感じじゃない、つまりこの人結構やわこいのであんまり前に出てほしくない。これに懲りたら冷静に僕らを導く方にどうか。あの、部長、聞いてます?ここから一体どうしましょう。

 部長?

 

「し、しんでる……」

 

 弾を受け、うつ伏せで床にぐったりしてしまった部長を転がして様子を見る。ごろん。やすらかな笑みを浮かべて気絶している。もう一度転がして元に戻す。ごろん。僕たちはおしまいです。

 

「ぶちょー、死んじゃったの……!?」と真に受けて驚くメグさんにすみませんウソウソ気を失ってるだけですと弁明するが、実際僕らの行く末は真っ暗になってしまった。場に残ったのは撤去力が優れているが個人戦には向かない放火魔のメグさん、肘張って1年のリーダーぶっているが全くの経験不足の僕。そして託された目標は敵と銭湯をまとめて撤去。ぜっっったいに達成できない。

 

 どうしよう、とりあえずまたドカ食い美人が榴弾を飛ばして来たら困ると思って、敵方を見ようと机バリケードから頭を出しかけて──嫌な予感。側頭部にものすごいぞわぞわした不快感みたいなのを察知して、後ろのメグさんにぶつかる勢いで身を引く。ほとんど同じタイミングで、先程の部長を討ったのと同様の高速、風を裂くような音を伴った弾丸が、机の角を削っていった。そのまま飛んで行って後ろで乱闘している一般不良ゲヘナ生に命中、彼女も一撃で気絶させる。これは、どういうことだろう。ちょっと普通じゃないな、と思ってメグさんにキャッチしてもらったままの状態で考え込む。

 

 弾速、威力、再現性。

 

 これらが示す事実は一つ。部長は流れ弾でなく、狙撃されてダウンした。

 

 訂正しなければならない。敵の数は少なくとももう一人、どこかにスナイパーが潜んでいる可能性が高い。だとすれば数的有利は消滅し、僕らが勝っている点も消えてしまったことになる。前衛後衛のバランス良さを鑑みればこっちが圧倒的不利まである。

 考えてみればおかしかったのだ。部長が不良の流れ弾程度でダウンするだなんて。確かにあの人はあんまり硬くないけれど、一発で落ちるほど貧弱でもない。練度もあるっぽく、なんてったって最上級生。

 であれば、それだけ敵弾が強かったんだ。

 

「ユキちゃん、どうしよ~~~っ……!」

 

 メグさんが涙目でわたわた慌てて戦意も怪しく、ぬいぐるみを抱きかかえるように僕をぎゅうっとやってくる。すげえ力なのでそのまま絞め落とされそうになるが、それがかえって頭に余計なことを考えさせる血流を与えなくて丁度良かったかもしれない。いや離してはほしいけど。

 

 正直に言うと、もう負けでいい。目標達成はもはや不可能に等しく、あとはいかに綺麗に後始末をして黒星を飾るかでしかなかった。問題を絞って言うなら、どうやって負けるか。さらに白状すればそれすらも考えるのが面倒くさい、いっそ僕の頭にも強烈な弾丸がぶち当たって気絶して終わりたい。人はこれを投げやりと言う。

 

 でも、メグさんがいる。彼女はどうするのだろう。先に僕がドロップアウトして、一人ぽつんと残され負け前提の戦状態、しかし引くことを知らないメグさんはそのまま突っ込んで、やっぱりボコボコにされて温泉開発部の完敗になるんだろう。

 別に負けるのはいい。我が部は強さを売りにしてないし、負けることは珍しくない。でも、一人で、なまじっか耐久力があるだけに僕らより痛い思いをして、ボロボロになって初めてダウンできるメグさんの姿を想像すると、心のどっかが痛むのも事実だった。

 

 色んな負け方があるだろう。負け方に差なんてないだろう。でも、メグさんが一番ひどい目に合う終わり方だけはしたくない。だから僕は考えた。

 

 どうしたら綺麗に幕が引けるか。どうしたら、メグさんは痛い思いをしなく済むか。

 

 

 

「メグさん」と、僕を抱きかかえて不安そうにしている彼女の腕をタップタップ。そろそろ本当に落ちてしまうので。言われて彼女は自分が無意識にやっていたチョークスリーパーもどきに気付き、「ああっ、ごめんね!」と簡単に離してくれた。そのまま、眉をハの字にして狼狽えているメグさんに言う。まずは落ち着かせるために。

 

「僕にちょっと、任せてもらってもいいですか……?」

「も、もちろんだよっ! ユキちゃん頭いいもんね、何か、いいアイデアが……?」

 

 これだ。この瞳。

 不安の中に織り交じる期待。彼女の中では入部案内の時から僕は賢い塩谷ユキちゃんという像を結んでいて、短い期間ながらも多くのキラキラした期待を受けてきた。それが正確な姿かはさておいて、この輝きを守りたいな、という気持ちはいつまでも本当で。今まさに先陣を切ろうとしている僕が言葉を揺らがせてしまったら、メグさんは安心できなくなってしまう。それは良くない。拠り所は、しっかりしてこそ縋ることが出来る。

 

 だから、虚勢を張ってでも言い切ってしまうのがいいのだ。「任せてください」と。

 

 

 

 メグさんの期待を一身に受けて僕は、手持ちの銃と、部長から託された予備爆破スイッチと思わしきものを確認した。予備のマガジンは、まあ数個くらいか。いいだろう。やってやろうじゃないか。

 

 十二分に点検した装備たちを手にした僕は──それらをまとめて、敵の方にシュッと投げ出した。床上をスライドさせるような感じで。

 

「あら?」

 

 敵さんこと金髪ドカ食い美人が、これはなんだろうと怪訝な様子で目の前に放り出された武器を警戒する。そしてこちらの方も一瞥。そろそろ頃合いか。

 

「ユキちゃん!?」と困惑を隠すことのない大慌てっぷりのメグさんを背に、敵の方に歩き出す。両手を上げて、継戦の意志がないことを示しながら。

 

「もういいんですか〜?」

「はい、この通り。 (かしら)がやられてしまったので、これ以上は戦えない。降参です」

 

 そちらの装置が銭湯の起爆スイッチです、と説明すれば、ふぅんと興味があるんだかないんだか分からない調子で返事をする。対話をするだけの冷静さはあるか。

 そして今のところ狙撃はされない。じゃあ狙撃手の存在は気のせい、と思いたいがそれは希望的観測で、後頭部の方がすごく嫌なぞわぞわを訴えているので、恐らく狙われ続けている。あちらも様子を見て静かにしてくれている、そう信じるしかない。裏を返せば、思考する余裕のある敵が二人確定したようなものだった。

 

 周囲では相変わらず紛争の様相で騒がしくやっている。しかし不思議なもので、目前に集中すれば、それらも雑音として後ろに押しやることができた。

 

「残念。 せっかく熱くなってきた所だったのに〜」

 

 こんわいこと言うな。戦闘狂国のお人か何か?ご機嫌な笑顔で何を言っとるんだあんたは。

 敵さんはアタッチメントパーツだらけで歪に大きくなった黒のアサルトライフルを下げ、臨戦の姿勢を弱めた。それはARというか別の巨大なものを狙い撃つタイプのライフルに近いクソデカ鉄塊と化していて、苦労した様子もなく持ち上げ下げしている所を見ると、決戦に入らなくて本当に良かったと思う。どこからどう見ても格上だ。

 

 部長がいない今なら、和平の道だって可能なはず。

 ひとまず緊張した空気から解放された──そう思った次の瞬間、僕は地面に横になっていた。

 

 音がぼーっとしていて何だかよく分からない。体が全然動かない。熱い。怠い。ただ後頭部が死ぬほど痛い。

 

 だからようやく理解した、隙を縫って狙撃されたのだと。

 

「私は手打ちでもよかったんですけど」

 

 間違いない、スナイパーは存在する。それも、冷酷で殺意の高い人物が。

 

「もっと駆け引きとか、そういうのをしたかったですね。 貴方は戦い甲斐があるかも〜?なんて思ったんですが……」

 

「つまらない勝負になりましたね」と敵さんは平坦な調子で言って、完全に銃を下ろし警戒を解いた。僕の方に飛んでくるメグさんなんか相手じゃない、といった様子で。

 ああ、心配になって来てくれたのは嬉しいけど部長はどうしたんですか。あっちの机の方に寝かせてるから大丈夫?じゃあいいか。武器は、置いてきちゃいましたか。大丈夫、取りに行かないで。そっちの方が安全だと思うから。

 

 床から起き上がれない僕をかばうようにメグさんが前に立ち、敵さんの方を睨みつける。向こうは変わらずご機嫌な様子に見えるが、あれが彼女の平常なようだから、何も語ってないのと同じだろう。敵さんはにこにこ笑顔で言う。

 

「まだ食べてないメニューがいっぱいあるんですよね~、日替わりの定食とか。 だから、今撤去なんてされたら困るんです」

「でもっ、この銭湯はウソつきなんだよっ! そんな温泉、放っておけないよ!」

「そうなんですか。噓つき。 それは大変ですね★」

 

 歯牙にもかけない、強者に相応しい振る舞い。ゲヘナで最も厄介なタイプの人物だ。冷血で、戦闘が上手く、信条がある。相手の言葉に惑わされない。彼女たちの行動を変えるのは何より難しいだろう。

 きっと交渉は決裂した。けれども、対話自体は続いている。だからここで僕らが出来るのは、ほんの少しでも状況を好転できる可能性があるような、変数になり得る情報を与え続けることだけ。気を抜けば気絶してしまいそうな所を気合でなんとか持ちこたえて、声を絞ってメグさんの言葉に続く。

 

「ここの、施設……温泉を偽装してたんですよね……」

「へぇ~?」

「絹の湯って、ありましたよね……白い温泉。 どうやら、入浴剤で見た目を作ってる、みたいなんです……。 成分まで確認したので間違いないです……あれは、天然の湯じゃなくて、水道水でした……」

 

 我が物顔で部長の知識を垂れ流す。正確性とか、部長から聞いた話だのの細かい所は置いといて、とにかく興味を惹くような話を。相槌を打ってくれるくらいには聞いてくれてるから。

 ひとしきり僕らの話を受けて、敵さんは興味深そうに頷いていた。印象の良い振る舞いが、彼女の自然であるようなので、実際はどう思ってるか分からないけれど。

 

「ああ、だから嘘つきなんですね。 う~ん、なるほど……それは──」

 

 カツ、カツと、近づいて来る下駄の足音。

 

「──それは、許せませんわね」

 

 どこからともなく現れた、銀髪の浴衣美人が言葉を引き継いだ。

 

 手に持つのは長い銃、鈍く光るスナイパーライフル。

 

「ハルナ、もういいんですか?」

「ええ、我々にも関わる大切な話が聞こえてきましたので。 それで、温泉偽装というのはつまり、あのすっぽんを育てた温泉そのものが、元より嘘であった。 そのような理解でよろしいですか?」

「まぁ、そうなるかと……」

 

 どこかで見たことある美人だなあ、艶やかな銀髪……そこでハッと思い出す。この人、ラーメン屋を丸ごと爆破して僕を吹っ飛ばしてくれた美食テロリストだ。食に異常なこだわりを見せるというあの……。

 銀髪さんは床に転がっていた予備起爆スイッチを拾い、言う。

 

「あなた方は食堂、もといこの銭湯を爆破しようとしていましたね?」

「は、はい」

「我々──美食研究会にもそちらの計画、一枚噛ませていただけないでしょうか」

 

「そのような不誠実は、私達も同じく、許しがたいと思いますので」なんて、気品と狂気を同居させた恐ろしい威圧感と共に言われれば断れるはずもなく、「ぜひ」なんて頷くしかなかった。

「嘘の是正、そのような大義があるとは露知らず。先ほどは射撃して申し訳ありませんでした」なんて丁寧に謝られる始末。

 

 やばい。気を逸らせたらいいなくらいの気持ちで話していたつもりだったのに、気が付いたら最悪の同盟が完成していた。

 

 違うのだ。こんなはずじゃなかったのだ。メグさんもキラキラさせた瞳でこっち見ないで、狙ってないからこれ全然。

 本懐としては時間稼ぎが出来ればよくて、その手段の一つに交渉行動を選んだだけだったんだ。だって戦力差は明らかで、この状況を変えるのであれば……。

 

「風紀委員だッ!! お前たち、武器を下ろせッッ!!」

 

 今まさに大量の動員と共に現れた風紀委員が、戦力バランスを崩すこと。

 これが、想像できる範囲の中で、一番前向きな解決を見出せるプランだった。あわよくば、混乱に乗じて逃げ切ってしまおうとも。

 

 数の暴力で物を言わせ、大した団結もない不良たちが片っ端から捕まっていく。暴力が別種の暴力で鎮圧されていくいつもの風景。ただ、集まったところで結局はたかが知れている。少なくとも、この美食研究会を名乗る二人には相手にならないだろう。チャキ、と得物を構え、抵抗を始めるかと思ったが、付近で戦闘が始まる様子がない。一体どうしたのだろうと顔を上げると、風紀委員以外の、別集団がこちらに向かって来ていた。先頭に立っているのは、見覚えのある人物。

 

「あれが温泉開発部で、彼女が塩谷ユキだから」

 

 食後に見た、白髪に黒髪混じりのクールな女生徒。

 彼女が先導して、別の軍服を纏った人たち、それと風紀委員を伴った、少数精鋭らしき混成軍に取り囲まれた。

 

 この軍服はなんだったか、確か、ゲヘナ生徒会の人達じゃなかったか。

 ちょっと、騒ぎ過ぎたかもしれない。入部体験をやってもらった時より明らかに事が大きくなっている。強そうな組織の人まで現れてしまった。いくら美食研究会の人がいるからとは言え、今回ばかりは難しいか、大人しくお縄につくしかない、そう諦めて周りを見るがアレッ、美食研の人が居なくなってるな。

 どこに行ったんだと思えば、ちょっと離れた、出口に繋がる方に、じりじりと精鋭の何人かと睨み合いながら、後退していく様子が見えた。

 

 逃げ、るのはまあいいけど、急ごしらえの同盟だし。でもなんで起爆スイッチまで持っていく。なんでそれを僕らに見せつける。

 

 答え合わせをするかのように、銀髪の彼女は高らかにこちらへと言い放った。やけに美しく、無駄によく通る声で。

 

「どうかご安心ください。貴方たちの意志は、私達が引き継ぎました!」

 

 その言葉を皮切りに撤退戦が始まり、激しい戦闘音がちょっとずつ離れていった。

 

 何してる? いや本当に何してる!? 勝手に意志を託されるな!!

 

 やめっ、やめてくれないか。これ以上罪を重くしたくない。そもそも捕まるのも嫌なのに、陰謀巡らす主犯扱いされたらどうしてくれるんだ!!

 イヤッ、本当にやめて、スイッチ押さないで、フリじゃないから、絶対押さないで!!

 

 恐ろしく滝の様な冷や汗をかいている僕、さらにキラキラおめめを輝かせるメグさん。一方、ちょっと遠くで連行されつつある部長が意識を取り戻し、きょろ、きょろと周囲を見、そして何となく事情を把握した様子で、こちらにグーと親指を立てる。そして、笑いながら言うのであった。

 

「ユキちゃん、牢屋でまた会おうね……!」

 

 イヤーーーーーッ!!!!!!!!!




塩谷ユキ 前科一犯
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