三度目の生は蛇の姿で   作:鯱タクワン

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(一話ごとの文字数の長さがバラバラになりそうです)


8.仮同盟成立!……でいいのか?

 しばらく、妙な沈黙が続いた。

 

 いや。

 

 沈黙というより、お互いに距離感を測っている感じか。

 

 蜘蛛子は警戒したまま。

 俺も、影の中で【魂欲】を抑え込み続けている。

 

 信用なんて、まだ全然していない。

 それでも。

 少なくとも、即殺し合いになる空気ではなくなっていた。

 

 ……多分。

 

『そういえば、呼び合う名前どうする?』

 

 だからこそ、気まずさに耐えきれなくなって、そんなことを聞いた。

 

『名前?』

 

『今、お互い名無しだろ』

 

『あー』

 

 蜘蛛子が妙に納得した声を出した。

 

『俺、お前のこと内心で蜘蛛子って呼んでたんだけど』

 

『安直!?』

 

『蜘蛛だからな』

 

『いやまあ蜘蛛だけど!』

 

『嫌か?』

 

『……名無しよりはマシかも?』

 

『じゃあ蜘蛛子で』

 

『で、私は?』

 

『好きに呼べばいい』

 

『んー……影蛇』

 

『能力そのままだな』

 

『蜘蛛子に言われたくないでしょ』

 

 それはそう。

 

 少しだけ空気が緩む。

 

 ……いや、緩んでいい相手じゃないんだけどな。

 

 実際、蜘蛛子は今もかなり警戒しているのが分かる。

 

 それでも、完全な敵として距離を取る感じではなくなっていた。

 

 だからこそ逆に、このまま曖昧な距離感でいるのは危ない気がした。

 

 俺は【魂欲】を抱えている。

 蜘蛛子も、今までの経験にない俺という存在を警戒している。

 

 そんな状態で、互いに腹の内も能力も分からないまま近くにいる。

 それは、この迷宮じゃかなり危ういだろう。

 

『……で、これからどうする?』

 

『どうするって?』

 

『今って、休戦してるだけだろ』

 

『あー』

 

 蜘蛛子が少し考え込む。

 

『確かに』

 

『お互い攻撃しない。それだけ』

 

『でも、影蛇が近くにいる状態で、ずっと警戒しながら移動するのもしんどいんだよね……』

 

 蜘蛛子がぽつりと言った。

 

『というか、私の知ってる魔物と全然違うし。普通に怖い』

 

『それは悪かったな』

 

『しかも魂欲しいとか言うし』

 

『返す言葉もない』

 

『でも、だからって即、別行動とかするのも……』

 

 蜘蛛子の言葉に、少しだけ驚く。

 

 もっと単純に拒絶されるかと思っていた。

 

『……お前、一人でも生き残れるだろ』

 

『いや、そりゃ頑張るけどさ!?』

 

 蜘蛛子が即座にツッコんだ。

 

『でも、ここ絶対ヤバい場所でしょ!? 怖いに決まってるじゃん!』

 

 まあ、それはそうだ。

 

 俺は原作知識で知っている。

 

 ここはエルロー大迷宮下層。

 上層とは比較にならない危険地帯だ。

 

 今の蜘蛛子は、まだそこまで確信していないだけで。

 

『だからまあ……最低限、協力できるならした方が生存率は上がる……かも?』

 

『かも、か』

 

『だってまだ信用してないし』

 

『俺も自分を信用してない』

 

『そこは安心させて!?』

 

 無理なものは無理だ。

 

 自分でも自分を信用できていない。

 

 特に【魂欲】関連は、本当に何が起きるか分からない。

 

『ただ、少なくとも今は利害は一致してる』

 

『生き残りたいってやつ?』

 

『ああ』

 

『……じゃあ』

 

 蜘蛛子が少しだけ迷う気配を見せる。

 

『仮同盟?』

 

『……やっぱり仮なんだな』

 

 俺がそう返すと、蜘蛛子は即答した。

 

『信用できないからね!』

 

 迷いのない返答だった。

 

 まあ、そりゃそうだ。

 

『でも、最低限は協力する』

 

『ああ』

 

『危ないの来たら知らせる』

 

『了解』

 

『あと、休む時は片方が警戒』

 

『助かる』

 

『ただし、変なことしたら逃げる』

 

『それでいい』

 

 むしろ、そのくらい警戒してくれた方がありがたい。

 

 俺自身、今の自分が何をするか完全には信用しきれていないのだから。

 

『……で、お前は何ができるんだ?』

 

『私?』

 

『共闘するなら最低限は知っときたい』

 

『あー、なるほど』

 

 少し間が空く。

 

『えーっと。糸』

 

『蜘蛛だなぁ』

 

『蜘蛛だからね!?』

 

 即ツッコミが返ってきた。

 

『糸で罠張ったり、休憩用の巣作ったり。あと毒牙』

 

『近接もできるのか』

 

『怖いからあんまりやりたくないけどね!』

 

 切実そうだった。

 

『あと速い』

 

『速い?』

 

『めっちゃ速い』

 

『自分で言うんだな』

 

『実際速いし!』

 

 ちょっと得意げだった。

 まあ、【韋駄天】による平均速度能力の上昇は半端ないからな。

 

『逃げる時は自信ある』

 

『それは助かるな』

 

『ただし、遅かったら置いていく』

 

『厳しいな!?』

 

『だって死ぬじゃん!』

 

『正論やめろ』

 

 ぐうの音も出ない。

 

 実際、蜘蛛子の速度についていける気がしない。

 

 今の俺、完全に魔法寄り紙装甲だし。

 

『そっちは?』

 

『影移動と感知と毒』

 

『うわぁ、暗殺特化っぽい』

 

『その代わり紙装甲』

 

『仲間じゃん』

 

『嬉しくない仲間だな』

 

『わかる』

 

 蜘蛛子がちょっと笑った気配がした。

 

『だから俺は普通にはついていかない』

 

『ん?』

 

『影を中継して移動する』

 

『あー、あの影潜るやつ?』

 

『そう。周囲の影を使ってついていく』

 

『便利だなそれ!?』

 

 その直後。

 

 蜘蛛子の気配が少しだけ止まった。

 

『……いや待って?』

 

『ん?』

 

 何だ?

 何か警戒するような事でもあったか?

 

『それってさ』

 

『うん』

 

『めちゃくちゃ忍者っぽくない?』

 

『急にどうした』

 

 いやほんと、急にどうした。

 

『だって影移動だよ!?』

 

『蛇なんだけど』

 

『影忍蛇……?』

 

『やめろ』

 

 なんか嫌だな……。

 

『でも便利だなぁ……』

 

『まあ、影がある場所限定だけどな』

 

『ここ迷宮だし、大体暗いけどね』

 

『まあな、というわけで無理に速度合わせなくていい』

 

『え、いいの?』

 

『合わせられる方が危ない』

 

『まあ、それはそうか』

 

 蜘蛛子が納得したようだった。

 

『俺は影から索敵する。強い反応が来たら念話で伝える』

 

『索敵係かぁ』

 

『そんな感じだな。あと、戦闘になったら奇襲できそうならやる。無理そうなら逃げる』

 

『慎重派だ』

 

『死にたくないだけだ』

 

 というか、この迷宮で無茶をするのは本当に危険だ。

 

 原作知識があるからこそ分かる。

 ここには、普通に即死級の化け物がうろついている。

 

『私は逃げるの得意だしねー』

 

 蜘蛛子がちょっと得意げに言う。

 

 実際、あの速度はかなり強いだろう。

 

『私は糸で足止めとか罠かなぁ』

 

『相性は悪くなさそうだな』

 

『確かに』

 

 蜘蛛子が少し考え込む。

 

『私が動き回って、影蛇が影から不意打ち?』

 

『そんな感じ』

 

『うわぁ、敵からしたら嫌なやつだ』

 

『否定できない』

 

 実際かなり嫌らしい。

 

 蜘蛛子の速度と糸。

 そこに影移動と奇襲が加わる。

 敵からしたら最悪だろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……あ、そういえば』

 

 蜘蛛子がふと思い出したように念話を飛ばしてくる。

 

『私、一応魔法系スキルもあるんだよね』

 

『魔法系?』

 

『【外道魔法】と【影魔法】』

 

『じゃあ魔法使えるのか?』

 

『いや全然?』

 

 蜘蛛子が即答した。

 

『なんかよくわかんないんだよね。使おうとしても使えないし』

 

 やっぱりか。

 

 原作でも、蜘蛛子はかなり後になるまで魔法の扱いに苦戦していた。

 

 となると、原作通りなら……。

 

『魔法を扱う補助系のスキルはあるか? 魔力を感じたり、動かしたりする系の』

 

『えーっと……』

 

 蜘蛛子が自分のステータスを思い出してるのだろう。

 悩ましい感じの声が聞こえる。

 

『そういうのは……ない?』

 

『感知能力を強化する系のスキルは? 周囲を見る感じの』

 

『……あー』

 

 蜘蛛子が少し悩む気配を見せる。

 

『【探知】ならあるけど……』

 

『あー、そういう』

 

 やっぱり原作通り【探知】を取ってるんだな。

 

『多分、その【探知】の中に【魔力感知】が含まれてる』

 

『え?』

 

『【探知】って色んな感知系の複合スキルっぽいし』

 

『あー……』

 

 蜘蛛子が何かを察したような声を出す。

 

『で、【探知】って今使えてないのか?』

 

『うん。無理』

 

 即答だった。

 

『あれ使うと、頭の中に情報が一気に流れ込んでくるんだよね』

 

『制御できないのか?』

 

『無理無理! 頭おかしくなる!』

 

 蜘蛛子が全力で否定する。

 

『だから今は切ってる。怖いし』

 

『その状態だと、多分、魔力そのものを認識できてない』

 

『……あ』

 

 蜘蛛子が止まった。

 

『便利そうだから取ったのに……』

 

『まあ、あれ上位スキルっぽいしな』

 

『絶対初心者向けじゃないよね!?』

 

『それはそう』

 

『せっかく【外道魔法】とかあるのに!?』

 

『まあ、魔力をちゃんと認識できるようになれば変わるかもしれない』

 

『ほんとに?』

 

『断言はできないけど、少なくとも今よりはマシになると思う』

 

『希望が薄い!』

 

『俺は、魔力を感じて動かす感覚を使って魔法を発動してる。だから方向性は合ってると思う』

 

『おお!』

 

 蜘蛛子の食いつきが一気に良くなった。

 

『どうやるの!?』

 

『説明むずいんだよなこれ……』

 

 俺の場合、【自己理解】で感覚的に理解している部分が大きい。

 

『なんかこう……体の中に流れてる力を意識して、それを動かす感じ……だと思う』

 

『雑ぅ!』

 

『俺もそう思う。それに、結局は魔力を認識できないと多分きつい』

 

『探知のせいかぁ……』

 

 蜘蛛子がぐったりした気配を出す。

 

『うわぁ、あいつマジ余計なことを……』

 

『便利ではありそうだけどな』

 

『便利すぎて他を殺してる感じ!?』

 

『多分』

 

 蜘蛛子の気配が露骨に沈む。

 

『ないわー……』

 

 どうやら本気で落ち込んでるらしい。

 まあせっかく取ったスキルがこれだもんな。

 

『まあでも』

 

 蜘蛛子が少し気を取り直したように言う。

 

『影蛇が魔法使えるなら、最低限火力役はいるってことだよね?』

 

『いや、今はそこまで火力ないぞ』

 

『え?』

 

『そっちと持ってる魔法の種類は大体同じだな』

 

『……こっちは詳細知らないけど、どんな感じなの?』

 

『現状、搦め手寄りだな』

 

 精神に干渉したり、影を使ったり。

 正面からドカンと火力を出すタイプじゃない。

 

『じゃあ火球バーン! みたいなのは?』

 

『できない』

 

『えぇ……』

 

 蜘蛛子が露骨にガッカリした。

 

『いやまあ、今後は取っていくつもりだけど』

 

『あ、予定はあるんだ』

 

『今の進化、完全に魔法寄りっぽいからな』

 

 ステータスも露骨だった。

 

 MPと魔法能力だけ異様に伸びて、他は全く伸びてない。

 

 どう考えても、「魔法を使え」と言われている構成だ。

 

『だからそのうち、普通の属性魔法とかも覚えると思う』

 

『おおー』

 

 蜘蛛子がちょっと嬉しそうになる。

 

『じゃあ、私は糸と機動力で、影蛇が奇襲と魔法?』

 

『そんな感じになると思う』

 

 もし今後、【影憑】をもっと使いこなせるようになれば。

 

 蜘蛛子の機動力と身体能力。

 そこに、俺の魔法や感知能力を重ねることもできるかもしれない。

 

 ……いや。

 

 流石に今考えることじゃないな。

 

 【自己理解】で、【影憑】が魂へ干渉するスキルだということは理解している。

 だが、どこまで干渉できるのかは別問題だ。

 

 感覚的には分かっても、実際に試したわけじゃない。

 

 身体操作にまで踏み込めるのか。

 意識へ影響するのか。

 そもそも共存状態がどういう扱いなのか。

 

 危険そうな情報だけは嫌になるほど分かるくせに、詳細はまだ曖昧だった。

 

 そんなものを、今の蜘蛛子に話せるわけがない。

 

 ただでさえ、魂を求める怪しい蛇としてギリギリ許容されてる状態なんだから。

 

『……影蛇?』

 

『ん?』

 

『なんかまた変なこと考えてない?』

 

『……考えてない』

 

『今ちょっと間あったよね!?』

 

『気のせいだ』

 

『絶対違う!』

 

 鋭いなこいつ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『じゃあ、移動しながら休める場所探す感じでいいか?』

 

『固定の巣は作らない?』

 

『この辺で定住は怖いしな』

 

『だよねー』

 

 蜘蛛子も同意した。

 

 この場所は広すぎる。

 しかも、どこから何が来るか分からない。

 長く留まるには危険すぎた。

 

『休憩用の簡易巣をお前が作る。俺は影から周囲を警戒。小型を狩りながら移動』

 

『強い反応が来たら即逃げ』

 

『特に龍系』

 

『絶対逃げる』

 

 そこは完全一致だった。

 

『……じゃあ、仮同盟ってことで』

 

『ああ』

 

『あくまで仮だからね?』

 

『分かってる』

 

『変なことしたら逃げるし、可能なら殺す』

 

『それでいい』

 

 本当に。

 

 それくらい警戒してくれた方が助かる。

 

 俺自身、俺を信用しきれていないのだから。

 

『じゃあ行く?』

 

『ああ』

 

 蜘蛛子が動き出す。

 

 速い。

 

 マジで速い。

 

 白い弾丸みたいな勢いで岩場を駆けていく。

 

『うおっ、速っ!?』

 

『ふふーん!』

 

 なんか得意げだ。

 

 俺は少し距離を取りながら、影の中を移動した。

 

 近くにいると落ち着く。

 だが同時に、欲しくなる。

 

 酷く危ういバランスだった。

 

 それでも。

 少なくとも今は、一匹で迷宮を彷徨っていた時より、ずっとマシだった。

 

 まずは生き残る。

 

 神になるとか、その先だ。

 

 ……まずは目の前の蜘蛛を襲わないこと。

 

 とりあえず、話はそこからだな。




TIPS:魔物同士の協力関係

魔物同士の協力関係は、同種の群れ以外では極めて稀である。
特に高知能個体ほど縄張り意識や捕食関係の影響が強く、異種間協力は長続きしにくい。
そのため、異種魔物同士による継続的共闘は、多くの場合、強い利害一致か特殊事情によって成立する。
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