三度目の生は蛇の姿で   作:鯱タクワン

24 / 36
蜘5.熱い! 怖い! でもナマズは美味い!

 熱い。

 

 いや、熱いっていうか、熱い。

 語彙が死ぬくらい熱い。

 

 中層。

 前に火耐性の訓練で、ちょっとだけ足を踏み入れたことはある。

 

 あるけど。

 

 準備万端で、いつでも逃げられる状態で、ちょっと熱さを確認するのと。

 地龍から逃げ込む形で、休憩なし、準備なし、退路ほぼなしで突っ込むのとでは、話が違う。

 

 違いすぎる。

 

『あっつ!? やっぱりあっついんですけど!?』

 

『同感だ!』

 

『どうにかして!?』

 

『できるならしてる!』

 

 うん。

 それはそう。

 

 でも文句は言いたい。

 だって熱いから。

 

 背後からは、もう地龍の気配は追ってきていないらしい。

 そこだけは助かった。

 あいつまで中層に突っ込んできていたら、さすがに終わっていた。

 

 でも、助かったからといって状況が良いわけではない。

 

 前にはマグマ。

 横にもマグマ。

 地面も熱い。

 空気も熱い。

 下手に落ちたら即丸焼き。

 

 蜘蛛の丸焼き一丁上がりである。

 

 上がってたまるか。

 

 私は地面を走りながら、できるだけ熱のマシそうな足場を選ぶ。

 影蛇も後ろからついてくる。

 

 黒い蛇。

 熱吸収しそう。

 いや、実際にどうなのかは知らないけど、見た目的に暑そう。

 

 そんなことを考えていた時だった。

 

 マグマの中で、何かが動いた。

 

『影蛇! あれ!』

 

 影蛇が反応する。

 たぶん【探知】と【鑑定】で確認している。

 

 マグマの下にいる魔物。

 火属性。

 火球を撃ってくるタイプ。

 

 聞いただけで嫌になる。

 

 影蛇は、最初は相手に火球を撃たせて、MP切れを待つつもりだった。

 地味。

 すごく地味。

 

 でも、マグマの中に飛び込むよりは百倍マシである。

 

 そう思っていたのに、途中で影蛇が変なことを思いついた。

 

 魔法なら、マグマの中にも届く。

 

 確かに。

 確かに理屈は分かる。

 

 私の糸は熱で弱る。

 私はマグマに入れない。

 でも影蛇の魔法なら、マグマの中にも攻撃できる。

 

 理屈は分かる。

 

 分かるんだけど。

 

『影蛇! めっちゃそっち見てるよ!』

 

『見てるな!』

 

 見てるな、じゃないが!?

 

 当然、攻撃された魔物は影蛇を狙った。

 火球が飛ぶ。

 影蛇が避けようとする。

 けど、火の光で影が揺れるし、足場も悪いし、魔法を撃った直後で反応も遅い。

 

 危ない。

 

『こっち!』

 

 私は糸を飛ばして、影蛇の体を引っ張った。

 

 直後、さっきまで影蛇がいた場所が焼ける。

 

『危なっ!?』

 

『危ないのはこっちの台詞なんですけど!?』

 

『悪い!』

 

 本当に悪いよ!

 

 そこからはまあ、ひどかった。

 

 影蛇が魔法を撃つ。

 敵が影蛇を狙う。

 私が糸で引く。

 影蛇が壁を作る。

 私が横から牽制する。

 

 忙しい。

 熱い。

 火球が怖い。

 

 魔法が届くのは分かった。

 攻撃できるのも分かった。

 でも、影蛇が真正面から火球を避け続けるのは危ない。

 

 というか、普通に焼き蛇になりかけていた。

 

 焼き蛇。

 いや笑えない。

 

 何とか倒した後、影蛇の方でも何かあったっぽい。

 

 私は詳しくは知らない。

 でも、火耐性を奪ったらしい。

 

 便利だなー。

 ずるいなー。

 

 いや、味方だから助かるし、こっちにも【傲慢】はあるんだけどね?

 でもちょっとずるい。

 

『影蛇、平気?』

 

『平気じゃないけど、少しはマシになった気がする』

 

『それ平気って言わないんだよなぁ』

 

『奇遇だな。俺もそう思う』

 

 中層一戦目。

 

 勝った。

 勝ったけど、やり方としては危ない。

 

『今の、次もやる?』

 

『……やり方を変える』

 

『でしょうね』

 

 そりゃそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 影蛇が出した案は二つ。

 

 一つ。

 相手のMP切れを待つ。

 

 地味。

 でも安全。

 

 二つ。

 影蛇が魔法で削る。

 ただし、その間の回避は私に任せる。

 

 そこまでは分かる。

 分かるんだけど、問題はその手段だった。

 

『【影憑】を使う』

 

『却下』

 

 即答である。

 

 だって【影憑】だよ?

 あの猿戦で使ったやつだよ?

 

 怖かった。

 でも助かった。

 あれがなければ、たぶん死んでいた。

 

 その全部が本当だ。

 

 けど、だからって平気になったわけじゃない。

 

 自分の中に別の何かが入り込む感じ。

 自分の感覚と、影蛇の感覚が重なる感じ。

 あれは便利だったけど、普通に怖い。

 

 そう思っていたら、影蛇は「猿戦の時みたいなやつじゃない」と言った。

 

 表層接続。

 

 名前は今つけたらしい。

 雑。

 

 けど、説明を聞くと、猿戦の時とは確かに違う。

 

 私の影に引っかかるだけ。

 感覚は読まない。

 MPもSPも流さない。

 魂の奥にも踏み込まない。

 動きは全部私任せ。

 影蛇は魔法と【探知】に集中する。

 

 つまり、私は避ける。

 影蛇は撃つ。

 

 それだけ。

 

 ……本当にそれだけなら、まあ、猿戦よりはマシ。

 

 猿戦の時は状況が違った。

 猿が多すぎた。

 死角も多すぎた。

 糸も、回避も、外から指示されているだけじゃ間に合わなかったと思う。

 

 だから、あれは仕方ない。

 

 怖かったけど。

 

 今回はそこまでしない。

 そう言われると、完全に拒む理由もなくなる。

 

 嫌ではある。

 普通に嫌ではある。

 自分の影に黒い蛇が憑くとか、落ち着かないに決まっている。

 

 でも、中層では影蛇の魔法が必要だ。

 私だけだとマグマの中に手が出しにくい。

 影蛇だけだと火球を避け続けるのが危ない。

 

 なら、分担するしかない。

 

『……私を乗り物扱いしてない?』

 

『……してない』

 

『今の間、絶対してるやつ』

 

『してない』

 

『まあ、理屈は分かったけど』

 

 乗り物扱い疑惑は晴れない。

 でも、理屈は分かった。

 

 だから、条件を出す。

 

 変なことしたら即切る。

 奥まで入ったら殺す。

 感覚を読んだら駄目。

 魂とか喰おうとしたら論外。

 

 影蛇は全部に頷いた。

 

 なら、よし。

 

 戦闘中だけ。

 表層だけ。

 変なことをしたら即終了。

 

 これなら、使ってもいい。

 

 ……相棒だし。

 

 いや、今のはまだなし。

 戦力的に。

 うん、戦力的に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 表層接続は、思っていたよりはマシだった。

 

 猿戦の時みたいに、感覚が重なる感じはない。

 敵の位置や動きが、頭の奥へ直接流れ込んでくることもない。

 体を勝手に動かされる感じもない。

 

 ただ、影が少し重い。

 

 私の影に、影蛇が引っかかっている。

 そういう感じ。

 

 落ち着かないかと言われれば、落ち着かない。

 でも、我慢できないほどじゃない。

 

 これなら、戦闘中だけなら許容範囲。

 たぶん。

 たぶんね!

 

 その後は、中層での戦い方を少しずつ作っていった。

 

 私が前。

 影蛇が後ろ。

 

 私が避ける。

 影蛇が撃つ。

 

 敵がマグマに潜っている間は、無理に追わない。

 火球を撃たせて、地上に出てきたところを狙う。

 早く削る必要がある時は、表層接続で私の影に影蛇を乗せる。

 

 私の糸は使えないわけじゃない。

 でも、熱ですぐ弱る。

 だから、罠や拘束には向かない。

 一瞬の牽制か、回避補助くらい。

 

 うん。

 中層、糸使いに優しくない。

 

 ただし、表層接続も万能じゃない。

 

 感覚を重ねないから、影蛇の指示は【遠話】頼り。

 そして、指示が雑だと困る。

 

『次、下』

 

『下!? 下ってどっちの下!?』

 

『足元!』

 

『最初からそう言え!』

 

 蜘蛛の下っていろいろあるんですけど!?

 

 まあ、今は足元だったけど。

 でも、そういう問題ではない。

 

『悪い』

 

『あとで反省会ね!』

 

『はい』

 

 反省会案件である。

 

 それでも、何度か繰り返すうちに、指示は短くなっていった。

 

 右。

 上。

 待て。

 止まる。

 

 そのくらいなら、すぐ動ける。

 

 慣れた、というには早い。

 安全になった、なんて言う気もない。

 

 でも、少しずつ噛み合ってきているのは分かった。

 

『今回は削る。表層で行くぞ』

 

『りょーかい。乗客は暴れないように』

 

『乗客じゃない』

 

『さっき乗り物扱いしてたくせに』

 

『してない』

 

『はいはい』

 

 軽口を叩く。

 

 そうでもしないと、自分の影に別の何かが憑いている感覚を意識しすぎる。

 意識しすぎると、余計に落ち着かない。

 

 だから茶化す。

 

 乗客。

 影に乗る蛇。

 

 ……いや、やっぱり乗客じゃん。

 

 でも、その乗客はよく働いた。

 

 火球が飛ぶ。

 私が避ける。

 影蛇が魔法を撃つ。

 敵が地上に出たところで、私が毒をまとわせた爪で切り込む。

 長く触れない。

 裂いて、離れる。

 

 それだけ。

 

 下層の戦い方とは違う。

 猿戦の時とも違う。

 

 中層用の戦い方。

 

 熱い。

 怖い。

 やりにくい。

 

 でも、生き残るためには慣れるしかない。

 

 影蛇がたまに黙ることがあった。

 表層接続の最中、ほんの少しだけ間ができる。

 

 何かを考えている感じ。

 

『影蛇』

 

『何だ?』

 

『今、変なこと考えてない?』

 

『……考えてない』

 

『間があった』

 

『気のせいだ』

 

『ふーん?』

 

 軽く言った。

 でも、全部が冗談というわけでもない。

 

 影蛇は危ない。

 それは分かっている。

 

 魂がどうとか。

 喰いたいとか。

 そういう方向に、ふと沈みかける時がある。

 

 けれど、今は戻ってきている。

 私が言えば、ちゃんと距離を取る。

 勝手に奥へ入ってこない。

 

 だから、今はいい。

 

 戦闘中だけ。

 必要な時だけ。

 

 私は影蛇を影に乗せて走る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 魔物は、基本的に食べにくい。

 

 硬い。

 変な味がする。

 そして、だいたい不味い。

 

 で、中層はその中でもひどい。

 

 ただでさえ熱で体力を削られるのに、食事まで不味い。

 この世界、私に優しくする気ある?

 ない?

 知ってた。

 

 影蛇は、基本的には倒した魔物の肉を食べる。

 私も食べる。

 

 ただ、影蛇の【魂欲】がきつくなった時は別。

 その時は、肉を諦めて魂の方を喰う。

 

 魂を喰われた魔物は灰になる。

 つまり、食料にはできない。

 

 正直、もったいない。

 めちゃくちゃもったいない。

 

 でも、影蛇が変になる方が困る。

 だから、そういう時は先に一言入れろということになっている。

 

 食料か、影蛇の安定か。

 

 どっちも大事。

 だから困る。

 

 そんな中、中層での動きに少しずつ慣れてきた頃だった。

 

『影蛇、あれ』

 

『……お』

 

 マグマの中から、ぬるりと出てきた魔物。

 

 口がでかい。

 見た目は、ナマズっぽい。

 でもマグマから出てくる時点で普通のナマズではない。

 

 魔物ナマズである。

 

 影蛇の反応が、少し変わった。

 

『やるぞ』

 

『え、急にやる気』

 

 急にやる気を出した。

 何?

 あれ何かあるの?

 食べられるの?

 美味しいの?

 

 いや、まだ分からない。

 分からないけど、影蛇がああいう反応をする時は、だいたい何か知っている。

 

 そして私は腹が減っている。

 

 なら、やるしかない。

 

 ナマズは大口を開けて突っ込んできた。

 私を丸呑みにする気満々の口である。

 

 冗談じゃない。

 

『蜘蛛子、口だ!』

 

『口!?』

 

『毒を入れろ! 中からなら通る!』

 

『なるほど分かりやすい!』

 

 外が硬いなら中を狙う。

 シンプル。

 実にシンプル。

 

 私は【毒合成】で液体の球を作る。

 

 蜘蛛毒ボール。

 名前は今つけた。

 

 ナマズがもう一度、大口を開けてくる。

 私はギリギリまで引きつけた。

 

 影蛇が横から火の粉を散らし、足場を少しだけ調整する。

 突進の角度がずれる。

 

 そこへ、蜘蛛毒ボール投入。

 

 ナマズは、私の代わりに毒の球を丸ごと飲み込んだ。

 

 直後、巨体が大きく跳ねる。

 

『うわ、効いた!?』

 

『効いてる!』

 

 そこからは早かった。

 

 毒が内側から効いている。

 影蛇が魔法で削る。

 私は距離を取りながら、さらに毒を重ねる。

 

 ナマズが痙攣して、動かなくなった。

 

 勝利。

 

 そして、食事。

 

『……食べていい?』

 

『いいぞ』

 

『では、いただきます』

 

 正直、期待はしていなかった。

 

 魔物食である。

 だいたい不味い。

 中層の魔物ならなおさら不味い。

 

 そう思っていた。

 

 思っていたんだけど。

 

 ……うまい。

 

 え?

 

 うまい。

 

 何これ。

 ちゃんと食事。

 ちゃんと美味しい。

 

 今までの魔物食は何だったの?

 罰ゲーム?

 苦行?

 異世界蜘蛛への嫌がらせ?

 

 これは違う。

 これは当たり。

 

『影蛇』

 

『何だ?』

 

『このナマズっぽいやつ、あり』

 

『ありだな』

 

『次から見つけたら狩ろう』

 

『中層攻略の目的が増えたな』

 

『美味しいものは正義』

 

 中層は熱い。

 きつい。

 最悪。

 

 でも、ナマズは美味い。

 

 なら、少しだけ頑張れる気がする。

 

 いや、少しだけね。

 中層を許したわけじゃない。

 ナマズだけ許す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ナマズを食べてからというもの、私の意識は分かりやすくそっちへ向いた。

 

『ナマズー』

 

『探すな』

 

『ナマズー!』

 

『気持ちは分かるが、食欲で動くな』

 

『美味しいものは大事』

 

『否定はしない』

 

 否定しないんかい。

 

 ならいいじゃん。

 いや、良くないのは分かってる。

 

 美味しいものを探して死んだら意味がない。

 ここは中層。

 油断したら焼ける。

 落ちたら死ぬ。

 

 分かってる。

 分かってるけど、ナマズは探したい。

 

 そんな時だった。

 

『蜘蛛子』

 

『……うん?』

 

 影蛇の声が少し変わった。

 

 私は足を止め、マグマの向こうを見る。

 細長い何かが、ぬるりと動いていた。

 

 ナマズじゃない。

 もっと長い。

 もっと速い。

 

 鰻っぽい。

 ただし、マグマを泳ぐ鰻である。

 

 普通じゃない。

 そして、強そう。

 

 次の瞬間、火球が飛んできた。

 

『速い!』

 

『避けろ!』

 

 私は跳ぶ。

 火球が地面に当たって爆ぜる。

 

 さっきまでの魔物とは違う。

 火力も速度も上。

 

 逃げる?

 戦う?

 

 そう考える暇もほとんどなかった。

 向こうはもうこっちに気づいている。

 

 鰻がマグマから這い上がり、大口を開けて迫ってくる。

 

『影蛇!』

 

『表層で合わせる!』

 

『了解!』

 

 即答した。

 

 最初みたいな拒否感は、もうなかった。

 

 完全に平気、というわけではない。

 でも、影蛇が奥まで入ってこないことは分かっている。

 

 表層だけ。

 戦闘中だけ。

 それなら、使える。

 

 影蛇が私の影に憑く。

 奥には入らない。

 感覚は重ならない。

 でも、影の表面に黒い蛇が引っかかる。

 

 その重さは、もう邪魔ではなかった。

 

 その状態で走る。

 

 火球を避ける。

 尾を避ける。

 影蛇が足場を作る。

 火の粉を散らす。

 魔法で削る。

 

 鰻は速い。

 硬い。

 しつこい。

 

 まともに削るのはきつい。

 

 そこで影蛇が言った。

 

 口を狙う、と。

 

『また!?』

 

 思わず声が出た。

 

 ナマズと同じ。

 外から削るより、中に毒を入れた方が早い。

 

 理屈は分かる。

 分かるんだけど、相手はナマズより速い。

 口を開ける時間も短い。

 タイミングはずっと厳しい。

 

 危ない。

 でも、やるしかない。

 

 鰻が突っ込んでくる。

 私は真正面から迎えた。

 

 まともに受け止めるためじゃない。

 ギリギリまで引きつけて、毒を口に入れるため。

 

 影蛇が足場を少しだけせり上げる。

 火の粉が払われる。

 鰻の突進が、ほんの少し乱れる。

 

『今!』

 

『食らえ!』

 

 液体球状の蜘蛛毒が、鰻の口へ飛び込む。

 

 飲み込んだ。

 

 直後、鰻の体が大きく跳ねた。

 

『効いた!』

 

『まだだ!』

 

 まだだった。

 

 鰻は暴れる。

 火球を吐く。

 地面を叩く。

 火の粉を撒き散らす。

 

 私は避ける。

 影蛇が壁を作る。

 闇魔法が口元へ撃ち込まれる。

 私はさらに毒を重ねる。

 

 ナマズの時みたいに、すぐには終わらない。

 でも、最初に入れた毒は効いている。

 動きは鈍っている。

 

『もう一押し!』

 

『分かってる!』

 

 私は踏み込む。

 

 糸は使わない。

 熱で長く保たないし、今は一瞬の方がいい。

 

 毒をまとわせた爪に力を込める。

 口元の傷へ叩き込む。

 

 長く触れれば、こっちが焼かれる。

 だから、裂いて、離れる。

 

 そこへ影蛇の魔法が重なる。

 

 鰻の巨体が大きく痙攣した。

 

 そして、動かなくなった。

 

 ようやく勝った。

 

 勝ったけど……。

 

 疲れた。

 熱い。

 怖かった。

 

 鰻、強い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《経験値が一定に達しました。個体、スモールポイズンタラテクトがLV10になりました》

《各種基礎能力値が上昇しました》

《スキル熟練度レベルアップボーナスを取得しました》

《スキルポイントを入手しました》

《条件を満たしました。個体、スモールポイズンタラテクトが進化可能です》

 

 天の声(仮)が、そう告げた。

 

 私は、ぴたりと動きを止める。

 

『……来た』

 

 レベル。

 いや、それだけじゃない。

 

 進化。

 

 来た。

 ようやく来た。

 

 中層に入って、熱くて、火球が飛んで、糸が使いにくくて、ナマズは美味しくて、鰻は強くて。

 その全部を越えて、やっと次に進める。

 

『進化か?』

 

『うん』

 

 影蛇に返す。

 その影蛇も、少し間を置いた。

 

『影蛇?』

 

『いや』

 

 影蛇が、熱で荒れた息を整えるようにして言った。

 

『俺も進化できる』

 

『おお! じゃあダブル進化じゃん!』

 

 思わず声が上がった。

 

 同時。

 ほとんど同じタイミング。

 

 なんか縁起がいい。

 二匹でここまで来た感じがする。

 

 いや、もちろん私の方が頑張ったけど?

 影蛇もまあまあ頑張ったけどね?

 でも私が避けて、毒を入れて、鰻に踏み込んだわけだし?

 

 うん。

 二匹で勝った。

 そういうことにしておこう。

 

『同時にはしないぞ』

 

『えー』

 

『片方が進化している間、片方が見張りだ』

 

『それはそう』

 

 それはそう。

 ここは中層。

 寝ている間に火球が飛んできたら終わる。

 進化中に魔物が来ても終わる。

 

 だから、片方ずつ。

 安全第一。

 

 私は倒れた鰻を見る。

 

 でかい。

 長い。

 硬い。

 強かった。

 

 ……これ、食べるだけじゃなくて、使えるのでは?

 

 食べるのは進化後。

 まずは、安全確保。

 

 中層の熱は、まだ私たちを焼いている。

 マグマは赤く揺れている。

 どこを見ても危ない。

 

 でも、進化できる。

 強くなれる。

 

 なら、まだ進める。

 

 私は、影蛇を見る。

 

 さっきまで私の影にいた黒い蛇は、今は少し離れた場所にいる。

 近すぎない。

 でも、遠すぎない。

 

 その距離が、前より少しだけ自然に思えた。

 

 表層接続は、もう最初ほど怖くはない。

 

 影蛇は、勝手に奥まで入ってこなかった。

 私が駄目と言えば止まる。

 戦闘中だけなら、ちゃんと合わせられる。

 

 もちろん、勝手に奥まで入ったら許さない。

 そこは別問題。

 

 でも、まあ。

 

 相棒ってことくらいは、認めてやらなくもない。

 

 とりあえずね!




TIPS:現在の影蛇のステータス

《スモールグレイヴウンブラペント LV10 名前 なし(黒巳怜士)
 ステータス
 HP:147/147(緑)
 MP:599/599(青)
 SP:195/195(黄)
   :164/164(赤)
 平均攻撃能力:184
 平均防御能力:190
 平均魔法能力:353
 平均抵抗能力:113
 平均速度能力:203
 スキル
【魂欲】【HP自動回復LV7】【MP高速回復LV2】【MP消費大緩和LV2】【魔力精密操作LV4】【SP回復速度LV8】【SP消費緩和LV8】【毒強化LV3】【気闘法LV1】【毒攻撃LV3】【腐蝕攻撃LV1】【外道攻撃LV4】【毒合成LV8】【投擲LV1】【連携LV6】【遠話LV3】【集中LV10】【思考加速LV2】【予測LV8】【並列思考LV10】【高速演算LV3】【命中LV5】【回避LV5】【記録LV7】【鑑定LV10】【探知LV9】【隠密LV10】【隠蔽LV4】【無音LV8】【影憑LV8】【風魔法LV7】【土魔法LV7】【外道魔法LV10】【影魔法LV10】【闇魔法LV7】【毒魔法LV8】【奇跡魔法LV3】【遊泳LV1】【過食LV7】【火耐性LV3】【風耐性LV2】【土耐性LV2】【闇耐性LV9】【猛毒耐性LV1】【麻痺耐性LV4】【石化耐性LV2】【酸耐性LV4】【腐蝕耐性LV5】【気絶耐性LV1】【恐怖耐性LV5】【外道無効】【苦痛無効】【痛覚軽減LV2】【視覚強化LV5】【暗視LV10】【視覚領域拡張LV1】【聴覚強化LV7】【嗅覚強化LV3】【味覚強化LV4】【触覚強化LV6】【生命LV9】【魔蔵LV3】【瞬発LV8】【持久LV8】【剛力LV1】【堅牢LV1】【道士LV6】【護法LV6】【疾走LV8】【強欲】【慈悲】【征服】【安寧】【神性領域拡張LV5】【自立】【自己理解】【禁忌LV6】【n%I=W】
 スキルポイント:260
 称号
【異例な魂】【神希望】【悪食】【暗殺者】【魔物殺し】【毒術師】【強欲の支配者】【魂へ触れる者】【無慈悲】【魔物の殺戮者】【慈悲の支配者】》
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。