三度目の生は蛇の姿で   作:鯱タクワン

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(※前回の本文を少し大きめに修正しています)
(※今回は前回と同じ時間帯の蜘蛛子視点なので、この話だけでも大きな問題なく読めると思います)
(※前回を前書き追加前に読まれた方は、戦闘描写や一部の流れが変わっているため、合わせて読み直していただけるとより分かりやすいかもしれません)
(※この前書きは数日後に削除予定です)


蜘5.熱い! 怖い! でもナマズは美味い!

 熱い。

 

 いや、熱いっていうか、熱い。

 語彙が死ぬくらい熱い。

 

 中層。

 前に火耐性の訓練で、ちょっとだけ足を踏み入れたことはある。

 

 あるけど。

 

 準備万端で、いつでも逃げられる状態で、ちょっと熱さを確認するのと。

 地龍から逃げ込む形で、休憩なし、準備なし、退路ほぼなしで突っ込むのとでは、話が違う。

 

 違いすぎる。

 

『あっつ!? やっぱりあっついんですけど!?』

 

『同感だ!』

 

『どうにかして!?』

 

『できるならしてる!』

 

 うん。

 それはそう。

 

 でも文句は言いたい。

 だって熱いから。

 

 背後からは、もう地龍の気配は追ってきていないらしい。

 そこだけは助かった。

 あいつまで中層に突っ込んできていたら、さすがに終わっていた。

 

 でも、助かったからといって状況が良いわけではない。

 

 前にはマグマ。

 横にもマグマ。

 地面も熱い。

 空気も熱い。

 下手に落ちたら即丸焼き。

 

 蜘蛛の丸焼き一丁上がりである。

 

 上がってたまるか。

 

 私は地面を走りながら、できるだけ熱のマシそうな足場を選ぶ。

 影蛇も後ろからついてくる。

 

 黒い蛇。

 熱吸収しそう。

 いや、実際にどうなのかは知らないけど、見た目的に暑そう。

 

 そんなことを考えていた時だった。

 

 マグマの中で、何かが動いた。

 

『影蛇! あれ!』

 

 影蛇が反応する。

 たぶん【探知】と【鑑定】で確認している。

 

 マグマの下にいる魔物。

 火属性。

 火球を撃ってくるタイプ。

 

 聞いただけで嫌になる。

 

 影蛇は、最初は相手に火球を撃たせて、MP切れを待つつもりだった。

 地味。

 すごく地味。

 

 でも、マグマの中に飛び込むよりは百倍マシである。

 

 そう思っていたのに、途中で影蛇が変なことを思いついた。

 

 魔法なら、マグマの中にも届く。

 

 確かに。

 確かに理屈は分かる。

 

 私の糸は熱で弱る。

 私はマグマに入れない。

 でも影蛇の魔法なら、マグマの中にも攻撃できる。

 

 理屈は分かる。

 

 分かるんだけど。

 

『影蛇! めっちゃそっち見てるよ!』

 

『見てるな!』

 

 見てるな、じゃないが!?

 

 当然、攻撃された魔物は影蛇を狙った。

 火球が飛ぶ。

 影蛇が避けようとする。

 けど、火の光で影が揺れるし、足場も悪いし、魔法を撃った直後で反応も遅い。

 

 危ない。

 

『こっち!』

 

 私は糸を飛ばして、影蛇の体を引っ張った。

 

 直後、さっきまで影蛇がいた場所が焼ける。

 

『危なっ!?』

 

『危ないのはこっちの台詞なんですけど!?』

 

『悪い!』

 

 本当に悪いよ!

 

 そこからはまあ、ひどかった。

 

 影蛇が魔法を撃つ。

 敵が影蛇を狙う。

 私が糸で引く。

 影蛇が壁を作る。

 私が横から牽制する。

 

 忙しい。

 熱い。

 火球が怖い。

 

 魔法が届くのは分かった。

 攻撃できるのも分かった。

 でも、影蛇が真正面から火球を避け続けるのは危ない。

 

 というか、普通に焼き蛇になりかけていた。

 

 焼き蛇。

 いや笑えない。

 

 何とか倒した後、影蛇の方でも何かあったっぽい。

 

 私は詳しくは知らない。

 でも、火耐性を奪ったらしい。

 

 便利だなー。

 ずるいなー。

 

 いや、味方だから助かるし、こっちにも【傲慢】はあるんだけどね?

 でもちょっとずるい。

 

『影蛇、平気?』

 

『平気じゃないけど、少しはマシになった気がする』

 

『それ平気って言わないんだよなぁ』

 

『奇遇だな。俺もそう思う』

 

 中層一戦目。

 

 勝った。

 勝ったけど、やり方としては危ない。

 

『今の、次もやる?』

 

『……やり方を変える』

 

『でしょうね』

 

 そりゃそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 影蛇が出した案は二つ。

 

 一つ。

 相手のMP切れを待つ。

 

 地味。

 でも安全。

 

 二つ。

 影蛇が魔法で削る。

 ただし、その間の回避は私に任せる。

 

 そこまでは分かる。

 分かるんだけど、問題はその手段だった。

 

『【影憑】を使う』

 

『却下』

 

 即答である。

 

 だって【影憑】だよ?

 あの猿戦で使ったやつだよ?

 

 怖かった。

 でも助かった。

 あれがなければ、たぶん死んでいた。

 

 その全部が本当だ。

 

 けど、だからって平気になったわけじゃない。

 

 自分の中に別の何かが入り込む感じ。

 自分の感覚と、影蛇の感覚が重なる感じ。

 あれは便利だったけど、普通に怖い。

 

 そう思っていたら、影蛇は「猿戦の時みたいなやつじゃない」と言った。

 

 表層接続。

 

 名前は今つけたらしい。

 雑。

 

 けど、説明を聞くと、猿戦の時とは確かに違う。

 

 私の影に引っかかるだけ。

 感覚は読まない。

 MPもSPも流さない。

 魂の奥にも踏み込まない。

 動きは全部私任せ。

 影蛇は魔法と【探知】に集中する。

 

 つまり、私は避ける。

 影蛇は撃つ。

 

 それだけ。

 

 ……本当にそれだけなら、まあ、猿戦よりはマシ。

 

 猿戦の時は状況が違った。

 猿が多すぎた。

 死角も多すぎた。

 糸も、回避も、外から指示されているだけじゃ間に合わなかったと思う。

 

 だから、あれは仕方ない。

 

 怖かったけど。

 

 今回はそこまでしない。

 そう言われると、完全に拒む理由もなくなる。

 

 嫌ではある。

 普通に嫌ではある。

 自分の影に黒い蛇が憑くとか、落ち着かないに決まっている。

 

 でも、中層では影蛇の魔法が必要だ。

 私だけだとマグマの中に手が出しにくい。

 影蛇だけだと火球を避け続けるのが危ない。

 

 なら、分担するしかない。

 

『……私を乗り物扱いしてない?』

 

『……してない』

 

『今の間、絶対してるやつ』

 

『してない』

 

『まあ、理屈は分かったけど』

 

 乗り物扱い疑惑は晴れない。

 でも、理屈は分かった。

 

 だから、条件を出す。

 

 変なことしたら即切る。

 奥まで入ったら殺す。

 感覚を読んだら駄目。

 魂とか喰おうとしたら論外。

 

 影蛇は全部に頷いた。

 

 なら、よし。

 

 戦闘中だけ。

 表層だけ。

 変なことをしたら即終了。

 

 これなら、使ってもいい。

 

 ……相棒だし。

 

 いや、今のはまだなし。

 戦力的に。

 うん、戦力的に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 表層接続は、思っていたよりはマシだった。

 

 猿戦の時みたいに、感覚が重なる感じはない。

 敵の位置や動きが、頭の奥へ直接流れ込んでくることもない。

 体を勝手に動かされる感じもない。

 

 ただ、影が少し重い。

 

 私の影に、影蛇が引っかかっている。

 そういう感じ。

 

 落ち着かないかと言われれば、落ち着かない。

 でも、我慢できないほどじゃない。

 

 これなら、戦闘中だけなら許容範囲。

 たぶん。

 たぶんね!

 

 その後は、中層での戦い方を少しずつ作っていった。

 

 私が前。

 影蛇が後ろ。

 

 私が避ける。

 影蛇が撃つ。

 

 敵がマグマに潜っている間は、無理に追わない。

 火球を撃たせて、地上に出てきたところを狙う。

 早く削る必要がある時は、表層接続で私の影に影蛇を乗せる。

 

 私の糸は使えないわけじゃない。

 でも、熱ですぐ弱る。

 だから、罠や拘束には向かない。

 一瞬の牽制か、回避補助くらい。

 

 うん。

 中層、糸使いに優しくない。

 

 ただし、表層接続も万能じゃない。

 

 感覚を重ねないから、影蛇の指示は【遠話】頼り。

 そして、指示が雑だと困る。

 

『次、下』

 

『下!? 下ってどっちの下!?』

 

『足元!』

 

『最初からそう言え!』

 

 蜘蛛の下っていろいろあるんですけど!?

 

 まあ、今は足元だったけど。

 でも、そういう問題ではない。

 

『悪い』

 

『あとで反省会ね!』

 

『はい』

 

 反省会案件である。

 

 それでも、何度か繰り返すうちに、指示は短くなっていった。

 

 右。

 上。

 待て。

 止まる。

 

 そのくらいなら、すぐ動ける。

 

 慣れた、というには早い。

 安全になった、なんて言う気もない。

 

 でも、少しずつ噛み合ってきているのは分かった。

 

『今回は削る。表層で行くぞ』

 

『りょーかい。乗客は暴れないように』

 

『乗客じゃない』

 

『さっき乗り物扱いしてたくせに』

 

『してない』

 

『はいはい』

 

 軽口を叩く。

 

 そうでもしないと、自分の影に別の何かが憑いている感覚を意識しすぎる。

 意識しすぎると、余計に落ち着かない。

 

 だから茶化す。

 

 乗客。

 影に乗る蛇。

 

 ……いや、やっぱり乗客じゃん。

 

 でも、その乗客はよく働いた。

 

 火球が飛ぶ。

 私が避ける。

 影蛇が魔法を撃つ。

 敵が地上に出たところで、私が毒をまとわせた爪で切り込む。

 長く触れない。

 裂いて、離れる。

 

 それだけ。

 

 下層の戦い方とは違う。

 猿戦の時とも違う。

 

 中層用の戦い方。

 

 熱い。

 怖い。

 やりにくい。

 

 でも、生き残るためには慣れるしかない。

 

 影蛇がたまに黙ることがあった。

 表層接続の最中、ほんの少しだけ間ができる。

 

 何かを考えている感じ。

 

『影蛇』

 

『何だ?』

 

『今、変なこと考えてない?』

 

『……考えてない』

 

『間があった』

 

『気のせいだ』

 

『ふーん?』

 

 軽く言った。

 でも、全部が冗談というわけでもない。

 

 影蛇は危ない。

 それは分かっている。

 

 魂がどうとか。

 喰いたいとか。

 そういう方向に、ふと沈みかける時がある。

 

 けれど、今は戻ってきている。

 私が言えば、ちゃんと距離を取る。

 勝手に奥へ入ってこない。

 

 だから、今はいい。

 

 戦闘中だけ。

 必要な時だけ。

 

 私は影蛇を影に乗せて走る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 魔物は、基本的に食べにくい。

 

 硬い。

 変な味がする。

 そして、だいたい不味い。

 

 で、中層はその中でもひどい。

 

 ただでさえ熱で体力を削られるのに、食事まで不味い。

 この世界、私に優しくする気ある?

 ない?

 知ってた。

 

 影蛇は、基本的には倒した魔物の肉を食べる。

 私も食べる。

 

 ただ、影蛇の【魂欲】がきつくなった時は別。

 その時は、肉を諦めて魂の方を喰う。

 

 魂を喰われた魔物は灰になる。

 つまり、食料にはできない。

 

 正直、もったいない。

 めちゃくちゃもったいない。

 

 でも、影蛇が変になる方が困る。

 だから、そういう時は先に一言入れろということになっている。

 

 食料か、影蛇の安定か。

 

 どっちも大事。

 だから困る。

 

 そんな中、中層での動きに少しずつ慣れてきた頃だった。

 

『影蛇、あれ』

 

『……お』

 

 マグマの中から、ぬるりと出てきた魔物。

 

 口がでかい。

 見た目は、ナマズっぽい。

 でもマグマから出てくる時点で普通のナマズではない。

 

 魔物ナマズである。

 

 影蛇の反応が、少し変わった。

 

『やるぞ』

 

『え、急にやる気』

 

 急にやる気を出した。

 何?

 あれ何かあるの?

 食べられるの?

 美味しいの?

 

 いや、まだ分からない。

 分からないけど、影蛇がああいう反応をする時は、だいたい何か知っている。

 

 そして私は腹が減っている。

 

 なら、やるしかない。

 

 ナマズは大口を開けて突っ込んできた。

 私を丸呑みにする気満々の口である。

 

 冗談じゃない。

 

『蜘蛛子、口だ!』

 

『口!?』

 

『毒を入れろ! 中からなら通る!』

 

『なるほど分かりやすい!』

 

 外が硬いなら中を狙う。

 シンプル。

 実にシンプル。

 

 私は【毒合成】で液体の球を作る。

 

 蜘蛛毒ボール。

 名前は今つけた。

 

 ナマズがもう一度、大口を開けてくる。

 私はギリギリまで引きつけた。

 

 影蛇が横から火の粉を散らし、足場を少しだけ調整する。

 突進の角度がずれる。

 

 そこへ、蜘蛛毒ボール投入。

 

 ナマズは、私の代わりに毒の球を丸ごと飲み込んだ。

 

 直後、巨体が大きく跳ねる。

 

『うわ、効いた!?』

 

『効いてる!』

 

 そこからは早かった。

 

 毒が内側から効いている。

 影蛇が魔法で削る。

 私は距離を取りながら、さらに毒を重ねる。

 

 ナマズが痙攣して、動かなくなった。

 

 勝利。

 

 そして、食事。

 

『……食べていい?』

 

『いいぞ』

 

『では、いただきます』

 

 正直、期待はしていなかった。

 

 魔物食である。

 だいたい不味い。

 中層の魔物ならなおさら不味い。

 

 そう思っていた。

 

 思っていたんだけど。

 

 ……うまい。

 

 え?

 

 うまい。

 

 何これ。

 ちゃんと食事。

 ちゃんと美味しい。

 

 今までの魔物食は何だったの?

 罰ゲーム?

 苦行?

 異世界蜘蛛への嫌がらせ?

 

 これは違う。

 これは当たり。

 

『影蛇』

 

『何だ?』

 

『このナマズっぽいやつ、あり』

 

『ありだな』

 

『次から見つけたら狩ろう』

 

『中層攻略の目的が増えたな』

 

『美味しいものは正義』

 

 中層は熱い。

 きつい。

 最悪。

 

 でも、ナマズは美味い。

 

 なら、少しだけ頑張れる気がする。

 

 いや、少しだけね。

 中層を許したわけじゃない。

 ナマズだけ許す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ナマズを食べてからというもの、私の意識は分かりやすくそっちへ向いた。

 

『ナマズー』

 

『探すな』

 

『ナマズー!』

 

『気持ちは分かるが、食欲で動くな』

 

『美味しいものは大事』

 

『否定はしない』

 

 否定しないんかい。

 

 ならいいじゃん。

 いや、良くないのは分かってる。

 

 美味しいものを探して死んだら意味がない。

 ここは中層。

 油断したら焼ける。

 落ちたら死ぬ。

 

 分かってる。

 分かってるけど、ナマズは探したい。

 

 そんな時だった。

 

『蜘蛛子』

 

『……うん?』

 

 影蛇の声が少し変わった。

 

 私は足を止め、マグマの向こうを見る。

 細長い何かが、ぬるりと動いていた。

 

 ナマズじゃない。

 もっと長い。

 もっと速い。

 

 鰻っぽい。

 ただし、マグマを泳ぐ鰻である。

 

 普通じゃない。

 そして、強そう。

 

 次の瞬間、火球が飛んできた。

 

『速い!』

 

『避けろ!』

 

 私は跳ぶ。

 火球が地面に当たって爆ぜる。

 

 さっきまでの魔物とは違う。

 火力も速度も上。

 

 逃げる?

 戦う?

 

 そう考える暇もほとんどなかった。

 向こうはもうこっちに気づいている。

 

 鰻がマグマから這い上がり、大口を開けて迫ってくる。

 

『影蛇!』

 

『表層で合わせる!』

 

『了解!』

 

 即答した。

 

 最初みたいな拒否感は、もうなかった。

 

 完全に平気、というわけではない。

 でも、影蛇が奥まで入ってこないことは分かっている。

 

 表層だけ。

 戦闘中だけ。

 それなら、使える。

 

 影蛇が私の影に憑く。

 奥には入らない。

 感覚は重ならない。

 でも、影の表面に黒い蛇が引っかかる。

 

 その重さは、もう邪魔ではなかった。

 

 その状態で走る。

 

 火球を避ける。

 尾を避ける。

 影蛇が足場を作る。

 火の粉を散らす。

 魔法で削る。

 

 鰻は速い。

 硬い。

 しつこい。

 

 まともに削るのはきつい。

 

 そこで影蛇が言った。

 

 口を狙う、と。

 

『また!?』

 

 思わず声が出た。

 

 ナマズと同じ。

 外から削るより、中に毒を入れた方が早い。

 

 理屈は分かる。

 分かるんだけど、相手はナマズより速い。

 口を開ける時間も短い。

 タイミングはずっと厳しい。

 

 危ない。

 でも、やるしかない。

 

 鰻が突っ込んでくる。

 私は真正面から迎えた。

 

 まともに受け止めるためじゃない。

 ギリギリまで引きつけて、毒を口に入れるため。

 

 影蛇が足場を少しだけせり上げる。

 火の粉が払われる。

 鰻の突進が、ほんの少し乱れる。

 

『今!』

 

『食らえ!』

 

 液体球状の蜘蛛毒が、鰻の口へ飛び込む。

 

 飲み込んだ。

 

 直後、鰻の体が大きく跳ねた。

 

『効いた!』

 

『まだだ!』

 

 まだだった。

 

 鰻は暴れる。

 火球を吐く。

 地面を叩く。

 火の粉を撒き散らす。

 

 私は避ける。

 影蛇が壁を作る。

 闇魔法が口元へ撃ち込まれる。

 私はさらに毒を重ねる。

 

 ナマズの時みたいに、すぐには終わらない。

 でも、最初に入れた毒は効いている。

 動きは鈍っている。

 

『もう一押し!』

 

『分かってる!』

 

 私は踏み込む。

 

 糸は使わない。

 熱で長く保たないし、今は一瞬の方がいい。

 

 毒をまとわせた爪に力を込める。

 口元の傷へ叩き込む。

 

 長く触れれば、こっちが焼かれる。

 だから、裂いて、離れる。

 

 そこへ影蛇の魔法が重なる。

 

 鰻の巨体が大きく痙攣した。

 

 そして、動かなくなった。

 

 ようやく勝った。

 

 勝ったけど……。

 

 疲れた。

 熱い。

 怖かった。

 

 鰻、強い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《経験値が一定に達しました。個体、スモールポイズンタラテクトがLV10になりました》

《各種基礎能力値が上昇しました》

《スキル熟練度レベルアップボーナスを取得しました》

《スキルポイントを入手しました》

《条件を満たしました。個体、スモールポイズンタラテクトが進化可能です》

 

 天の声(仮)が、そう告げた。

 

 私は、ぴたりと動きを止める。

 

『……来た』

 

 レベル。

 いや、それだけじゃない。

 

 進化。

 

 来た。

 ようやく来た。

 

 中層に入って、熱くて、火球が飛んで、糸が使いにくくて、ナマズは美味しくて、鰻は強くて。

 その全部を越えて、やっと次に進める。

 

『進化か?』

 

『うん』

 

 影蛇に返す。

 その影蛇も、少し間を置いた。

 

『影蛇?』

 

『いや』

 

 影蛇が、熱で荒れた息を整えるようにして言った。

 

『俺も進化できる』

 

『おお! じゃあダブル進化じゃん!』

 

 思わず声が上がった。

 

 同時。

 ほとんど同じタイミング。

 

 なんか縁起がいい。

 二匹でここまで来た感じがする。

 

 いや、もちろん私の方が頑張ったけど?

 影蛇もまあまあ頑張ったけどね?

 でも私が避けて、毒を入れて、鰻に踏み込んだわけだし?

 

 うん。

 二匹で勝った。

 そういうことにしておこう。

 

『同時にはしないぞ』

 

『えー』

 

『片方が進化している間、片方が見張りだ』

 

『それはそう』

 

 それはそう。

 ここは中層。

 寝ている間に火球が飛んできたら終わる。

 進化中に魔物が来ても終わる。

 

 だから、片方ずつ。

 安全第一。

 

 私は倒れた鰻を見る。

 

 でかい。

 長い。

 硬い。

 強かった。

 

 ……これ、食べるだけじゃなくて、使えるのでは?

 

 食べるのは進化後。

 まずは、安全確保。

 

 中層の熱は、まだ私たちを焼いている。

 マグマは赤く揺れている。

 どこを見ても危ない。

 

 でも、進化できる。

 強くなれる。

 

 なら、まだ進める。

 

 私は、影蛇を見る。

 

 さっきまで私の影にいた黒い蛇は、今は少し離れた場所にいる。

 近すぎない。

 でも、遠すぎない。

 

 その距離が、前より少しだけ自然に思えた。

 

 表層接続は、もう最初ほど怖くはない。

 

 影蛇は、勝手に奥まで入ってこなかった。

 私が駄目と言えば止まる。

 戦闘中だけなら、ちゃんと合わせられる。

 

 もちろん、勝手に奥まで入ったら許さない。

 そこは別問題。

 

 でも、まあ。

 

 相棒ってことくらいは、認めてやらなくもない。

 

 とりあえずね!




TIPS:現在の影蛇のステータス

《スモールグレイヴウンブラペント LV10 名前 なし(黒巳怜士)
 ステータス
 HP:147/147(緑)
 MP:599/599(青)
 SP:195/195(黄)
   :164/164(赤)
 平均攻撃能力:184
 平均防御能力:190
 平均魔法能力:353
 平均抵抗能力:113
 平均速度能力:203
 スキル
【魂欲】【HP自動回復LV7】【MP高速回復LV2】【MP消費大緩和LV2】【魔力精密操作LV4】【SP回復速度LV8】【SP消費緩和LV8】【毒強化LV3】【気闘法LV1】【毒攻撃LV3】【腐蝕攻撃LV1】【外道攻撃LV4】【毒合成LV8】【投擲LV1】【連携LV6】【遠話LV3】【集中LV10】【思考加速LV2】【予測LV8】【並列思考LV10】【高速演算LV3】【命中LV5】【回避LV5】【記録LV7】【鑑定LV10】【探知LV9】【隠密LV10】【隠蔽LV4】【無音LV8】【影憑LV8】【風魔法LV7】【土魔法LV7】【外道魔法LV10】【影魔法LV10】【闇魔法LV7】【毒魔法LV8】【奇跡魔法LV3】【遊泳LV1】【過食LV7】【火耐性LV3】【風耐性LV2】【土耐性LV2】【闇耐性LV9】【猛毒耐性LV1】【麻痺耐性LV4】【石化耐性LV2】【酸耐性LV4】【腐蝕耐性LV5】【気絶耐性LV1】【恐怖耐性LV5】【外道無効】【苦痛無効】【痛覚軽減LV2】【視覚強化LV5】【暗視LV10】【視覚領域拡張LV1】【聴覚強化LV7】【嗅覚強化LV3】【味覚強化LV4】【触覚強化LV6】【生命LV9】【魔蔵LV3】【瞬発LV8】【持久LV8】【剛力LV1】【堅牢LV1】【道士LV6】【護法LV6】【疾走LV8】【強欲】【慈悲】【征服】【安寧】【神性領域拡張LV5】【自立】【自己理解】【禁忌LV6】【n%I=W】
 スキルポイント:260
 称号
【異例な魂】【神希望】【悪食】【暗殺者】【魔物殺し】【毒術師】【強欲の支配者】【魂へ触れる者】【無慈悲】【魔物の殺戮者】【慈悲の支配者】》
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