(ステータスの数値を原作を参考に、少し調整しました)
炎海が、盛り上がった。
マグマの表面が大きく波打ち、その下にあった巨大な熱源が、ゆっくりと姿を現す。
火竜。
赤黒い鱗。
岩みたいに分厚い体。
喉奥で渦巻く、濃すぎる火の魔力。
鰻をさらに竜へ近づけたような、長い竜体。
魚というより、完全に竜種と呼ぶべき姿だった。
その巨体がマグマの中から身を起こした瞬間、周囲の反応が一斉に変わった。
鰻。
ナマズ。
タツノオトシゴ。
今まで中層で散々見てきた魔物たちが、ばらばらに暴れているのではなく、火竜を中心にして動き始める。
【統率】。
さっき見えたスキル名が、嫌でも頭に浮かぶ。
蜘蛛子の【叡智】が拾った盤面が、共存接続を通して流れ込んでくる。
敵の数。
足場。
マグマの流れ。
火球の軌道。
逃げ道。
広く、早い。
けど、それだけじゃ足りない。
俺はその盤面の上から、火竜の魔力の流れを深く見る。
火竜から配下へ伸びる、細い命令の線。
タツノオトシゴの喉奥に集まる火の魔力。
鰻が身を捻る前兆。
マグマの下でナマズが跳ねる直前の揺れ。
全部が、繋がっている。
『右』
『罠』
『うげ』
言葉はそれだけでよかった。
右の岩場は、確かに空いている。
けど、火竜の魔力がそこへ伸びていた。
蜘蛛子の意識に、その流れを渡す。
火球。
着弾。
砕ける足場。
まだ起きていない光景が、起きる可能性として繋がる。
未来が見えたわけじゃない。
ただ、このまま動けばそうなると分かるだけだ。
『左下』
『りょ』
蜘蛛子が右へ跳ぶ寸前で足を止め、左下へ体を流す。
直後、右の岩場に火球が落ちた。
岩場が砕け、破片がマグマへ沈む。
赤い飛沫が跳ね上がり、熱風が蜘蛛子の体を煽った。
そのまま右へ行っていたら、逃げ場ごと潰されていた。
『性格悪っ』
『同感』
返す言葉も短い。
長々と説明する必要はない。
俺が見たものは、接続越しに蜘蛛子へ流れている。
蜘蛛子が拾ったものも、俺へ流れてくる。
蜘蛛子が広く見る。
俺が深く読む。
蜘蛛子が動く。
それだけでいい。
火竜が咆哮した。
その声に合わせて、タツノオトシゴたちが一斉に顔を上げる。
喉奥に火が灯り、火球が並ぶ。
弾幕。
ただ正面から撃つだけじゃない。
蜘蛛子が避ける先へ、順番に火球が置かれている。
上へ逃げれば、タツノオトシゴ。
左へ抜ければ、鰻。
下へ落ちれば、ナマズ。
右へ戻れば、火竜の火球。
逃げ場があるようで、ない。
『誘導』
『見えた』
蜘蛛子が低く返す。
その直後、蜘蛛子は逃げるのをやめた。
避けるのではなく、崩す。
糸が飛ぶ。
熱で長くは保たない。
けど、一瞬なら使える。
岩場へ。
鰻へ。
タツノオトシゴの首元へ。
蜘蛛子が空中で体を捻り、火球の間を抜ける。
火球は追ってくる。
着弾すれば、岩場が砕ける。
逃げ道がまた一つ消える。
だが、蜘蛛子は消える前にそこを蹴っていた。
火球。
鰻。
ナマズ。
また火球。
避けるたびに詰められる包囲の中で、蜘蛛子は逆に糸を残していく。
細い糸。
すぐ焼ける糸。
けど、全部が無駄じゃない。
『左、切れる』
『使う』
蜘蛛子が焼けかけの糸を引く。
タツノオトシゴの一体が、わずかに姿勢を崩した。
そこへ、俺は毒霧を流し込む。
紫がかった霧が、熱に揺れながら広がる。
普通なら、熱で散る。
火球の爆風で飛ばされる。
マグマの上では、長く留まらない。
だから、ただ撒くだけじゃ意味がない。
蜘蛛子が残した糸。
火球の爆風。
マグマから立ち上る熱の流れ。
火竜の統率で、タツノオトシゴたちが通らざるを得ない位置。
その全部を見て、毒霧を置く場所を決める。
『乗せる』
『ん』
蜘蛛子が糸を引き、タツノオトシゴの進路をわずかにずらす。
俺はそこへ風を流し、毒霧を押し込んだ。
タツノオトシゴの群れが、毒霧へ突っ込む。
数体が暴れ、火球を吐き損ねる。
別の火球が味方に当たり、爆発が起きる。
包囲に穴が開いた。
穴が開いたなら、広げる。
俺は蜘蛛子の影から、さらに魔力を伸ばした。
まずは土。
足場そのものを作るほどの余裕はない。
けど、岩場の縁を崩し、マグマの飛沫を上げるくらいならできる。
土魔法が岩場を砕く。
跳ねた破片とマグマが、タツノオトシゴの進路を塞いだ。
次に風。
火球を消すことはできない。
火の勢いが強すぎる。
けど、軌道をほんの少し歪めることならできる。
俺の流した風が、タツノオトシゴの火球を蜘蛛子の脚一本分だけ外す。
『助かる』
『次、右』
短く返して、闇を撃つ。
黒い槍が、火球を吐こうとしていたタツノオトシゴの喉元へ突き刺さる。
火の魔力が乱れ、火球が形になる前に潰れた。
直撃で倒すほどの威力じゃない。
けど、それでいい。
蜘蛛子が動くための隙を作る。
それが今の俺の役目だ。
『開いた』
『行く』
蜘蛛子が抜ける。
俺の毒霧が群れを崩し、土が足場を乱し、風が火球をずらし、闇が敵の喉を潰す。
その隙間を、蜘蛛子が糸と機動で広げていく。
そこへ、俺は【強欲】を差し込む。
まず狙うのは、まだ持っていない火属性系のスキル。
【火攻撃】。
【火強化】。
俺と火属性の相性は良くない。
影、魂、境界。
俺の方向性はそっちであって、火を振り回す方向ではない。
けど、中層にいる今だからこそ、火属性系のスキルは手に入れやすい。
後になって欲しくなっても、同じように都合よく取れるとは限らない。
それに、戦闘用として微妙でも、研究用なら価値はある。
火の魔力がどう攻撃へ変わるのか。
火属性の威力を、スキルがどう底上げしているのか。
スキルがどこを補助して、どこから先を自分で制御しなきゃいけないのか。
せっかくだ。
取れる時に取っておく。
《スキル【強欲】の効果により、対象からスキル【火攻撃LV1】を奪取しました》
《スキル【強欲】の効果により、対象からスキル【火強化LV1】を奪取しました》
よし。
欲しいものは取れた。
後はスキルポイントだ。
以前なら、欲しいものとは違うものを掴むこともあった。
けど、今は見える。
【慧眼】で、相手の内側にあるものの輪郭を見る。
【強欲】を、そこへ差し込む。
大きくはない。
けど、タツノオトシゴは数がいる。
一体一体から少しずつでも、積み重なれば十分だ。
タツノオトシゴが落ちる。
火球が減る。
弾幕に隙間ができる。
『次』
『鰻』
蜘蛛子が短く言う。
鰻が火をまとって突っ込んでくる。
速い。
硬い。
熱い。
真正面から受ければ、それだけで危ない。
けど、見えている。
鰻の突進。
火竜の命令。
火球の射線。
全部が重なる場所へ、蜘蛛子が糸を置いた。
鰻が糸を焼き切る。
けれど、その一瞬で軌道がずれる。
火球が、鰻の横腹に当たった。
爆発。
鰻の体が大きく揺れる。
『今』
『はいよ』
蜘蛛子が飛び込む。
毒をまとわせた鎌が、鰻の口元へ叩き込まれる。
俺も【強欲】を向けた。
奪うものは決めてある。
【竜鱗】。
鰻が持つ、竜種の鱗のスキル。
今の中層では、防御の手札はいくらあってもいい。
《スキル【強欲】の効果により、対象からスキル【竜鱗LV1】を奪取しました》
よし。
体の表面に、薄く魔力が巡る感覚が刻まれる。
鱗が急に硬くなったというより、鱗に魔力を通して守るための感覚が増えた。
劇的ではない。
けど、使える。
『取れた?』
『取れた』
『よし』
鰻が最後に暴れ、マグマを跳ねさせる。
蜘蛛子が糸で体を引き、俺が影で足場の感覚を返す。
紙一重で避けた。
そのまま鰻の巨体が、マグマへ落ちる。
沈めるには惜しい。
俺はすぐに影を伸ばした。
マグマの光で揺れる影を、無理やり鰻の体へ引っかける。
熱で影の形が揺らぐ。
鰻の体も重い。
長くは持たない。
だから、土魔法で岩場の縁を少しだけ盛り上げる。
落ちる鰻の体を、そこへ引っかけた。
完全に止める必要はない。
沈むまでの時間を稼げればいい。
『食材』
『固定』
『りょ』
蜘蛛子の糸がそこへ絡み、焼け切る前に固定した。
戦闘中に食料を気にする余裕がある。
それが、今の俺たちの違いだった。
火竜が咆哮した。
包囲の一角が崩れたことで、統率の流れが強くなる。
火竜の意識がこちらに向いた。
『来る』
『本体?』
『そう』
火竜の喉奥に魔力が集まる。
火球。
いや、ブレスほどではない。
圧縮された巨大な火球。
それが、こちらへ向けられている。
蜘蛛子が逃げ道を拾う。
右。
左。
上。
全部、潰される。
火竜の火球は正面。
タツノオトシゴの残りが上。
ナマズが下。
火竜の長い胴体が、左の足場を叩き砕く流れも見えた。
なら。
『下』
『ナマズ?』
『使う』
『りょ』
マグマの下から、ナマズが跳ねた。
蜘蛛子はそれを避けない。
むしろ、近づく。
火竜の火球が飛ぶ。
ナマズが跳ね上がる。
蜘蛛子が糸を投げる。
ナマズの体に糸が絡み、軌道がずれる。
火球の射線へ押し込まれる。
直撃。
ナマズの巨体が爆ぜ、火球の勢いが乱れる。
その陰に隠れるように、蜘蛛子が横へ抜けた。
そのままマグマへ沈めるには惜しい。
俺は影を伸ばし、沈みかけたナマズの体を岩場の方へ押す。
さらに風魔法でマグマの飛沫を払い、土魔法で足場の縁を削って引っかかりを作る。
蜘蛛子の糸がそこへ絡み、焼け切る前に固定した。
火竜の統率。
鰻の突進。
タツノオトシゴの火球。
マグマの下から跳ねるナマズ。
一匹で相手にしていたら、食料を気にする余裕なんてなかったはずだ。
けど、今は違う。
蜘蛛子が広く見て、俺が逃げ場を潰す流れを読む。
詰まされる前に、こちらから包囲を崩す。
その結果、逃げるだけで終わらない。
倒せる。
拾える。
食える。
蜘蛛子がナマズの残骸へ毒を流す。
動きが完全に止まる前に、俺は【強欲】を向けた。
狙うのは【火竜】。
ナマズが持つ、火属性の竜種としての性質をまとめたスキル。
種族限定の特殊スキルだが、今の俺には見える。
選べる。
奪える。
《スキル【強欲】の効果により、対象からスキル【火竜LV1】を奪取しました》
入った。
火竜になったわけじゃない。
ただ、火属性の竜種が持つ性質の一部が、スキルとして俺の中に刻まれる。
熱への馴染み。
火の魔力の流し方。
竜種特有の魔力の巡り。
中層ではかなりありがたい。
『それも?』
『取れた』
『なら続行』
蜘蛛子が次の足場へ跳ぶ。
火竜が追う。
残ったタツノオトシゴが火球を吐く。
けど、もう最初ほど詰んでいない。
弾幕は薄くなった。
鰻は減った。
ナマズも削れた。
火竜の統率はまだある。
でも、動かす駒が減れば、包囲は雑になる。
『本体』
『行ける?』
『今なら』
火竜の【逆鱗】は厄介だ。
鱗の表面に流れる魔力が、魔法の形を乱す。
真正面から魔法をぶつければ、蜘蛛子の毒魔法でも削られる。
なら、正面から押さない。
俺は火竜の足元へ土魔法を差し込んだ。
硬い岩場の下。
マグマに浸された脆い層。
そこを、薄く削る。
火竜の重みで、岩場が沈んだ。
巨体がわずかに傾く。
ほんの一瞬。
けど、その一瞬で火竜の喉元が開く。
さらに、毒霧。
火竜を毒霧だけで倒すためじゃない。
視界を揺らし、意識を散らし、喉元へ集まる魔力の流れを乱すためだ。
熱で毒霧が焼かれ、すぐに薄くなる。
けど、それでいい。
火竜の目が、ほんの一瞬だけ霧を追う。
そこへ闇魔法。
黒い刃を、鱗の隙間ではなく、火竜の視界へ走らせる。
傷をつけるためじゃない。
意識をそらすためだ。
『喉』
『ん』
蜘蛛子が動く。
糸を張る。
岩場。
火竜の首元の鱗。
鱗の隙間。
すぐに焼ける。
けど、一瞬でいい。
蜘蛛子が火竜の正面へ飛び込む。
正面から受けるためじゃない。
ギリギリまで引きつけて、毒を入れるためだ。
火竜が火球を吐こうとする。
その寸前、蜘蛛子の毒が口内へ叩き込まれた。
火が乱れる。
毒が弾ける。
火竜の喉奥で、魔力の流れが歪む。
俺はそこへ影を流した。
止めるんじゃない。
縛るんじゃない。
ほんの少し、火の流れをずらすだけ。
火竜の火球が暴発した。
炎が口元で爆ぜる。
火竜自身の首元に、熱と毒が跳ね返る。
咆哮。
怒り。
統率の乱れ。
蜘蛛子の邪眼が、その隙を捉える。
完全には止まらない。
相手は火竜だ。
耐性もある。
力もある。
それでも、一瞬だけ鈍る。
『畳む』
『合わせる』
蜘蛛子が毒魔法を重ねる。
俺は【慧眼】で、毒が通る隙間だけを見る。
鱗の重なり。
喉元の傷。
火球の暴発で乱れた魔力の膜。
そこへ蜘蛛子の毒が滑り込む。
火竜が暴れた。
岩場が砕ける。
マグマが跳ねる。
残ったタツノオトシゴが巻き込まれて消える。
それでも、蜘蛛子は離れない。
糸を張り直す。
毒を重ねる。
邪眼を切り替える。
火球を避ける。
その情報の全てが、俺の中にも流れてくる。
糸の張力。
足場の熱。
蜘蛛子の回避タイミング。
火竜の魔力の偏り。
『次』
『右下』
『りょ』
蜘蛛子が右下へ抜ける。
火竜の長い首が、唸るように振られる。
その巨体が岩場を削り、足場が砕けた。
『今』
『終わり!』
蜘蛛子が火竜の喉元へ飛び込む。
毒魔法。
邪眼。
糸。
それらが一点へ重なる。
火竜の喉奥で、毒と火が混ざり、暴れる。
今度の火球は形にならない。
内側で爆ぜた。
火竜の巨体が大きく揺れる。
マグマの海が波打つ。
赤黒い鱗の隙間から、火と毒が漏れる。
最後の咆哮は、炎ではなく苦痛だった。
火竜が倒れた。
《経験値が一定に達しました》
《経験値が一定に達しました。個体、リーメン・ヴェインがLV11からLV12になりました》
《スキル熟練度レベルアップボーナスを取得しました》
《各種基礎能力値が上昇しました》
《条件を満たしました。称号【竜殺し】を獲得しました》
《称号【竜殺し】の効果により、スキル【生命LV1】【竜力LV1】を獲得しました》
《【生命LV1】が【身命LV1】に統合されました》
声が重なって流れる。
蜘蛛子側にも、いくつか流れた気配があった。
接続越しに、意識が一瞬跳ねる。
けど、今見るべきはそれじゃない。
倒れた火竜。
エルローゲネソーカ。
俺は【慧眼】で、そいつの内側を見た。
スキルじゃない。
【逆鱗】は今取るものじゃない。
【火竜】も、もうナマズから取った。
狙うのは、スキルポイント。
エルローゲネソーカが持っているスキルポイントは、11250。
【強欲】で奪えるのは、その一割。
十分すぎる。
俺は【強欲】を、そこへ差し込んだ。
火竜の中から、まとまった力が引き剥がされ、俺の中へ落ちる感覚があった。
これで、エルローゲネソーカから1125。
それにタツノオトシゴたちから細かく抜いた分を足せば、今回【強欲】で得たスキルポイントは1500ほど。
予想通り。
それでも、十分に大きい。
これだけあれば、選択肢が増える。
もちろん、何でも好きに取ればいいわけじゃない。
相性が悪いスキルは必要ポイントが跳ね上がる。
条件が絡むスキルも多い。
けど、保険にはなる。
『勝った?』
『勝った』
『火竜に?』
『火竜に』
『よし』
蜘蛛子の返事は短かった。
けど、その奥で、勝ったという実感が一気に膨らむのが伝わってくる。
俺も同じだ。
勝った。
中層の主みたいな顔をしていた火竜に。
統率された包囲に。
逃げ場を潰す火球の弾幕に。
蜘蛛子と、俺で。
火竜が倒れたことで、統率は切れた。
残った少数の魔物たちが、ばらばらに動き始める。
『残り』
『向かってくるのだけ』
『食材』
『確保』
蜘蛛子が動く。
火竜ほどではない。
統率もない。
数も減っている。
それでも、中層の魔物だ。
油断すれば普通に死ぬ。
だから手早く処理する。
毒。
糸。
邪眼。
火球の残り火を避け、マグマの波を越え、向かってくるやつだけを倒す。
タツノオトシゴからは、取れる時にスキルポイントを抜く。
大した量じゃない。
けど、積み重ねだ。
そして、確保できそうな鰻とナマズは逃がさない。
食材になりそうなものがマグマに沈みかけるたび、俺は影を伸ばし、土魔法で岩場の縁を作り、風魔法で飛沫を払った。
完全に引き上げる必要はない。
蜘蛛子の糸が届くまで、少しだけ持たせればいい。
蜘蛛子の糸がそこへ絡み、焼け切る前に固定する。
その繰り返しで、どうにか食料を確保していった。
戦闘が完全に落ち着いたところで、俺は戦闘用の深い接続から抜けた。
蜘蛛子の影に重ねていた感覚を、いつもの距離へ戻す。
そのついでに、蜘蛛子へと【奇跡魔法】をかけておく。
ここからは普通に遠話でいい。
『……勝ったー』
『勝ったな』
『いや、勝ったね。勝ったよ。火竜に勝ったよ』
『ああ』
『で、食料もある』
『そこ大事か』
『大事でしょ。めちゃくちゃ大事でしょ』
蜘蛛子の声が、いつもの調子に戻っていく。
火竜の死体。
確保した鰻。
ナマズ。
どれもマグマに沈めるには惜しすぎる。
まずは火竜の体をどうにか安定した足場へ引き上げることにした。
これが、地味に大変だった。
でかい。
重い。
熱い。
硬い。
蜘蛛子の糸は熱で焼ける。
俺の影も、マグマの光で揺らぐ。
糸を張る。
影で支える。
切れる前に張り直す。
沈む前に引く。
命懸けで倒した火竜を、マグマに沈めてたまるか。
『重い!』
『重いな』
『熱い!』
『熱いな』
『共感が雑!』
なんとか火竜の体の一部を引き上げ、鱗の状態を確かめる。
ただ、すぐには食べられそうになかった。
鱗が硬い。
硬すぎる。
切り分ける以前に、まず鱗を剥がさないと肉に届かない。
『これ、すぐ食べるやつじゃないね』
『鱗が邪魔だな』
『倒した後まで面倒くさいとは』
『強い魔物だからな』
『そこは美味しさで報いてほしかった』
『味を見るのは、鱗をどうにかしてからだな』
『大変そうだなぁ』
火竜の味は、次の楽しみに回すことになった。
ただ、俺は知っている。
少なくとも、前世で読んだ記憶の中では、火竜の肉は期待ほどの当たりではなかったはずだ。
強い魔物だから美味い。
竜だから美味い。
そんな都合のいい話ではなかった。
だから、蜘蛛子が今から火竜に期待しているのを見ると、少しだけ申し訳ない気分になる。
……まあ、言わないけど。
今ここで「それ、あんまり期待しない方がいいぞ」なんて言ったら、絶対に理由を聞かれる。
ナマズは脂が乗っていて美味かった。
今は、硬い火竜に苦戦するより、食べやすくて美味い方を先に食うべきだ。
『先にナマズ食べるか?』
『え、いいの?』
『火竜は逃げないしな』
『やった。やっぱり持つべきものは相棒だね』
『食べ物で評価が上がるのか』
『食べ物は大事』
『それは否定しない』
蜘蛛子が確保していたナマズへ向かう。
戦闘中なら、その動きに合わせて俺も感覚を重ねていた。
けど、今はもう、そこまで深く繋いではいない。
それでも、蜘蛛子が近くにいるのは分かる。
影の距離。
魔力の気配。
糸が動く感覚。
その距離が、今はただ心強かった。
火竜を倒した。
共存接続はうまくいった。
蜘蛛子の動きを通せた。
なら、この距離は間違っていない。
少なくとも、今の俺にはそう思えた。
◇
『いやーそれにしても、今回もまた変な称号手に入ったね』
『称号?』
『【竜殺し】はいいよ? 火竜倒したんだから、それは分かる。むしろちょっとかっこいい』
『まあ、分からなくはない』
『でもさ、【恐怖を齎す者】って何? ひどくない?』
『俺はないぞ』
『……は?』
『【竜殺し】はあるけど、【恐怖を齎す者】はない』
『はー!? なんで!? 一緒に戦ったよね!?』
『俺はお前の影にいたし、表に出てたのはお前だからな』
『納得いかない!』
『判定的には、お前が恐怖を齎したんだろ』
『嫌すぎる!』
蜘蛛子が本気で不満そうに言う。
けれど、周囲の魔物たちが近づいてくる気配はない。
マグマの向こうにいた魔物たちは、こちらを見ても寄ってこない。
『……これ、もしかして効いてる?』
『多分な』
『うわー……。敵にはいいかもしれないけどさ、これ敵以外にも効くんでしょ?』
『効果を見る限りはな』
『ダメじゃん! 私の姿見ただけで怖がるってことでしょ!?』
『俺には効いてないけどな』
『なんで!?』
『【外道無効】のおかげだろ』
『ずるい! 私だけ変な称号押しつけられてる!』
蜘蛛子はそう言いながら、確保していた食材の元へ向かった。
TIPS:現在の影蛇のステータス
《リーメン・ヴェイン LV12 名前 なし(黒巳怜士)
ステータス
HP: 428/ 428(緑)
MP:1680/1680(青)
SP: 485/ 485(黄)
: 418/ 418(赤)
平均攻撃能力: 506
平均防御能力: 548
平均魔法能力:1575
平均抵抗能力: 726
平均速度能力: 462
スキル
【魂欲】【火竜LV1】【竜鱗LV1】【HP自動回復LV7】【MP高速回復LV4】【MP消費大緩和LV4】【魔力精密操作LV6】【魔闘法LV1】【SP回復速度LV9】【SP消費緩和LV9】【影流操作LV3】【火強化LV1】【毒強化LV4】【気闘法LV2】【竜力LV1】【火攻撃LV1】【毒攻撃LV3】【腐蝕攻撃LV1】【外道攻撃LV4】【毒合成LV8】【投擲LV3】【連携LV8】【遠話LV8】【命中LV8】【回避LV6】【思考の極み】【万象演算】【探知LV10】【隠密LV10】【隠蔽LV4】【無音LV8】【影憑LV9】【風魔法LV8】【土魔法LV8】【外道魔法LV10】【影魔法LV10】【闇魔法LV8】【毒魔法LV9】【奇跡魔法LV5】【遊泳LV3】【飽食LV1】【火耐性LV3】【風耐性LV3】【土耐性LV3】【闇耐性LV9】【猛毒耐性LV2】【麻痺耐性LV4】【石化耐性LV2】【酸耐性LV4】【腐蝕耐性LV5】【気絶耐性LV2】【恐怖耐性LV5】【外道無効】【苦痛無効】【痛覚軽減LV3】【聴覚強化LV7】【嗅覚強化LV3】【味覚強化LV4】【触覚強化LV6】【身命LV1】【魔蔵LV7】【瞬発LV7】【持久LV9】【剛力LV3】【堅牢LV3】【道士LV9】【護法LV8】【縮地LV1】【強欲】【慈悲】【慧眼】【征服】【安寧】【神性領域拡張LV6】【自立】【自己理解】【禁忌LV8】【n%I=W】
スキルポイント:2540
称号
【異例な魂】【神希望】【悪食】【暗殺者】【魔物殺し】【毒術師】【強欲の支配者】【魂へ触れる者】【無慈悲】【魔物の殺戮者】【慈悲の支配者】【慧眼の支配者】【竜殺し】》