三度目の生は蛇の姿で   作:鯱タクワン

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(後書きのステータスは参考程度にしてください)
(ステータスの数値を原作を参考に、少し調整しました)


22.二匹で、炎海の主

 炎海が、盛り上がった。

 

 マグマの表面が大きく波打ち、その下にあった巨大な熱源が、ゆっくりと姿を現す。

 

 火竜。

 

 赤黒い鱗。

 岩みたいに分厚い体。

 喉奥で渦巻く、濃すぎる火の魔力。

 

 鰻をさらに竜へ近づけたような、長い竜体。

 魚というより、完全に竜種と呼ぶべき姿だった。

 

 その巨体がマグマの中から身を起こした瞬間、周囲の反応が一斉に変わった。

 

 鰻。

 ナマズ。

 タツノオトシゴ。

 

 今まで中層で散々見てきた魔物たちが、ばらばらに暴れているのではなく、火竜を中心にして動き始める。

 

 【統率】。

 

 さっき見えたスキル名が、嫌でも頭に浮かぶ。

 

 蜘蛛子の【叡智】が拾った盤面が、共存接続を通して流れ込んでくる。

 敵の数。

 足場。

 マグマの流れ。

 火球の軌道。

 逃げ道。

 

 広く、早い。

 

 けど、それだけじゃ足りない。

 

 俺はその盤面の上から、火竜の魔力の流れを深く見る。

 

 火竜から配下へ伸びる、細い命令の線。

 タツノオトシゴの喉奥に集まる火の魔力。

 鰻が身を捻る前兆。

 マグマの下でナマズが跳ねる直前の揺れ。

 

 全部が、繋がっている。

 

『右』

『罠』

『うげ』

 

 言葉はそれだけでよかった。

 

 右の岩場は、確かに空いている。

 けど、火竜の魔力がそこへ伸びていた。

 

 蜘蛛子の意識に、その流れを渡す。

 

 火球。

 着弾。

 砕ける足場。

 

 まだ起きていない光景が、起きる可能性として繋がる。

 

 未来が見えたわけじゃない。

 ただ、このまま動けばそうなると分かるだけだ。

 

『左下』

『りょ』

 

 蜘蛛子が右へ跳ぶ寸前で足を止め、左下へ体を流す。

 

 直後、右の岩場に火球が落ちた。

 

 岩場が砕け、破片がマグマへ沈む。

 赤い飛沫が跳ね上がり、熱風が蜘蛛子の体を煽った。

 

 そのまま右へ行っていたら、逃げ場ごと潰されていた。

 

『性格悪っ』

『同感』

 

 返す言葉も短い。

 

 長々と説明する必要はない。

 俺が見たものは、接続越しに蜘蛛子へ流れている。

 蜘蛛子が拾ったものも、俺へ流れてくる。

 

 蜘蛛子が広く見る。

 俺が深く読む。

 蜘蛛子が動く。

 

 それだけでいい。

 

 火竜が咆哮した。

 

 その声に合わせて、タツノオトシゴたちが一斉に顔を上げる。

 喉奥に火が灯り、火球が並ぶ。

 

 弾幕。

 

 ただ正面から撃つだけじゃない。

 蜘蛛子が避ける先へ、順番に火球が置かれている。

 

 上へ逃げれば、タツノオトシゴ。

 左へ抜ければ、鰻。

 下へ落ちれば、ナマズ。

 右へ戻れば、火竜の火球。

 

 逃げ場があるようで、ない。

 

『誘導』

『見えた』

 

 蜘蛛子が低く返す。

 

 その直後、蜘蛛子は逃げるのをやめた。

 

 避けるのではなく、崩す。

 

 糸が飛ぶ。

 熱で長くは保たない。

 けど、一瞬なら使える。

 

 岩場へ。

 鰻へ。

 タツノオトシゴの首元へ。

 

 蜘蛛子が空中で体を捻り、火球の間を抜ける。

 火球は追ってくる。

 着弾すれば、岩場が砕ける。

 逃げ道がまた一つ消える。

 

 だが、蜘蛛子は消える前にそこを蹴っていた。

 

 火球。

 鰻。

 ナマズ。

 また火球。

 

 避けるたびに詰められる包囲の中で、蜘蛛子は逆に糸を残していく。

 

 細い糸。

 すぐ焼ける糸。

 けど、全部が無駄じゃない。

 

『左、切れる』

『使う』

 

 蜘蛛子が焼けかけの糸を引く。

 タツノオトシゴの一体が、わずかに姿勢を崩した。

 

 そこへ、俺は毒霧を流し込む。

 

 紫がかった霧が、熱に揺れながら広がる。

 

 普通なら、熱で散る。

 火球の爆風で飛ばされる。

 マグマの上では、長く留まらない。

 

 だから、ただ撒くだけじゃ意味がない。

 

 蜘蛛子が残した糸。

 火球の爆風。

 マグマから立ち上る熱の流れ。

 火竜の統率で、タツノオトシゴたちが通らざるを得ない位置。

 

 その全部を見て、毒霧を置く場所を決める。

 

『乗せる』

『ん』

 

 蜘蛛子が糸を引き、タツノオトシゴの進路をわずかにずらす。

 俺はそこへ風を流し、毒霧を押し込んだ。

 

 タツノオトシゴの群れが、毒霧へ突っ込む。

 

 数体が暴れ、火球を吐き損ねる。

 別の火球が味方に当たり、爆発が起きる。

 包囲に穴が開いた。

 

 穴が開いたなら、広げる。

 

 俺は蜘蛛子の影から、さらに魔力を伸ばした。

 

 まずは土。

 

 足場そのものを作るほどの余裕はない。

 けど、岩場の縁を崩し、マグマの飛沫を上げるくらいならできる。

 

 土魔法が岩場を砕く。

 跳ねた破片とマグマが、タツノオトシゴの進路を塞いだ。

 

 次に風。

 

 火球を消すことはできない。

 火の勢いが強すぎる。

 けど、軌道をほんの少し歪めることならできる。

 

 俺の流した風が、タツノオトシゴの火球を蜘蛛子の脚一本分だけ外す。

 

『助かる』

『次、右』

 

 短く返して、闇を撃つ。

 

 黒い槍が、火球を吐こうとしていたタツノオトシゴの喉元へ突き刺さる。

 火の魔力が乱れ、火球が形になる前に潰れた。

 

 直撃で倒すほどの威力じゃない。

 けど、それでいい。

 

 蜘蛛子が動くための隙を作る。

 それが今の俺の役目だ。

 

『開いた』

『行く』

 

 蜘蛛子が抜ける。

 

 俺の毒霧が群れを崩し、土が足場を乱し、風が火球をずらし、闇が敵の喉を潰す。

 その隙間を、蜘蛛子が糸と機動で広げていく。

 

 そこへ、俺は【強欲】を差し込む。

 

 まず狙うのは、まだ持っていない火属性系のスキル。

 

 【火攻撃】。

 【火強化】。

 

 俺と火属性の相性は良くない。

 影、魂、境界。

 俺の方向性はそっちであって、火を振り回す方向ではない。

 

 けど、中層にいる今だからこそ、火属性系のスキルは手に入れやすい。

 後になって欲しくなっても、同じように都合よく取れるとは限らない。

 

 それに、戦闘用として微妙でも、研究用なら価値はある。

 

 火の魔力がどう攻撃へ変わるのか。

 火属性の威力を、スキルがどう底上げしているのか。

 スキルがどこを補助して、どこから先を自分で制御しなきゃいけないのか。

 

 せっかくだ。

 取れる時に取っておく。

 

《スキル【強欲】の効果により、対象からスキル【火攻撃LV1】を奪取しました》

《スキル【強欲】の効果により、対象からスキル【火強化LV1】を奪取しました》

 

 よし。

 

 欲しいものは取れた。

 

 後はスキルポイントだ。

 

 以前なら、欲しいものとは違うものを掴むこともあった。

 けど、今は見える。

 

 【慧眼】で、相手の内側にあるものの輪郭を見る。

 【強欲】を、そこへ差し込む。

 

 大きくはない。

 けど、タツノオトシゴは数がいる。

 一体一体から少しずつでも、積み重なれば十分だ。

 

 タツノオトシゴが落ちる。

 火球が減る。

 弾幕に隙間ができる。

 

『次』

『鰻』

 

 蜘蛛子が短く言う。

 

 鰻が火をまとって突っ込んでくる。

 速い。

 硬い。

 熱い。

 

 真正面から受ければ、それだけで危ない。

 けど、見えている。

 

 鰻の突進。

 火竜の命令。

 火球の射線。

 

 全部が重なる場所へ、蜘蛛子が糸を置いた。

 

 鰻が糸を焼き切る。

 けれど、その一瞬で軌道がずれる。

 

 火球が、鰻の横腹に当たった。

 

 爆発。

 鰻の体が大きく揺れる。

 

『今』

『はいよ』

 

 蜘蛛子が飛び込む。

 毒をまとわせた鎌が、鰻の口元へ叩き込まれる。

 

 俺も【強欲】を向けた。

 

 奪うものは決めてある。

 

 【竜鱗】。

 

 鰻が持つ、竜種の鱗のスキル。

 今の中層では、防御の手札はいくらあってもいい。

 

《スキル【強欲】の効果により、対象からスキル【竜鱗LV1】を奪取しました》

 

 よし。

 

 体の表面に、薄く魔力が巡る感覚が刻まれる。

 鱗が急に硬くなったというより、鱗に魔力を通して守るための感覚が増えた。

 

 劇的ではない。

 けど、使える。

 

『取れた?』

『取れた』

『よし』

 

 鰻が最後に暴れ、マグマを跳ねさせる。

 蜘蛛子が糸で体を引き、俺が影で足場の感覚を返す。

 

 紙一重で避けた。

 

 そのまま鰻の巨体が、マグマへ落ちる。

 

 沈めるには惜しい。

 

 俺はすぐに影を伸ばした。

 マグマの光で揺れる影を、無理やり鰻の体へ引っかける。

 

 熱で影の形が揺らぐ。

 鰻の体も重い。

 長くは持たない。

 

 だから、土魔法で岩場の縁を少しだけ盛り上げる。

 落ちる鰻の体を、そこへ引っかけた。

 

 完全に止める必要はない。

 沈むまでの時間を稼げればいい。

 

『食材』

『固定』

『りょ』

 

 蜘蛛子の糸がそこへ絡み、焼け切る前に固定した。

 

 戦闘中に食料を気にする余裕がある。

 それが、今の俺たちの違いだった。

 

 火竜が咆哮した。

 

 包囲の一角が崩れたことで、統率の流れが強くなる。

 火竜の意識がこちらに向いた。

 

『来る』

『本体?』

『そう』

 

 火竜の喉奥に魔力が集まる。

 

 火球。

 いや、ブレスほどではない。

 圧縮された巨大な火球。

 

 それが、こちらへ向けられている。

 

 蜘蛛子が逃げ道を拾う。

 右。

 左。

 上。

 

 全部、潰される。

 

 火竜の火球は正面。

 タツノオトシゴの残りが上。

 ナマズが下。

 火竜の長い胴体が、左の足場を叩き砕く流れも見えた。

 

 なら。

 

『下』

『ナマズ?』

『使う』

『りょ』

 

 マグマの下から、ナマズが跳ねた。

 

 蜘蛛子はそれを避けない。

 むしろ、近づく。

 

 火竜の火球が飛ぶ。

 ナマズが跳ね上がる。

 蜘蛛子が糸を投げる。

 

 ナマズの体に糸が絡み、軌道がずれる。

 火球の射線へ押し込まれる。

 

 直撃。

 

 ナマズの巨体が爆ぜ、火球の勢いが乱れる。

 その陰に隠れるように、蜘蛛子が横へ抜けた。

 

 そのままマグマへ沈めるには惜しい。

 

 俺は影を伸ばし、沈みかけたナマズの体を岩場の方へ押す。

 さらに風魔法でマグマの飛沫を払い、土魔法で足場の縁を削って引っかかりを作る。

 

 蜘蛛子の糸がそこへ絡み、焼け切る前に固定した。

 

 火竜の統率。

 鰻の突進。

 タツノオトシゴの火球。

 マグマの下から跳ねるナマズ。

 

 一匹で相手にしていたら、食料を気にする余裕なんてなかったはずだ。

 

 けど、今は違う。

 

 蜘蛛子が広く見て、俺が逃げ場を潰す流れを読む。

 詰まされる前に、こちらから包囲を崩す。

 

 その結果、逃げるだけで終わらない。

 倒せる。

 拾える。

 食える。

 

 蜘蛛子がナマズの残骸へ毒を流す。

 動きが完全に止まる前に、俺は【強欲】を向けた。

 

 狙うのは【火竜】。

 

 ナマズが持つ、火属性の竜種としての性質をまとめたスキル。

 種族限定の特殊スキルだが、今の俺には見える。

 選べる。

 奪える。

 

《スキル【強欲】の効果により、対象からスキル【火竜LV1】を奪取しました》

 

 入った。

 

 火竜になったわけじゃない。

 ただ、火属性の竜種が持つ性質の一部が、スキルとして俺の中に刻まれる。

 

 熱への馴染み。

 火の魔力の流し方。

 竜種特有の魔力の巡り。

 

 中層ではかなりありがたい。

 

『それも?』

『取れた』

『なら続行』

 

 蜘蛛子が次の足場へ跳ぶ。

 火竜が追う。

 残ったタツノオトシゴが火球を吐く。

 

 けど、もう最初ほど詰んでいない。

 

 弾幕は薄くなった。

 鰻は減った。

 ナマズも削れた。

 

 火竜の統率はまだある。

 でも、動かす駒が減れば、包囲は雑になる。

 

『本体』

『行ける?』

『今なら』

 

 火竜の【逆鱗】は厄介だ。

 鱗の表面に流れる魔力が、魔法の形を乱す。

 真正面から魔法をぶつければ、蜘蛛子の毒魔法でも削られる。

 

 なら、正面から押さない。

 

 俺は火竜の足元へ土魔法を差し込んだ。

 

 硬い岩場の下。

 マグマに浸された脆い層。

 そこを、薄く削る。

 

 火竜の重みで、岩場が沈んだ。

 

 巨体がわずかに傾く。

 ほんの一瞬。

 けど、その一瞬で火竜の喉元が開く。

 

 さらに、毒霧。

 

 火竜を毒霧だけで倒すためじゃない。

 視界を揺らし、意識を散らし、喉元へ集まる魔力の流れを乱すためだ。

 

 熱で毒霧が焼かれ、すぐに薄くなる。

 けど、それでいい。

 火竜の目が、ほんの一瞬だけ霧を追う。

 

 そこへ闇魔法。

 

 黒い刃を、鱗の隙間ではなく、火竜の視界へ走らせる。

 傷をつけるためじゃない。

 意識をそらすためだ。

 

『喉』

『ん』

 

 蜘蛛子が動く。

 

 糸を張る。

 岩場。

 火竜の首元の鱗。

 鱗の隙間。

 

 すぐに焼ける。

 けど、一瞬でいい。

 

 蜘蛛子が火竜の正面へ飛び込む。

 

 正面から受けるためじゃない。

 ギリギリまで引きつけて、毒を入れるためだ。

 

 火竜が火球を吐こうとする。

 

 その寸前、蜘蛛子の毒が口内へ叩き込まれた。

 

 火が乱れる。

 毒が弾ける。

 火竜の喉奥で、魔力の流れが歪む。

 

 俺はそこへ影を流した。

 

 止めるんじゃない。

 縛るんじゃない。

 ほんの少し、火の流れをずらすだけ。

 

 火竜の火球が暴発した。

 

 炎が口元で爆ぜる。

 火竜自身の首元に、熱と毒が跳ね返る。

 

 咆哮。

 怒り。

 統率の乱れ。

 

 蜘蛛子の邪眼が、その隙を捉える。

 

 完全には止まらない。

 相手は火竜だ。

 耐性もある。

 力もある。

 

 それでも、一瞬だけ鈍る。

 

『畳む』

『合わせる』

 

 蜘蛛子が毒魔法を重ねる。

 俺は【慧眼】で、毒が通る隙間だけを見る。

 鱗の重なり。

 喉元の傷。

 火球の暴発で乱れた魔力の膜。

 

 そこへ蜘蛛子の毒が滑り込む。

 

 火竜が暴れた。

 

 岩場が砕ける。

 マグマが跳ねる。

 残ったタツノオトシゴが巻き込まれて消える。

 

 それでも、蜘蛛子は離れない。

 

 糸を張り直す。

 毒を重ねる。

 邪眼を切り替える。

 火球を避ける。

 

 その情報の全てが、俺の中にも流れてくる。

 

 糸の張力。

 足場の熱。

 蜘蛛子の回避タイミング。

 火竜の魔力の偏り。

 

『次』

『右下』

『りょ』

 

 蜘蛛子が右下へ抜ける。

 火竜の長い首が、唸るように振られる。

 その巨体が岩場を削り、足場が砕けた。

 

『今』

『終わり!』

 

 蜘蛛子が火竜の喉元へ飛び込む。

 

 毒魔法。

 邪眼。

 糸。

 

 それらが一点へ重なる。

 

 火竜の喉奥で、毒と火が混ざり、暴れる。

 今度の火球は形にならない。

 

 内側で爆ぜた。

 

 火竜の巨体が大きく揺れる。

 マグマの海が波打つ。

 赤黒い鱗の隙間から、火と毒が漏れる。

 

 最後の咆哮は、炎ではなく苦痛だった。

 

 火竜が倒れた。

 

《経験値が一定に達しました》

《経験値が一定に達しました。個体、リーメン・ヴェインがLV11からLV12になりました》

《スキル熟練度レベルアップボーナスを取得しました》

《各種基礎能力値が上昇しました》

《条件を満たしました。称号【竜殺し】を獲得しました》

《称号【竜殺し】の効果により、スキル【生命LV1】【竜力LV1】を獲得しました》

《【生命LV1】が【身命LV1】に統合されました》

 

 声が重なって流れる。

 

 蜘蛛子側にも、いくつか流れた気配があった。

 接続越しに、意識が一瞬跳ねる。

 

 けど、今見るべきはそれじゃない。

 

 倒れた火竜。

 エルローゲネソーカ。

 

 俺は【慧眼】で、そいつの内側を見た。

 

 スキルじゃない。

 【逆鱗】は今取るものじゃない。

 【火竜】も、もうナマズから取った。

 

 狙うのは、スキルポイント。

 

 エルローゲネソーカが持っているスキルポイントは、11250。

 【強欲】で奪えるのは、その一割。

 

 十分すぎる。

 

 俺は【強欲】を、そこへ差し込んだ。

 

 火竜の中から、まとまった力が引き剥がされ、俺の中へ落ちる感覚があった。

 

 これで、エルローゲネソーカから1125。

 それにタツノオトシゴたちから細かく抜いた分を足せば、今回【強欲】で得たスキルポイントは1500ほど。

 

 予想通り。

 それでも、十分に大きい。

 

 これだけあれば、選択肢が増える。

 もちろん、何でも好きに取ればいいわけじゃない。

 相性が悪いスキルは必要ポイントが跳ね上がる。

 条件が絡むスキルも多い。

 

 けど、保険にはなる。

 

『勝った?』

『勝った』

『火竜に?』

『火竜に』

『よし』

 

 蜘蛛子の返事は短かった。

 

 けど、その奥で、勝ったという実感が一気に膨らむのが伝わってくる。

 

 俺も同じだ。

 

 勝った。

 

 中層の主みたいな顔をしていた火竜に。

 統率された包囲に。

 逃げ場を潰す火球の弾幕に。

 

 蜘蛛子と、俺で。

 

 火竜が倒れたことで、統率は切れた。

 残った少数の魔物たちが、ばらばらに動き始める。

 

『残り』

『向かってくるのだけ』

『食材』

『確保』

 

 蜘蛛子が動く。

 

 火竜ほどではない。

 統率もない。

 数も減っている。

 

 それでも、中層の魔物だ。

 油断すれば普通に死ぬ。

 

 だから手早く処理する。

 

 毒。

 糸。

 邪眼。

 火球の残り火を避け、マグマの波を越え、向かってくるやつだけを倒す。

 

 タツノオトシゴからは、取れる時にスキルポイントを抜く。

 大した量じゃない。

 けど、積み重ねだ。

 

 そして、確保できそうな鰻とナマズは逃がさない。

 

 食材になりそうなものがマグマに沈みかけるたび、俺は影を伸ばし、土魔法で岩場の縁を作り、風魔法で飛沫を払った。

 完全に引き上げる必要はない。

 蜘蛛子の糸が届くまで、少しだけ持たせればいい。

 

 蜘蛛子の糸がそこへ絡み、焼け切る前に固定する。

 

 その繰り返しで、どうにか食料を確保していった。

 

 戦闘が完全に落ち着いたところで、俺は戦闘用の深い接続から抜けた。

 蜘蛛子の影に重ねていた感覚を、いつもの距離へ戻す。

 

 そのついでに、蜘蛛子へと【奇跡魔法】をかけておく。

 

 ここからは普通に遠話でいい。

 

『……勝ったー』

 

『勝ったな』

 

『いや、勝ったね。勝ったよ。火竜に勝ったよ』

 

『ああ』

 

『で、食料もある』

 

『そこ大事か』

 

『大事でしょ。めちゃくちゃ大事でしょ』

 

 蜘蛛子の声が、いつもの調子に戻っていく。

 

 火竜の死体。

 確保した鰻。

 ナマズ。

 

 どれもマグマに沈めるには惜しすぎる。

 

 まずは火竜の体をどうにか安定した足場へ引き上げることにした。

 

 これが、地味に大変だった。

 

 でかい。

 重い。

 熱い。

 硬い。

 

 蜘蛛子の糸は熱で焼ける。

 俺の影も、マグマの光で揺らぐ。

 

 糸を張る。

 影で支える。

 切れる前に張り直す。

 沈む前に引く。

 

 命懸けで倒した火竜を、マグマに沈めてたまるか。

 

『重い!』

 

『重いな』

 

『熱い!』

 

『熱いな』

 

『共感が雑!』

 

 なんとか火竜の体の一部を引き上げ、鱗の状態を確かめる。

 

 ただ、すぐには食べられそうになかった。

 

 鱗が硬い。

 硬すぎる。

 切り分ける以前に、まず鱗を剥がさないと肉に届かない。

 

『これ、すぐ食べるやつじゃないね』

 

『鱗が邪魔だな』

 

『倒した後まで面倒くさいとは』

 

『強い魔物だからな』

 

『そこは美味しさで報いてほしかった』

 

『味を見るのは、鱗をどうにかしてからだな』

 

『大変そうだなぁ』

 

 火竜の味は、次の楽しみに回すことになった。

 

 ただ、俺は知っている。

 

 少なくとも、前世で読んだ記憶の中では、火竜の肉は期待ほどの当たりではなかったはずだ。

 

 強い魔物だから美味い。

 竜だから美味い。

 そんな都合のいい話ではなかった。

 

 だから、蜘蛛子が今から火竜に期待しているのを見ると、少しだけ申し訳ない気分になる。

 

 ……まあ、言わないけど。

 

 今ここで「それ、あんまり期待しない方がいいぞ」なんて言ったら、絶対に理由を聞かれる。

 

 ナマズは脂が乗っていて美味かった。

 

 今は、硬い火竜に苦戦するより、食べやすくて美味い方を先に食うべきだ。

 

『先にナマズ食べるか?』

 

『え、いいの?』

 

『火竜は逃げないしな』

 

『やった。やっぱり持つべきものは相棒だね』

 

『食べ物で評価が上がるのか』

 

『食べ物は大事』

 

『それは否定しない』

 

 蜘蛛子が確保していたナマズへ向かう。

 

 戦闘中なら、その動きに合わせて俺も感覚を重ねていた。

 けど、今はもう、そこまで深く繋いではいない。

 

 それでも、蜘蛛子が近くにいるのは分かる。

 

 影の距離。

 魔力の気配。

 糸が動く感覚。

 

 その距離が、今はただ心強かった。

 

 火竜を倒した。

 共存接続はうまくいった。

 蜘蛛子の動きを通せた。

 

 なら、この距離は間違っていない。

 

 少なくとも、今の俺にはそう思えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『いやーそれにしても、今回もまた変な称号手に入ったね』

 

『称号?』

 

『【竜殺し】はいいよ? 火竜倒したんだから、それは分かる。むしろちょっとかっこいい』

 

『まあ、分からなくはない』

 

『でもさ、【恐怖を齎す者】って何? ひどくない?』

 

『俺はないぞ』

 

『……は?』

 

『【竜殺し】はあるけど、【恐怖を齎す者】はない』

 

『はー!? なんで!? 一緒に戦ったよね!?』

 

『俺はお前の影にいたし、表に出てたのはお前だからな』

 

『納得いかない!』

 

『判定的には、お前が恐怖を齎したんだろ』

 

『嫌すぎる!』

 

 蜘蛛子が本気で不満そうに言う。

 

 けれど、周囲の魔物たちが近づいてくる気配はない。

 マグマの向こうにいた魔物たちは、こちらを見ても寄ってこない。

 

『……これ、もしかして効いてる?』

 

『多分な』

 

『うわー……。敵にはいいかもしれないけどさ、これ敵以外にも効くんでしょ?』

 

『効果を見る限りはな』

 

『ダメじゃん! 私の姿見ただけで怖がるってことでしょ!?』

 

『俺には効いてないけどな』

 

『なんで!?』

 

『【外道無効】のおかげだろ』

 

『ずるい! 私だけ変な称号押しつけられてる!』

 

 蜘蛛子はそう言いながら、確保していた食材の元へ向かった。




TIPS:現在の影蛇のステータス

《リーメン・ヴェイン LV12 名前 なし(黒巳怜士)
 ステータス
 HP: 428/ 428(緑)
 MP:1680/1680(青)
 SP: 485/ 485(黄)
   : 418/ 418(赤)
 平均攻撃能力: 506
 平均防御能力: 548
 平均魔法能力:1575
 平均抵抗能力: 726
 平均速度能力: 462
 スキル
【魂欲】【火竜LV1】【竜鱗LV1】【HP自動回復LV7】【MP高速回復LV4】【MP消費大緩和LV4】【魔力精密操作LV6】【魔闘法LV1】【SP回復速度LV9】【SP消費緩和LV9】【影流操作LV3】【火強化LV1】【毒強化LV4】【気闘法LV2】【竜力LV1】【火攻撃LV1】【毒攻撃LV3】【腐蝕攻撃LV1】【外道攻撃LV4】【毒合成LV8】【投擲LV3】【連携LV8】【遠話LV8】【命中LV8】【回避LV6】【思考の極み】【万象演算】【探知LV10】【隠密LV10】【隠蔽LV4】【無音LV8】【影憑LV9】【風魔法LV8】【土魔法LV8】【外道魔法LV10】【影魔法LV10】【闇魔法LV8】【毒魔法LV9】【奇跡魔法LV5】【遊泳LV3】【飽食LV1】【火耐性LV3】【風耐性LV3】【土耐性LV3】【闇耐性LV9】【猛毒耐性LV2】【麻痺耐性LV4】【石化耐性LV2】【酸耐性LV4】【腐蝕耐性LV5】【気絶耐性LV2】【恐怖耐性LV5】【外道無効】【苦痛無効】【痛覚軽減LV3】【聴覚強化LV7】【嗅覚強化LV3】【味覚強化LV4】【触覚強化LV6】【身命LV1】【魔蔵LV7】【瞬発LV7】【持久LV9】【剛力LV3】【堅牢LV3】【道士LV9】【護法LV8】【縮地LV1】【強欲】【慈悲】【慧眼】【征服】【安寧】【神性領域拡張LV6】【自立】【自己理解】【禁忌LV8】【n%I=W】
 スキルポイント:2540
 称号
【異例な魂】【神希望】【悪食】【暗殺者】【魔物殺し】【毒術師】【強欲の支配者】【魂へ触れる者】【無慈悲】【魔物の殺戮者】【慈悲の支配者】【慧眼の支配者】【竜殺し】》
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