三度目の生は蛇の姿で   作:鯱タクワン

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蜘6.マザーと炎龍軍

 納得いかない。

 

 いや、火竜を倒したことじゃない。

 そこはいい。

 あいつは強かったし普通に死ぬかと思ったから、【竜殺し】をもらえたのは分かる。

 

 問題はもう一個の方である。

 

【恐怖を齎す者】。

 

 名前がひどいし、効果もひどい。

 私を見た相手に自動で恐怖を与えるとか、完全に悪役の称号じゃん!

 敵だけなら便利だけど、敵以外にも効くかもしれないのは困るでしょ!

 私、いつか外に出る予定なんですけど?

 見た目が蜘蛛な時点で討伐対象っぽいのに、さらに恐怖付与とか過剰サービスにもほどがある。

 

 しかも、うちの蛇には効かない。【外道無効】。便利だねー。さすがだねー。

 まあ、効かないこと自体は嬉しいんだけどさー。

 

『まだ言ってるのか』

 

『言うよ。なんで私だけ恐怖担当なの』

 

『俺に聞かれても困る』

 

『あんたにも効けばよかったのに』

 

『それは困る』

 

『それはそうだけど、私も困ってる!』

 

 影から返ってくる声はいつも通りだった。

 

 火竜戦で使った共存接続は、正直かなり便利だった。

 私が広く見て、影蛇が細かく読む。危ない場所や、攻撃が通る隙が、言葉にしなくても感覚で返ってくる。

 あれがなかったら、火竜戦はもっと面倒だったと思う。

 

 ただ、便利だから全部平気かというと、それは違う。

 こいつが何を考えているのか全部分かるわけじゃないし、たまに妙な間がある。何か隠してるんじゃないかと思うこともある。

 まあ、今のところ勝手なことはしてこないし、踏み込める場所でも踏み込んでこない。

 だから、今はそれでいい。

 

 それに、なんだかんだ言って、こいつが影にいると戦いやすい。

 危ない場所を教えてくれる、足場を作る、魔法で援護する。

 変なところで誤魔化すし妙に重く受け取る時もあるけど、それでも私の動きを邪魔せず、むしろ合わせてくる。

 

 だからまあ、うん。

 相棒としては、かなり優秀だと思う。

 

 ……いや、別に褒めすぎじゃないし?

 実際便利だし?

 うちの蛇が役に立つのは当然というか。

 

 そう考えたところで、ちょっと引っかかった。

 

 「うちの蛇」って、自分で言っておいてなんだけど、なんか私も大概では?

 

 ……まあいいか。邪魔ならとっくに追い出してるし。

 

『で、ナマズ食べるか?』

 

『食べる!』

 

 話題の変え方が雑!

 でもナマズなら許す!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ナマズは美味い。中層に来てから得た数少ない真理である。

 

 熱い。

 マグマ危ない。

 火属性魔物面倒。

 でもナマズは美味い。

 

 鰻も食べた。

 こっちも美味い。

 ナマズより食べるのが大変だけど、十分当たり。

 

 そして問題の火竜肉。

 硬い鱗を剥がすのにかなり苦労した。

 糸で固定して前肢を差し込んで、影蛇に隙間を教えてもらったりして、ようやく少しだけ肉に届いた。

 倒した後の方が面倒ってどういうことなの。

 

 まあ、強敵の肉だし、期待はする。

 だって火竜だよ?

 名前からして美味しそうじゃん。

 

 いただきます!

 

 ……。

 …………。

 うん。

 

 不味くはない。

 不味くは、ないんだけど。

 

『微妙』

 

『そうか』

 

 影蛇の返事が早い。

 

『あんた、知ってた?』

 

『何をだ?』

 

『火竜肉が思ったより微妙なこと』

 

『……いや』

 

 今の間は何?

 ねえ、今の間は何?

 

『怪しい』

 

『気のせいだ』

 

『絶対怪しい!』

 

『ナマズ、まだあるぞ』

 

『食べる』

 

 食べるけど、誤魔化された気がする。

 

 まあいいか。

 火竜肉が期待外れだったことは大問題だけど、いつまでもここにいるわけにもいかない。

 中層は熱いし、危ないし、ナマズ以外の食生活に未来がない。

 

 外。そう、外である。

 迷宮の外。美味しいものがあるかもしれない外。

 ついでに、アラクネへの進化を目指すなら、いつまでも中層でナマズ生活をしているわけにもいかない。

 

 ……ナマズ美味いし、ちょっと名残惜しいけどね。

 

 と、その前に。

 火竜を倒したことで、スキルポイントも増えている。

 なら、ここで取るべきものは決まっている。

 空間魔法プリーズ!

 

《スキル【空間魔法LV1】をスキルポイント500使用して取得しました。

 残りスキルポイント0です》

 

 よし!

 これで空間魔法ゲット!

 

 ……まあ、LV1だから今すぐ転移できるとか、そういう都合のいい話ではない。

 けど、取ったことが大事。

 育てればいいのだ。

 ってことで、並列意思の魔法担当に育てるのは任せよう。

 

『空間魔法取った』

 

『使えそうか?』

 

『うーん。今のところは別にって感じ? でも将来的に使えそうじゃない?』

 

『まあ確かにそうだろうな』

 

 そういえば影蛇のスキルポイントも増えてたけど、何か取るんだろうか。

 

『で、そっちは新しいスキル取るの?』

 

『俺も取った。強欲で奪いにくいもので、魔法を中心にな』

 

『何取ったの?』

 

『1300ポイント使って、【空間魔法LV1】【氷魔法LV1】【重魔法LV1】。残りは1240ポイントだ』

 

 ……。

 ポイント多くていいねぇ!

 

『ずるい!』

 

『何がだ』

 

『いっぱい取れてずるい!』

 

『お前も貯めればいいだろ』

 

『使える時に使う派なので。それにそっちがスキルポイント増えたのは【強欲】使ったからじゃん!』

 

『お前は【傲慢】で十分得してるだろ』

 

 むう。

 なんか納得いかない。

 

 でも、空間魔法は私と同じ。

 氷魔法はこの火だらけの中層だと便利そう。

 重魔法は……重くする魔法? 名前からして分かりやすいような、分かりにくいような?

 

『使えるの?』

 

『LV1だから過信はできないけど、ないよりはマシだ』

 

『それはそう』

 

 火竜戦を終えたばかりだと、その「ないよりマシ」が大事なのは分かる。

 

 それにしても、火竜か。

 火竜を倒した。つまり私は、竜を倒した蜘蛛である。

 【竜殺し】である。

 影蛇と二匹がかりとはいえ、ちゃんと勝った。

 

 ……あれ?

 もしかして、竜いけたなら、龍もいけるのでは?

 

 そう思った瞬間、脳裏にアラバの姿が浮かんだ。

 

 無理。怖い。あれは無理。

 竜と龍は違う。

 字面が似てるからって調子に乗ってはいけない。

 竜殺しになったからといって、龍相手にイキっていい理由にはならない。

 慢心、ダメ、絶対。

 

『どうした?』

 

『一瞬、竜いけたなら龍もいけるんじゃないかと思った』

 

『やめておけ』

 

『自分でも今やめた』

 

 危ない危ない、調子に乗るところだった。

 

 さて。

 食べられる分だけ食べた。

 取るスキルも取った。

 なら、次は移動だ。

 

『外、目指す?』

 

『そうだな。ここに長居する理由は薄い』

 

『ナマズは惜しいけどね』

 

『それは分かる』

 

 うんうん。

 食の価値観が合うのは大事である。

 

 ともかく、食事終了。

 目指すは外。

 まずは中層からの脱出である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 移動は、思ったより楽だった。

 

 中層の魔物が寄ってこない。

 遠くに反応はある。熱もある。気配もある。でも近づいてこない。

 むしろ私たちを避けるように動いている。

 【恐怖を齎す者】の効果だろう。

 

 便利なんだけど……ご飯も逃げるし、由々しき問題である。

 

『便利だけど不便』

 

『称号の話か?』

 

『ご飯が逃げる』

 

『確かにそれは重要だな』

 

『重要だよ!』

 

 とはいえ、今は戦闘を避けられる方がありがたい。

 火竜戦の直後だし、無駄な消耗は避けたい。

 影蛇も無理に戦おうとは言わず、私の影に潜ったまま周囲を警戒している。

 

 そうして特に何事もなく数日が経った頃、私は大きく変わった地形を発見した。

 

 穴。

 ただの穴じゃない。巨大な縦穴。

 

 上も下も見えない。

 壁面は遠く、マグマの光が底の方でぼんやり揺れている。

 熱気が渦を巻き、穴そのものが息をしているみたいだった。

 この迷宮、本当に広すぎでしょ。

 

 近づきすぎないようにしながら中を覗こうとした、その瞬間。体の奥が震えた。

 

 いる。

 

 まだ見えていないのに分かる。何かがいる。

 大きい、強い、まずい。

 

『下がれ』

 

 影蛇の声が硬い。

 

 言われるまでもなく、私は下がっていた。

 糸を伸ばし、岩陰に身を隠す。

 影蛇も私の影の奥へ沈む。

 

 来る。

 

 巨大な影が、縦穴の中に現れた。

 

 蜘蛛。巨大な、蜘蛛。

 私よりずっと大きい。

 火竜よりも、なお大きい。

 同じ蜘蛛型の魔物のはずなのに、存在感がまるで違う。

 

 見た瞬間、理解した。

 

 マザー。

 

 私を産んだ、あの巨大蜘蛛。

 生まれた直後に見た理不尽。兄弟を当たり前みたいに食っていた怪物。逃げるしかなかった相手。

 その記憶が、体の奥から蘇る。

 

 そして、それだけじゃない。

 なんだろう、見ているだけで体が固まる。足が動かない。

 目を逸らしたいのに、逸らしたらその瞬間に見つかりそうで逸らせない。

 

 怖い。

 ただ大きいからじゃない。

 ただ強いからでもない。

 生き物としての格が違う。

 そう体が勝手に判断していた。

 

『……あれが?』

 

『マザー』

 

 私は小さく答える。

 影蛇の声も硬い。

 何をどこまで感じ取っているのかは分からないけれど、あれが危険だということだけはこいつにも分かっているらしい。

 

 マザーは私たちに気づいていないのか、それとも無視しているのか、巨大な体で縦穴を下へ降りていく。

 逃げる、絶対に逃げる。関わらない、見つからない。

 そう決めた、その時だった。

 

 熱が増した。

 火の魔力、竜の気配。さっき倒した火竜とは違う、もっと濃くて重い熱。

 

 火龍。

 それだけじゃない。

 配下と思われる中層の魔物も大量にいる。

 そいつらが、マザーへ向かっていく。

 

 おお!?

 怪獣大戦争か!?

 ここからじゃ鑑定できないけど、案外良い勝負するんじゃないか?

 

 そんなことを一瞬だけ考えた、その直後。

 

 マザーが、口を開いた。

 光が集まる。

 

 え?

 そう思った時には、もう遅かった。

 

 ブレス。そうとしか言えない何かが、縦穴を貫いた。

 炎なのか、光なのか、衝撃なのかよく分からない。ただ、分かったことが一つだけある。

 

 あれは、当たったら死ぬ。

 

 火龍も、その配下の魔物たちも、まとめて呑み込まれた。

 さっきまで縦穴を埋めていた熱も、咆哮も、魔物の気配も、全部まとめて吹き飛ぶ。

 

 爆発。

 熱と衝撃が縦穴を満たす。

 岩が砕け、炎が散り、マグマが跳ねる。

 離れていたはずの私たちまで、余波で岩陰から引き剥がされそうになった。

 

『っ、伏せろ!』

 

 影蛇の声と同時に、私は糸を岩に打ち込む。

 体が吹き飛びかけるのを、影蛇が土魔法で足場を押さえ、重魔法で私の体ごと沈めるように支えた。

 

 重い。

 いや、助かった。

 助かったけど、重い。

 

 などと文句を言う余裕はなかった。

 

 爆風が過ぎた後、縦穴の中にあった火龍軍は、ほとんど消えていた。

 さっきまで火の魔力を撒き散らしていた魔物たちは、影も形もない。

 岩壁は大きく抉れ、そこへマグマが流れ込んでいる。

 

 たった一度。マザーのブレス一つで、あれだけの軍団が壊滅した。

 強い。強すぎる。あいつらが弱いわけじゃない。絶対に違う。あれだけの群れが、相手になっていない。

 

 これが、マザー。

 私の体が冷える。熱い中層にいるのに、背中の奥が冷たくなる。

 

『動くなよ』

 

『分かってる』

 

 影蛇の声が短く響く。

 マザーは、火龍軍の残骸に興味を示すこともなく、そのまま縦穴の奥へ降りていった。

 まるで、邪魔なものを軽く払っただけみたいに。

 

 私はしばらく動けなかった。

 逃げなきゃ、今すぐ逃げなきゃ。

 そう思っているのに、体が固まっている。

 

 マザーが去った。火龍軍は壊滅した。

 今なら逃げられる、そう考えた瞬間。

 

 まだ、熱が残っていることに気づいた。

 

 一つ。火龍の反応。

 もしかして、まだ生きている?

 

 マグマの中から、巨大な影が起き上がる。

 片翼は潰れている。体のあちこちが傷ついている。

 近づいてきたからか、【叡智】の表示が引っかかるから見てみると、HPは半分以上削られている。

 

 それでも、その火龍は生きていた。

 

 嘘でしょ!?

 あれを受けて、生きてるの?

 あれだけ削られて、まだ動けるの?

 

 その火龍はマザーほどではない。

 それでも、十分すぎるほど大きく、そして怒っている。

 火龍がゆっくりと頭を上げる。

 

 こっちを見るな。

 私は心の底からそう思った。

 

 見るな、こっちを見るな。私たちは関係ない。

 マザーにやられたなら、マザーを追って。

 いや、追わなくていい。とにかくこっちを見るな。

 

 けれど。

 

 火龍の目が、こちらを捉えた。

 赤い瞳に、燃えるような怒り。

 行き場を失った憎悪が、私たちへ向く。

 

 ないわー。

 これはない。

 無理、あんなの無理。

 

『逃げるぞ、と言いたいが……』

 

 影蛇の声。

 

 分かってる。

 私も逃げたいけど、難しそうだ。

 

 火龍が、こちらへ向かって動き出す。

 傷つき弱り、片翼も潰れている。

 それでも、火竜とは比べものにならない圧があった。

 

 火龍。

 マザーに敗れた、生き残り。

 その怒りが今、私と影蛇に向けられていた。




TIPS:現在の蜘蛛子のステータス

《ゾア・エレ LV15 名前 なし
 ステータス
 HP: 602/ 602(緑)
 MP:4196/4196(青)
 SP: 622/ 622(黄)
   : 622/ 622(赤)
 平均攻撃能力: 606
 平均防御能力: 703
 平均魔法能力:4001
 平均抵抗能力:4121
 平均速度能力:2680
 スキル
【HP自動回復LV7】【魔導の極み】【SP回復速度LV6】【SP消費緩和LV7】【破壊強化LV3】【斬撃強化LV3】【毒強化LV7】【魔闘法LV2】【気闘法LV4】【気力付与LV2】【竜力LV1】【猛毒攻撃LV3】【腐蝕攻撃LV1】【外道攻撃LV1】【毒合成LV8】【糸の才能LV4】【万能糸LV1】【操糸LV8】【投擲LV7】【連携LV5】【念話LV6】【立体機動LV9】【隠密LV8】【無音LV5】【集中LV10】【思考加速LV7】【予見LV7】【並列意思LV3】【高速演算LV3】【命中LV9】【回避LV9】【威圧LV1】【外道魔法LV6】【影魔法LV7】【毒魔法LV7】【空間魔法LV1】【深淵魔法LV10】【破壊耐性LV3】【打撃耐性LV3】【斬撃耐性LV3】【火耐性LV4】【闇耐性LV2】【猛毒耐性LV2】【麻痺耐性LV5】【石化耐性LV3】【酸耐性LV3】【腐蝕耐性LV4】【気絶耐性LV3】【恐怖耐性LV7】【外道無効】【苦痛無効】【痛覚軽減LV7】【視覚強化LV10】【望遠LV8】【暗視LV10】【視覚領域拡張LV3】【呪いの邪眼LV7】【麻痺の邪眼LV5】【聴覚強化LV9】【嗅覚強化LV7】【味覚強化LV7】【触覚強化LV8】【星魔】【身命LV1】【瞬身LV1】【耐久LV1】【剛力LV4】【堅牢LV4】【韋駄天LV4】【魔王LV1】【忍耐】【傲慢】【飽食LV1】【叡智】【断罪】【奈落】【禁忌LV8】【神性領域拡張LV4】【n%I=W】
 スキルポイント:0
 称号
【悪食】【血縁喰ライ】【暗殺者】【魔物殺し】【毒術師】【糸使い】【無慈悲】【魔物の殺戮者】【傲慢の支配者】【忍耐の支配者】【叡智の支配者】【竜殺し】【恐怖を齎す者】》
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