さて、蜘蛛子と別れたはいいが、これからどうしよう。
強くなる為には、今まで以上に努力が必要だろう。
これからも蜘蛛子は超スピードで成長していく。
俺はそれに置いていかれたくない。
参考になりそうなのは、やっぱり原作の蜘蛛子か。
どうやって強くなったか、思い出してみるか。
【傲慢】による、経験値獲得量の大幅増加。
マザーの魂を取り込んだことによる、大量のステータスとスキル。
自身が原因で発生した戦争によって大勢の人間を殺したことによる、大量の経験値。
…………。
無理じゃないか?
まだ経験値はなんとかなるかもしれない。
だが、マザーほど成長した魂を丸ごと取り込んだ蜘蛛子に、同じ速度で追いつける自信はない。
【強欲】で力を奪い続けて、なんとか追いつくしかないか。
手始めに、上層の敵を相手に、自分一人で戦う訓練をしよう。
そう考えて、近くにいた魔物へ狙いを定めて魔法を飛ばした。
一撃で死んだ。
…………。
いやこれ、訓練にならないな?
上層にも強敵がいないわけではないだろうが、探している時間の方が長くなりそうだ。
なら、下層に戻るか?
幸い、転生直後に取った【記憶】は【記録】へ進化し、今では【思考の極み】に統合されている。
そのおかげで、転生してから通った道は全て覚えている。
記録している座標へ【空間魔法】で飛ぶこともできるだろう。
転生直後に【記憶】を取得しておいて良かった!
……って、思考がずれてた。
だがまあ、下層は無理筋か。
蜘蛛子と二匹で、避けられる敵を全部避けて、それでも何度も死にかけた場所だ。
一匹になった直後に戻るのは、訓練じゃない。
ただの自殺行為だ。
今のままでは、上層は弱すぎる。
下層は強すぎる。
先に進化するしかない。
あと五レベル。
問題は、その五レベルをどこで上げるかだ。
……それにしても。
【探知】の範囲に、蜘蛛子がいない。
正直これだけで欲望を抑えるのが楽になった。
楽になったはずなのに。
まだ、今すぐにでも戻りたいと思っている。
蜘蛛子の影に入りたいと思っている。
そして、蜘蛛子を守ってやりたいと思っている。
……自分で思っていたより、ずっと酷かったらしい。
そこまで考えたところで、体を影の中へ沈ませる。
少し落ち着こう。
俺は意識して【自己理解】を使った。
死にたくない。
神になりたい。
今度こそ、自分の生を満足できるものにしたい。
蜘蛛子の隣にいたい。
どれも俺の欲望だ。
蜘蛛子の隣にいたいからって、死にたくなくなったわけじゃない。
神になりたい気持ちが、消えたわけでもない。
だったら、ここで蜘蛛子の影に戻るわけにはいかない。
◇
ひとまず、今まで歩いていない場所を進んで、地上を目指すしかない。
上層のそこらへんの魔物よりは、人間の方が経験値を稼げたはずだ。
無関係な人間を襲うつもりはないが、盗賊なら遠慮する必要もないだろう。
地上に出たら、【探知】で人間の反応を拾って、【慧眼】で遠くから装備や行動を確認するか。
盗賊だと分かるような連中だけを狙えばいい。
……地上か。
そう決めたのはいいが。
出口、どこだ?
蜘蛛子と一緒にいれば人間に会える可能性は高かったが……。
いや、今更そんなこと考えても仕方ない。
あそこで離れなかったら、俺はまた、離れなくてもいい理由を探していただろう。
だから、今は出口を探すことに集中しよう。
正規の出入口は、人間に管理されているはずだ。
場所が分からないうえに、魔物の姿で出るのも大変だ。
けど、原作ではシュンたちが海底の洞窟から大迷宮に入っていた。
あれと同じ道を見つけるのは無理だろう。
ただ、ああいう管理されていない抜け道が、他にないとは限らない。
人間が通った痕跡。
外に繋がっていそうな水路。
その二つを探してみるか。
俺は影から出ると、【探知】を広げながら進み始めた。
◇
結論から言うと、出口はまだ見つかっていない。
人間が付けたように見える古い傷を見つけて、その先を辿ったこともある。
行き止まりだった。
水場を見つけたこともあった。
ただの水溜まりだった。
次に見つけた水場には、小型の魔物が住み着いていた。
襲ってきたので倒した。
そんなことを繰り返しながら、眠って起きるのを何度か繰り返した。
久々に一人で寝たから寂しかったが……まあ、今はいいだろう。
迷宮の中だから、昼も夜も分からない。
正確な時間は分からないが、二日か三日くらいは経っているはずだ。
それでも、出口は見つからない。
エルロー大迷宮、広すぎるだろ……。
【探知】と【思考の極み】のおかげで、同じ場所を何度も歩くことはない。
自分が通った道も覚えている。
迷ってはいない。
迷ってはいないんだが。
出口へ続く道が分からない……!
はぁ。
まだまだ時間がかかるかもな。
◇
ただ、出口だけを探していたわけではない。
探索しながら【探知】と【慧眼】を使って、上層の中でも比較的強そうな魔物を探していた。
そして、強そうな魔物の中から一匹で行動している相手を選び、何度か戦ってみた。
最初の一匹には、思っていたよりも苦労した。
遠距離から魔法を撃ち続ければ、もっと簡単に倒せたと思う。
けど、それでは回避や位置取りまで含めた、一匹での戦い方は身につかない。
敵の位置。
攻撃の前兆。
地形。
逃げ道。
全部を自分で確認しながら、できるだけ近距離で戦ってみた。
そして、失敗した。
蜘蛛子と一緒にいた時は、蜘蛛子の【叡智】が周囲の情報をまとめてくれていた。
俺は渡された情報の中から、特に見るべき場所だけを【慧眼】で見れば良かった。
一人になって、周囲の情報まで全部【慧眼】で深く見ようとした結果、反応が遅れた。
危うく攻撃をまともに受けそうになった。
……というか、一発は受けた。
すぐに【HP自動回復】で治る程度だったけど。
上層だからと油断するのは駄目だな。
それからも、探索の途中で何度か戦った。
敵の位置や、周囲の反応は【探知】で拾う。
必要な情報を【思考の極み】と【万象演算】で整理する。
【慧眼】で深く見るのは、今戦っている相手だけ。
そう切り分けてみると、かなり動きやすくなった。
分かっていたつもりだったんだが、実際に一人でやると全然違うな。
ちなみに、この数日で倒した魔物には全て【強欲】を使った。
今の時点で、特定のスキルを狙っていたわけではない。
けど、スキルポイントなら必要になった時に好きなものへ使える。
上層の魔物から奪えるステータスも、それほど大きくはなかったので、今回はスキルポイントを優先した。
全て合わせて、増えたのは六百ポイントほど。
火竜や火龍から奪った時と比べれば少ないが、これからスキルを増やすことを考えれば十分ありがたい。
【魔闘法】と【気闘法】も、戦闘中に使ってみた。
発動している間は、確かに体が強化される。
けど、当然MPとSPは減る。
俺には【MP高速回復】【MP消費大緩和】【SP高速回復】【SP消費大緩和】がある。
普通よりは長く使えるだろう。
それでも、探索中までずっと発動しておくようなものじゃない。
戦闘が始まったら発動する。
必要がなくなったら解除する。
安全な場所で、発動と解除を何度か繰り返す。
神になれば、システムの補助はなくなる。
今のうちに、スキルが体や魔力をどう動かしているのか、感覚を覚えておかないとな。
【龍力】も、戦闘の中で何度か試してみた。
初めて発動した瞬間、体の奥からそれまでとは比べものにならないほど強い力が湧き上がった。
全ての能力が一段階上がったかのような感覚。
だが、それだけじゃない。
【龍力】には、【龍鱗】と同じような魔法妨害が含まれている。
俺は既に【龍鱗】を持っている。
元から【龍鱗】によって弱められていた相手の魔法が、【龍力】を発動すると、さらに崩れやすくなった。
二つの効果がそのまま重なっているのか、それとも【龍鱗】の力を【龍力】が強めているのかは分からない。
けど、相性が良いのは間違いなさそうだ。
さらに、口の中へ力を集める。
何をすればいいのかは、自然と理解できた。
【龍力】を発動している間だけ、ブレスを吐くことができる。
俺は、口の中へ集まった闇をそのまま吐き出した。
黒いブレスが一直線に飛び、魔物の体を吹き飛ばす。
威力は、もちろん本物の龍には及ばない。
それでも、上層の魔物を倒すには十分すぎる。
別の戦闘では、【火竜】の力を混ぜてみた。
今度は、口元へ炎が集まった。
闇のブレス。
火のブレス。
今の俺が使えるのは、その二つか。
今後、別の竜や龍に関係する属性のスキルを得れば、その属性のブレスも使えるようになるかもしれない。
……本当に龍みたいになってきたな、俺。
ギュリエディストディエスの配下っぽいのはなんか嫌だな……。
まあ龍のスキルを持ってるだけで、俺は蛇だし大丈夫か。
……話を戻そう。
これだけ強力な【龍力】だが、消費は重い。
短い時間しか使っていないのに、MPもSPもかなり減っていた。
これじゃ、【魔闘法】と【気闘法】、それに【龍力】を同時に育てようとしても、MPとSPが足りないな。
戦闘中に三つを使い続ければ消費の方が早い。
何か、戦いながら補給する方法は……。
…………。
あったな。
原作で蜘蛛子が使っていた、【呪怨の邪眼】。
【呪いの邪眼】の進化系で、対象のHPやMP、SPを削り、その一部を自分へ還元する邪眼。
邪眼自体もMPを消費する。
だが、かなり燃費が良かったはずだ。
これなら、相手から吸収する分を考えれば、十分な補給になるかもしれない。
呪いは状態異常に分類される。
【状態異常耐性】を持っている相手には効果が落ちるが、持っていない相手なら問題ない。
……欲しいな。
普通なら、【呪いの邪眼】を育てて進化させるスキルなんだろう。
けど、俺は【慧眼の支配者】によって全スキルが解禁されている。
直接取得することもできる。
問題は、進化後のスキルだから必要ポイントが高いことだが……。
《現在所持スキルポイントは5025です。
スキル【呪怨の邪眼LV1】をスキルポイント2000使用して取得可能です。
取得しますか?》
2000ポイント。
高い。
けど、今の所持ポイントなら手が届く。
それに、【魔闘法】と【気闘法】、【龍力】を使い続けるための補給手段になるなら、取る価値はある。
取得する。
《【呪怨の邪眼LV1】を取得しました。残りスキルポイント3025です》
よし!
これで、敵を削りながらHPとMP、SPを補給できる。
……ん?
取得できるスキルを確認していると、もう一つ気になるものがあった。
【呪怨魔法】。
確か、原作では名前くらいしか出ていなかった魔法だ。
ただ、【呪怨の邪眼】と同じ系統なら、育てた先で相手の力を奪うような術式が使えるようになるかもしれない。
必要なポイントは。
《現在所持スキルポイントは3025です。
スキル【呪怨魔法LV1】をスキルポイント500使用して取得可能です。
取得しますか?》
500か。
【呪怨の邪眼】を取った後だと、安く感じるな。
取得する。
《【呪怨魔法LV1】を取得しました。残りスキルポイント2525です》
取得した【呪怨魔法】を確認する。
今使えるのは、相手の一部の能力を一時的に低下させる魔法だけらしい。
HPやMP、SPを奪って、自分へ還元するような効果はない。
流石に、最初から都合よくはいかないか。
けど、相手を弱体化させられるだけでも使い道はある。
それに、魔法スキルは育てれば使える術式が増えていく。
【呪怨の邪眼】と同じ系統なら、いずれ似たような吸収効果を持つ術式が出てくる可能性もある。
しばらくは、戦闘のたびに使って育ててみよう。
必要な時だけ【龍力】を発動する。
ブレスは切り札として使う。
【呪怨の邪眼】で消費を補いながら、【呪怨魔法】の熟練度も上げる。
今のところは、それが良さそうだ。
◇
その後も、何度か比較的強い魔物を相手に戦った。
取得した【呪怨の邪眼】と【呪怨魔法】も試してみた。
【状態異常耐性】を持っていない相手には、【呪怨の邪眼】が問題なく通った。
相手のHPとMP、SPが減り、その一部が俺へ流れ込んでくる。
これなら、【魔闘法】と【気闘法】を使いながらでも、ある程度は消費を補えそうだ。
流石に【龍力】まで長時間使い続けるのは無理だったが、発動できる時間は確実に延びた。
【呪怨魔法】の方は、今のところ相手の能力を下げるだけだ。
それでも、弱体化した相手なら近接戦の訓練もしやすくなる。
使い続けていれば、いずれ新しい術式も使えるようになるだろう。
ちなみに、この後に倒した魔物には、【強欲】でMPかSPの最大値を選んで奪った。
スキルポイントを増やすのも大事だが、今は三つの強化スキルを使うための燃料の方が必要だ。
珍しいスキルを持つ相手がいれば、そちらを奪いたい。
けど、今のところ見当たらないから、基本的にはこの方針でいいだろう。
最初の頃よりは、明らかに動けるようになった。
比較的強い魔物が相手でも、一匹で十分戦える。
少なくとも、上層でなら。
…………。
出口は、まだ見つかってないけど。
◇
さらに何度か眠って、起きた。
蜘蛛子と別れてから、数日は経っているはずだ。
戦闘の方は、どうにかなりそうだ。
問題は、まだ地上へ出られていないこと。
…………。
そろそろ外に出たい!
そう思いながら【探知】を広げた時だった。
妙な空間が引っかかった。
今いる通路の壁際。
一見すれば、岩と岩の間にできた細い隙間にしか見えない。
だが【探知】を伸ばしてみると、その隙間は岩の奥まで続いていた。
自然にできた亀裂か?
細い穴は斜め下へ伸び、途中から水で満たされている。
それだけなら、今までにも似たような場所はあった。
けど、この水は完全に止まっていない。
ごく僅かにだが、穴の奥とこちらを行き来するように動いていた。
さらに先へ【探知】を伸ばす。
何度も曲がっていて、細かい形までは分からない。
ただ、その奥にあるものだけは分かった。
今まで見つけた水場とは、比較にならないほど大きな水域。
少なくとも、今の【探知】の範囲では端が見えない。
……海か?
巨大な地下湖という可能性もある。
けど、水が僅かに動いていることを考えると、どこか大きな水域へ繋がっている可能性は高そうだ。
俺は穴の前まで移動した。
狭い。
人間が通るのは無理だろう。
大型の魔物も、この狭さではまず通れない。
俺も体長だけなら小さくはない。
それでも、蛇型の体は細い。
手足もないし、体をくねらせれば通れそうだ。
…………。
外へ繋がっている保証はない。
途中で完全に塞がっている可能性もある。
それでも、ここまで数日探して見つけた中では、一番外へ続いていそうな場所だ。
行ってみるか。
原作で蜘蛛子がやっていたように、【空間魔法】へ周囲の空気を収納する。
どれくらい必要になるか分からないので、多めに入れておく。
これで、途中で息が切れることはないはずだ。
多分。
…………。
なんか怖くなってきた。
けど、ここで引き返したら、また出口探しからやり直しだ。
流石にそろそろ外に出たい。
俺は【遊泳】を意識しつつ、水中へ潜った。
◇
暗い。
そして、狭い。
岩の亀裂が、そのまま水中まで続いているらしい。
綺麗な洞窟というより、崩れた岩の隙間を無理やり進んでいる感じだ。
俺の体長はそれなりにある。
けど、胴は細い。
手足もない蛇の体なら、岩の間を縫うように進むことができた。
人間はもちろん、体の太い魔物にも無理だろう。
【探知】で亀裂の先を確認しながら進む。
上へ。
下へ。
また横へ。
道というより、自然にできた隙間だ。
進みやすい方向へ続いているわけでもない。
それでも、水の僅かな動きと、奥にある巨大な水域を頼りに進んでいく。
この先が、本当に海ならいいんだが……。
まあ、今更考えても仕方ないか。
行けるところまで行くしかない。
俺は収納していた空気を少し取り出して呼吸すると、さらに奥へ進んだ。
しばらく進むと、僅かに明るくなってきた。
道の先では、生き物の反応が一気に増えていた。
魚らしき小さな反応。
それよりも大きな魔物。
上層にいた魔物より、明らかに強そうなものも多い。
これは海で間違いなさそうだ!
そしてさらに遠く。
今の俺では、近づきたくないほど巨大な反応があった。
水龍か?
距離があるため、詳しく見ることはできない。
それでも、近づかない方がいいことだけは分かる。
今の俺が水龍らしきものに挑むのは、進化前に下層へ戻るのと大差ない。
まずは地上。
それから、あと五レベルだ。
ただ、この海には上層よりも強い魔物が大量にいる。
水中で戦えるようになれば、ここを狩場にできるかもしれない。
今はまだ、無理だけど。
俺は巨大な反応から離れるように進み、岩の隙間から広い水域へ出た。
◇
広い。
どこまで【探知】を伸ばしても、水が続いている。
上を見れば、光が揺れていた。
やっぱり海で間違いない。
俺は岩陰に沿って泳ぎ、海面へ向かった。
水面から、ゆっくりと顔を出す。
眩しっ。
久しぶりの光に、思わず目を細めた。
空がある。
岩の天井じゃない。
見上げても、何もない。
…………。
空って、こんなに広かったか?
二度目の人生では、当たり前のように見ていたはずなんだが。
迷宮で過ごしすぎたらしい。
風が体を撫でる。
潮の匂いがする。
海の中で呑気に浮いている場合ではないと分かっているのに、少しの間、空を見上げたまま動けなかった。
外だ。
本当に、エルロー大迷宮の外へ出た。
……少し浸りすぎたか。
こんなところで呑気に浮いていたら、海中の魔物に見つかるかもしれない。
俺は【探知】で岸を探し、岩場へ向かって泳ぐ。
幸い、岸はそれほど遠くなかった。
岩の隙間へ体を滑り込ませ、地面へ這い上がる。
どちらの大陸側なのかは分からないが……。
今まで迷宮のどちら側にいたのかすら分からないんだから、考えても仕方ないか。
俺は岩が作る影の中へ潜った。
迷宮の中よりも、影が濃い。
光が強い分、暗い場所もはっきりしている。
これは動きやすそうだな。
俺は影から出て、地上の奥へ進もうとした。
その時、魂の奥で、何かが僅かに揺れた。
【探知】に反応があったわけじゃない。
【遠話】が繋がったわけでもない。
解除したはずの蜘蛛子との【影憑】の繋がり。
その残響のようなものが、ほんの一瞬だけ震えた。
俺は動きを止めてその感覚を探る。
場所は分からない。
何が起きたのかも分からない。
危険な目に遭っているような感じではなかった。
ただ、何かが大きく変わった。
蜘蛛子という存在が、今までとは少し違うものになったような。
……進化したのか?
別れる前、蜘蛛子はあと一レベルで進化できる状態だった。
あれから数日は経っている。
なら、進化していてもおかしくはない。
おかしくはないんだが。
…………。
もう進化したのか。
俺が数日かけて出口を探している間に。
いや、俺も何もしていなかったわけじゃない。
一人で戦うコツは掴めてきた。
スキルの使い方も練習した。
地上へ出ることもできた。
できたけど。
やっぱり早いな!
俺は海から離れ、地上の奥へ視線を向ける。
蜘蛛子は、もう次へ進んだ。
俺も、ここで足踏みしている場合じゃないな。
まずは、進化まであと五レベル。
置いていかれないように、俺も頑張らないとな。
TIPS:【影憑】の残響
【影憑】による接続は、解除すれば基本的に失われる。
ただし、長期間にわたって共存していた場合や、強い共存接続を何度も行った相手との間には、解除後もごく薄い繋がりが残ることがある。
この繋がりを通して、常時会話することはできない。
相手の位置や、現在何をしているか、どのような状態にあるかを詳しく知ることもできない。
伝わるのは、強い危機感や、魂・存在そのものに関わる大きな変化が起きた時、それが理由の分からない違和感として届く程度である。
今回、影蛇が感じ取ったのも、蜘蛛子が進化したという明確な情報ではない。
蜘蛛子という存在に大きな変化が起きたことを感じ、別れる前にあと一レベルで進化できる状態だったことから、影蛇が進化したのだと推測した。