三度目の生は蛇の姿で   作:鯱タクワン

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6.穴の先には白い蜘蛛

 落ちる。

 

 落ちる。

 

 落ちる落ちる落ちる落ちる!

 

 速い、暗い、怖い!

 

 さっき【恐怖耐性】を獲得したはずなのに、まだ普通に怖い!

 

 いや、耐性って恐怖が薄れるスキルじゃないのかよ!

 もうちょっと仕事してくれ!

 

 《熟練度が一定に達しました。スキル【恐怖耐性LV3】が【恐怖耐性LV4】になりました》

 

 レベル上がってもそんなに変わらないし!

 

 そんな文句を言っている間にも、体はどんどん下へ落ちていく。

 

 まずい。

 このまま地面に叩きつけられたら普通に死ぬ。

 

 だが、完全に無策で飛び込んだわけじゃない。

 

 狙うのは、穴の底にあるはずの影。

 

 暗闇の奥。

 落下でぶれる視界の中、その一点だけを必死に探す。

 

 壁の影じゃ駄目だ。

 突起の影でも駄目だ。

 細すぎる影に潜り損ねたら、そのまま終わる。

 

 もっと広い影。

 体ごと滑り込めるだけの、濃い影。

 

 まだか。

 

 まだなのか。

 

 ……あった!

 

 穴の底。

 薄暗い空間に、他よりも濃く沈んだ影がある。

 

 あれだ。

 

 あそこに入る。

 

 落下の勢いを殺す余裕なんてない。

 タイミングを間違えれば、普通に潰れる。

 

 でも、やるしかない。

 

 入れ。

 

 入れ入れ入れ!

 

 地面が迫る。

 

 影が迫る。

 

 衝撃が来る、その寸前。

 

 俺は全身をねじ込むように、底の影へ滑り込んだ。

 

 ぐにゃり、と世界が歪む。

 

 そして……。

 俺は影と一つになった。

 

 ……生きてる。

 

 生きてる!

 助かった!

 

 影の中でしばらく固まる。

 地龍の反応は……ない。

 

 追ってきていない。

 

 よし。

 助かった。

 本当に助かった。

 

 どうやら流石の地龍も穴に落ちてまで追いかけて来ようとはしないようだ。

 

 ……いや、まだ安心するのは早い。

 

 ここ、どこだ?

 はたして安全な場所か?

 

 【熱感知】と【魔力感知】を広げる。

 

 近くに反応が一つ。

 明らかにさっきの反応と比べて小さい。

 

 普通の魔物か?

 

 いや、よく確認したら上の方に複数反応あるな。

 

 それに離れていっている存在。

 ……これもしかして別の地龍!?

 しかもさっきのより強いんじゃないか!?

 

 まさか俺が追いかけられた地龍はこの地龍を怖がって来なかったんじゃ――

 いや、待て。

 

 この状況。

 まるで下層まで続いていそうな巨大な縦穴。

 一つの小さい反応と、離れていく地龍と思われる強大な反応。

 

 まさか。

 

 影から、そっと外を見る。

 

 そこにいたのは。

 

 白い蜘蛛だった。

 

 …………。

 

 …………。

 

 …………。

 

 いや待て。

 

 白い。

 小さい。

 蜘蛛。

 

 しかも、この状況。

 

 これ、もしかしなくても……。

 

 恐る恐る【鑑定】を飛ばす。

 

《スモールタラテクト  LV3

 ステータス

 HP:38/38(緑)

 MP:38/38(青)

 SP:38/38(黄)

   :38/38(赤)

 ステータスの鑑定に失敗しました》

 

 いた。

 

 原作主人公が、蜘蛛子が、「私」が、いた。

 

 え、マジで?

 本当に?

 いや、確かにDが身代わりの蜘蛛の近くに配置したとかならあり得るけど。

 いや俺は知らないけど。

 でも状況的にそうとしか思えない。

 

 ……って、しまった。

 

 俺、今【鑑定】した。

 

 鑑定したってことは、相手に不快感がある。

 

 つまり。

 

 蜘蛛の体がぴくりと動き、こちらを向いた。

 

 あっ、バレた。

 

 反射で影に引っ込む。

 

 まずいまずいまずいまずい!

 

 相手は原作主人公だぞ!?

 今はまだ弱いはずだけど、メンタルと適応力が化け物のやつだぞ!?

 今の段階はこっちの方が強いはずだけど、勝てる気がしない!

 

 しかもこの不快感、向こうも俺を鑑定したみたいだ。

 この不快感なら、敵対したくなる気持ちもわかるかも……。

 ってそうじゃない!

 

 突然【鑑定】をしてくるとか相手目線怪しすぎる。

 完全に不審者。

 いや不審蛇。

 

 しかも今の「私」は【鑑定】による不快感を知らなかったはずだから、敵対して攻撃してきたと思われるかもしれない。

 

 どうする?

 逃げるか?

 

 いや、逃げてどうする。

 ここが原作通りなら、この先は下層だ。

 強敵だらけ。

 もし隠れながら移動して中層に行けても、そこはマグマ地帯。

 

 俺一人で?

 この魔法特化紙装甲で?

 【魂欲】とかいうデメリット背負って?

 しかもこんな貧弱な精神で?

 

 無理では?

 

 さっきの地龍で分かっただろ。

 今まで生き残れていたのは、戦法がハマっていただけだ。

 格上に対しては一気に崩れる。

 

 一人じゃ、厳しい。

 

 それに、目の前にいるのは原作主人公。

 この世界で、俺が最も知っている魔物。

 

 そして俺と同じ転生者。

 

 ……話しかけるしかない。

 

 転生者だとわかった理由は……【鑑定】を使う知能があったからとかで良いだろう。

 

 ただ、問題は「私」が滅茶苦茶コミュ障ってことなんだよなぁ。

 

 原作知識的に、会話がスムーズにいくとは思えない。

 というか俺も人付き合い上手い方じゃない。

 コミュ障と内向的元高校生の初会話。

 

 地獄か?

 

 でもやるしかない。

 

《現在所持スキルポイントは780です。

 スキル【念話LV1】をスキルポイント100使用して取得可能です。

 取得しますか?》

 

 イエスだ。

 

《【念話LV1】を取得しました。残りスキルポイント680です》

 

 さて、うまくいけるか……。

 

『あー、聞こえてるか?』

 

 沈黙。

 

 反応なし。

 全く動いてない。

 

 いや、動かないというか、めちゃくちゃ警戒している。

 そりゃそうだ。

 突然穴から黒い蛇が落ちてきて、鑑定して、即影に消えたのだ。

 しかも急に話しかけてきてる。

 

 怪しさの塊である。

 

 ……これ、どうするのが正解だ?

 

 下手に近づけば敵対される可能性がある。

 かといって、このまま黙っていても状況は変わらない。

 

 そして何より。

 

 この相手を逃したら、もう二度とチャンスはないかもしれない。

 

 原作主人公。

 この世界で最も、俺が()()()()()()存在。

 

 ここで逃げたら、詰むかもしれない。

 

 ……腹を括れ。

 

『いきなりで悪い。敵意はない』

 

 少しだけ間を置いて、続ける。

 

『俺は、日本からの転生者だ』

『……お前もそうじゃないか?』




TIPS:上層の地龍

主人公を追いかけていた地龍は、原作でシュレイン達がエルロー大迷宮に侵入した際に遭遇した『地龍エキサ』のような、進化したばかりの地龍である。
進化直後であったためSPが大きく減少しており、強い空腹状態にあった。
そんな中、自身を【鑑定】した主人公に対して強い不快感を抱き、さらに飢えによる苛立ちも重なったことで、半ば八つ当たりのような形で追跡を開始した。
しかし主人公が飛び込んだ縦穴の先に、より強大な地龍――『地龍アラバ』の反応を感知。
本能的な危険信号によって冷静さを取り戻し、それ以上の追跡を中止した。
その後は、空腹を満たすための狩りへ戻っている。
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