三度目の生は蛇の姿で   作:鯱タクワン

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蜘1.穴の上から黒い蛇

 私、名無しの蜘蛛!

 転生者で、元女子高生!

 

 ……のはずだったんだけど、気づいたら蜘蛛に転生しちゃってました!

 しかも迷宮で何度も死にかけるわ、巣は燃やされるわ、穴に落ちるわ、地龍にボロボロにされかけるわで、もう散々!

 いやほんと、マジで死ぬかと思ったんですけど!?

 

 ごほん。

 そんな極限サバイバルの真っ最中に、謎の黒い蛇が上から落ちてきちゃった!

 

 しかも消えた。

 影に。

 ……改めてなんだあれ。怖い。

 

 イベント? 救済? それとも新手の死亡ルート?

 私の迷宮生活、一体どうなっちゃうの〜!?

 

 ……ほんとにどうしよこれ。

 落ち着け私。

 まずは情報だ。こういう時は鑑定。

 鑑定さん、お願いします!

 

《スモールグレイヴウンブラペント LV1 ステータスの鑑定に失敗しました》

 

 ……うん。

 わからん!

 ステータス見ただけじゃ何もわからないよ!

 スモール? グレイヴ? ウンブラ?

 なにそれ美味しいの?

 いや、食べたくないけどさ。

 

 ってことでさらに鑑定!

 

《スモールグレイヴウンブラペント:サーペント種の変異種であるウンブラペント種と呼ばれる蛇型の魔物の希少種の幼体。影の闇を()にまで解釈を広げ、魂を求める》

 

 魂を求める。

 はいアウト! 説明文がもう完全に敵キャラのそれ!

 私の魂を求めないでください!

 ノー魂! ノーサンキュー魂!

 

 しかもこいつ、さっき影に消えたよね?

 私、見たよ? スッて消えたよ? あれ絶対普通の蛇じゃない。

 いや、そもそも普通の蛇が念話してくる時点で普通じゃないんだけど。しかも日本語。

 

 なんなの? 最近の蛇って会話するの?

 異世界怖っ!

 

『いきなりで悪い。敵意はない』

 

 うん。それはさっき手を出してこなかった時点で一応わかってる。

 問題はそこじゃない。蛇が自然に日本語喋ってることの方が問題だ。

 

『俺は、日本からの転生者だ』

『……お前もそうじゃないか?』

 

 …………。

 …………。

 …………。

 

 え、なに?

 転生者? 日本? お前も?

 

 ……いやいやいやいや。待て待て待て。

 確かに私、転生者ですけど? 日本から来ましたけど?

 でも、なんでそれを知ってるの? もしかして、私を鑑定したから?

 いやでも、鑑定でそこまでわかる? 私のポンコツ鑑定さんじゃ、名前もステータスも全然見えないんですけど?

 

 向こうの鑑定レベルが異様に高い? それとも、そういう特殊スキル持ち?

 

 もしくは、罠? 罠か? 罠なのか!?

 黒い蛇が「同郷です」って言って油断させて、影からガブリ。

 ありえる。ありえすぎる。だってここ迷宮だし。優しさより殺意の方が多いハードモード世界だし。

 

 というか魂を求めるって鑑定に堂々と書いてあるし!

 信用できる要素、どこ!?

 

 ……でも。

 こいつは、さっき攻撃してこなかった。

 私はこいつを鑑定した。多分、向こうも私を鑑定した。

 それでも、攻撃はしてこなかった。

 

 なら、即敵って決めつけるのも危ない。色々と情報が欲しい。それを知るためには、話す必要がある。

 ……あるんだけど。

 

 会話かぁ。

 会話、苦手なんだよなぁ。人間だった頃から得意じゃなかったのに、今は蜘蛛だぞ?

 蜘蛛のコミュ力って何? 糸で「よろしく」って文字でも編めばいいの?

 無理です。

 

 というか念話ってどう返すの?

 あっちが使ってきたってことは、こっちにも届いてる。なら、返すには……意識を向ける?

 こう? いや違う?

 えーっと。

 

 ……あーもう! やるしかない!

 

『……聞こえてる』

 

 言えた! 言えたよ私! 念話デビュー! やったね!

 ……いや、喜んでる場合じゃない。

 目の前の黒蛇、まだ影の中にいるし。

 姿見せろや! いや見せられても怖いけど!

 

『日本からの転生者って言ったけど、証拠は?』

 

 よし。まずは確認。

 私は賢い蜘蛛。簡単には騙されない蜘蛛。詐欺対策もばっちしな蜘蛛。

 

『証拠……か。難しいな。俺もお前の前世の名前までは知らないし、聞くつもりもない』

 

 ん?

 前世の名前を聞かない? そこはちょっと意外。

 もしこいつが転生者のふりをしてる怪しいやつなら、こっちの情報を引き出そうとしてもおかしくない。

 

『ただ、俺は日本で高校生だった。授業中に死んで、気づいたらこの世界で蛇になってた』

 

 授業中。

 死んだ。

 ……そこは、私と同じ?

 

『古典の授業だった』

 

 …………。

 え。古典? そこまで同じ?

 いや待って。それ、かなり重要情報では?

 私が死んだのも、たしか古典の授業中。

 

 偶然? いや、偶然にしてはできすぎてる。

 ……マジで転生者?

 

『じゃあ、聞くけど』

 

 私は少しだけ迷ってから、念話を返す。

 

『元の世界で人間だった?』

 

『ああ。二回な』

 

 …………。

 ん? 二回?

 

『二回って何!?』

 

『……そこから説明するのか。いや、まあそうなるよな』

 

 影の中の黒蛇が、少しだけ困ったように沈黙した。

 いやいやいや。困りたいのはこっちなんですけど?

 

 転生者です。日本人です。元人間です。ここまでは分かる。

 二回って何!? 私、転生一回目なんですけど!?

 まさかの先輩転生者!? いや、そんなことあるの!? 転生者二年生みたいな!?

 

『簡単に言うと、俺は一度別の人生を送って、それからもう一度日本に生まれて、今回この世界に来た』

 

『全然簡単じゃないんだけど!?』

 

 思わず即答してしまった。

 だって意味わからんもん! 私が蜘蛛に転生しただけでも処理落ちしてるのに、こいつ転生二回目とか言い出したよ!

 重い! 設定が重い!

 

 …………あれ?

 というか私、普通に喋ってない?

 

 さっきまで念話の返し方すらわからなくて、あんなに構えていたのに。いつの間にか、普通にツッコんで、普通に聞き返していた。

 転生者。日本人。同じ授業中に死んだらしい相手。

 そこに転生二回目なんて意味不明な情報まで追加されたせいで、怖がるより先にツッコミが出てしまった。

 

 警戒心が消えたわけじゃない。むしろ、魂を求める蛇とかいう時点で警戒心はバリバリ現役だ。

 でも、気が紛れた。怖さだけで固まっていた頭が、少しだけ別の方向に動き出した。

 おかげで、会話の仕方を考える前に、会話ができてしまっていた。

 

 ……うん。

 良いことなのか悪いことなのかは分からない。分からないけど、今は情報収集が優先だ。

 

『まあ、俺の事情は後でいい。今は敵意がないことだけ信じてくれればいい』

 

『信じろって言われても、魂を求める蛇なんですけど?』

 

『それは俺も困ってる』

 

 困ってるんだ。

 まあ元人間が本当なら、そりゃ困るよね。自分の体が魂を求めるって、エグい。

 ちょっとだけ同情した。

 ちょっとだけね! でも油断はしない。

 

『じゃあ、こっちに近づかないで』

『わかった。影から出ない』

『いや、ずっと影の中にいられるのも怖いんだけど』

『それは……すまん。今は影の中の方が落ち着く』

 

 うーん。

 まあ、私もマイホームの中の方が落ち着くし、そこは分からなくもない。

 影が巣みたいなものなのか? 黒蛇のマイホーム、影。

 やだなぁ。隣人が自分の影に住んでるとかホラーすぎる。

 

『で、あんたは何がしたいの?』

 

 私がそう聞くと、黒蛇は少し黙った。

 その沈黙が、少しだけ重かった。

 

『生き残りたい』

 

 返ってきた言葉は、思ったより単純だった。

 

『もう死にたくない。だから強くなりたい。できれば……一人じゃなく』

 

 …………。

 あー。

 それは。

 それはちょっと、ずるい。

 

 だって私も同じだ。

 死にたくない。生き残りたい。この迷宮で、一人で。

 怖くないわけがない。何度も死にかけた。何度も泣きそうになった。それでも一匹でやってきた。

 

 だから。

 その言葉は、少しだけ分かってしまった。

 

 ……少しだけだぞ。

 まだ信用したわけじゃない。

 魂を求める蛇だし。黒いし。影にいるし。怪しいし。怪しさしかないし。

 でも。

 

『……私は、あんたを信用したわけじゃない』

『それでいい』

『近づいたら攻撃する』

『わかった』

『変なことしても攻撃する』

『わかった』

『魂とか求めてきたら全力で逃げる』

『それは本当に気をつける』

 

 そこは即答しないんかい!

 不安! めちゃくちゃ不安!

 でもまあ、正直に言うだけマシ……なのか?

 

『じゃあ、ひとまず休戦』

『助かる』

『ただし仮! 仮だからね!』

『ああ。仮でいい』

 

 こうして。

 私、名無しの蜘蛛は。

 魂を求める黒い蛇と、仮の休戦を結ぶことになった。

 

 ……うん。

 改めて思うけど。これ、大丈夫?

 死亡フラグじゃない?

 

 私の迷宮生活、やっぱり一体どうなっちゃうの〜!?




TIPS:タラテクト種の変異種

タラテクト種に変異種は存在しない。
タラテクト種は通常の生殖によって増える種族ではなく、始祖個体である魔王アリエルの持つスキル【産卵】を起点としてのみ増殖する。
【産卵】によって生み出される個体は、正確には子孫ではなく、アリエル自身を劣化複製した個体に近い。
つまり、全てのタラテクト種は突き詰めれば『アリエルと同一存在の延長』であり、系統としての差異が発生しない。
そのため、選んだ進化先による変化等は存在するが、通常の魔物種で見られるような変異種は理論上発生せず、全個体がアリエルを起点とした同一規格の存在として誕生する。
なお、性別もオリジナルであるアリエルと同じく、全てメス個体で統一されている。
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