闇鍋ポケモンもの 作:塩谷あれる
『それでは早速参りましょう!最初のバトルはァ〜〜〜〜ッこの2人だ!』
小気味よいドラムロールと共に、スタジアムに備え付けられた大型ディスプレイが点灯する。画面には、2つの小窓のような枠が映し出され、その中のジムリーダー達の写真が目まぐるしくシャッフルされていく。
シャッフルスピードが次第に遅くなり、最後に映し出されたのは…
「うげ」
「ん?なんやウチかいな」
『シオミヤVSアオホシィ〜〜ッ!!これはいきなりの好カードだァ〜ッ!!』
ヤミナベ地方チームからはシオミヤ、ウタゲ地方チームからはアオホシの姿だった。
「相性、最悪……しかも一番槍だし…」
「頑張れーしおやーん」
「ファイトー」
「アオホシさんの対面苦手なの、ウチはシオミヤさんだけじゃないですから…頑張ってください」
「
「お、得意な対面じゃん。頑張れアオホシさん」
「がんばえー!」
「幸先良いですねぇ」
「そうも言ってられんのよなぁこれが…ほな、行ってくるわ」
シオミヤは肩を落としながら、アオホシは楽しげに、バトルフィールドへと向かう。
『それでは早速選手紹介です!まずは東軍…ヤミナベ地方チームから!』
そんなアナウンサーの声とともに、場内に流れるBGMが変わる。
『全てのヤミナベ地方トレーナーは、彼女を超えるところからジムチャレンジを始める…巧みなバトル展開と優しい指導で、未来のチャンピオン達を導くトレーナーズ・ティーチャー!全トレーナーよ!彼女の本気を見て学べ!カマリシティジムジムリーダー…
“緑の指の教え人”シオミヤァーーーッ!!』
「この
『続いて西軍…ウタゲ地方チーム!』
穏やかなヴァイオリン主体の曲調から、燃え上がるようなハイテンポのピアノが主旋律を奏でる楽曲に、またもBGMが変わる。これから現れる『彼女』の闘争心を表すかのように。
『闘争と混沌のウタゲ地方は、彼女を認めさせねば生き残れない!勝って這い上がれ登竜門!立ちはだかる最初の業火は、いつでもお前を待っている!スピカシティジムジムリーダー!
“灼熱の魔女”アオホシィーーーッ!!!』
「いややわぁ魔女なんて、こんなに清楚なのに」
羞恥と非難。それぞれの文句を言いながらも、二人は、審判が立つフィールドの中央部に立ち、顔を見合わせる。
「ルールはオーソドックスルール!使用ポケモンは4体まで、交代自由、回復アイテムの使用は一度のみ。どちらかの使用ポケモン全ての戦闘不能、または降参した場合のみ決着とする。いいですね?」
「はい」
「はいはいな。……お久しぶりやねぇおシオ。ウチと初戦でやれるとか、ラッキーやなぁ自分」
「どこが…勘弁して下さいよ。苦手対面は多いですが、アナタ相手が一番苦手ですからね、私」
「ツれないなぁ…折角なんやし楽しもや。ここで
「はぁ…ま、ベストは尽くしますよ」
軽い挨拶を済ませながら、二人はトレーナーのスタンドポイントへと立つ。会話の中で初手のポケモンの選定を済ませたようで、それぞれの右手には、既にモンスターボールが握られていた。
『さぁ!ジムチャレンジでは専ら最初の相手として立ちはだかるこの2人の戦い!炎が草木を焼き尽くすのか、森が灼熱を飲み込むのか!注目の一戦です!それでは参りましょう…
ポケモンバトル、スターァトォ!!』
掛け声と共に投げられる2つのボール。そして現れる、2匹のポケモン達。今、戦いの火蓋が、切って落とされた。
「いきましょう、オリ───…ッ!?」
「ブレイブバード……そうや、ええ子やね。ファイアロー」
シオミヤが出したのは、生い茂る草葉の触腕を持つ、攻防に優れたオリーブポケモンのオリーヴァ。それに対し、アオホシのポケモンはファイアロー。特徴的なのは赤い翼と鋭い嘴、そして何より、そのスピード。最高速度にして時速500km───ほのおタイプ最速を誇る、“烈火”の名を持つポケモンである。
そしてそのファイアローの嘴が、ボールから出て間もなく、着地すらできていないオリーヴァの体に、深く突き刺さっていた。一瞬。神速。見る間も無く。そんな比喩表現で溢れるほどに速く。ファイアローは、ボールから出てすぐ。アオホシが
『あーっと、指示をするよりも早くファイアローが攻撃ぃーっ!?これはどうなんだ!?』
「けったいな言いがかりは
そう、アオホシのファイアローは何も彼女の意志に反した独断専行をした訳では無い。寧ろ、彼女の、トレーナーであるアオホシの、『言外の指示』を忠実に受け取ったが故に攻撃を行ったのである。
ボールを投げる際の向き、投げ方、タッピング…ボールの中にいるポケモンに対し、これから行う戦法の指示を伝える方法は少なくはない。それらが一般的でないのは、多くのトレーナー達が認識していない為、そして、これらの『言外の指示』を行うには、それ相応の技術と経験、そして何より、ポケモンとの信頼関係が必要になるのである。
「上位のトレーナー達はみぃんなやっとる…別に卑怯なことやあらへんで?」
そんなことを言いながら、アオホシは攻撃を終え戻ってきたファイアローの喉元を軽く撫ぜる。そしてそのまま、ゆっくりと、自身の対戦相手へと視線を移した。
「───勿論アンタも、そんなこと言わへんよなぁ、おシオ?」
「えぇ、当然です…なんせこっちも、
ズレた眼鏡の位置を直しながら、シオミヤは薄く微笑む。その瞬間───
「──ッ、ファイアロー!」
ファイアローの体から、太い蔓が溢れ出、その体を縛り付けた。翼、脚、尾──飛ぶための器官を拘束されたファイアローは、そのまま地面へと落下し、じたばたともがく。しかし蔓は、もがけばもがくほど絡みつき、ついには地面に根を張り、ファイアローの体を縫い付けてしまった。
異変は更に続く。地面に縫い付けられたファイアローを中心に────否、
『これはグラスフィールドだ!!シオミヤ選手、くさタイプのポケモンに有利なフィールドを作り出しました!』
「地面に根を…それにこのグラスフィールド…あぁ、そーいうことかい」
「えぇ。…よくできました、オリーヴァ」
シオミヤが呼びかける先───そこには、先ほどの攻撃等どこ吹く風と言わんばかりに、まっすぐに立つオリーヴァの姿があった。
「やどりぎのタネ…それにこぼれダネ*1か。アンタも既に指示を出しとったわけやね」
「えぇ…私のオリーヴァは、支援は得意ですが速攻戦は苦手でして。アオホシさんのポケモンなら、必ず先に攻撃してくると思ってましたので、一応の布石を、とね」
早い話が、シオミヤはオリーヴァに、「敵の攻撃が命中した瞬間、その体にやどりぎのタネを植えつけろ」と指示をしていたというわけである。先手の攻撃を食らっても、その後の種の発芽によって体力を吸収することで、攻撃とリカバリーを同時に行う。シオミヤの常套手段…もとい、基本戦法の一つだった。
(やどりぎのタネを拘束技として
「ファイアロー、はねやすめや。足掻く前に息整えんで」
「どうぞご自由に。オリーヴァ、だいちのちから」
アオホシがじたばたともがくファイアローをなだめようとするも、その隙をつくように、シオミヤのオリーヴァが畳みかける。本来ならば意味をなさないじめんタイプの技も、地に伏し、飛ぶことのできない今のファイアローではまともに喰らってしまう。
「動かれても厄介なので、このまま畳みかけましょうか」
「……」
もがくファイアロー。凝縮された大地のエネルギーを浴びせるオリーヴァ。攻撃に長けたポケモンがひたすらに攻撃を受け、防御と支援に長けたポケモンがひたすらに攻撃を続ける、妙な構図。タイプ相性も相まって本来ありえない状況ではあるが、それが起こり得るのがジムリーダー同士の戦い。普段は見れないジムリーダー達の本気のバトルに、観客たちは大興奮だった。
そんな観客達の歓声などどこ吹く風に、シオミヤは眉をひそめる。明確に有利なこの状況。であるのに、どこか違和感が拭いきれない。グラスフィールドを展開し、やどりぎのタネによる回復も未だ継続中。状況が出来過ぎている、想定通りにいきすぎている。
(────
否、否、否。違う。違和感はそれだ。何故まだ回復が出来ている?だいちのちから数発。やどりぎのタネによる体力の吸収。はねやすめによる回復が追いつくレベルではない。なのに何故。何故まだ、
「……オリーヴァ、だいちのちから、威力最大。ここで確実にとどめを───」
「あらあら、どうしはったん?なんや随分と、尻に火ぃでもついたみたいな顔しとるやん」
何かがマズい。それを察知したシオミヤは、ファイアローを早急に
「……楽しそうですね。なにかおかしなことでもありました?」
「いんや…なぁんもあらへんよ。ただ…
やっと温まってきただけや」
その瞬間。ファイアローの体を真朱の炎が包み込む。己が身すら焦がすような鋭い熱気は、まとわりつく蔦を炭に変え、ファイアローの翼に、空を叩くための活力と、獲物を撃ち抜く為の推進力を与える。その姿を見たシオミヤは、目を見張る。グラスフィールドによって展開された草木が、こちらに向けてそよいでいることに。場内の風が、強くなっていること、その風が、アオホシと、ファイアローの背の方から流れていることに。
「~~~~~~ッ迂闊!」
(おいかぜ────ッ!だからはねやすめが済んでたのか……ッ!そりゃそうしてきますよね…!速攻戦が売りのアオホシさんにしては遅すぎたくらいだ!)
「オリーヴァ!防御体勢を───「遅いわボケナス」
自らの体力の著しい消耗を代償とする、ほのおタイプきっての高威力物理攻撃。放たれる矢のような、ファイアローの亜音速の突撃は、防御体勢を取ろうとしたオリーヴァの胴体を深々と貫き、その意識を刈り取る。────しかし、オリーヴァはその直前。最後の執念を振り絞り、自身の触腕をファイアローへと絡みつかせ、その腕についた果実の一つを炸裂させた。
(!…おきみやげか、ただでは転ばんの)
「……お疲れ様です、オリーヴァ」
(グラスフィールドは継続、やどりぎは焼かれた…おきみやげは上手い事ぶつけた…結果は一先ず上々ですかね)
炸裂した果実からあふれた油のような液体が、ファイアローの身体に降りかかり、その体を滑らせる。ファイアローの主な武器である爪と嘴も、その鋭利さが鈍らされているようだ。
「やるやんけ、おシオ」
「……お褒めに預かり光栄ですよ」
煩わしそうに、それでいて、心から愉しそうに、アオホシは嗤う。
照れくさそうに、それでいて、心から悔しそうに、シオミヤは苦笑する。
九番勝負の一戦目、その序章。緑の守り人と赤き戦闘狂の戦いは、まだまだ始まったばかりである。
地名は恒星の名前から取ってます
カマリシティ=天秤座ベータ星「ズベン・エス・カマリ」から。地球から観測できる唯一の緑の天体
スピカシティ=乙女座アルファ星「スピカ」から。まぁ本人ネタ
リーグ本部がある「テンカン」橋も、天の川を意味する「天漢」から。