闇鍋ポケモンもの 作:塩谷あれる
アオホシ:ジムリーダー。旅人
これ9戦やるのバカだな?
「行ってください、ルンパッパ」
現状残りポケモン3対4。リードをつけられているシオミヤが次に繰り出したのは、ずんぐりとした体躯と、ソンブレロのような葉の帽子が特徴的なポケモン、ルンパッパ。極めて数の少ない、くさ/みず複合ポケモンである。
「ま、来るわなぁ。温存しとかんでよかったん?」
「えぇ、確実に
事実、フレアドライブと今までのダメージで、ファイアローの体力は半分程。であるならば、ここで落とせなくては勝機はない。
「さよか、ほんなら遠慮なく刈り取らせてもらうわ」
「……あん?」
「何度も撃たせやしませんよ、そんな大技」
再度アオホシのファイアローが動こうとしたその時。いち早く、それを予測したかのように先に動いたルンパッパが、ファイアローの眼前で、その手を鳴らす。
フィールドに出た瞬間のみ使用できる、相手の出端を確実に挫く技。鳴らされた手による音がファイアローの虚を突き、纏わんとしていた炎をかき消される。
「アホかい、一発凌いだからって油断しなや────ファイアロー」
「してるわけ無いでしょう。…この距離ですね、ルンパッパ!」
技と技、物理と特殊。飛行と水。お互いの渾身の一撃がぶつかり合う。初速は当然ながらファイアロー。しかし、瞬時に距離を取り、射程を確保したルンパッパのハイドロポンプが、ファイアローの突撃を緩和する。タイミングは───互角。しかし、上回ったのは、互いの技の威力そのもの。
「ルンパッパ!」
「上出来やファイアロー、そのまま突っ切れ。反撃の余地なんか与えたあかんよ」
強力な鉄砲水を打ち破り、技の押し合いを制したのはファイアロー。そしてそのまま高速回転、体についた水気を払うと同時に、摩擦によって生まれた熱が翼を灼き、再度ファイアローの体に火が灯る。それは、ルンパッパの体を刺し貫くには十分すぎる程の火力─────
「ルンパッパ、意地でも離さないで!ここで落としなさい!」
────である筈だった。ファイアローの突撃、それを狙ったのはシオミヤも同じ。ハイドロポンプによるブレイブバードの軽減は、ゼロ距離でファイアローに攻撃をぶつけるための布石。ここで、確実にファイアローを戦闘不能にするための無謀とも言える一手。
灼熱、波濤。業火、激流。膨れ上がるフレアドライブの熱を、ルンパッパのハイドロポンプがかき消していく。熱気と水気がせめぎあい、立ち込めた水蒸気が、見る間に2匹の姿を包み隠す。
『こ、これはどうなったんだぁ〜っ!?』
次第に、水蒸気が晴れていく。生き残った一匹の姿が、ゆっくりと映し出されていく。そうして、そこに立っていたのは…
「…よくやりました、ルンパッパ。本当に、よくやってくれた」
『ル、ルンパッパだァ〜〜〜ッ!!あの猛攻を耐えきったのか!これはすごいぞォ〜ッ!!』
水浸しになり、仰向けに倒れたファイアローを制し、その名に与えられた分類の通り、“能天気”に踊るルンパッパだった。
まずは互いに一匹ずつの撃破。そして互いに、グラスフィールドとおいかぜという、自陣に有利な状況を作ることに成功している。
「おおきにな、ファイアロー…。攻めきれると思ったんやけどな。えらいガッツやんそのルンパッパ」
「自慢の子です」
「そら良かったわ…ほんじゃ、ウチの秘蔵っ子も見てってもらおか」
そう言いながらアオホシは次のボールを放る。そうして現れたのは、黄金色の鎧を身にまとった人型のポケモン、グレンアルマ。「火の戦士」の異名を持つ、特殊攻撃に長けたポケモンだ。
「あら、撃ち合いがお好みですか?」
「ま、それが一番手っ取り早いからなぁ。グレンアルマ」
その瞬間。一陣の風のようなものと共に、地面に鬱蒼と生え渡っていた草木が一瞬で消え失せる。そしてその代わりと言わんばかりに、何やら紫色の靄のような物が、波打つように現れた。
(自分のポケモンにもメリットが見込めるグラスフィールドをわざわざ潰しに行った…?いえ、これは、
(防御屋のおシオ相手に真面目に持久戦しても埒開かんからなぁ。さっさとこっちのええようにしとかんと捲られてまう)
「そういうことなら存分にこっちも積みましょうか、ルンパッパ」
ルンパッパが先ほどから続けていた踊りのテンポを上げると同時に、スタジアムの空に暗雲が立ち込め、ぽつり、ぽつりと雨が降り出す。
(そらそう来るやんなぁ…すいすい*1かあめうけざら*2か……どっちにしろ厄介やね)
フィールド状況をアオホシが、天候をシオミヤがそれぞれ塗り替えたこの状況。先に動いたのは、
「吹き飛ばして、ルンパッパ」
降り注ぐ雨により活力を得たルンパッパが、奇妙な踊りと共に激流を放つ。直線的に伸びる水のレーザーとも言える攻撃は、グレンアルマに避ける隙を与えず、その黄金色の鎧へと命中し、
その直後。ハイドロポンプの音をかき消す程の爆音が、フィールド内に轟いた。
否。かき消す程の、ではない。その轟音を境に、ハイドロポンプの音は、明確に止んだ。何故なら────
「────ッ、ルンパッパ!」
「……上出来や、グレンアルマ」
くだけるよろい。攻撃を受けたタイミングで、纏っていた鎧を捨てることで、防御力の低下を代償に敏捷性を飛躍的に上昇させる特性。極めて希少ではあるが、グレンアルマの中には、この特性を持つ個体が存在する。アオホシの持つグレンアルマもまた、その一例に含まれていた。
無論、くだけるよろいは物理攻撃にのみ作用する特性である。それ故に、ルンパッパのハイドロポンプによるダメージによって、グレンアルマが得た恩恵は何一つない。ここで肝心になってくるのは、心構えである。
アオホシのグレンアルマは、ルンパッパの攻撃を避け切れなかったわけではない。最初から避ける気がなかったのだ。「物理・特殊問わず、いかなる攻撃が来ようと、必ず初撃を受け止め、その隙をついて一撃を叩きこむ」という、グレンアルマの強固な心構えが可能にした、相手の隙と急所を正確に狙い撃つ一撃必殺の
「攻撃している間こそ、最も大きな油断を見せる」という、人間、ポケモンを含む、あらゆる生物における共通常識を活かした、アオホシにしては珍しい、「防御」が前提の作戦である。
「お疲れ様です。ルンパッパ。……ちょっと攻めっ気出し過ぎましたね」
そう言いながら、シオミヤは次のボールを投げる。現れたのはナットレイ。鉄のように頑丈な外皮と、トゲの生えた蔦を持つトゲ玉ポケモン。見た目通りの、防御に長けたポケモンだ。
「今くさ・はがねは悪手ちゃう?」
「それはどうでしょう。案外楽しいことになるかもしれませんよ?」
「ほんなら試してみよか…グレンアルマ!」
しとど降りしきる雨の中、全身に纏った水滴をかき消すような熱気と共に、グレンアルマの鎧が変形していく。そうして放たれた火炎弾は、真っすぐにナットレイへと向かう。
「ナットレイ、避けて」
シオミヤの指令に応えるように、その鈍重な見た目とは裏腹に軽い身のこなしで飛び上がり火炎弾を躱すナットレイ。そうしてゆっくりと着地────するかに思われたその瞬間。
「二度も打ち漏らしてたまるかい」
落下地点を予測したらしいグレンアルマが、砲身から放たれるサイコエネルギーの奔流をナットレイに直接ぶつけようと接近する。
「
ナットレイは着地点を即座に地面から
そしてその直後。グレンアルマの身体から蔦が生え出、そのままナットレイの自身の蔦と絡みつき一体化。ドク、ドク、と脈を打ちながら、グレンアルマの体力を奪い取っていく。
「組み付きやと…?振り払えグレンアルマ、技になってへんぞ、それ」
アオホシの指摘通り、グレンアルマの今の現状は、やどりぎのタネによって生えた蔦による拘束に、ナットレイが同期しただけにすぎない。例えば「からみつく」「しめつける」のような、典型的な拘束技と呼ばれるそれを使用していない今のナットレイの拘束は緩く、ともすれば簡単に振り払えてしまうものだった。
グレンアルマが腕をふるい、ナットレイの拘束を振りほどこうと藻掻く。しかしその直後、振るった腕の装甲にヒビが入る。よく見れば、薙ぎ払ったナットレイの蔦には、細かなトゲが生えているようだった。
「てつのトゲ…!」
てつのトゲ。攻撃をしてきた相手に、僅かながらにダメージを与えるカウンタータイプの特性。ナットレイを始めとした、トゲを持つポケモンが持つことが多く、シオミヤのナットレイもその例に漏れることはない。しかしここで、一つの問題点が生じる。
本来、てつのトゲは相手からの直接的な物理攻撃にのみ効果を発揮するものだ。拳打、斬撃、突進、組付、いわゆる接触技と呼ばれるものであるそれらは、少なからず相手に触れる必要がある。それはつまるところ、接触しなければその効果は発揮されない。故に、故に、故に。ナットレイというポケモンの持ち味の一つであるてつのトゲは、特殊型であるグレンアルマには完全に無力である。その、筈だった。
「やってくれよったな…!」
ギチギチ、ビキビキ、ミシミシ。ナットレイの蔦が、どんどんとグレンアルマに絡み付く。肩当て、砲身、関節部。オリーヴァがファイアローにやったような、完全に体をロックするような拘束ではない。かろうじて動けるものの、その行く末に、完全に動きを止められる、真綿に首を絞められるような、四面楚歌のソフトロック。
(完全に体に組み付かれとるな…これじゃどうやっても…!)
そう、どうやっても。どう足掻いても、グレンアルマが動く度に、ナットレイに
攻撃を行おうとする。ロックがかかる。トゲが食い込む。やどりぎのタネによって体力が吸われる。
抵抗する。ロックがかかる。トゲが食い込む。やどりぎのタネによって体力が吸われる。
何もせず体力を温存する。変化技*3を積まれる。やどりぎのタネによって体力が吸われる。
攻撃、抵抗、温存。いかなる手段を取ったとしても、どこかで必ず行動を封じられ、その上でダメージを負う。アオホシのグレンアルマは、今完全に拘束され、文字通り死に体となった状態だった。
(交代すればこの硬直は解ける……せやけどこの状況、ここまで手負いになったグレンアルマを温存しても今後の打開策にならへん……!アカンな、ここまでやれんのかいおシオ……!)
「ナットレイ、てっぺき」
ナットレイの体が、鋼鉄のような鈍い輝きを増していく。鉄のように硬く、鋼のように重く、その体を更に防御へと特化させたナットレイ。
攻撃性能を上げる為の行為でない筈のそれが、グレンアルマに絡みついている現在の状況においては、その体にかける負荷を増幅させる致命の一手へと変化する。しめつける蔦は頑強さを増し、突き刺さるトゲはその鋭さと強固さを増す。そして…
『き、気絶している……!?グレンアルマ、立ったまま気絶して……いや、気絶
攻撃技すら一度も使わない、完全封殺のロックロック・キル。蔦と棘に絡め取られたまま、グレンアルマは立ち往生で戦闘不能となった。
カマリシティジムジムリーダー、シオミヤ。くさタイプをメインで扱う彼女のバトルスタイルは、決して花のあるものではない。守り、防ぎ、布石をうち、自分に有利な状況の下地を作り、少しずつ、堅実に、相手を討つ。わかりやすく、しかし、どこまでも愚直な、「雑草戦法」と、彼女自身がそう揶揄するそのスタイルに、派手さはない。しかし、それ故に、本気の彼女と戦ったトレーナーは皆、口を揃えて彼女とのバトルをこう語る。
次回一回戦決着。多分。