(─/─)
「…はは!実に盲点ですな。私たちはさっきからずっと鍵に手を伸ばしていたわけだ!」
目の前にあるカラフルなお菓子が積み上げられた器を持ち上げると、その下には鍵があった。
恐らくだが、この鍵があれば先程の開かなかった扉も開き先へと進めるのだろう。
私は軽い気持ちでその鍵に手を伸ばす。ワイヤーに引っかかっていたので少しだけ力を入れて引っ張るようにして取る。
するとベテランプレイヤーである幽鬼さんが口を開いた。
「黒糖。重要なアイテムの近くには罠が貼られて─」
瞬間、私の頭部に何かが当たった。一瞬で視界がぐらついて、体から力が抜けていく。
思考する暇もない。痛みを感じる余地もない。
ただ私は、私自身に何が起こったかわからないまま…16年の生涯を終えた。
(0/?)
「ん…?ここは…。」
私は目が覚めた。まだ軽い目眩が残る中、意識を覚醒させようとなんとか思考を尖らせる。
ここはどこだろうか。さっきまでいた館とは違うのだろうか。私はなぜここにいるのだろうか。よく思い出せない。
目の前の景色を眺める。やや高級そうな絨毯に、柔らかそうなベッド。私はその景色を眺めて、なんだかお金持ちが住んでそうな家だなと思った。
しばらくそれを眺めてると、知らない男が大きくて長い箱を運んでくる。白くて硬くて大きな箱。それはまるで棺のようで中に人が入れそうなほどの大きさをしている。
重たそうなそれを台車から下ろして、その重さ故か鈍い音を立てながらやや乱雑に床に安置される。その男はよほど楽しみなのか、やや興奮した様子でその棺を開く。
「………は?」
そこに入っていたのは人の形をしたものだった。いや、人の形というよりは…人そのものだった。メイド服を着せられたそれは血の通った色をしていて、所謂高級な大人の玩具以上の人肌に近いものだった。
けれど、その顔が問題だった。決して汚いわけでも、かと言って趣味の悪い見た目をしてるわけでもない。いや、ある意味趣味が悪いものだとも本人として思ったことだ。
黒い髪に赤のメッシュ。やや強気な金色の瞳。耳につけられたお気に入りのピアスたち。いかがわしい目的の為の玩具が見せた馴染み深いその顔は、間違いなく私の顔だった。
─少しだけ思い出した。私は暗い意識の中で夢を見たんだった。
知らない人たちの声。何か高い値段を言い合うやり取り。これは所謂オークションってやつだろう。
競り合いの対象となってるのは、本物の生きている人間のような美少女人形。その見た目は…私とそっくり。
なんでも…私の、私たちの体は改造されているらしくて、血液が空気に触れると綿になるとか。『防腐処理』…?って言うらしい。
つまり、私たちの体はそれによって腐らないようになっていて。損傷の少なかった『遺体』はこんな風にオークションに出されることがあるとかで、『観客』にとってはそれも楽しみのうちの一つだとか。
まぁそんなこんなで私はここで初めて自分が死んだのだと認識したわけで。
私は無言で目の前で繰り広げられようとしていた景色を見つめていた。いや、目が離せなかった。まるで悪夢そのものが目を逸らすなと言ってるように。
男は棺から出した人形の…私の体をベッドに添えた。私の体にマウントを取るような形になり…。男は服を脱いだ。
私の胸をメイド服越しに触る。豊かな軟肉に男の指が食い込み、圧に従って形を変える。
抑え込む。揉み込む。何度もそれを繰り返して、今度はその頂点にある突起を口に含んだ。
─嫌悪感が走る。
直接私が触れられてるわけではないから感触とかはないけれど、それから目を逸らせないのが苦しい。
心が悲鳴を挙げている。やめろと叫びたがっている。
でも…声は出ない。だって私には今、肉体がないのだから。
男の動きは少しずつ過激になっていく。
唇を奪われる。髪に触れられながら、舌を嬲られる。胸を揉まれながら、お腹辺りに腰を擦り付けられる。
そしていよいよ…メイド服のスカートをまくり上げられた。
当時、私が着けていた下着がそのままだ。
男は私の尻を鷲掴みしながら…その感触を楽しんでいる。下着越しに揉みしだいたあとは、それを脱がして生の感触を。
そうなると今度は…秘部の方に興味がいくわけで。少しだけ毛の生えたその部分を凝視される。そして貝のような割れ目を指で開かれたり、舌で舐められたりした。
…気持ち悪い。
男がローションを持ってくる。私の…女の子として大切なところにそれを乱雑に注入する。
気持ち悪い…!
そして男は息を荒げながら、いきり立ったそれを私の女の子の場所に擦り付ける。
…気持ち悪い!!
くちゅりと音がして、その結末を容易に察する。何度も経験をしたはずなのに、それを俯瞰的に眺めるのは些かしんどい。ましてや、自分の遺体を。
やめて…と自分でも驚くくらいの弱々しい声を出した瞬間、男は容赦なく私の中に挿入した。
喘ぎ声なんてない。ただ布が擦れる音、ベッドが軋む音、水濁音と男の息遣いが聞こえるばかり。
けれどわかった。私は正真正銘、死んだんだ。
目の前の男は私のことをただの穴としてしか見ていない。男は私の遺体を犯しながら、『あんなに余裕ぶっていたのに呆気なく死んで可愛いね!』だとか『俺の為に死んでくれてありがとう…!』なんて聞きたくもない気持ちの悪い言葉が聞こえる。聞きたくない。でも聞こえてくる。
…怖い。…気持ち悪い。
今の私という人間の価値が嫌でも押し付けられるようにして、その景色が彩られる。
「はは……。なにこれ……。」
男の腰の動きが早くなる。私の体を壊さんとばかりに乱暴に腰を打ち付ける。ただ性欲を発散するための愛の欠片もないその行為。
メイド服越しの私の胸は揺れ、光の無くなった金色の瞳はどこを見つめているかわからない。黒い髪が赤いメッシュを光に反射させながら切なそうになびく。私はいつか忘れてしまった熱を頬に流れるのを感じた瞬間、男はその行為を終えた。中に出されているのだろう。私の赤ちゃんを宿すためのお部屋は男の汚濁に満たされている。熱もなく、命もないそれは男にとってはただの快楽のアクセントにしかならないのだろう。
項垂れることもない。泣き叫ぶこともない。胸に突き刺さるような痛みを感じながら私は静かに呟いた。
「そっか…これが私の…。私の人生の終わりなんだ…。」
そのときの私はどんな顔をしてるのかわからなかった。悲しいのか、怒ってるのか、悔しいのか、苦しいのか。
まぁ…なんにせよ私は。生きててもろくなこともなく、死んでからもその遺体を犯される形で、私は人生を終えた。