火追いの英霊と共に   作:全智一皆

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OPイメージ:払暁(崩壊:スターレイル・オンパロスより)
EPイメージ:Moon Halo(崩壊3rd・25章より)


序章 悠久の名を持て、書き記せ

 

■  ■

 まず最初に刻まれたのは、絶望という感情であった。

 かの者はエオミオスという名を与えられた。その名前は『悠久』の意味を持つものである。

 エオミオスには前世の記憶というものがあった。前世におけるエオミオスは、凡人という言葉に埋め尽くされる程度の男であった。

 知恵にしても。運動にしても。

 意志にしても。構築にしても。

 おまえはあらゆる事において、凡夫であった。だが、おまえはそんな事など分かり切っていた。理解し切っていたからこそ、おまえは変わろうとしなかったのだ。

 何をするにしても、おまえは無力である。雨と風が無くば顔を上げる事も叶わぬ芽の様に、おまえは何も出来なかったのだ。

 だが、そんなおまえにも大切なものはあった。

 それは肉親よりも大切なものであり、おまえにとって唯一無二の代物である。

 或いは、人生と呼ぶべきか。其との出会いこそが、無力であるおまえに、生きる為の希望と指針を与えたのだ。

 

 ―――エオミオスの前世は恵まれてはいなかった。エオミオスの前世は、それに努力をしようとはしなかったからだ。だが、先程も言った様に、彼には大切なものがあった。

 それは、一つの物語だった。

 それは何度も、何十も、何百も、何千も、何万も、何十万も、何百万も、何千万も、繰り返された英雄譚だったのだ。

 その舞台の名前はオンパロス。銀河の隅に一つ隠され、誰の目に留まる事もないままだった、メビウスの輪である。

 エオミオスは、そのオンパロスの物語に心を焼かれたのだ。

 

『一緒に、英雄になろう!』

『これは今までとは違う、ロマンチックな物語―――そうでしょう?』

 

 嗚呼、今でも鮮明に蘇る。

 彼の声が。彼女の顔が。

 彼女の歌が。彼の笑顔が。

 彼の苦痛が。彼女の祈りが。

 この『記憶』はいつまでも色褪せない。どれだけの時が過ぎ去ろうと、そんなものは彼等が背負った旅路に比べれば―――

 33550335回もの輪廻に比べれば、安いものだと思えるからだ。

 だが、それでも絶望はあった。何故ならばエオミオスの記憶にそれがあったとしても、その物語も、彼等も彼女達も、突き詰めるまでもなく前世の存在であるから。

 ただ一人、己だけが記憶している。……それでは、意味が無いのだ!

 この物語が己一人に記憶されているなんて勿体ない。例え、この物語が偽りだと言われても。批判されてもいい。

 誰もが、この物語を見てくれるなら。こういう物語があるんだと認識してくれたなら。

 そうする為に、エオミオスは行動を起こした。

 物語を紡ぐ。この世界に―――『紡がれた物語』を書き記すのだ。

 

「私は本を書くのです」

「なんだと?」

 

 エオミオスは背を向けた。父は呆気に取られていた。

 エオミオスはこの世界において、才に溢れる者であった。ギリシャの国に産まれたエオミオスは、この世界において秘匿され続ける神秘である『魔術』に精通した家系の長男であった。

 エオミオスの家系は星を武器とする。星は星のままに、されど己が武器として行使する。ある者はそれを『星剣魔術』と言った。

 エオミオスは剣聖であった。星の力を光の剣として具現する魔術において、エオミオスに勝るものなど誰も居なかったのだ。

 だが、エオミオスの発言はそれら全てを捨て去るものであった。

 

「自分が今、何を言っているのか分かっているのか! それは我らの一族にとって」

「心底、どうでもいいことです」

 

 エオミオスにとって、自分の血族がどの様な悲願を持っているのかなど、些事以外の何ものでもありはしなかった。

 この世界の魔術師は、誰もが『根源』と呼ばれるものへの到達を目指すと言うのだが、エオミオスからすれば、そんなものは目指す必要など欠片もない、そこにあるだけの空気と同類である。

 エオミオスにとって、大切なのは物語を紡ぐことだ。魔術に対する研究も研鑽も、二の次である。

 

「私は火追いの旅を描きます。誰も知らない、宇宙(そら)の果てにあった物語を記さねばならないのです」

「何を……」

「この世界に、彼等の物語を綴る事。それ以上の使命など、私には無いのです。大英雄も、アルゴノーツも、取るに足らない。私が留めるべきは、オンパロスだけです」

 

 その後ろには、一族の罵声があった。だが、エオミオスは一瞥もなく、前を歩いた。

 妨害があった。邪魔があった。嫌がらせがあった。だが、エオミオスはそれら全てを見過ごした。眼中に無かったというのも確かにあるが、それだけではなかった。

 エオミオスにかかれば、それら全てを蹴散らす事は容易である。にも関わらず、そうしなかったのは何故なのか?

 エオミオスは、そんな事をしてしまうのはダメだと自制する事が出来ていたのだ。

 それをすれば、自分は彼等に顔を向けられない。彼女達が良い顔をしてくれない。

 エオミオスにとって、それは酷く辛くて、悲しい事だった。だから、決してそんな事はしなかった。

 

 ―――それから、28の時が過ぎた。

 エオミオスは大人になり、世界にオンパロスを旅立たせた。

 ある者は感動した。なんて素晴らしい物語なんだ、と。

 ある者は批判した。この物語はあまりにも理解し難い、と。

 ある者は疑った。この物語は本当にあったものではないか、と。

 ある者は望んだ。この物語に新たな続きを加えたい、と。

 エオミオスはそれ以上を望まなかった。

 感動も批判も、疑念も創作も、それで良かった。この物語を見てくれる人が居る―――それだけで、エオミオスにとっては十分だったのだ。

 物語には、そういう要素が必ず発生する。だがそれで良いのだ。物語というのはそういうものだ。きっと彼等も、それを受け入れてくれる筈だと。

 だから―――

 

「……人類史が、終わる?」

「あぁ。いつか人理は白紙になる。そうなれば、君が記した物語は―――『オンパロス英雄記』は、文字通り消失してしまうだろうね」

 

 エオミオスは驚愕し、そして恐怖した。

 人類史の終焉を告げられた事は勿論、驚きである。だが、それ以上に、この世界からオンパロスの物語が消える事を何よりも恐れたのだ。

 せっかく、この物語を多くの人に知って貰えたのに。ようやく、オンパロスという世界を記憶してもらえているというのに―――それが、消える?

 

「お前は、それをどうにか出来るのか」

「私、と言うより―――私達(カルデア)なら、ね」

「……分かった。だが、最初に言っておく―――私はお前を決して信用しないし、信頼もしない」

 

 エオミオスは、自分に人類史の終焉を伝えたマリスビリー・アニムスフィアという人間を信じる事が出来ずにいた。

 この男は危険であると、エオミオスは直感的に判断した。神礼の観衆を自称したあの天才の様に、この男はきっと世界(ものがたり)との思考が相容れないだろうと。

 だが、それでも手は取った。世界を護る為に、オンパロスを守る為に。

 ―――自分だけが憶えていては、意味が無いのだ。この物語は、もっと多くの人に知られ、記憶されてほしいのだ。だから、人類史が終わってしまうのを見過ごす事は出来ない。

 何より―――彼等なら、きっと立ち上がった筈だ。彼等が成すと思えるそれを、自分が見過ごすなんて出来る訳がないのだ。

 

「手は貸そう。だが、私はカルデアの味方になった訳ではない。もしお前が、彼等にとっての『救世』と相反する思考と行動にあると確信したなら、私は敵として星火を剣として振おう」

「君ではなく、火を追う英雄(彼等)にとっての救世なのかい?」

「私にとって、世界を救うというその一点においては彼等こそが何よりの指針だ。彼等がそれを成した様に、私はその火の影を追う―――手が届かないと分かっているからこそ、追い続けたいと思うのだ。もしも夢の様に手が届いたなら、それで良い―――彼等の隣で戦えるのなら、我が人生の至福となる」

 

 エオミオス()にとって、それこそが追い続けたい軌跡(物語)なのだ。

 

 

 

 

 エオミオスがその目を開いた時、最初に目に映ったのはカルデアでの日々で見慣れた友人であった。

 

「君も目を覚ましたか、エオミオス」

「―――キリシュタリア」

 

 キリシュタリア・ヴォーダイム。魔術の世界では名門とされ、あらゆる魔術師がその門を潜るとされている『時計塔』において、天才と呼ばれていた男である。

 奇しくもエオミオスと同じく、星にまつわる魔術を行使する彼は、その点からエオミオスに話し掛けた事によって、縁を紡いだ。

 エオミオスにとって、キリシュタリアという男の印象はかなり良いものだった。あの男―――マリスビリーと友人であるという事を知った時は強く警戒していたが、話してみれば何とも関わり易い男であったからだ。

 彼は英雄の素質がある人間だった。エオミオスにとってそれは些か悲しくもあったが、確かにキリシュタリアは良い人間であり、友となる事に嫌悪感を抱かない人間であった。

 

「良かった。他の皆よりも目を覚ますのが遅いから、心配したよ」

「そうか。それはすまなかった」

 

 エオミオスは素直に謝罪した。

 むくりと身体を起こし、前を向けば、キリシュタリアと目が合う。

 そして、エオミオスは正直に切り出したのだ。

 

「続けてすまないが、私はお前達(クリプター)と袂を分かつ」

 

 キリシュタリアは目を見開いた。だが、すぐに分かっていたかの様な顔を浮かべて、それから悲しそうにもした。

 エオミオスは最初から眠ってなどいなかった。彼は最初から起きていて、キリシュタリアが『異星の神』と自称する何かと会話した事、取引をした事を全て聞いていた。

 空想樹と呼ばれる異形の樹を育成する事を条件とし、この白紙化した地球上に縫い留める形で蘇った、本来ならば剪定されて消えた筈の歴史を与えられた事を。

 エオミオスは断言する。

 

「そんなものは、救世ではない」

「……君なら、そう言うと思っていたよ」

「誤った歴史を定着させ、それを真理とする。本来あるべき物語(歴史)を否定する。それを、救世とは呼ばない」

「君は、かつての人理こそが正しいと、本気で思っているのかい?」

「それは関係無い―――お前達がこれから成す事を、火を追う英雄(彼等)は許さないからだ。私がお前達と袂を分かつ理由は、これだけだ」

「彼等と会えるとしても?」

「その世界で出会える彼等は、彼等ではない。仮にそれが本物であったとしても―――いや、本物であるならばこそ、彼等は私を許しはしないだろう」

 

 彼等の物語は終わったのだから。

 他ならぬ前世の自分(プレイヤー)が、(ピリオド)を打ったのだから。

 今もオンパロスの物語は続いている。あの銀河で、紡がれた物語の中で、オンパロスは生きている。そこに『もしも』を付け加えるなんて、エオミオスには出来なかったのだ。

 

秘匿者(クリプター)から私は外れる。私はお前達の敵だ。私は―――カルデアの肩を持つ」

「……そうか。それが、君の選択なんだな、エオミオス」

「そうだ。だからさようならだ、キリシュタリア。背中を撃ちたければ撃てばいい。それでも私は追い続ける―――本当の救世を成す為に」

「撃たないさ。君がその選択をする事は、分かっていた事だからね。―――さようなら、僕の友。そして宿敵」

「あぁ」

 

 ―――ケファレの祝福が、私とお前の道を照らす事を祈っている。




・エオミオス(主人公)
クリプター唯一の離脱者にしてカルデアの肩を持つ者。或いは星火を繋ぐ剣者。
前世でオンパロスに脳を焼かれ、今世でオンパロスの物語を一から全て書き記して知らず知らずの内にFgoの人理に『オンパロス』という物語を刻み込んだヤベー奴。
傍から見れば、『自分の創作を1つの正史として人理に認めさせた』というとんでもない偉業をやってのけた魔術師である為、マリスビリーに勧誘された。
Aチームに配属され、レフの爆発を難なく凌いでずっと死んだフリを続け、最終的にクリプターから離脱してカルデアを目指す。
オンパロスに脳を焼かれている為、彼等がしないだろう事は決してせず、逆に彼等ならきっとそうするだろうという事は必ずやり遂げる。即ち、救世である。
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