やけたとうを出てからもしばらく、あの静かな気配が身体の奥に残っていた。風の音や街のざわめきが戻ってきても、さっきまで見ていた光景がゆっくりと重なってくるようで、足取りが自然と穏やかになる。
「……少し休もうか」
ヒノアラシの様子を見ながらそう言う。無理をしているわけではなさそうだけど、知らない場所を歩き続けているのは負担にもなるだろうと思った。
「賛成ロト!ちょうどいい施設があるロト!」
ロトム図鑑の声に頷きながら、案内される方向へと歩く。
少し進むと、見慣れた赤い屋根の建物が見えてくる。
「……ポケモンセンターか」
ポケモンセンター エンジュシティの入り口に立つと、どの地方でも変わらない安心感のある空気を感じる。中に入ると、落ち着いた照明と穏やかな雰囲気が広がっていて、外とはまた違う“休む場所”としての空間になっていた。
「いらっしゃいませ」
優しい声が聞こえて、カウンターの方へ視線を向ける。
そこに立っていたのは、白い服に身を包んだ女性――いわゆるジョーイさんだった。
「こんにちは」
軽く頭を下げて挨拶を返すと、穏やかな笑顔で応じてくれる。
「こんにちは。旅の途中ですか?」
「そうですね、今日はエンジュシティを見て回っていて」
自然な流れでそう答えると、ジョーイさんは優しく頷いた。
「それなら、ゆっくり休んでいってくださいね。ポケモンも一緒にどうぞ」
「ありがとうございます」
ヒノアラシの方を見ると、少しだけ周囲を気にしながらも、その場に留まっている。人のいる空間はまだ完全に慣れていないかもしれないけど、嫌がっている様子ではない。
「ここなら落ち着けそうだね」
小さく声をかけると、ヒノアラシはわずかに身体を揺らした。
近くの席に座って、軽く息を吐く。歩き続けていたわけではないけど、やっぱり一度落ち着ける場所に入ると、身体がゆるむのが分かる。
「……いい場所だな」
「ポケモンセンターは安心安全ロト!」
ロトム図鑑の言葉に軽く頷く。
しばらく休んでから、カウンターの方へ向かう。せっかくなら、この辺りのことも少し聞いておきたいと思った。
「すみません」
声をかけると、ジョーイさんがすぐにこちらを向く。
「はい、どうされましたか?」
「この辺りで、野生のポケモンがいる場所ってありますか?」
そう聞くと、少し考えるようにしてから、丁寧に説明してくれる。
「エンジュシティの周辺だと、少し外れた森や草地に行くと見かけることが多いですね。特に、東の方へ進んだ場所には、比較的落ち着いて観察できるポイントがありますよ」
「そうなんですね」
無理に捕まえる場所じゃなくて、“観察できる”という言い方が、この街らしいと感じる。
「この辺りのポケモンは、人との距離を保つのが上手な子が多いので、ゆっくり関わるのがいいと思います」
「それは助かります」
自分のやり方と合っている話を聞けて、少しだけ安心する。
「焦らずに、ですね」
「ええ、その方がポケモンたちも安心しますから」
穏やかな言葉に、自然と頷く。
「ありがとうございます。参考にしてみます」
「いえいえ、良い旅を」
軽く頭を下げてから、席へ戻る。
「いい情報だったね」
「有益ロト!ハルトのスタイルに合ってるロトよ!」
ロトム図鑑の言葉に小さく笑う。
ヒノアラシの方を見ると、さっきよりも少しだけ落ち着いた様子で座っていた。こういう場所にも、少しずつ慣れてきているのかもしれない。
「無理せず行こうか」
そう声をかけると、ヒノアラシはゆっくりとこちらを見る。
外の世界も、拠点も、どちらもちゃんと使いながら進んでいけばいい。
急ぐ必要はないし、やることを増やす必要もない。
「……いいペースだね」
小さくそう呟いて、次に向かう場所を静かに考え始めていた。