ポケモンセンターで少し休んだあと、外に出ると空気がほんの少しだけ柔らいでいるように感じた。街の音は相変わらず穏やかで、どこか時間の流れがゆっくりしている。
「……東の方だったよね」
さっき聞いた話を思い出しながら、視線を向ける。大きな通りから少し外れた先に、自然の色が濃くなる場所が見える。
「その方向で合ってるロト!野生ポケモンの観察に向いてるエリアロト!」
「じゃあ、行ってみようか」
ヒノアラシに軽く声をかけてから歩き出す。隣に来る距離はまだ少しあるけど、ついてくるのが当たり前みたいな動きになってきているのが分かる。
街を抜けて少し進むと、足元の感触が変わる。石畳から土へ、整えられた道から少し自然のままの地面へと変わっていく。
「……空気が違うね」
思わずそう呟く。人の気配が減って、代わりに風や葉の擦れる音がはっきり聞こえるようになる。
「この辺りから出現率が上がるロト!」
「そうなんだ」
周囲をゆっくりと見回す。焦って探す必要はないと思いながら、自然に目に入るものをそのまま受け止める。
草の揺れ方や、木の陰の濃さ、そういう小さな違いの中に何かがいる気配を探す。
ヒノアラシの動きも少し変わっていた。足取りが軽くなって、周囲への反応が少し敏感になっている。
「この環境の方が落ち着くのかもね」
小さく声をかけると、ヒノアラシは一瞬だけこちらを見てから、また前に視線を戻した。
そのまま少し歩いたところで、木の根元の影がわずかに動いた。
「……いたね」
足を止めて、視線を固定する。
そこにいたのは、ゴースだった。
ゆらゆらと浮かぶようにして、その場に留まっている。さっきまで見ていたポケモンとは明らかに雰囲気が違っていて、少しだけ冷たい空気をまとっているように感じる。
「ゴーストタイプロト!この辺りには出やすいロト!」
「なるほど……」
無理に近づかず、その場で様子を見る。ゴースはすぐに逃げる様子はなくて、むしろこちらを観察しているようだった。
「どうする?」
ロトム図鑑が小さく聞いてくる。
「……今回は、見ておくだけでいいかな」
そう答えて、その場に立ったままでいる。
無理に関わるより、この空気を感じておきたいと思った。捕まえることが目的じゃないからこそ、こういう選び方もできる。
ゴースは少しだけ近づいたり離れたりを繰り返して、その動きを楽しんでいるようにも見える。
ヒノアラシは少し警戒した様子で、こちらに寄る位置を変えていた。炎がわずかに揺れているのを見て、少しだけ緊張しているのが分かる。
「大丈夫だよ」
静かに声をかけると、ヒノアラシはほんの少しだけ動きを緩めた。
ゴースの方も、特に攻撃的な動きは見せず、そのままふわりと浮かび上がる。
「……不思議な感じだね」
思わずそう言葉にする。目の前にいるのに、どこか距離があるような、掴めそうで掴めない存在。
「ゴーストタイプは独特ロト!」
「そうだね」
しばらくその様子を見ていると、ゴースはゆっくりと向きを変えて、木の陰へと消えていった。
その姿が見えなくなってから、少しだけその場に残る。
「……いい体験だったな」
小さくそう呟くと、ヒノアラシが横で動いた。完全に落ち着いたわけではないけど、さっきよりも少しだけ力が抜けているように見える。
「無理に近づかなくてよかったね」
そう言ってから、ゆっくりと歩き出す。
この場所にはまだいろいろなポケモンがいるはずだけど、全部を一度に見る必要はないと思える。
「少しずつでいいか」
自分のペースで進めばいい。その考えが自然に頭の中に残る。
ヒノアラシとの距離も、ポケモンたちとの関係も、全部まとめて少しずつ変わっていく。
それを感じながら歩く時間が、思っていた以上に心地よかった。