朝の空気は、昨日よりも少しだけやわらかく感じた。拠点の外に出ると、草の匂いと風の音が静かに広がっていて、何も変わっていないはずなのに、少しだけ違う場所にいるような感覚になる。
「……いい朝だね」
小さくそう呟いて、ゆっくりと草地へ視線を向ける。
そこには、昨日と同じようにポケモンたちの姿があった。コラッタたちは地面を歩き回りながら草をかき分けていて、ポッポは木の枝に止まって周囲を見ている。
その動きは、昨日よりも少しだけ自然に見えた。
「……もう慣れてきてるのかもね」
思わずそう呟く。
ヒノアラシも横に来て、その様子を見ていた。昨日よりも迷いの少ない動きで、自然と同じ空間に立っている。
「少し、近づいてみる?」
無理に誘うわけじゃなく、選べる形で声をかける。
ヒノアラシは少しだけ考えるように動きを止めてから、一歩だけ前に出た。
その動きを見て、ゆっくりと歩き出す。
コラッタたちの方へ近づいていくと、一匹がこちらに気づいて顔を上げる。昨日と同じ個体かは分からないけど、逃げる様子はなく、そのまま様子を見ている。
「……おはよう」
静かに声をかける。
返事があるわけではないけど、その場の空気が少しだけ緩んだ気がした。
さらに一歩だけ近づく。距離を詰めすぎないように、ゆっくりと。
コラッタはそのまま動かず、ほんの少しだけ首を傾けた。
「昨日より、近くても大丈夫そうだね」
そう呟いて、ゆっくりと腰を下ろす。
同じ目線に近い位置になると、圧迫感が減るのか、ポケモンたちの動きが自然になるのが分かる。
ヒノアラシも少し後ろで座るような形になって、その様子を見ている。
しばらくそのままでいると、コラッタの一匹がほんの少しだけ距離を詰めてくる。
「……来る?」
小さく声をかける。
無理に手を伸ばさず、そのまま待つ。
コラッタは慎重に近づいてきて、ほんの少しだけ手の届く距離まで来た。
そこで初めて、ゆっくりと手を差し出す。
「触ってもいい?」
問いかけるように言うと、コラッタは一瞬だけ動きを止めてから、その場に留まった。
その反応を見て、ほんの少しだけ指先で頭に触れる。
「……あったかいな」
短い接触だけど、それで十分だった。すぐに手を引いて、距離を戻す。
無理に続けるより、このくらいの方がいいと感じる。
ヒノアラシの方を見ると、その様子をじっと見ていた。
「少しずつだね」
そう声をかけると、ヒノアラシはわずかに身体を揺らす。
そのあと、ヒノアラシが一歩だけ前に出る。
「……行く?」
軽く聞くと、そのままゆっくりとコラッタの方へ近づいていく。
コラッタは少しだけ身構えたけど、すぐには逃げなかった。
ヒノアラシはその少し手前で止まる。
「……それでいいと思うよ」
無理に近づく必要はない。その距離を保つことも、大事な関係の一つだと思う。
ポッポの方を見ると、木の枝からこちらを見ている。その視線も昨日より落ち着いていて、警戒よりも観察に近い。
「……少し慣れてきたみたいだね」
時間をかければ、ちゃんと変わっていく。
そのことが、こうして目に見える形で分かるのが嬉しかった。
しばらくそのまま過ごしていると、ポケモンたちの動きがさらに自然になっていく。こちらの存在を完全に無視するわけではないけど、気にしすぎることもなく、それぞれの行動に戻っていく。
「……いい関係かもね」
小さくそう呟く。
何かを強制するわけでもなく、ただ同じ場所にいるだけで少しずつ距離が縮まっていく。
それが、この場所での正しい形なんだろうと思えた。
ヒノアラシも、その空気の中に少しずつ馴染んでいる。
完全に一緒にいるわけではないけど、離れているわけでもない。
「無理しなくていいから」
静かにそう言うと、ヒノアラシはその場で小さく身体を揺らした。
風が草を揺らして、穏やかな音が広がる。
その中で、ポケモンたちと過ごす時間は、何も起きていないようで、確かに変わっていくものがあった。
「……こういうの、いいな」
誰に言うでもなく呟いて、そのままゆっくりとその時間を受け入れる。
急ぐ必要はない。
こうやって少しずつ、関係を作っていけばいいと思えた。