ヤマブキシティの通りをひと通り歩き回って、街の空気を十分に感じたあと、少しだけ外にも出てみようかと自然に思う。建物の並びが途切れて、視界の先に開けた道が見えた時、その先に広がる景色を確かめてみたくなった。
「このまま外に出てみようか」
ロトム図鑑にそう声をかけると、すぐに反応が返ってくる。
「了解ロト!この先は8ばんどうろロト!ヤマブキシティとシオンタウンをつなぐルートロト!」
「シオンタウンに繋がってるんだ」
説明を聞きながら、道の先へ視線を向ける。街の整った景色とは違って、少しずつ自然の色が混ざり始めているのが分かる。
「そういう場所なら、野生のポケモンもいそうだね」
「出現率は高いロトよ!注意して進むロト!」
「分かった」
軽く頷いてから、一歩踏み出す。
街の喧騒が背中の方へ遠ざかっていって、代わりに聞こえてくるのは風の音や草の揺れる音になる。舗装された道の脇には背の低い草が広がっていて、ところどころに大きめの岩や木が見える。
「……ちょうどいいな、この感じ」
完全な自然じゃなくて、でも街とも違う。どちらの空気も残っている中間のような場所で、歩いているだけで気分が落ち着いてくる。
ヒノアラシの様子を見ると、街の中よりも明らかに動きが自然になっていた。周囲の環境が自分に近いからか、少しだけ警戒が解けているように見える。
「こっちの方が動きやすそうだね」
そう声をかけると、ヒノアラシは小さく首を動かして周囲を見回す。その背中の炎がわずかに揺れているのを見て、少しだけ安心しているのかもしれないと感じる。
そのまま道を進んでいくと、草むらの中で何かが動いた気配があった。
足を止めて、そちらに視線を向ける。
「……今、何かいたよね」
「反応ありロト!野生ポケモンの可能性高いロト!」
ロトム図鑑の声を聞きながら、少しだけ距離を取って様子を見る。無理に近づかず、まずは相手の出方を確認する方がいいと自然に判断する。
草が揺れて、その中から小さな影が飛び出してきた。
現れたのは、コラッタだった。
地面に着地して、こちらをじっと見上げる。その目にははっきりとした警戒の色があって、簡単に近づける相手ではないことが分かる。
「……やっぱり、すぐには距離詰まらないか」
自分の中でそう納得しながら、少しだけ姿勢を低くする。威圧しないように、ゆっくりと呼吸を整える。
コラッタは一歩だけ後ろに下がって、いつでも逃げられる位置を保っている。その距離感が絶妙で、無理に動けばすぐにいなくなるだろうと感じる。
「無理にはいかないよ」
小さく呟くように言って、その場で動かずにいると、コラッタは少しだけ様子を探るように首を傾けた。
ヒノアラシの方を見ると、こちらも少し身構えている。野生のポケモンと初めて向き合う状況だから、緊張しているのが伝わってくる。
「大丈夫、大丈夫」
ヒノアラシに向けて軽く声をかけると、わずかに動きが緩んだ気がした。その様子を見てから、再びコラッタの方へ視線を戻す。
「ここにいるってことは、この辺りで暮らしてるんだよね」
自分の言葉に対して返事があるわけではないけれど、相手の存在を認めるように話しかけることで、少しでも空気が和らげばいいと思う。
コラッタはまだ警戒を解いてはいないけれど、完全に逃げる気配もない。その微妙な距離が、この状況のすべてを表しているように感じる。
「……今日は、様子を見るくらいでいいか」
無理に捕まえる理由もないし、ここで関係を壊す必要もない。こうやって出会えただけでも、十分価値があると思えた。
少しだけ後ろに下がって距離を取ると、コラッタはその動きに反応して一瞬だけ身構えたあと、すぐに草むらの中へ戻っていった。
草が揺れる音が止まると、そこにはさっきまでの静けさが戻る。
「……逃げられたね」
ロトム図鑑が少しだけ残念そうに言う。
「まあ、あれが普通だよね」
そう返しながら、コラッタが消えた草むらをもう一度見る。ほんの短い時間だったけど、ちゃんと“出会った”という実感は残っている。
ヒノアラシの方に視線を向けると、さっきよりも少しだけ落ち着いた様子で立っていた。初めての野生との接触を経験して、少しだけ空気に慣れたのかもしれない。
「……悪くなかったな」
そう呟くと、ヒノアラシは小さく身体を揺らした。
すぐに何かが変わるわけじゃないけど、こうやって一つずつ経験していけばいい。焦らなくても、時間はちゃんとある。
「もう少し、この辺り歩いてみようか」
そう言って歩き出すと、ヒノアラシも自然とついてくる。その距離が、ほんの少しだけ近づいた気がして、静かに嬉しさが残った。