8ばんどうろをしばらく歩いて、さっきのコラッタとの短い出会いを思い返す。あの距離感は悪くなかったと思うけど、あれ以上近づこうとしたら、たぶんすぐに逃げられていた気がする。
無理に捕まえたいわけじゃないけど、せっかくならもう少し自然に関われたらいいなと思う。あの一瞬のやり取りだけでも十分価値はあったけど、もう一歩踏み込める方法があるなら知っておきたい。
「ロトム、ちょっといいかな」
声をかけると、すぐに横へ寄ってくる。
「どうしたロト?」
「野生のポケモンと、もう少し仲良くなる方法ってあるのかな」
自分の中で思っていた疑問をそのまま口にする。捕まえる前提じゃなくて、あくまで距離を縮める方法を知りたい。
ロトム図鑑は少しだけ間を置いてから、いつもの調子で答えた。
「あるロト!基本は警戒させないことと、安心できる要素を見せることロト!」
「安心できる要素?」
「そうロト!分かりやすいのはエサロトね!」
「エサか」
その発想は自然に納得できる。人でも動物でも、食べ物を介して距離が縮まることはあるし、この世界でもそれは同じなんだろうと思う。
「でも、今持ってないよね」
自分の手元を軽く見ながらそう言うと、ロトム図鑑がくるりと回った。
「持ってるロト!」
「……え?」
思わず聞き返す。
「ハルトの背負ってるリュックの中に入ってるロト!」
言われて、ようやく自分がリュックを背負っていることに意識が向く。転生した時から違和感なく身についていたから、あまり気にしていなかったけど、言われてみれば中身を確認していなかった。
「……そういえば、見てなかったな」
肩からリュックを下ろして、手に持つ。見た目は普通のバッグにしか見えないけど、触れてみるとどこか軽くて、でも中に何かが入っている感触はちゃんとある。
「開けてみるロト!」
ロトム図鑑に促されて、ゆっくりとファスナーを開ける。
中を覗いた瞬間、少しだけ違和感があった。
「……思ったより広い?」
外から見たサイズに対して、内側の空間が妙に奥行きがあるように感じる。手を入れてみると、すんなりと奥まで届いて、そこにいくつかの物が収まっているのが分かる。
ひとつ取り出してみると、それは袋に入ったフードだった。
「これがポケモンフーズ?」
「その通りロト!野生ポケモンの好みに合わせて調整されたものロト!」
袋の中身を軽く振ってみると、カラカラと小さな音がする。見た目はシンプルだけど、これが関係を築くきっかけになるなら、かなり重要なものだと感じる。
「最初から入ってたんだね」
「転生特典の一部ロト!」
「……そういうことか」
そこでようやく、いくつかの点が繋がる。このリュック自体も、ただの持ち物じゃないんだろうと自然に思えた。
「このリュック、他にも何か入ってる?」
「もちろんロト!それはアイテムボックスになってるロト!」
「アイテムボックス」
聞き慣れた言葉だけど、実際に使う側になると少しだけ感覚が違う。
「必要なものは基本的にここに入ってるロト!取り出したいものをイメージすれば出てくるロトよ!」
「……便利すぎない?」
思わず素直な感想が口に出る。生活も整っていて、移動も自由で、その上で必要なものがすぐに手に入る環境。
「その分、好きに動けるようになってるロト!」
ロトム図鑑の言葉に、改めて納得する。確かに、こういう仕組みがあるからこそ、余計な心配をせずにやりたいことに集中できる。
「じゃあ、このフードを使えば、さっきみたいな野生ポケモンとももう少し関われるってことか」
「そうロト!ただし焦らないのが大事ロト!」
「無理に近づかない方がいいってことだよね」
「その通りロト!少しずつ慣らしていくロト!」
袋に入ったフードを見ながら、その使い方を考える。近くに置いて、あとは相手が来るのを待つ方がいいだろうか。それとも、少し距離を取って見せるくらいがいいのか。
「……試してみたいな」
自然とそう思えた。
ヒノアラシの方を見ると、こちらの様子を静かに見ている。その視線が少しだけ柔らかくなっている気がして、さっきの経験が無駄じゃなかったことを実感する。
「まずは、もう一回探してみるか」
そう呟いて、リュックを背負い直す。中にあるものの感触が、さっきよりもはっきりと分かる気がする。
歩き出すと、ヒノアラシも自然とついてくる。その距離が少しだけ近づいていることに気づいて、ほんの少しだけ足取りが軽くなった。
焦る必要はないし、急ぐ理由もない。
でも、少しずつできることが増えていくのは、思っていた以上に楽しいと感じていた。