8ばんどうろの草むらをしばらく歩きながら、さっき手に入れたポケモンフーズの袋を指先で軽く叩いてみる。中身が小さく鳴る音が、やけに頼もしく感じられて、これなら少しは距離を縮めるきっかけになるかもしれないと思う。
ただ、いきなりばら撒くのも違う気がして、まずは場所を選んだ方がいいだろうと考える。人の通りから少し外れていて、周囲に草や木がある場所。ポケモンたちが近づきやすくて、なおかつこちらも落ち着いて見ていられる場所がいい。
「この辺りなら良さそうかな」
少し開けた場所で足を止めて、周囲を見渡す。草むらと道の境目で、視界もある程度開けている。ここなら無理に近づかなくても様子が見える。
「ここで何するロト?」
ロトム図鑑が横でくるりと回りながら聞いてくる。
「ポケモンフーズ、試してみようと思って」
そう言ってリュックから袋を取り出す。手の中で軽く振ってみると、さっきと同じ軽い音が鳴る。
「いい判断ロト!反応を見るロトよ!」
袋を開けて、少しだけ中身を手のひらに出す。見た目はシンプルな粒状のフードで、匂いは強すぎず、でもちゃんと何かを引き寄せそうな感じがある。
「このくらいでいいかな」
地面に軽くばら撒いてから、一歩下がる。すぐ近くにいると警戒されるだろうから、少し距離を取って様子を見ることにする。
ヒノアラシも横に来て、同じようにその様子を見ている。まだ積極的に近づくわけではないけど、興味はあるみたいだ。
「俺たちも、少し休憩にしようか」
そう言ってリュックに手を入れて、軽く中身を意識する。ロトム図鑑が言っていた通り、欲しいものを思い浮かべると、自然と手に触れるものが変わる感覚があった。
取り出したのは簡単な食事だった。パンと、軽く包まれたおかずのようなもの。
「……本当に出てくるんだな」
思わず小さく笑う。ここまで整っていると、生活に困ることはまずなさそうだと改めて感じる。
「当然ロト!快適仕様ロト!」
「助かるよ」
そのまま近くの岩に腰を下ろして、ゆっくりと食事を始める。無理に急ぐ必要もないし、ポケモンが来るまでの時間も含めて楽しめばいい。
少しして、草むらの奥で何かが動く気配があった。
視線を向けると、小さな影がひとつ、またひとつと姿を見せる。
最初に出てきたのは、さっき見たコラッタだった。その後ろからはポッポが様子をうかがうように降りてきて、さらに草の陰から別の個体も顔を出す。
「……来たね」
小さく呟くと、ヒノアラシも少しだけ身体を低くして、その様子を見つめる。
ポケモンたちはすぐには近づかず、少し距離を取ったままフードの方を見ている。こちらの存在をしっかり確認してから動こうとしているのが分かる。
「焦らない方がいいよね」
自分に言い聞かせるように呟いて、食事の手を止めずにそのままの姿勢でいる。こちらが無理に意識を向けない方が、相手も動きやすいだろうと考えた。
しばらくして、コラッタが一歩前に出る。慎重に周囲を確認しながら、少しずつフードへ近づいていく。
その様子を見て、ポッポも少しずつ距離を詰めてくる。
「……いい感じだな」
小さく息を吐く。無理に距離を詰めるより、こうやって相手から来てもらう方が自然でいい。
やがてコラッタがフードに口をつける。警戒しながらも、しっかりと食べ始める様子を見て、他のポケモンたちも少しずつ近づいてくる。
「ちゃんと効果あるんだね」
「当然ロト!好みに合わせてあるロトからね!」
そのやり取りの間にも、ポケモンたちは少しずつ数を増やしていく。コラッタが数匹、ポッポも数羽、さらに別のポケモンも混ざってきて、気づけばちょっとした集まりになっていた。
「……思ったより来るな」
その光景を見ながら、少しだけ考える。こうやって集まってくれるなら、その中で一緒に来てくれる個体がいてもおかしくない。
「ねえ」
小さく声をかける。もちろん言葉がそのまま通じるわけじゃないけど、伝わるものはあるはずだと思って。
「もしよかったら、一緒に来る?」
穏やかなトーンでそう言って、無理に近づかず、その場で待つ。
ポケモンたちは一瞬動きを止めてこちらを見る。警戒というよりは、様子を見ているような反応だった。
ヒノアラシが横で少しだけ動く。その存在が、少しだけ安心材料になっているのかもしれない。
しばらくして、コラッタの一匹が少しだけこちらへ近づいてくる。他の個体はその場に残っているけど、その一匹だけが距離を詰めてきた。
「……来るのか」
その動きを見て、ゆっくりとリュックへ手を伸ばす。今度はモンスターボールを思い浮かべると、自然とそれが手の中に現れた。
「これでいいんだよね」
ロトム図鑑に確認するように言うと、すぐに返事が返る。
「問題ないロト!受け入れる意思があれば捕まえられるロト!」
コラッタの様子を見ながら、そっとボールを差し出す。無理に投げるんじゃなくて、あくまで相手に選ばせる形にする。
コラッタは少しだけボールを見てから、ゆっくりと触れるように近づく。
次の瞬間、赤い光に包まれてボールの中へ収まった。
「……できたな」
小さく呟いて、手の中のボールを見る。さっきまでそこにいた存在が、この中にいるという感覚が少し不思議だった。
そのあとも、何匹かが同じようにこちらへ来てくれて、自然な流れでボールに収まっていく。
「……結構増えたな」
手元のボールを見ながら、少しだけ考える。
「そういえば、6匹以上ってどうなるんだろう」
ふと気になってロトム図鑑に聞く。
「いい質問ロト!6匹を超えた分は自動的にボックスへ送られるロト!」
「ボックスって……」
「拠点の中にある管理システムロト!安全に保管されるロトよ!」
「なるほど、そういう仕組みか」
それなら無理に数を気にする必要はなさそうだと思う。来てくれるなら、そのまま受け入れていい。
「安心して増やせるね」
「その通りロト!」
周囲を見ると、まだフードを食べているポケモンたちがいる。全員が来るわけではないけど、それでもこうやって少しずつ関係ができていくのは、思っていた以上に楽しい。
「……いい時間だな」
小さく呟いて、もう一度ゆっくりと周囲の景色を眺める。
急がなくてもいいし、全部を一度に手に入れる必要もない。
こうやって、一つずつ増えていけば、それで十分だと思えた。