絶対性物質について相談してみよう。
魔法に関することなら、ノルミエ族に聞くのが一番だ。
「リィネちゃん、これ見て~。隠蔽不可《アンコンシーラブル》」
ワタシは手のひらの上に、米粒ほどの大きさの絶対性物質を創造した。
金属のような光沢を放つ小さな粒だ。
「これは、マドイ様の絶対性物質ですか?」
「うん。でも使い道も、どんな願いをかければいいのかも全然わからなくて……」
「なるほど……。ですが、こればかりは本人の認識の問題ですから、具体的なアドバイスは難しいですね」
「それでもお願い!とりあえず見てみてくれる?」
「わかりました」
リィネちゃんは小さく頷き、粒へ手を伸ばした。
だが、触れる直前でぴたりと止まる。
そして、すぐに手を引っ込めた。
「どうしたの?」
「いえ……慣れてきたと思っていたのですが、金属を触ろうとすると反射的に……」
「反射的に?」
「昔から金属には触るなと、厳しく躾けられてきたもので」
「危ないもんね、でもこれは大丈夫だよ?」
ナイフとか、子供が触るものじゃないしね
そう説明すると、リィネちゃんは安心したように粒を摘まんだ。
指先で転がしたり、握ってみたり。
何かを確かめるように、じっと観察している。
やがてリィネちゃんは、そのまま掛け布団の中へ手を入れた。
布団の中で何か試しているらしい。
その拍子だった。
「え…?」
ワタシの目には、それ以上に重要な物が映っていた。
透けていたのだ。金属のような粒の、その周辺が。
布団の下のリィネちゃんの胸元の肌が、普段は見えない…!乙女の柔肌が…!!
ワタシの視線は絶対性物質ではなく、見えそうで見えない、ピンク色のソレへ吸い寄せられていた。
閃く。
胸元が服で隠れるなら――。
「これだ…!!!」
「ど、どうされましたか?マドイ様」
突然叫んだからか、リィネちゃんがびくりと肩を震わせる。
だがそんなことはどうでもよかった。
長いチェーンにして首から下げればいい!
絶対性物質を胸元の位置に固定してしまえばいいのだ!
ノルミエ族のみんなの、服で隠れる部分を常に見えるようにする!
そうして、大人になったらワイングラス片手に、透け乳首をつまみに……おほっ!!
完璧よ!
完璧な発想だわ!
何で今まで気づかなかったのかしら!
この絶対性物質は、ワタシへの天啓だったんだわ!
「リィネちゃん!ありがとう!」
「私は何もしていませんよ」
微笑むリィネちゃんの笑顔と、チラ見できそうな乳首の間で視線があっちこっちする。
「それでもだよ!リィネちゃんがいてくれて良かった!」
「私も、マドイ様に出会えて本当に良かったです」
見つめ合う。
手を握り合う。
なんだかいい雰囲気ね。
リィネがちゃんがベッドから身体を起こそうとした、その時だった。
「リィネェ、ずるい」
突然声が聞こえた。
続いてもう一人。
「そうです。マドイ様を独り占めなんて良くないわ」
振り向く。
そこには、おかっぱ頭のナァナちゃんと、お団子ヘアのラァレちゃんが立っていた。
(いつの間に入ってきたの!?)
ドアの音も。
廊下の明かりも。
(全然気づかなかったんだけど!?)
二人は簡素なパジャマ姿だった。
ナァナちゃんがピンク。
ラァレちゃんが青。
そしてリィネちゃんは黄色。
どうやら三人お揃いらしい。
通販で買ったらしい、お揃いパジャマ超可愛い。
ワタシもお揃いを着たい。
「え!?ナァナちゃんとラァレちゃん!いつのまに!」
心の性欲とは別に、身体は驚くワタシなどお構いなしに、ナァナちゃんがずいっと顔を近づけてきた。
切り揃えられた神が揺れる。
あ……良い匂い…。
「わたしも、ベッドで手を握ってほしい」
無表情に近いけど、少し赤らんだ顔、風呂上りのフローラルな香り…。
OKです!性・交・渉!までオールOKです!
「ちょっとまってください。私が先です。まずは年長者から、でしょう?」
腕を組んだラァレちゃんは、至極真面目な顔だった。
何人でも大丈夫です!謹んで結婚させていただきます!
「マドイ様には善意で協力していただいているんですよ。2人には必要ありません」
リィネちゃん…4Pも歓迎ですよ?
「わたしにも必要、末っ子は譲るべき」
「私にも必要です。できれば…後ろから抱きしめてほしいです」
「ラァレェ、あなたのそれは当主様に殴られても言い訳できませんよ」
リィネちゃんが冷ややかな視線を送る。
(良いのですよリィネちゃん)
(母様を説得してみせますから)
「意地悪な囁きもついてくるなら、甘んじて受け入れます」
お団子を左右に振りながら、ラァレちゃんはそのまま身体をくねらせて、理想の攻め方を教えてくれる。
(ほうほう?堪え性のないザコメス?マァゾ♡マァゾ♡)
(んん??)
(方向性ちょっとおかしくないかしら?)
「ラァレェ……あなた、村では猫被ってましたね?」
リィネちゃんの言葉に、ラァレちゃんは真面目な顔で胸を張り、腰に手を当てた。
「マドイ様は仰って下さいました。好きなものから目を逸らしても強くはなれないと。本当の強さとは、自分を騙さない生き方の先にあるのだ、と」
ラァレちゃんは日課の際に言った言葉を、一字一句違わず復唱した。
その目はまるで、すべての真理を得たかのようにキラキラとしている。
「だからこそ!男の子にイジメられて、意地悪に負かされる妄想で、元気になってしまったとしても!私に後ろめたいことは何一つないのです!」
ラァレちゃんは再度クネクネし始める。
(なるほどね?)
(何がっていう訳じゃないけど?)
(そういうの、練習しときましょ)
(ラァレちゃんとゴールインするには、Sっぽい言動が不可欠ってことね)
「いい言葉、それなら私はお尻叩いて」
そう言って、ナァナちゃんがこちらにお尻を向けてくる。
フリフリとこちらに向かって振ってくれる。
パジャマの上からでもわかる健康的で魅惑のお尻がすぐ近くにある。
(誘惑しとるやん、一回揉むくらいなら…許されるやろ)
「あはは…暴力はちょっと…」
精一杯の性欲を奥へ奥へ押し込む。
(ナァナちゃんはネコちゃん)
(でも女の子を叩くのは流石に…)
(いいえ、嘘つきました)
(最適な力加減を覚えるため、ご協力願います)
「はぁ…マドイ様のその言葉は素晴らしいものですが、あなた達は慎みを持ってください」
リィネちゃんは額に手を当てて、ため息を吐いている。
「そ、それより、リィネちゃんたちは姉妹なの?」
(明るい話題に流れを変えていかないと、ナァナちゃんと致してしまう!)
(いや…それは正しい選択じゃないかしら?)
(いんや!ワタシは自分本位で、不同意に手を出すオスどもとは違う!
(ここで手を出したらワタシが悪者!)
(そうよね!そうだよね!)
(…ほんとにそうか?)
(できるHはヤるべきじゃない?)
(不味い!正義の心が結婚願望を誤魔化しきれてない!)
「はい、異母姉妹ですね」
(なにそれ!)
(つまりこの世界にハーレムが実在するってことよね!?)
(そして異母姉妹であることに後ろ暗い感じがないわ!)
(ということはノルミエ族はハーレムに寛・容!)
(褐色ロリっ子ハーレム…それは人類が夢見る理想の楽園!)
(おほっ…メインヒロインであるリィネちゃんを除いても9人のハーレムよ!)
(ダブルキングサイズベッドどころか、セクスタプルキングサイズくらい用意しちゃう!)
(母様に土下座も辞さないわ!)
「へ、へ~…異母姉妹ってノルミエ族では珍しいの?」
(今ここで欲望を表に出しちゃダメ、そういうのは気づかれるのよ!)
「いいえ?同年代は基本的に異母姉妹です 。南極大陸は環境が厳しいので、比較的気候条件が良い年にまとめて妊娠・出産するのが一般的なんです」
(ほわ~結婚しゅる~♡)
「仲が良くていいね!ちなみに他意はないんだけど、ノルミエ族の結婚には何が必要なの?」
(みっちみちに溢れる他意を隠しつつ勝利条件を聞く、ワタシはやはり策士……!!!)
「まずは両家の合意とそれから――」
バタンッ!
大きな音を立ててドアが開かれる。
「兄さん!無事!?な、なななな、なにやってんの!!」
部屋の入口には仁王立ちのイナリちゃんがいた。
ベッドで手を繋ぐワタシとリィネちゃん。
お尻を向けて、フリフリするナァナちゃん。
クネクネしているラァレちゃん。
なんとも不思議な空間を、イナリちゃんに目撃されてしまった。
「全員寝なさい!兄さんはお風呂に入ってさっさと寝る!明後日にはシロスズ様が帰ってくるのよ!夜更かしして、兄さんが体調を崩したらどうするの!」
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次の日
母様のいない朝食後に、イナリちゃんにちょっとした相談を持ちかけた。
「ねぇねぇイナリちゃん、明日は予定ある?」
「ないけれど、どうかしたの?」
「母様が一か月ぶりに帰ってくるでしょ?だから、小さなパーティを開こうかなって思って」
「良いんじゃないかしら。そういう時、ワクシマ家ではどこでやるの?ホールかしら?」
「ううん、ここでやろうかなって。ノルミエ族の娘たちも含めて、小規模にってどうかな?」
「なら、厨房や他の所にも連絡をとっておかないといけないわね」
そう言って小食堂を出ていくイナリちゃん。
その背中を見送りながら、ワタシはメイドさんに頼んで携帯電話を借り、母様に連絡を取った。
「もしもし、母様ですか?」
「すぅぅぅぅぅぅ……ふうぅぅぅぅぅぅ。おお、マドイか。ひと月ぶりに声を聞けて嬉しいよ」
「ボクもさみしかったです」
「…」
一瞬、不思議な間が空く。
「どうしました?」
「いや、なんでもない。少し頭に効いてしまった」
「…?あ、そうです。今日連絡したのはですねーー」
その後、母様との連絡が終わった頃に、イナリちゃんが戻ってきた。
そして二人で授業に向かった。
…
……
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授業が終わった後、ワタシにはすべきことがあった。
自分の部屋の中で椅子に座り、机上に手をかざす
「隠蔽不可[アンコンシーラブル]!」
(リィネの乳首!リィネの乳首!リィネの乳首!)
(はぁあああああ!)
(でもリィネちゃんは金属が怖いみたいだから、金属じゃない感じでー)
(でも高級感は欲しい!あ、宝石ってどうかしら!)
(さあ、ワタシの願いに答えて!)
白や黒のモロモロが机の上に発生し、徐々に形をとっていく。
なんか…百円くらいで売ってそうな赤いおもちゃの宝石が出来た。
大きさは煮た後の…大豆…?
六角形の結晶でなんか半透明だけど、本物の宝石というよりは、濁ったプラスチックみたいな感じだった。
(まあ、子供のプレゼントっていう名目だから、こういうちゃちな感じの方が、値段を気にせず受け取ってもらえるって!)
(早速、渡しに行きましょ!)
(気に入ってもらえるなら、これでネックレスを作るの!)
まずはお礼、と自らの痴的好奇心のため、ワタシはリィネちゃんを探しに行った。
廊下を歩く。
メイドさんとすれ違ったのでイナリちゃんの場所を聞くと、ノルミエ族の皆と外にいるらしい。
外に出ると、遠くで大きな音が響いていた。音のする方へ向かうと、いつもの池のほとりだった。
イナリちゃんとナァナちゃんがバトっていた。
竹刀で、ちゃんと危険な威力でバトルしていた。
「はぁ!」
「ふんっ!」
竹刀を打ち合う音は、前世でも聞いたことないくらいデカい。
(ひえぇ…)
なんか危なっかしくて、近づくのが怖い 。
それから何度も打ちあった辺りで二人は満足したのか、竹刀を下ろした。
「イナリちゃ~ん!」
(しばき合いを再開しないように、声をかけておかないと!)
「あ、兄さん!危ないから近づいちゃダメよ!」
(やっぱり危ないんじゃないか!止めておいてよかったよ!)
手を振りながら近づこうとしたが、すぐにノルミエ族に囲まれて前に進めなくなった。
年下から年上まで引っ付いてきたり、足にしがみつかれたり、お尻を撫でられたりと、実にバラエティ豊かなスキンシップである。
(このボディランゲージを読み解けば、プロポーズが紛れ混んだりしてないかしら!)
「あんたたちぶっ飛ばすわよ!兄さんから離れなさい!」
「イナリ様なら素手でも勝つのは余裕…だよ、です」
足にしがみついていた最年少のロリっ子が、意外にも武闘派なことを言った。
「上等よ!次はアンタよ!年下だからって手加減しないからね!」
そう言って猛るイナリちゃんと対するのは、ノルミエ族最年少のヨォリちゃん。
他のノルミエ族とは違い、白いワンピースがフリフリしている。
そして短い白髪を二つにまとめられ、なんとも可愛らしい。
顔立ちはどちらかと言うとおとなしい印象を受ける少し垂れ目のロリっ子。
そんな子が……。
バシィっ!バキッ!
(おぉ…ほんとに竹刀VS素手でやってるわ……)
「ィヨォリィもイナリ様と打ち解けているようで、安心しました」
ノルミエ族の壁をいつの間に突破してきていたのか、リィネちゃんが隣に立っていた。
視線の先には、アクロバティックに飛び交う、美少女による美少女への暴行、しかしそれを見つめるリィネちゃんは、とても微笑まし気な表情だった。
「し、竹刀に素手は…さすがに危なくないかな?」
「ふふっ…ノルミエ族とあろうものが、竹刀でぶたれたくらいでケガなんてしません」
「それに打ち解けてるって…?」
「我々の要望を、イナリ様が聞いてくださったんです」
「ノルミエの子たちは、竹刀でバトルしたかったの?」
「いいえ、身体を動かせればなんでも良かったのですが…イナリ様が戦闘の魔法について教えてほしいという風に仰られたので」
「OKしちゃったんだ?」
「はい、ノルミエならこのくらいの年齢なら暇があれば、こうしてじゃれ合うものですから 」
「そ、そうなんだ」
「きっとイナリ様はそういった背景を知っておられて、わざとこうした機会をくださったのかと」
リィネちゃんのこの綺麗な微笑みを信じたとしても、この風景を和やかに見ていていいのだろうか。
(魔力がどこまで万能なのか、魔力がわからないワタシにはわからんのです!)
バシィッ!
拳と竹刀がぶつかり、大きな音が響く。
しかし、のけぞるように弾かれたのは、イナリちゃんの竹刀だった。
「なんで!竹刀が!拳に!負けんのよ!」
「イナリ様、魔力はあるのに扱いが下手…だ、です」
二人は打ち合いながらも決定打がなく、見ているこちらはひたすらヒヤヒヤする。
「ィヨォリィもどこか塞ぎこんでいる様子だったのに、あんなに元気になって…ワクシマ家の方々は、当主様を含めて皆さんとても親切ですね」
「そこは…母様の教育の賜物ってやつかな?あ、そうだ…これ!見てくれる?」
「こちらは…前にも見た…絶対性物質ですね?魔力を感じます」
「ボクが作ったんだ、リィネちゃんに貰ってほしくて」
「え…絶対性物資を…私に?あ…一時的に、ということでしょうか?」
「ううん、出来る限りずっと消すつもりはないよ?」
少なくとも乳首を見るまでは……ね!ぐへへ。
「っ!…それは…!かしこまりました。拝命します」
唐突に跪くリィネちゃんの姿は、とても綺麗だった。
小さな赤い宝石を胸に抱き、肩が震えていた。
(うん……何でかわからない)
「うん?うん。どうかな?受け取ってくれるかな?」
「もちろんです。よろしくお願いいたします!」
眩しいほどの笑顔でリィネちゃんが笑う。
その光景に、思わず心が奪われてしまう。
(これがメインヒロインの魅力…すさまじいわ)
同時に自分では届かない、高嶺の花だと理解して、胸が少しだけ痛んだ。
「何かのアクセサリーにしたくない?ほら、ネックレスとか」
胸元に!胸元に!
そんなワタシに、リィネちゃんはニッコリと微笑んだ。
「マドイ様は古風でいらっしゃるんですね。ですが流行りはやはりブローチかと思います」
「ブローチもいいよね!あ、あはは…」
(作戦失敗!)
(ブローチだと隠れないから、完全に役立たず!)
「兄さん、なにしてるの?」
いつの間にかイナリちゃんの壮絶なキャットファイトは終わっており、目の前まで来ていた。
綺麗だった髪にはところどころ枝が刺さっていたり、木の葉が付いている。顔には少し泥がついていた。
「うん?リィネちゃんにお礼をしてたところなんだ」
それを聞いたイナリちゃんは、ジッとリィネちゃんの手元のおもちゃの宝石を見つめる。
「ふ、ふ~ん…そう」
興味なさげな返事ではあるが、イナリちゃんの視線は何度もワタシと宝石を行ったり来たりしている。
微笑ましい光景だ。
でもそんな表情をされては、もう一つ作らざるを得ない。
イナリちゃんに似合う装飾を作ろうか。
「リィネちゃんに聞いたよ?イナリちゃんが頑張ってくれたって。すっごく偉かったね!自慢の妹だよ」
「あ、あたりまえじゃない!シロスズ様が不在なんだから、女であるあたしがちゃんとしないといけないんだから!」
「ほら、おいで~?」
「う、うん!」
イナリちゃんはワタシの胸に顔をうずめて、抱き着いてくる。
撫でる前に髪の毛についてるゴミを一つずつポイポイとっていく。
それが嬉しいのか、イナリちゃんは顔をグリグリ押しつけてくる。
「くふっ」
(かぁいいな~!)
(ワタシの妹可愛すぎじゃない?こらメインヒロインにもなるわな!)
「イナリちゃん、欲しいものってある?」
イナリちゃんを撫でながら、それとなくイナリちゃんから候補を聞き出そうとする。
「っ!そ、その…ない、わけじゃ、ないけど…」
「例えば、欲しいアクセサリーとかでもいいんだよ?」
「そ、そうね!それなら、か、髪を留めるものものがほ、欲しいかも…」
「うん、わかった。探しておくね!」
「う、うん…」
さっきの反応からして、イナリちゃんも宝石が欲しいみたいだった。
(髪留めに加工できるような…物を作ろう)
ーーーーーーーーーーーーーーー
次の日の夕方、母様が帰宅された。
ワタシとイナリちゃん、そしてノルミエ族のみんなが立って、本日の主役の一人を待っている。
部屋中にはいい匂いが満ちていた。
小食堂には、前世基準で見ても豪勢すぎる料理が並んでいる。
ノルミエ族のみんなは、大皿に盛られた料理をじっと見つめながら、お腹を鳴らしていた。
それでも、誰一人として文句は言わない。
時計の音がやけに大きく聞こえるほど、室内は静まり返っていた。
――ガチャ。
ドアノブをひねる音。
ゆっくりと、扉が開く。
その瞬間、
「母様」
「シロスズ様」
「「「「「当主様」」」」」
「「「「「「おかえりなさい!」」」」」
「ああ…今戻った」
母様が、まっすぐワタシのほうへ歩いてくる。
ハグの気配を感じ取ったワタシも、自然と足が動いた。
そのまま、母様の胸へ飛び込む。
「会いたかったです。母様!」
「私もだ、マドイ」
ぎゅっとあったかい家族のふれあい。
でも、もう一つやることがある。
母様はワタシをそっと下ろし、二人でイナリちゃんのほうへ向き直る。
「イナリちゃん」
「イナリ」
「「ようこそ、ワクシマ家へ!」」
「ボクの妹として」
「私の子として」
「「これからもよろしく(ね!)」」
それを聞いたイナリちゃんは、その場で泣き出してしまった。
母様は片膝をつき、静かに手を広げる。
ワタシはもう一度母様に抱きつきながら、イナリちゃんへ視線を向けた。
それに気づいたイナリちゃんが、椅子から飛び降りる。
次の瞬間、三人で抱き合っていた。
「はい、イナリちゃん、これ」
母様に抱きしめられながら、泣きやみそうにないイナリちゃんの頭を撫でながら 声をかける。
「な”なにぃ”」
「これ、作ったんだ。受け取って?」
差し出したのは、小さなハート型のピンクの宝石。
魔力総量的に、小豆くらいの大きさが限界だった。
実際作った後に、机に突っ伏して気絶した。
「イナリちゃんに似合うように、ヘアピンに加工してプレゼントするね」
イナリちゃんは、また大きな声を上げて泣いてしまった。
気に入ってくれたのかどうかはわからなかった。
(でもイナリちゃんの抱き着く力がまた強くなったあたり、喜んではくれているのかな?)
「マドイ…それは絶対性物質だな?」
「はい。最近、魔法も頑張ろうと思いまして」
「…その、私には…ないのか?」
「作ります!でも…魔力がもうなくて」
「んん”っ!大丈夫だ。マドイは男の子だもんな!」
(失念していた!)
(母様ルートという最短距離を!)
(いち早く魔力を伸ばして母様の好感度を…!)
「魔力を伸ばして、母様にもプレゼントします!」
「気にすることは無いぞ、マドイの負担になってしまっては元も子もないだろう?」
「母様にもプレゼントしたいんです!」
「ふむ?そ、そうか?」
「はい!」
その後、パーティはにぎやかに進んでいった。
ノルミエ族の豪快な食べ方も、今日は誰も咎めない。
余興で始まった腕相撲大会では、当然のように母様が優勝した。
最年長のラァレちゃんが一番派手に負け、横に三回転しながら吹き飛んでいた。
悔しがりながらも、ノルミエ族のみんなは次第に母様へ憧れの視線を向けていく。
イナリちゃんは、ずっとワタシの太ももの上に座っていた。
抱きしめるように腕を回しているうちに、いつの間にか眠っている。
――気づけば。
ワタシと母様だけだった家族が、一気に11人増えていた。
その後、目を覚ましたイナリちゃんが、少し緊張しながらも笑顔で母様のことを「かあさま」と呼ぶ。
その姿は、途轍もなく可愛らしく――
思春期が一年くらい早くやってきそうな威力があった。
ちょっと編集長の後書きは停止です。