母様が帰ってきてからそろそろひと月が経とうとしている。
ワタシもイナリちゃんも授業を受けつつ、ノルミエの皆と遊ぶ、そんな代わり映えのしない、幸せな毎日を送っていた。
変わったことといえば、ノルミエ族の皆が原作と違い、メイドとして働き出したことだ。
本来であればリィネちゃん以外のノルミエ族はいないはずだが、これは一体どうしたことだろう。
(ゲーム内では描かれてはいないだけで、一時的にメイドになるのかしら?)
(ま、お嫁さん候補の長期滞在が決定するなら、それはいいことじゃない!)
(帰るその時までに婚約できた人数=ハーレムの規模ってことね!)
(ますます頑張らなきゃ!)
むふふんむふん♪
そんな秋の気配が少しずつ漂うある日、我が家にお客さんが来た。
いつもなら客人が来ても特にワタシに知らされたりはしないのだが、今日は特別ということだろうか
いつも通りイナリちゃんと手を繋ぎ、3階の母様用の応接間に入る。
母様とその対面に、短髪の紫がかった暗い長髪の女性が座っていた。
「母様、参りました」
「ああ、こちらに」
入室の許可が出たので、母様の座るソファまで歩いていく。
「トドロキ様、紹介しよう。我が息子マドイと娘のイナリだ」
「ワクシマ・マドイと申します」
「スハラ・イナリです。よろしくお願いします」
挨拶をしつつ、頭を下げた。
(ん……?)
「微笑ましい兄妹ですね」
頭を下げている間も、イナリちゃんとずっと手を握っていた。
そんなワタシを見て柔らかく微笑んだ美人さんは、スッと膝を地面に付けて目線を合わせてくれた。
丁寧に手入れされた髪はさらりと流れて、綺麗な御髪が地面に着いてしまっていた。
しかしそれを気にする素振りも見せない。
(この気遣い……なるほどね?)
(早くも見合いかぁ!そうだよね!)
(貴族なんだから見合いもあるよね!)
(年の差婚、アリだと思います)
「こちらは愛知の領主、トドロキ・マリア様だ」
「マドイくん、イナリさん、トドロキ・マリアです。これから何度かお邪魔することになるけれど、よろしくお願いしますね」
「しばらく仕事の話になる。今日は御息女が一緒においでだ。いい機会だから貴族同士の交流してきなさい」
(し、仕事……つまり、ワタシのお相手では……ない?)
(それにトドロキって……でも貴族…よね?)
「……わかりました」「わかりました」
返事をして退室し、1階の客用の応接間に向かった。
途中から何故かメイド服のリィネちゃんやノルミエ族の皆と合流し、みんなで向かうことになった。
リィネちゃんが先に部屋の中に入り、その後迎え入れてくれた。
応接間は大人用に作られているのでそれなりに広いが、殺風景になってしまわないよう飾りも豪華になっている。
今日のために、メイドさんたちが頑張ってくれたみたいだ。
リィネちゃんに椅子を引かれて座った。
イナリちゃんとワタシが座る木製の長机の反対側には、3人の女性が座っている。
豪華なドレスということはないが、シンプルながら清楚系を思わせる質の高い服装だ。
「トドロキ・ミレイです」
「トドロキ・アスカです」
そう自己紹介してくれたのは、可愛らしい令嬢たちだった。
アスカ様は中学生くらい、一方でミレイ様は高校生くらいだろう。
アスカ様の強気な印象のツインテールと、ミレイ様のハーフアップされた肩ほどのストレートヘア。
マリア様とおなじ少し紫がかった黒髪で、どちらもよく似合っている。
同じ髪色でもこんなに雰囲気が違ってそれぞれ可愛い。
(あんっ!結婚しちゃう!)
(子供の身長から見る、中高生の大人びた雰囲気が最高だわ!)
「あの、トドロキ・ヒナモ、です」
(え…?ええ!?)
トドロキ・ヒナモ、彼女もイナリちゃん、リィネちゃんと同じくメインヒロインの一人だった。
しかし、ぎこちない自己紹介をした少女は、小柄なイナリちゃんより小さかった。
その見た目は、姉妹のお二人とは違い、その肌は少し日焼けしている。
誰もが夢見そうな元気印のスポーティな短髪で、どことなく舌っ足らずな喋りとあわせて最高にキュートだ。
(でも待って!?)
(ってことはこの子が、ゲーム内ではあの喧嘩と暴力に明け暮れるオラオラ系ヤンキーキャラ!?)
(というか貴族だったの!?そんなのゲームになかったわ!)
(こんなにかわいい子が、オラオラヤンキー!?)
「兄さん、自己紹介」
イナリちゃんの一言で、思考が現実に戻った。
「あ、ワクシマ・マドイです。ミレイ様、アスカ様、ヒナモ様、本日はよろしくお願いします」
「スハラ・イナリです。よろしくお願いします」
「本日は愛知からお土産をお持ちしました。用意してください」
トドロキ家のメイドらしき人が高級そうな菓子折りを差し出し、何故かリィネちゃんが自然と前に出てそれを受け取った。
「ありがとうございます。とても嬉しいです。どんなものなんですか?」
「お菓子がお好きと聞いておりましたので、小倉トースト味のラングドシャになります。ぜひ、イナリ様とご一緒にお召し上がりください」
清楚成分1000%でミレイ様が微笑む。
(どうにかセッ〇スまで持ち込めんのか!)
心の叫びは誰にも届かない。
一方でミレイ様とは対照的に、隣に座ったアスカ様は少し残念そうな顔をしていた。
「私は小倉抹茶スパがいいって思ってたんですけど、持ち込めなかったのですわ。できたたてはどうしても難しくて」
そういって、アスカ様は頬に手を当てた。
なるほど。
どうやら先ほどの表情は、もっと良いご当地メニューを紹介したかったが故のようだ。
この気遣い……。
(どうにかしてまぐわえんのか!)
「御心だけでも大変うれしいです。愛知に赴くことがありましたら、ぜひ、食べてみますね」
そんなワタシの返しを聞いたアスカ様は、なにやら意外そうな顔をして固まった。
「わ、ワクシマ様はとてもお優しいのですのね」
「そうでしょうか?普通のように思いますが。あ、トドロキ家の皆様のお菓子の好みをお聞きしてもよろしいですか?」
(ともあれ、最高のお返しを考えないと!稼げる好感度は稼げるだけ稼ぐのよ!)
「あら…私はどちらかと言えば、和菓子が好きです」
「私は見た目の派手なお菓子が好きですわ!食べていてとても楽しい気分になりますから!」
(ミレイ様は和菓子、アスカ様は派手なお菓子ね!)
「確かに見た目でも満足できると、とてもお得な気持ちになりますよね」
「はい、ぜひ愛知に来られることがあれば、喜んで案内いたしますわ」
(愛知……それは愛を知る地……!!!)
「愛知に向かえる日が待ち遠しくなりました」
(あっ……)
一人で、チビチビとお茶を飲んでいるヒナモちゃんの姿が目に入った。
「その…ヒナモ様はどうですか?」
声をかけられたのが意外だったのか、ヒナモちゃんは慌てて背筋を伸ばした。
「オ、わたしはあんまりあまいのはたべない…です」
「でしたら、しょっぱいものの方がお好きなんですか?」
「おにくが、すき」
「くふっ、いいものがないか探しておきますね」
(何この可愛い生物……攫ってもいいっすか?)
…
……
それからお茶をしつつ、愛知についてミレイ様から色々お話を聞いている途中、決して聞き逃せない話題となった。
「といった感じで、はだか祭では神女に触れると厄払いができるのです。なので神女に触れるために数千人で押し合いをします」
「何月のお祭りでしょうか?」
「2月ですよ」
「男の参加は可能ですか?」
「にいさんっ!?」
「は、派手にぶつかり合いますし、全員が魔力があること前提ですので、男性には厳しいかもしれませんね」
「そうですか、でも見るだけでもとても楽しそうなお祭りですね」
「まあ!ご興味がおありでしたら、御招待しますわ」
唐突なアスカ様からのお誘い……これは!
「よろs」
「あ、あの!兄と私は来年の4月に桜花会でお披露目がありますので、厳しいかもしれません」
(くっ……、女体パラダイスでくんずほぐれつ計画は頓挫してしまったわ)
「あら、でしたらヒナモと同い年でらっしゃるのですね」
「そうなのですか?」
「うん、あ、はい」
当然、ゲーム内では同学年なので同い年であることは知っているが、あくまでも知らない体でヒナモちゃんに話を振った。
(でも…)
幾度かの会話の応酬はあったが、目を離すとヒナモちゃんはティースプーンをちょんちょんとつついていて、手持ち無沙汰な様子だった。
なんだかお茶会の間、終始少し暇そうなロリを見ていると、笑顔が見たくなってしまう。
(じゃあ適当な理由を付けて、外に連れ出しちゃいましょ!)
「でしたら仲を深める意味も込めて、お外でお散歩などいかがでしょうか?ボク少し身体を動かしたくなってきました」
「に、兄さん、お茶の席を途中で退室するのは失礼じゃないかしら?」
「じゃ、この席はボクの分もイナリちゃんにお願いしていい?」
「ちょ、ちょっとそういう意味じゃ…」
「優秀な妹なら、お茶会もちゃんとこなせると思うんだけどな~」
「も、もう!口だけは上手いこと言うんだから!」
「ということでヒナモ様、ボクと一緒にお外で遊びませんか?」
「お、おう!」
「では、護衛として私がご一緒します」
そうして、リィネちゃんとラァレちゃんそして2人のノルミエ族がついてきて、合計6人で屋敷の外に出た。
あれだけテンションが高めで返事をしていたヒナモちゃんだったが、結局お外に出てもお茶の時と同じ表情だった。
(お外に出たいだけじゃないのかな?)
(そっか、遊ぶっていう名目で連れ出したんだから、遊ばないとね!)
(試しに少しはしゃいでみるかな?)
「リィネちゃん!ボクを捕まえてごらん!」
そう言って走り出した。が、数秒立たないうちに捕まってしまう。
リィネちゃんに御姫様抱っこをされてしまった。
こちらを見て余裕ある笑みを浮かべる美少女に、思わず胸が高鳴ってしまう。
「マドイ様、捕まえました」
「あ、あはは、つかまっちゃった。リィネちゃん足速いんだね」
「もちろんです。それと、これからはリィネェとお呼びください」
「呼んでるよ?リィネちゃんって」
「ちゃんは不要でございます。私とマドイ様の仲なのですから」
「くふっ、そっか!わかったよリィネ!」
「はい、マドイ様」
見つめ合うワタシたちのもとに、他のノルミエ族の娘達も走ってきた。
「マドイ様!私もラァレェと!出来れば前をにザコ付けて、煽る感じでお願いします!」
「○▽!▼◇×〇!」
「○▽×!」
ラァレちゃんは鼻息荒めだった。
ロングの髪を腰まで伸ばしているのがニューロちゃん。
三つ編み巻き込むようなギブソンタックがベーナちゃん。
二人はよく似ていて、ナデナデしている時に色々舐めてくるペロペロコンビだ。
ラァレを除いて、ノルミエ族の言葉でわからないが、あんまり近寄られると結婚したくなるので困ってしまう。
「私のことも名前で呼び捨てで呼んでほしいといっています」
リィネちゃんからのフォローが入った。
(呼び捨て……これも結婚への最初の一歩ね!)
「うん、わかったよ!ラァレ、二ューロ、べーナ」
さすがに、ラァレの前にザコは付けられなかった。
しかし、そんなワタシにキラキラ笑顔を向けてくれると、無条件にこちらも笑顔になってしまう。
(はぁ〜、今ならフルマラソンも走れそう)
「マドイ様!オレもやりたい!」
「ヒナモ様、マドイで大丈夫ですよ。同い年なんですから」
「じゃあ、オレも様なんていらねえ!いいだろ?」
「じゃあ、ヒナモちゃんって呼ぶね?」
「うん…まあいいや!なあ今のオレもやりたい!」
「じゃあ、鬼ごっこにする?さっきみたいな遊びなんだけど…」
「鬼ごっこ?」
「鬼を一人決めて、鬼が他の人を追いかける。手で触られた人は鬼になって、鬼だった人は人間にもどって逃げる、どうかな?」
「わかんねえけど、いいぜ!やろ!」
笑顔のヒナモちゃんの後ろで、リィネがノルミエの言葉で翻訳し、二人に説明していた。
お手本として、ワタシが最初の鬼を引き受けた。
しかし逃げるかと思いきやリィネたちは、タッチしようとするワタシの手を握ってくる。
そして、それを見たヒナモちゃんはワタシを捕まえるとき、タッチではなく嬉しそうに抱き着いてくる。
(し、幸せ~!)
ワタシが庶民だからか、さっきのお茶会よりも、ずっと仲良くなれている気がした。
しかし身体能力の差が故に、逃げる女の子を捕まえることはできず、お情けで鬼を代わってもらう始末だ。
結局、鬼ごっこどころではなくなり、今度はかくれんぼをすることになった。
これなら身体能力もそこまで関わってこない。
かくれんぼ同様、最初の鬼を引き受けたワタシは、庭の広さもあるので100数えた後に出発した。
一応、屋敷の正面玄関前にある植木の並ぶ庭の範囲に決めておいたので、隠れるとすれば、並木の影か花壇の後ろくらいだろう。
秋になって、少し落ち着いた様相の花壇を見ながら歩く。
少し先の植木の間から、見覚えのある小さな頭が見えた。
(ヒナモちゃんよね)
しかし植木を回り込んだが、そこには誰もいなかった。
先ほどまでワタシがいた側から、クスクスと笑う声がする。
一回目にしてアクティブな隠れ方をするみたいだ。
確かにかくれんぼでは、見つからなければいい。
だから、ワタシが植木を回り込むと同時に反対側に移動しているようだ。
数度同じ方向で、クルクルと植木の周りを二人で回る。
そろそろといったところで、逆回りに走り出すと、角でばったりヒナモちゃんと御対面した。
「ヒナモちゃんみ~つけた!」
「みつかっちゃった!マドイはかくれんぼうまいんだな!」
「ふふん、なんたってお兄ちゃんだからね!」
「なんだそれ~!」
二人で笑いあった。
そして、次なる女の子達を探しに行った。
庭を二人で歩いているが、全く見つからない。
植木はあるとはいえ、それほど障害物のない庭なのに…。
(ん?後ろ?)
そうして、振り向いたが、誰もいない。
しかし、庭の地面にぽつりぽつりと水滴の跡があるのだ。
(あれ?)
ワタシはそれほど汗かいてないし、ヒナモちゃんもそれほど汗をかいている様子はない。
(あ……透明化の魔法とかあるのかな?)
さすが異世界、たしかにかくれんぼでは魔法を想定していなかった。
(気温操作の魔法があるくらいだから、透明化くらいできるんじゃないかしら?)
(意外に近くにいるとか…?)
(でもどうやったら、魔法を解除させられるかな?)
「リィ~ネ~!どこ~?」
呼んでも返事はない。
なんとか自力で突破しないといけないみたいだ。
(そうすると…弱点をついて動揺させないといけないのかな?)
(魔法は多分集中力とか、必要そうだしね)
とはいえ、4人の弱点と言っても、あまり思いつかない。
(あ!これよ!)
「ざぁこ♡ざぁこ♡ラァレったら弱すぎ~♡ボク分かっちゃったぁ♡ラァレは負けたがりのマゾなんでしょぉ?♡ザコラァレ♡さっさと負けちゃえ♡」
前世のメスガキ風に適当に囁いてみた。
(言ってはみたけど、これ意味なかったら相当恥ずかしいわ!)
その瞬間ーー変化は起こった。
急激に身体は重くなり、空気が湿り気を帯びる。
指には急に濡れた感触が走り、服には圧迫感がでる。
ズボンの足元に、何かがかかってびちゃびちゃと濡れる感覚がした。
今まで何故見えなかったのか。
なぜ感じなかったのかわからない。
でも、ワタシの身体にリィネを含めてノルミエ族の娘達が張り付いていたのだ。
そしてワタシの正面にいたのが、ラァレでピクピクしながらぎゅっと抱き着いている。
未だピクリとも反応しない性欲があったら、速攻で手を出してしまう光景だろう。
しかしその突然の変化に動揺していたおかげか、なんとか目の前の美少女をまさぐろうとする欲求を我慢できた。
後ろに抱き着いているのがリィネで、首元をしきりに嗅いでいた。
(ワタシってくさい…?)
ちょっと恥ずかしい。
「な、なにしてるのリィネ?その、汗臭くないかな?」
ピシっっと、なにか空気が凍り付く感じがした。
服の中に頭を突っ込んで脇腹をチュウチュウと吸いついているニューロや、ワタシの指を口に入れてペロペロしていたベーナも、何かを感じたのか固まっている。
混乱しながらも、開いている方の手で服の上からニューロをナデナデする。
美少女を愛でたい欲求が、そろそろ動揺を超えようとしていた。
「な、なにしてんだよおまえら!」
「ラァレェ!なぜ不可知[アンノウンアブル]を解いたのですか!」
リィネが何やら責めるように叫んだ。
「と、とりあえず…リィネ、ラァレ、ニューロ、ベーナみ~つけた…?」
その一言を聞いたラァレたちノルミエ族の4人は、地面に正座した。
…
……
正座している皆を見ているのは忍びないので、一旦立たせて事情を聞いた。
「「申し訳ございませんでした」」
リィネとラァレは日本語で謝りながら土下座をし、ニューロとベーナも続いて、ノルミエの言葉で多分謝りながら頭を下げた。
「え~っとそれで、ボクの勝ちってことでいいかな?」
「はあ!?それでいいのかよ!?」
「ヒナモちゃん、これはボクの完全勝利だよ」
「なんだそれ!すっげぇ!すげぇ勝利ってことか!?」
(ノルミエ族のみんなも、絶対性物質をつかったイタズラくらいの気持ちなんだから)
(罰どころかワタシにとっては、得しかないわ!)
「それにしてもラァレの絶対性物質だったんだね」
不可知[アンノウンアブル]、名前からして凄そうだ。
「マドイ様、本日のお言葉はどちらで学ばれたのですか?」
そう聞いてくるラァレの頬は上気しているが、視線はまっすぐにこちらに向いていた。
「え?適当に言っただけだけど…?」
(言えない……)
前世でプレイした、メスガキわからせ系エロゲのワンシーンを置き換えただけなんて。
それを聞いたラァレは目を見開いて、虚空を見つめながら停止した。
しばらくした後、ラァレは口を結び、目を伏せると、頭を下げて跪いた。
「今のお言葉を聞いて確信しました。どうか私の主人となってくれませんか?」
「うん!わかった!」
(大歓迎です。ええ、もちろん。拒否する理由は一つもありませんとも!)
(なんなら最初からそのポスト、狙っておりましたとも)
(さて、夫としてお嫁さんを向かえる準備をしないと!)
(結婚、婚姻、結納~♪)
「では準備ができましたら、忠誠の儀式を行いますので、また後日よろしくおねがいたします」
「う、うん?」
(ちゅ、忠誠…?結婚じゃないの!?)
空回りした結婚願望に少し肩を落としながら、ヒナモちゃんと遊んでいると、イナリちゃんが迎えに来た。
その後、夕日をバックに車に乗り込むトドロキ家の皆さんをお見送りした。
最後までワタシを見るヒナモちゃんの目が、少しキラキラとしていてむず痒い嬉しさがあった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
その夜ベッドに入ったワタシは、ヒナモルートについて考えた。
昼に慌てなかったように、実を言えばそこまで死に直結しない。
ヒナモルートでのマドイは基本的には空気だ。
ことあるごとに「今からオレに乗り換えるなら、許してやるぞ?」とか、「けっ、昔は好き好き言ってたくせに、知らない内に他の男作りやがって…」 など随所でキモイ。
(そうして空気のまま、死亡者リストに載るんだから、ある意味主人公がヒナモルートに入った場合は……対処のしようもなく死ぬ)
しかし、ある意味でいえば、希望のあるヒロインなのだ。
なぜなら、幼少期ヒナモから告白されるらしいからだ。
それを後生大事に記憶している粘着質はキモイが…。
(そう!告白されるのよ!)
だから、ヒナモに焦点を当てて生き残るならば、その告白を受け入れて、主人公のヒナモルート入りを阻止する!
(逆に告白されなければ、対処不可能な死の可能性が上がるってことね)
しかしーー。
マドイがヒナモに迷惑を賭けるのは、イナリルートが本番だ。
実を言えば、主人公がイナリちゃんのルートに入った途端、マドイが付き合いだすのがヒナモなのだが……。
自分への好意があるならと、ヒナモに弁当を作らせた癖に、見ていないところでそれを捨てて一言、「今日の昼飯どうすっかな〜」。
死刑+1。
そして購買のパンを食っておきながら、ヒナモに対しては「オレと部活どちらが大事なんだよ!」と問い詰め、答えに詰まれば激昂する。
死刑+1。
そんなヒナモの唯一の心の支えである部活を辞めさせるために、虚偽の噂を流してヒナモを部内で孤立させようとする。
死刑+1。
疲弊させ、イナリちゃんと衝突させ、そしてヒナモを骨折させる。
結果として部活を辞めさせる。
(まあ、その結果ゲーム内のヒナモはマドイを守り切れずスタンピードで死ぬのよ)
そう考えれば、ヒナモちゃんと早期に出会えたのは幸運だった。
(原作が始まるまで…9年)
しかし、ここまでの2か月を考えれば、悲観することはない。
イナリちゃんの養子縁組も、リィネちゃんの保護も、原作に起こったことは実際に起こっているからだ。
逆に言えば、書かれていないことも起こってしまう。
(実は告白なんて起こってないのに、人伝手の噂を本気にして……とか、マドイなら十分にあり得たわ)
しかし、出会ってさえしまえばこれから先に告白イベントが起こるということ。
(イナリちゃんと仲良くしながら健全に育てつつ、ヒナモちゃんのラブコールを逃さない)
(大事なのは、一回一回の接触を大事にすること、少しでも告白が起こりやすいように)
「くふっ……ベッドに連れ込むのが、最短よねぇ」
また、思ったよりキモイ声がでた。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
次の日も、なぜかヒナモちゃんは遊びに来た。
次の次の日も毎日遊びに来る。
そうして2週間ほど経ったある日、いつも笑顔のヒナモちゃんを見て、少し不安に思う事があった。
勉強を……していないのだ。
そこで、朝食の際に事前にある事について母様に了解をもらった。
「ねえ、ヒナモちゃん」
ヒナモちゃんは朝ご飯頃に来て、一緒に朝食を摂ってから少し遊んで、また授業終わりに遊ぶ。
聞けば、ワタシが授業を受けている時間は、一人でいるらしい。
「どうしたんだよ、マドイ」
「お勉強は大丈夫なのかな?」
「勉強ってなんだ?」
(べ、勉強がなんだときたか)
「ちょっとヒナモ、あんた大丈夫なの?」
すっかり打ち解けたイナリちゃんからも、心配の声が上がった。
「貴族として知らないといけない色んな事を、教えてもらうって感じかな?」
「ふ~ん、おもしれぇのか?」
「うん!ボクはヒナモちゃんと一緒に勉強したいなあ」
「マドイがしたいなら、オレもする!」
「なら、教科書はあたしのお古をあげるわ」
「ありがとう、イナリちゃん」
「ふ、ふん!兄さんの為じゃないわよ!先生に新しい教科書貰っちゃったから、1年生のを2冊持ってたって無駄にしちゃうだけなんだから!」
「…マドイは良い兄ちゃんなんだな」
「そ、そうかな?」
「マドイは…兄ちゃんって呼ばれたら嬉しいのか?」
「そうだね。妹が嫌いな兄なんていないよ」
それを聞いたヒナモちゃんはこちらに抱きついて、ワタシの顔を見上げた。
「に、にぃにぃ?」
……
…………
………………
…………………………
「………はっ!」
純粋ロリっ子のにぃにぃ呼びで、意識がどこか遠くにとんでしまっていた。
どのくらい時間がすぎてしまったのか、不安そうな顔でこちらを見ていた。
「くふっ、よ~しよし、ヒナモちゃん。そろそろ授業にいこっか」
「おう!」
所々跳ねているヒナモちゃんの髪の毛を撫でていると、ニッコリ笑顔で返してくれる。
「……あわわわわ!」
何故か動揺しているイナリちゃんと共に、3人手を繋いで授業に向った。
ちなみにお古なんて言いながら、後日ちゃっかり新品同様の、新しくもらった方の教科書をヒナモちゃんに渡すイナリちゃんだった。