エロステータスが見えるヒロイン   作:SoftMcherry

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主人公にあるのは下心がほとんどです。




第5話「妹をゲットだぜ」

シロスズ視点

 

子供というものは、実に不思議だ。

 

日々、あらゆるものを見て、聞いて、吸収し、少しずつ姿を変えていく。

 

最近のマドイを見ていると、特にそう思う。

 

少し前に、家庭教師から「ご子息がやや横柄な態度を取るようになった」と報告があった。

 

元気に育ってくれるなら、多少の我儘など構わない。

 

そう思ってはいたが、さすがに気になり、私はマドイの授業を見に行った。

 

「くふっ……」

 

そこには腕を組み、いかにも偉そうに振る舞おうとしているマドイがいた。

 

私の真似をしているらしかった。

 

小さな体で懸命に威厳を出そうとしている姿が、あまりにも愛らしい。

 

はあ…息子が可愛いすぎて執務が辛い。

 

今すぐにでも本物のマドイを愛でたいのに…。

 

「はぁ…」

 

私はこめかみを押さえ、机の上の書類へ視線を戻した。

 

イナリの養子縁組。

 

それに、スハラ家のボンクラが街で起こした事件の後始末。

 

筆を走らせながら、私はイナリのことを考える。

 

あの子と私は、境遇が少し似ている。

 

だからこそ、手を差し伸べずにはいられなかった。

 

……だが。

 

私には、ワクシマ本家の当主としての体裁もある。

 

私がマドイよりもイナリを気にかけているように見せれば、「当主はマドイに後継者としての資質を見出していない」と吹聴する輩が出るだろう。

 

一人息子というのは非常に難しい立ち位置だ。

 

唯一の正統後継者である一方で、魔力を含め当主に求められるあらゆる力が、不安にならざるを得ない。

 

そんな中で隙を見せれば、分家の連中は本家へ食い込もうとするだろう。

 

マドイを手に入れれば、本家に近づける。

 

マドイを上級貴族へ婿入りさせれば、自分たちが本家を継げる。

 

一度でも「政略結婚の道具」と見なされれば終わりだ。

 

そうなれば、マドイは自由な恋愛などできなくなる。

 

マドイが…女と結婚……?

 

ミシ……バキッ!

 

気づいたときには、手にあったボールペンがへし折れていた。

 

「ふぅ……物は大切にしなければな」

 

安物とはいえ、少し反省する。

 

ともあれ、マドイもイナリも難しい立場という意味では、互いに問題であることに変わりはない。

 

だが同時に、イナリの養子縁組はマドイにとって良い影響を与えているようだった。

 

イナリが来てからというもの、マドイは兄としての自覚に目覚めたのか、たびたび屋敷内を二人で散歩しているらしい。

 

賢い子だ。

 

きっと、イナリの置かれた状況に、幼いなりに何かを感じ取っているのだろう。

 

優しい子だとは思っていた。

 

だが、ここまでとは。

 

「くふふっ……」

 

本当に、誰に似たのやら。

 

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イナリ視点

 

五歳になるまで、私の暮らしは幸せに満ちていた。

 

毎日が楽しくて、自分が愛されているのだと疑いもしなかった。

 

母は、私の魔力量を知って誇らしげに笑った。

 

父は、よく頭を撫でてくれた。

 

仲の良かった姉たちは、いつも遊んでくれた。

というのも、スハラ家は魔力の少ない家系。

 

だからこそ、一人だけ特別に魔力の高い私は、家を盛り立てる期待の星だと言われていた。

 

その言葉を、私は誇りに思っていた。

 

すべてが変わったのは、私の絶対性物質が発現してからだった。

 

必中[オーバーライド]。

 

物質に流し込むことで、その物質が次に触れる対象を上書きし決定する性質を持つ。

 

――絶対に目標を逸れない物質。

 

どんなに外れた方向へ投げても、ボールが必ず同じ場所に当たる。

 

一度「次に触れるもの」を決めれば、絶対に逸れない。

 

その光景を見た私は、早く両親に見せたくて仕方がなかった。

 

絶対性物質は願いの結晶、望みの体現。

 

最も根源的な自分の欲望。

 

――けれど、見せた後の生活は地獄だった。

 

父は、母が浮気をしたのだと怒鳴った。

 

屋敷の空気は一変した。

 

ついこの間まで仲良くしてくれていた姉妹たちも、私を見下すような目で見るようになった。

 

ワクシマの血筋に発現する絶対性物質は、「隠す」という概念に連なるものが多いらしい。

 

けれど、私の力はそれとはまったく関連がなかった。

 

そのうえ、私は特別に魔力が高い。

 

だから父は、私との血の繋がりを疑った。

 

ワクシマの血を引いているのは父であり、母はもともと平民だった。

 

もし母の浮気が事実なら。

その相手が平民なら。

 

私に貴族の血は流れていないことになる。

 

その日から、家の中の全員が敵になった。

 

それでも最初は、もっと優秀な成績を残せば認めてもらえるのではないかと思った。

 

だから努力した。

 

けれど、優秀であることを示せば示すほど、家族との距離は遠ざかっていった。

 

やがて私は、一人でいることに慣れていった。

 

いじめられるくらいなら、誰とも関わらないほうが楽だった。

 

そんなある日のこと。

 

母と姉妹が式典に出かけている間、当然人前に出せない私を、父が外へ連れ出してくれた。

 

もしかしたら、父は私を理解してくれたのかもしれない。

 

しかし、そんな期待は、すぐに砕かれた。

 

連れていかれたのは、スハラ家が所有する小さなマンションの屋上だった。

 

父は、柵の向こうの景色を見るように言った。

 

何の変哲もない街並みだった。

 

それでも、父が少しでも心を開いてくれたのだと思えて、私は嬉しかった。

 

次の瞬間、服を掴まれた。

 

体が宙へ投げ出される。

 

目の前のフェンスは、支えを失ったように倒れ、私はフェンスごと屋上から落ちた。

 

速度を失いつつある時間の中で、私は空に向かって伸ばす自分の手に、必中[オーバライド]を使った。

 

この手が触れる次の物質は、父の手…それだけを願った。

 

身体は真下に向かって落ちる中、私の手だけが下から横に向かって旋回するように弧を描く。

 

意思とは関係なく手が頭上に向かった。その瞬間に強い衝撃が身体にかかった。

 

関節という関節から骨同士が離れる音、そして同時に筋肉が引き延ばされ、全身に激痛が走る。

 

それでも手は止まらない。

 

引っ張られるまま身体は屋上に向かって、落下の速度を維持して真上に進んだ。

 

父の顔が見えた。

うろたえた表情。

 

私は必死に、最後まで伸ばした。

 

けれど、その手は強く払われた。

 

その後私は屋上に転がり、意識を失った。

 

全身の打撲と肩の脱臼、そして数か所の肉離れによって安静を言い渡された。

 

全身が痛んだ、けれど心は動かなかった。

 

あのとき落下した私もフェンスも、幸い誰にも怪我を負わせなかった。

 

ただ、多くの人に目撃されていたらしい。

 

「おまえの父は警察で事情聴取を受けている。だがどのみち事故で片付けられる」

 

そうベッドの上の私に告げたのは、ワクシマ本家の当主、ワクシマ・シロスズ様だった。

 

「安心しなさい、お前はワクシマ本家で過ごすことになる」

 

その言葉を聞いても、安心はできなかった。

 

どこへ行っても同じことだと思った。

 

私は一人ぼっちで、誰からも疎まれて、大事なものは失い続ける。

 

私は、何を間違えたのだろう。

 

怪我が治るとすぐ、私はワクシマ本家へ送られた。

 

しとしとと雨が降る日だった。

 

見送りは誰もいない。

 

私は一人、車の中から灰色の空を見つめ続けていた。

 

===========================

 

ワクシマ本家でも、私の扱いは変わらないと思っていた。

 

メイドや執事が、私のことをどう聞いているのかは分からない。

 

もしかしたら、父の差し金で私を殺しに来る者もいるかもしれない。

 

運ばれてきた食事にも、しばらく手をつけられなかった。

誰もが敵に見えた。

 

淡々と屋敷の説明を受けた後、私は与えられた部屋に閉じこもった。

 

これ以上、心も体も傷つきたくなかった。

 

メイドが言うには、マドイという一人息子が、病に伏せっているらしい。

 

下手に見舞いに行って悪化などしようものなら、このシロスズ様も敵になる。

 

誰かの恨みを買うくらいなら、このまま近づかないでおこう。

 

――せめて平穏に、そう思っていた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

しかし数日後、メイドが部屋を訪ねてきた。

 

マドイが目覚めたのだと言う。

 

自己紹介を兼ねて、会わないわけにはいかない。

 

なるべく目立たず、挨拶は穏便に済んだ。

 

――そう思っていたのに。

 

目覚めて二日後から、何かがおかしくなった。

 

なぜか、マドイは私に付きまとうようになった。

 

しかしその手に引かれるたび、世界が色を取り戻していく。

 

そんな景色に戸惑って私が遅れると、彼は歩幅を合わせてくれる。

 

何気ない気遣いが、マドイの笑顔が。

 

嬉しかった。

 

父に払われた手の痛みが、少しずつ癒えていくような感覚がした

 

けれど、その指を、思わず握り返してしまった瞬間――。

 

その温もりが、怖くなった。

 

……

 

大広間で誕生日を聞かれた。

 

12月だと答えたら、パーティを開こうと提案し始めた。

信じられなかった。

 

どこの貴族が、養子に来た分家の子供のために、それも本家と同じ姓すら名乗っていない人間のために、パーティなど開くというのだろう。

 

「なんで?ボクの妹のなんだから当然だよ!」

 

「っ……」

 

その言葉に、胸が詰まった。

 

「ぱぁっと豪華にやろうね!」

 

眼に力が入る。

 

呼吸が自然と浅く、ゆっくりなものになる。

 

嗚咽が漏れそうで、必死に耐えた。

 

再び熱を持ちそうな心臓を必死に押さえた。

 

けれどーーその後の昼食では、そんな心臓が縮み上がる思いだった。

 

私は身分をわきまえて、端の席に座った。

 

本家の当主と、その一人息子の近くに座るなど許されるはずがない。

 

なのに、マドイは私の隣に来た。

 

さらにシロスズ様にまで移動させてしまった。

 

常識で考えればありえない。

私の都合に、本家の当主に合わせさせてしまった。

 

きっと心証は最悪…。

 

そんな恐怖で荒立つ心境の中、食事の途中でマドイが言った。

 

「母様、イナリちゃんの勉強部屋はどうされるのですか?」

 

「ん?そうだな…市立の小学校に行くのが普通だが」

 

「母様!ボクの勉強部屋で、イナリちゃんも一緒に勉強すればいいと思います!」

 

「ふむ…?まあ、料金はさして変わらんだろうから問題はないが、何故だ?」

 

「あの広い部屋で子供一人では寂しいです!ダンスの練習も、二人ならできます!」

 

「くふっ、ならばそうしよう。今日のように、マドイがイナリを連れて行ってやりなさい」

 

「はい!」

 

口を挟む間もなく、私の未来が決まっていく。

 

恐れ多くも本家の次期当主と同じ教育を、分家の私が受けることが決定した。

 

次の日も、明くる日も、マドイは私の手を引いてくれた。

 

じんわりと…心が温かくなる感覚、けれど私は、それを失う未来を知っている。

 

私が平民かもしれないと知られたら。

貴族モドキだと知られてしまったら。

 

マドイも、きっと私を見捨てる。

 

いつの間にか、そう考えるだけで、苦しく感じるようになってしまっていた。

 

そんなある日、池のほとりで遊んだ。

 

マドイは平たい石を投げ、水面を跳ねさせる遊びを教えてくれた。

 

しばし付き合った後、池のほとりにある木陰に座った。

 

マドイは私の肩を抱きながら、ぱたりと草の生えた柔らかい地面に寝転がる。

 

私も腕に引かれるまま寝転ぶ。

 

蝉が鳴く音がどこか遠くなっていき、こちらを向くマドイの笑顔がすぐ近くに来る。

 

貴族の子息が、なんてはしたない。

率直にそう思うが、同時に本当に自分が求めていたものがそこにあった。

 

「なぜ、私にここまでしてくださるのですか?」

 

精一杯我慢したけど、声は震えていた。

 

これ以上、一緒にいて嬉しい人に拒絶されたくなかった。

 

家族だと言ってくれる人を、もう失いたくなかった。

 

孤独は苦しいことを知ってしまった。

 

だから今、聞かざるを得なかった。

 

「え?それは…イナリちゃんだからだよ?」

 

「私……だからですか?」

 

マドイの不思議そうな顔で、ますます理解できなくなった。

 

「そ、イナリちゃんがイナリちゃんだから。それだけで十分だよ」

 

胸の奥が、ぐしゃりと歪んだ。

 

「私はワクシマ家の、とるに足らない分家の、それも貴族ですらない私が!優しくしてもらえる価値なんて、あるはずがありません!」

 

私は顔を伏せた。

何を言っているのか、自分でも分からなかった。

 

嫌ってください。

 

そう言いかけた。

けれど、最後の言葉だけが喉に詰まった。

 

私を肯定してくれるマドイに、訳も分からずマドイに嫌われようとする自分。

 

ただただ怖くて、顔を見られなかった。

 

歯を食いしばるようにして耐える私の手を、マドイがそっと握ってくれる。

 

次にこの手を、もう一度家族に払われたら…。

今度こそ、私は二度と立ち上がれない。

 

マドイと過ごした数日は、それほどまでに温かかった。

 

だからもう一度失ってしまう前に…。

今一人に戻れば、傷は浅く済む。

 

そう思った。

 

けれど、マドイは私の手を離さなかった。

 

「貴族かどうかなんて、家族になるのに関係ないよ」

 

まっすぐな声だった。

 

「イナリちゃんはボクの妹なんだから、一生大切にするよ絶対に」

 

私に向けられた優しい笑顔。

 

「っ…」

 

声が出なかった。

代わりに、あふれて涙が止まらない。

 

「だからイナリちゃんもボクのことをお兄ちゃんって呼んで?」

 

「お、お兄ちゃん!」

 

あふれ出す感情のままに、兄の胸に飛び込む。

 

何度も頭を撫でられる。

 

そのたびに涙があふれて、私は兄の服に顔を押しつけて泣き続けた。

 

どれくらいの時間泣いていたのだろうか。

 

気づけば、私は泣き疲れて眠っていたらしい。

 

後でメイドから、お兄ちゃんに背負われ、部屋まで運んでもらったと聞いた。

 

……

 

次の日の朝、目を覚ました私は、夢を見ているような気持ちで身体を起こした。

 

部屋の扉がノックされる。

 

「はい」

 

返事と共に、ベッドから起きて扉を開ける。

 

「おはようイナリちゃん!今日から授業が始まるよ!朝ごはん食べたら一緒にいこっか!」

 

「う、うん!」

 

兄の笑顔が嬉しくて、私は急いで身支度を整えた。

 

小食堂に向かい、部屋に入って朝の挨拶をする。

 

シロスズ様が笑顔で返してくれる。

 

お兄ちゃんも、当たり前のようにそこにいてくれる。

 

私はもう一度、幸せを願えるようになった。

 




第五話、

いや今回、感情の殴り合いすぎる。

前半のシロスズ様パートで
「はは〜ん、このママ面白強キャラだな?」
ってニコニコしてたら、そのあとイナリちゃん視点で情緒全部持ってかれたんだけど!?

だってこの物語、
「優しくされたから幸せになりました!」
で終わる空気、全然ないもん。

むしろここからが本番。

マドイの善意は、いったい何を歪ませていくのか!

第六話もおったのしみに~!

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