ブルアカ×エンジェリックレイヤー 作:救護騎士団オラリオ支部
デカグラマトン編のネタバレがあります。
鋼鉄の大陸が、ゆっくりと――だが確実に崩れ去っていく。
まるで役目を終えた舞台装置のように、巨大な構造体は崩壊し、空の彼方へと消えていった。
花岡ユズは、飛行艇の窓に額を預けるようにして、その光景を見つめていた。
隣には、見慣れた顔ぶれ――ゲーム開発部の仲間たち。
誰も、言葉を発しない。
ただ、それぞれが胸の中に何かを抱えながら、静かに終わりを見届けていた。
出会い。
衝突。
理解。
そして、別れ。
救えた人。
手を伸ばしても、届かなかった子たち。
そして、新しく繋がった絆。
長いようで短かった数日間。
納得できるハッピーエンドではなかったけど、確かに救えたものもあった。
それでも――
「……悔しい、ね」
小さく漏れた言葉は、窓に反射して自分に返ってくる。
ユズはそっと目を伏せた。
助けられなかった子たちの顔が、まだ脳裏に焼き付いている。
あと一歩、何かが違っていれば。
もう少し早く気づけていれば。
そんな“もしも”が、胸の奥で静かに燻っていた。
仲間たちも同じ思いでただ崩れ去る鋼鉄大陸を眺め続けていた。
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朝の陽ざしで微睡の中からユズは目を覚ます。
ゆっくりと瞼を開けると、見慣れ無い天井が視界に広がった。
「……ここ、は……」
ぼんやりとした意識の中で、状況を整理する。
「えっ!?」
思わず身体を起こす。
そこは――飛行艇の寝室ではなかった。
普通の部屋だ。
ただユズの私室でもなければゲーム開発部の部室でもなかった。
普通に家具があり普通に人が生活するような何の変哲もない部屋。
「なにこれ……夢?」
手を見下ろす。
感覚はある。
体温も、鼓動も、はっきりと感じる。
夢にしては、あまりにも鮮明すぎた。
ユズはゆっくりとベッドから足を下ろす。
床の感触が、はっきりと伝わってくる。
「……現実、なの?」
呟きながら、周囲を見渡す。
ふと、鏡が目に映る。
いつもの自分の顔だ。
しかし、何か違和感がある。
何かが足りないような?
・
・・
・・・
「ヘイローが無いっ!?」
思わず叫ぶ。
ユズは慌てて鏡の中の自分の頭上を見上げる。
――何もない。
いつもそこにあるはずの光輪。
自分たちにとって当たり前の“証”。
それが、完全に消えていた。
「え、ちょ、待って……なんで?」
鏡に顔を近づける。
何度見ても、ヘイローはそこに無かった。
「もしかして、わたし、死んじゃった?」
ヘイローとはキヴォトス人にとって命や人格に相当する。
それが消失するということは死に等しい。
「…とにかく部屋の中を調べないと」
何もわからないが、手がかりがあるかもしれない。
ユズは深く息を吐き、意識を切り替える。
焦っても仕方ない。
まずは状況確認。
(こういうの、デバッグと同じ)
そう考えると、少しだけ落ち着いた。
ユズはゆっくりと部屋の中を見回す。
椅子。
棚。
勉強机。
どれも“普通”だ。
「あ、パソコン」
勉強机の上に置かれたノートパソコンを見つける。
ユズはゆっくりと歩み寄る。
ごく普通のノートPCにそっと蓋に手をかける。
――開く。
「あれ?」
起動したPCのユーザー名が「UZQueen」だった。
自分のPCのパスワードを打ち込んでみる。
「入れた」
あっさりとログインできたことに、逆に少しだけ戸惑う。
ユズは画面をじっと見つめる。
デスクトップが表示される。
「……これ、わたしの環境に似てる」
配置。
フォルダ名。
ショートカット。
どこか見覚えがある。
完全一致ではない。
「何か、手掛かりは…」
ユズは視線を走らせる。
似ているようで違うデスクトップ。
フォルダやファイル、メールを片っ端から調べていく。
そうしてユズはこの不可思議な状況の把握に努めたのだった。
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PCや部屋の中を大体漁って、ユズはこの状況を大体把握した。
非現実的なことではあるがユズは別世界のユズの体に入ってしまったらしい。
何処の学校かもわからないユズの学生証があったり、見覚えのない教科書、知らない制服。
メールで知った海外で働いている両親や近況の報告やらで、大体事態は把握した。
「……完全に、別人の人生だ」
ぽつりと呟く。
画面に映る文面は、どれも“日常”だった。
学校のこと。
体調のこと。
食事の話。
たわいないやり取り。
――それなのに。
(わたしの記憶には、存在しない)
決定的なズレ。
ユズは椅子の背にもたれ、小さく天井を仰ぐ。
「……これ、乗っ取りとかじゃないよね」
苦笑混じりに言うが、笑えない。
身体は自分。
でも、中身は違う。
いや――
「中身がわたしで、外側がこの世界の“わたし”?」
整理する。
その方がしっくり来る。
「とにかく、元の世界に戻らないと!」
ここにはモモイもミドリもアリスちゃんもケイちゃんもいない。
先生やリオ会長、ヒマリ先輩や沢山のミレニアムサイエンススクールの友達や先輩。
「……帰らないと」
小さく、しかしはっきりと呟く。
ここは違う。
似ているようで、決定的に違う世界。
自分の居場所じゃない。
だから――
「絶対に戻る」
決意は、すぐに固まった。
ユズは意を決してドアを開く。
元の世界に戻るために。
外へと駆け出す。
段ボールを片手に。
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外の光景は、“普通”だった。
アスファルトの道。
並ぶ住宅。
電柱と電線。
どこにでもある、平凡な街並み。
けれど――
「……違う」
ぽつりと呟く。
キヴォトスとは、決定的に違う。
まず、静かすぎる。
銃声もなければ、ドローンも飛んでいない、巨大な施設群もない。
そして何より生徒やオートマタ、獣人が一切いなかった。
「……先生と同じ普通の人間しか、いない」
ユズはゆっくりと呟いた。
通りを歩く人々。
買い物袋を提げた主婦。
携帯電話を見ながら歩く学生。
誰の頭上にも、ヘイローはない。
当然だ。
それが、この世界の“当たり前”だから。
「……これが、外の世界の人間社会……?」
自分の知る常識が、ひとつずつ崩れていく。
キヴォトスでは、“それ”が普通だった。
ヘイローがあって。
銃があって。
戦闘が日常に溶け込んでいて。
でも――
(ここには、それがない)
ユズは無意識に、ガラスに映った自分の頭上へ目を向ける。
やはり、何もない。
空虚な感触。
「……ほんとに、消えてるんだ」
小さく呟く。
その瞬間、胸の奥にわずかな不安がよぎる。
(もし……戻れなかったら?)
思考が、一瞬だけ暗く沈む。
だが――
「……ダメ」
首を振る。
自分で自分に言い聞かせる。
ふと、街頭モニターに映った映像がユズの目を引き付けた。
カラフルな光。
歓声。
そして――小さな人形のような存在。
『――エンジェリックレイヤー公式大会、いよいよ開幕!』
「……エンジェリック、レイヤー?」
聞き慣れない単語。
だが、その映像に映っていたものは――明らかに“ただの遊び”ではなかった。
小さなフィールドの上で、精巧な人形同士が戦っている。
動きは滑らかで、人間の意思を反映しているかのように自在だった。
拳を振るい。
跳躍し。
衝突する。
「……これ、操作してるの?」
ユズは無意識に一歩近づいた。
画面にはプレイヤーと思しき少女が映る。
羽のような装飾のついたヘッドセットを付け微笑んでいる。
(すごい……格ゲーみたいに人形が戦ってる……)
二体の人形がリングの上で戦う様はまるでユズの好きな格ゲーの様だった。
まるで本当の人間が戦うようなリアルさ、人間には不可能な動きで駆け回る華やかさ。
そして何より――
「……楽しそう」
ぼそりと呟く。
(これ、ゲーム……? それとも競技?)
画面には「公式大会」「全国大会」といった文字が並ぶ。
どう見ても一過性の遊びではない。
文化として根付いている。
「……もしかして」
ユズの中で、ひとつの仮説が浮かぶ。
「……この世界、ホビーアニメの世界?」
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元の家に帰宅したユズの手元には大量の荷物があった。
「…買っちゃった」
エンジェリック・レイヤーのスタートキットだった。
いや、違うのだ。
帰ることをあきらめたのではない。
ただ、ちょっと、
そう、ちょっとだけ楽しむだけだ。
そう言い聞かせながら、店員にびくびくしながら数万円の買い物をしてしまった。
元の世界のユズの口座は普通に使えたし両親からの仕送りもあったためか普通に買えてしまった。
ユズが元に戻った時この世界のユズが口座を見てどう思うかは完全に度外視である。
「とりあえず、取扱説明書を」
取扱説明書を見ながらエンジェリック・レイヤーの人形が入った卵型のカプセルを取り出す。
「……これが、“エンジェル”」
透明な殻の奥に、小さな人形が眠っている。
まだ動かないそれは、まるで――
「初めて会った時のアリスちゃんみたい」
カプセルの中の小さな人形をじっと見つめた。
眠るように静かなその姿。
けれど――その奥に、確かな“可能性”がある。
「……決まり、だね」
ぽつりと呟く。
迷いはなかった。
既に答えは出ている。
自分が作るべき“エンジェル”。
ユズの中で、イメージが組み上がっていく。
「早く戦ってみたいな」
口元が、わずかに緩む。
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「なんやあれ?」
三原一郎は奇妙なものに遭遇した。
段ボールである。
いや、段ボールなんて見慣れているがそうではない。
何故かエンジェリック・レイヤーの大会受付の前を段ボールがうろちょろしている。
周りの人間も触らぬ神に祟り無しとでも言うように避けている。
段ボールは――止まった。
ぴたり、と。
まるで「見つかった」とでも言うように。
「……いやいやいや」
思わず額を押さえた。
「動いとるやん。段ボールが」
関西訛り混じりのツッコミが、誰に向けるでもなく漏れる。
だが、目の前の現実は変わらない。
大会受付前。
小さな大会ではあるがその中で――
段ボールが、自律的に移動している。
(新手のパフォーマンスか? それとも、コスプレ?)
一郎は腕を組み、じっと観察する。
段ボールは、きょろきょろと周囲を窺うように微妙に揺れ――
そして、受付の前にすっと滑り込んだ。
カウンターのスタッフが、一瞬固まる。
「え、あの……?」
当然の反応だ。
相手は段ボールだ。
しかも意思を持っているかのように動いている。
数秒の沈黙。
そして――
すっ……
段ボールの上部が、わずかに持ち上がった。
そこから、ひょこっと顔を出したのは――
「す、すみません、エントリーってここで合ってますか?」
おどおどした少女だった。
花岡ユズである。
周囲の空気が、固まる。
「……え?」
スタッフが瞬きをする。
「は、はい。あってますよ」
スタッフは一瞬の間のあと、ぎこちなく笑顔を作った。
「えっと……では、こちらにエントリーネームとエンジェルの名前を」
ユズはペンを握りしめ、しばし固まる。
(えっと、エントリーネーム……)
この世界での自分の名前は“ユズ”のままでいいのか?
それとも――
「……」
一瞬だけ悩み――
(……そのままでいいよね)
こくりと小さく頷く。
書き込まれた文字。
エントリーネーム:UZQueen
(……うん、これでいい)
ほんの少しだけ、元の世界との繋がりを残すように。
そして、次の欄へ視線を落とす。
(エンジェルの名前……)
ペンが、ゆっくりと動く。
書き込まれた名前は――
エンジェル名:アリス
書き終えた瞬間、ほんの少しだけ胸が軽くなった。
(よろしくね)
まだ動かない、小さな相棒に向けて。
心の中で、そっと呟く。
ユズは用紙を差し出した。
「お、おねがいします……」
段ボールの隙間から、ひょいと。
スタッフはそれを受け取り、目を通す。
「……UZQueenさん、エンジェル“アリス”ですね」
「は、はい……」
「登録完了です。あちらで待機をお願いします」
指し示された先には、既に何人もの参加者が集まっていた。
それぞれが、自分のエンジェルを手にしている。
期待と緊張が入り混じった空気。
(……大会、か)
ユズはごくりと喉を鳴らす。
そして――
段ボールのまま、会場へと向かった。
(おもろいやん。あれ)
ただの変人か、
それとも――
「……少しだけ見ていくか」
視線の先。
段ボールは、人混みの中へと紛れていく。
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『23番のチケットをお持ちのUZQueenさん。メインステージまでお越しください』
場内アナウンスが、軽やかな電子音とともに響いた。
「……き、きた」
段ボールの中で、ユズの肩がびくりと跳ねる。
心臓がうるさい。
手のひらにじっとりと汗が滲む。
(落ち着いて……落ち着いて……)
深呼吸。
ひとつ、ふたつ。
「UZQueenさん、こちらへ!」
スタッフに呼ばれ、ステージへと上がる。
段ボールを被った。
ざわっ――
観客席がざわめいた。
「……なんだあれ」
「段ボール……?」
「新手のスタイルか?」
ひそひそとした声。
だが、ユズの耳にはほとんど入っていない。
段ボールの中で、そっとエンジェルを握りしめる。
アリス。
自分が名付けた、小さな相棒。
「……いこう」
ユズはゆっくりと段ボールを外した。
――その瞬間。
ざわめきが、一段階大きくなる。
「え……女の子?」
「さっきの段ボールの中身、あの子かよ……」
視線が集まる。
「ひっ!?」
びくり、と肩が跳ねる。
視線。
視線。
視線。
まるでステージの上に立たされているような――いや、実際に立たされているのだが――そんな圧力が、一気に押し寄せてくる。
(む、無理……無理かも……!)
足が震える。
逃げ出したい衝動が、喉元までせり上がる。
段ボールに戻りたい。今すぐ。
司会の声が、マイク越しに柔らかく響く。
「ではお名前とエンジェルの名前をお願いします!」
「ひゃ、ひゃいっ!?」
裏返った声が飛び出した。
観客席から、くすりと小さな笑いが漏れる。
(あっ、やばい、やばい……!)
顔が熱い。
逃げたい。
でも――
ぎゅっ、と手の中のエンジェルを握りしめる。
小さな重み。
まだ動かないはずのそれが、まるで背中を押してくれているような気がした。
(……大丈夫)
ひとつ、深呼吸。
ユズは震える声を、どうにか整える。
「え、えっと……UZQueenです……!」
会場に、少しだけどよめきが走る。
「UZQueen?」
「自分で女王を名乗るとか自信過剰か?」
「ていうかあの段ボール何だったの……?」
ざわざわと広がる声。
だが、ユズは続ける。
「エンジェルの名前は……アリス、です」
司会が、にこやかに頷いた。
「ありがとうございます! UZQueenさん、エンジェル“アリス”――初出場ですね?」
「は、はい……!」
か細い返事。
だが、その声は確かにマイクに拾われ、会場に響いた。
「それではエントリーエンジェル!」
――その声を合図に、対戦相手の少女がエンジェルをフィールドへと放った。
小さな人形が、リングの中央に着地した。
軽やかな音。
まるで重力を感じさせない優雅な動き。
「……!」
ユズの目が見開かれる。
(すごい……動いてる……!)
対戦相手のエンジェルは、すでに構えを取っていた。
明らかに“慣れている”動きだった。
「対するは初出場、UZQueenさんのアリス!」
司会の声が響く。
「さあ、その実力はいかに!?」
(……わたしも、出さないと)
ユズは震える手でアリスを握る。
だが、
「…あの、このヘッドセットってどうやって動かせば?」
「えっ?」
司会が、一瞬だけ固まる。
もしかして、ずぶの素人?
会場の全ての人間も固まる。
その時だった。
「ここを押すんや」
カチリ、と軽い音。
ヘッドセットが、わずかに脈打つように震えた。
「お嬢ちゃん、素人なのに大会とか度胸あるなぁ」
「へ?」
ユズはぽかんとした顔で、横に立つ少年を見上げた。
いつの間にか隣に立っていたその人物――三原一郎は、にやりと笑う。
「いや、感心しとるんやで? 普通はな、最初は練習から入るもんや」
「れ、練習……」
その単語に、ユズの顔がみるみる青ざめていく。
(そ、そうだよね……普通そうだよね!?)
いきなり大会出場なんて、どう考えても順序がおかしい。
自分でも分かっていた。
でも――
(だって、すぐ戦えると思ったんだもん……!)
ゲーム感覚で来てしまった結果がこれである。
一郎はそんなユズの様子を見て、肩をすくめた。
「まあええわ。もう始まるしな」
そして、軽く顎でフィールドを指す。
「ほら、イメージや。動かしたいように考えればエンジェルは答えてくれる」
「イメージ……?」
「せや。お嬢ちゃんのイメージがその子を動かすんや」
言葉はシンプルだった。
だが、その一言は――ユズにとって、やけにしっくりきた。
「アバンギャルド君みたいにすれば…」
意を決しアリスをフィールドに放り投げる。
小さな手から放たれた“アリス”は、くるりと空中で一回転し――
コトン、と軽やかな音を立ててフィールドに着地した。
「おお……初動、ええやん。しかし、なんやそのけったいな”デカブツ”は」
一郎が感心したように呟く。
が、アリスを見て顔をしかめる。
アリス本体は何の変哲もない見慣れたエンジェルだ。
髪が長すぎる気もするし服もどこかの学校の制服の様だ。
しかしそんな物、背負っているものに比べれば些細なことだった。
――その背にあったのは、巨大な鈍器だった。
小さな身体には不釣り合いな、白を基調とした巨大な鈍器のような何か。
「え……なにあれ」
「重すぎないか……?」
「いや、あれ動けるのか?」
観客席がざわつく。
当然だ。
通常、エンジェルは武器や盾を持っていない。
一部を除き禁止はされていないがバランスが崩れたり武器での戦い方がイメージできなかったりと使うものは少ない。
だが、アリスは違った。
背負っているそれだけで、明らかに常識から逸脱している。
「……いける、かな」
ユズは小さく呟く。
不安はある。
けれど――
(これは、“アリスちゃん”だから)
自分の中にあるイメージ。
「――エンジェリック、ファイト!!」
開始の合図が響いた。
瞬間――
対戦相手のエンジェルが地面を蹴る。
軽やかに、一直線。
迷いのない突進。
ユズの視界の中で、敵が一気に迫る。
だが――
(イメージ……!)
一郎の言葉が脳裏をよぎる。
「……前に出て」
小さな声。
けれど――
その瞬間。
アリスが、動いた。
――ドンッ!!
重い音。
フィールドの床を踏みしめ、通常のエンジェルではあり得ない“重量感”を伴って一歩を踏み出す。
「なっ……!?」
対戦相手の少女が、思わず声を漏らす。
突進していたエンジェルが、一瞬だけ躊躇した。
それも無理はない。
エンジェル同士の戦いに――
“常識外れの質量”が、持ち込まれたのだから。
(いける……!)
ユズの目が、わずかに見開かれる。
手応え。
イメージと現実が、確かに繋がった感覚。
「そのまま――構えて」
アリスは、巨大な鈍器をゆっくりと構えた。
「うそ……あれ、ちゃんと動いてる……!?」
「いや、あのサイズであの安定感はおかしいだろ……!」
観客席のざわめきが、一気に熱を帯びる。
一郎も、目を細めた。
「……ほぉ」
「――振り下ろして」
その瞬間。
アリスの身体が、わずかに沈む。
そして――
振り上げる。
巨大な鈍器が、ゆっくりと、しかし確実に軌道を描き――
――ドゴォォン!!
振り下ろされた。
衝撃。
空気が震える。
フィールドに、鈍い轟音が響いた。
「きゃっ!?」
対戦相手のエンジェルは、直前で回避した。
だが――
遅い。
完全には避けきれていない。
衝撃波に巻き込まれ、体勢を崩す。
「なにそれ!? 範囲攻撃!?」
「いや、ただ叩きつけただけだろ!?」
観客の声が飛び交う。
だがユズは、それを聞いていない。
(まだ……慣れない、かな?)
冷静に分析する。
重い一撃。
だが、動きは遅い。
(なら――)
「次……速く」
ぽつり、と呟く。
その言葉に呼応するように――
アリスの動きが、変わる。
「なっ!?」
一郎の目が、わずかに見開かれた。
さっきまでの“重さ”が嘘のように、アリスが踏み込む。
「嘘やろ……」
この少女は完全に初心者だ。
そのはずなのに…、
重いはずの武器に振り回されない。
まるで使い慣れた武器のように自在に操る。
(ほんまに初心者かいな!?この子!!)
――ガァンッ!!
今度は、直撃だった。
対戦相手のエンジェルが、大きく吹き飛ぶ。
エンジェルは地面を転がり、なんとか体勢を立て直す。
だが、その動きは明らかに鈍っていた。
「……いける」
ユズの声が、ほんの少しだけ強くなる。
怖くないわけじゃない。
緊張も消えていない。
でも――
(ちゃんと動いてる)
自分のイメージが、形になっている。
それが、何よりも確かな自信になっていた。
「アリスちゃん……」
小さく呼びかける。
フィールドの上で、アリスが静かに構えを取る。
巨大な鈍器を勇者の剣のように掲げる。
「――いこう」
その瞬間。
アリスが、再び地を蹴った。
観客席の空気が、明らかに変わる。
「……なんだあれ」
「初心者じゃねぇだろ……!」
「発想がおかしい……!」
一郎は、ふっと笑った。
「……おもろいなぁ」
段ボール少女――
その正体は、どうやら“当たり”らしい。
エンジェリック・レイヤーの武器関連ってよくわからないんですよね。
アニメ描写だと電気鞭は公式ルール違反ですがドリル使ったり鍵爪使ったりはOKっぽい。
まるで聖闘士の様だ。
まぁ、初期不良のバグをハイパーモードと言って強化に使ったり静電気バリアを張ったり波動拳みたいな必殺技使ったりとルールも大分混沌としてそうですが。