悲しい……永遠に続けばいいのに。
始まりは7月12日。
突如飛来したベムラー2体に対し、GUYSは手も足も出なかった。
3機あった戦闘機は残り1機にまで減り、ウルトラマンが来なければ全滅していただろう。
最後の怪獣災害から早10年。実戦経験豊富なパイロットが去り、若手と世代交代し始めたところだったのも災いした。幸い死人は出ず、まだ世間からの批判もこの時は優しいものだった。
そして問題の1週間後、7月19日。
警備の薄い早朝に現れた一角超獣バキシムが、GUYS JAPAN本部、つまりフェニックスネストを襲った。
これにより自衛機能のほとんどが失われ、フェニックスネストに至っては主砲と同時に変形機能が修復不可能となった。
さらにバキシムは約16時間後にも山間にあるミサイル基地に現れ、破壊の限りを尽くした。
この時はウルトラマンが現れてくれたが、引き分けに終わっている。
だがそれ以上に問題なのは、異次元人ヤプールが復活した可能性が限りなく高いという点だ。
24年前、ヤプールは『ディメンショナル・ディゾルバー』で3次元との道を絶たれ、封印されたことがある。
あの時は半年程で効果が切れたが、何度でも復活するヤプールに備えてより強化されたものが配備されていたのだ。
だがそれも発射する装置があってこそ。
携行式の『リージョン・リストリクター』も存在するが、この段階になってヤプールが対策していないわけがない。
大きな失態が続いたことで、GUYS JAPAN総監は責任を問われて辞任した。
新たにやってきた総監は、40代後半の男性だった。
彼は開口一番、こう叫ぶ。
「たるんでやがんぞテメェらッ! それでもGUYSか!?」
GUYSのクルーたちは、それに何も反論できなかった。
「まあまあリュウさん落ち着いて。ここはまず、最初は自己紹介とかでも」
「……チッ。いいかハナタレ共。俺は藍原リュウ。新しい総監だ」
「僕は久世テッペイ。総監補佐だよ」
「テメェらが不甲斐ないから、代わりに前の総監が首括ったんだ。分かってんだろうな? 俺は甘いことは言わない。覚悟しとけ!」
「僕は言うかも」
「てめぇは黙ってろ!」
全く正反対に見える2人だが旧知の仲なのだろう。その掛け合いはどこか気安く、友人のように見えた。
リュウが最初にやったのは、クルー達に根性を入れることだった。
6人の顔ぶれを見回してから1人ずつ罵倒を浴びせ、外に出す。
「まずはフェニックスネストを10周だ! 行くぞテメェら!」
「頑張ってね」
「テメェも行くんだよテッペェ!」
「僕もですかぁ!?」
不死鳥は死なない。たとえ死んでも蘇る。
かつてウルトラマンメビウスと共に戦った2人の英雄という余燼を受けて、GUYSは新しく生まれ変わろうとしていた。
◇
酒寄朝日はその日、彩葉の住む町にいた。
怪獣災害が2度続いたことで、1人暮らしをする彩葉が心配になり住民票から住所を調べたのだ。
すると驚くことに被災地と同じ住所ではないか。
慌てて車を出し、こうして様子を見に来たのである。
「最寄りの学校はここだが……まあ入るわけにも行かないよな。部活ってガラでもないだろうし」
乗ってきた車に戻ると、車内には駒沢雷と乃依の兄弟がいた。
「妹さんいたー?」
「その様子を見るに空振りのようだな」
「……別に着いてこなくともよかったんだぞお前ら」
「いいじゃんいいじゃん。丁度学校も夏休みになったんだしさ」
「前からお前の妹とやらには興味があったしな」
野次馬根性丸出しな2人に呆れる朝日。
少し車を走らせれば、彩葉が住むというアパートに辿り着いた。余りのボロボロ具合に本当に住んでいるのか怪しくなったが、表札はきちんと「酒寄」となっている。
「爺ちゃんが追い銭してるって話だったけど……あいつまさか全部自分で賄ってんのか?」
正気かよ、と朝日は思った。
「どうする? 張り込むか?」
「ポストは空だった。だから死んではいない……と思う」
「一応姿はちゃんと確認しといた方が良くない?」
乃依の指摘は最もだった。母からも状況を確認して欲しいと連絡が来ている。これで「ポストは空でした」とだけ返せば、ふざけているのかと怒られること確実だ。
「呼び鈴は押したのか?」
「いや、それはしてない」
「なんで?」
「なんつーか……いざ直で会った時なんて話せばいいか分からなくて……」
「そこはひよるなよ」
「ひよってて草」
「う、うるせーな」
年の離れた兄妹ならそういうものなのだろうか。雷と乃依には分からない感覚だった。
「じゃああれ。ベランダから忍び込んでみるとかどうよ」
「もっとヤベーだろ!」
「兄妹なら許されない?」
「縁切られるわ!」
それから30分ほど待ったが結局彩葉は姿を表さなかった。
3人は夜まで街を見て回ることにするも、ネットで評判の良い店はベムラーが暴れた繁華街にあり、ほとんどが休業中か物理的に潰れていた。
「残りはここか……」
「普通にドライブだったな」
「もう飽きてきたかも」
「そう言うな、乃依。朝日の大事な家族のことなんだ」
「はいはい」
ぶー垂れる乃依と、諌める雷。だが朝日は着いてきてくれて助かっていた。
死んでいるかもしれない人間を探すというのは、想像以上に精神的な体力を使うものだった。
壊れたビルにたくさんの花が供えられた献花台と、気が滅入るような景色がそこかしこにあるのだ。朝日1人では早々に撤退していたことだろう。
やってきたカフェは元シェフの店長がいる料理が評判の店だ。夕飯も食べてしまおうと、まだ見ぬメニューに思いを馳せる。
「いらっしゃいませー、何名様ですかー?」
「3名でお願いしまー……って」
「はい3名様です……ね……」
店員の少女と見つめ合う。4年ぶりだが見間違うはずはない。母の面影が強く残るその顔は。
「お前……彩葉か?」
「お兄ちゃん……?」
◇
「これが俗に言う感動の再会ってやつか」
「すげー、リアルにあるんだこういうの」
◇
彩葉を合わせた4人分の料理が机に並んだ。
当初バイト中だからと逃げようとした彩葉だったが、店長からもう上がって良いと言われてしまい、不承不承といった様子で座っている。
「なんか量多いんスけど……」
「サービスだ。お兄ちゃんなんだろ?」
「ならデザートも頼んでいいですかー?」
「もちろん。スペシャルな奴を用意しよう!」
「やったついてるぅ」
「お、おい乃依お前少しは遠慮しろっ!」
そんな様子を、彩葉はじっと見ていた。
「仲良いじゃん」
「ああ、ごめんな彩葉。紹介するよ」
「いい。ブラックオニキスのライとノイでしょ」
「……知ってたのかよお前」
ちゃんと認知されていた。そのことが嬉しくて、朝日はつい笑ってしまった。
上京に際して、10歳の彩葉を母の元に置いていってしまったことは、朝日が抱える負い目の1つだ。
彩葉がどこかで見てくれていればいいなと、『帝アキラ』になる前は顔を出してプロゲーマーをしていたし、特に前世を隠すこともしなかった。
「まあそれでもきちんと自己紹介はしなくちゃ不味いだろ? 初めましてなんだしさ」
「うぐっ」
先日かぐやに対して注意した事をそのまま言われ、彩葉は密かにダメージを食らった。
「駒沢雷だ」
「弟の駒沢乃依でーす」
「……酒寄彩葉です。いつも兄が世話になっております」
その後、到底料理を食べれる雰囲気ではなかったが乃依が「そろそろ食べていい?」と言い出したことで、ようやく4人は料理に手をつけた。
誰もが黙々と食べ進める中、最初に口火を切ったのは彩葉だった。
「……で、どうやってここのこと知ったの?」
「それはまあ、偶然ってやつだ。人気のお店を探してたどり着いたのがここだった」
「その前にボロアパートも行ったけど、ホントにあそこに住んでるの?」
「ちょ、乃依お前っ」
「は? アパート?」
朝日が乃依の口を塞ごうとするも、時既に遅し。絶対零度の視線が朝日に突き刺さる。
朝日は誤解を解くため事情を話した。
「住民票から勝手に調べたのはすまんと思ってる*1。でもお前もお前だからな? この期に及んで母さんの連絡全部無視しやがって」
「それは……」
「お前も譲れないものがあるんだろうけど、事が事だろ? 流石に連絡くらい返してやれって」
「……そんなのこっちの勝手じゃん!」
「っておい彩葉!?」
急に立ち上がった彩葉に対し、朝日は慌てて声をかけたが、すでに厨房の方に走って姿を消していた。
そして「私今日はこれで帰ります!」との声と共に、勝手口が遠くて開閉する音が聞こえる。
気まずい雰囲気が3人の間に流れた。
「怒らせちまったか」
「仲悪いの? 妹さんとお母さん」
「反りが合わないっていうか、相性が悪いっていうか」
「それを世間一般では仲が悪いと言うのでは?」
ぐうの音も出ない指摘だった。
「でもまあ、母さんが必死になるのも理由があるんだ」
「理由?」
雷は何気なく朝日に問い、そして想像を遥かに超える重い事情を知る。
「俺たちの父さんは怪獣災害にあって死んでるんだ。10年前にな」
絶句する雷と乃依。
朝日が慌てて言った。
「でも彩葉はその事を知らないんだ! だからあいつが怒るのも無理なくてだな!?」
「……それ、何のフォローにもなってないよ」
「……すまん、軽率に聞いた俺が悪かった」
「そ、そんな気にするなって! いやーここのご飯美味いなー!」
味がしなくなったよと、雷と乃依は思った。
◇
色々あったものの、当初の目的である彩葉の無事は確認できた。
朝日は一先ず駒沢兄弟を家に送り届け、ようやく帰路に着く。
音楽をつける気分ではなかった。何気なく車窓を開けると、涼しい夜風が頬を撫でる。
「『分かったわ』ね。母さんも相変わらず素直じゃないなあ」
彩葉と母は似たもの同士なのだろう。おそらくきっかけが1つあれば、仲の修復は容易い。そのきっかけが問題なのだが。
「父さんのことを話すか? だがそれで解決……する気がしないな……って危な!?」
前途多難である。ため息しか出なかった。
そうしてぼんやり考え事していると、人影が路上の真ん中に立っているのに気がつき、朝日は慌てて急ブレーキを踏んだ。
なんとか轢くことなく止まることはできたが、人影―――男がそこでふらりと力なく倒れたのを見て、慌てて車から降りる。
「おいあんたどうしたんだ!? ってなんか凄いボロボロだな!?」
簡素なシャツとジーパンを履いた男は傷だらけだった。
擦り傷、切り傷、やけど、打撲痕と、厄ネタの臭いしかいない。
「おい、おい、おい! ……気い失ってやがる……」
朝日は辺りを見回した。勤務時間を過ぎたビル街には人っ子1人いやしない。
「警察? いや、まずは病院か」
スマホを取りだし、119番にかけようとしたその時である。
バギッ、バキバキバキッ!
空にヒビが入り、超獣バキシムが姿を現した。
「……嘘だろ」
そして心做しか、バキシムがこちらを見ているような。
そんな悪い予感は当たり、バキシムが朝日に向かって歩き出した。
「嘘だろ嘘だろ嘘だろ!? ってそうだあいつ!」
運転席に座ろうとした所で傷だらけの男のことを思い出し、一瞬の逡巡の後に再び車外に出る。
「くそっ、ここで見捨てたら寝覚めが悪すぎるだろーが! つか重いな!?」
もっと鍛えておけばよかったと後悔しながらも、朝日はなんとか男を後部座席に押し込み、車を発進させた。
さっきまで車があった場所で、爆発が巻き起こった。
「俺はGUYSじゃないんだが!?」
6車線道路を猛スピードで蛇行運転すると、背後で続け様に爆発。
その衝撃で車が大きく揺れ、男が起きた。
「……ぅ、ぐ……ここは」
「あんた起きたか! ちょっと今怪獣に追われててな! 多分死ぬかも! 辞世の句読むか!?」
「辞世の……句?」
「っ! と危ねぇ!?」
ハンドルを慌てて切れば、横合いで爆発が起こった。
段々と精度が上がってきている。
「くそっ、ここで死んだら父さんと」
「……父さん?」
「俺の父さん! 怪獣災害で10年前死んだんだ! だから俺まで同じ理由で死ぬわけにはいかない。母さんと彩葉がどんな顔するか分かったもんじゃねえ!? ……初対面の相手に何話してるんだ俺!?」
死が間近に迫って興奮していた。
そして同時に、生に向けて全力でしがみついている。
「まだ、まだ死ぬ時じゃない……ッ!」
「……
男はそういうと同時にポケットからペンのような、棒状の何かを取り出した。
「何を……」
「行ってくる」
光が車内に満ちる。
男は姿を消していた。
「は、はぁ? 何がどうなって……」
ドォン、と何かがすぐ後ろに落ちた。
地響きが起こり、車が宙に浮く。そのままバランスを崩し、鼻先からつんのめってひっくり返った。
「痛たた……―――嘘やん」
シートベルトを外すのも忘れて、逆さまのままソレを見る。
銀色の巨人、ウルトラマンがそこにいた。
一応補足
〇藍原リュウ
皆さんご存知、元GUYS隊長です。
漢字は適当。名前はカタカナの方がしっくりきたのでそのままにしました。
GUYSを導く超熱血リーダーとして、総監職を引っさげて登場です。
メビウスが2006年で、当時20歳。
超かぐや姫が2030年で、現在44歳となります。
通常の戦闘機ならばいざ知らず、メテオール軌道は健康の問題から不可能と判断され、貨物輸送船のパイロットとして宇宙で働いていました。
あまりに若すぎますが、相次ぐ怪獣の出現、特にヤプールの件が重く見られて、激動の時代を知る人間かつ強いリーダシップが必要だと、最高総議長のサコミズさんが推薦しました。
〇久世テッペイ
歩く怪獣博士。
リュウに請われて一緒に復帰。病院の院長をしていましたが、そんなの関係ねぇと辞職してきた。
24年前を思い出し、不謹慎ながら1番うきうきしてる。
〇酒寄朝日
彩葉の兄。住民票から彩葉の家を調べた。
怪獣が出たなら普通心配してこのくらいすると思います。
お父さんも怪獣に殺されてるしね。(オリ設定)
彼がどうなるかは次回。
〇駒沢雷&乃依
ブラックオニキスのメンバー。
大学生と高校生。暇になってついてきたら、激重な過去をぶつけられた。
〇ウルトラマン
朝日の家族愛でエネチャージ!
瀕死。
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私、待ってます!