というかアイデアが溢れて止まりません。
そのせいで就業中すごい眠かったです……。
ウルトラマンとバキシムが、人気のない夜のオフィス街で睨み合う。
『ジョワッ!』
先に仕掛けたのはウルトラマンだった。
今のウルトラマンは瀕死だ。いつカラータイマーが鳴り出してもおかしくなく、急いでバキシムを倒す必要があった。
ダッシュでビルの谷間を走り抜け、拳を繰り出す。
対するバキシムはそれを冷静に迎え撃った。
パンチを弾き、ウルトラマンに体当たりする。
呻くウルトラマン。
バキシムは嘲笑うような鳴き声をあげた。
バキシムは知っている。
この東京圏にすぐ出撃できる対怪獣兵器が、戦闘機1機しか残されていないことを。
バキシムは知っている。
ウルトラマンがすでに死に体で、現在も気力だけで変身していることを。
ウルトラマンが立ち上がり、再び攻勢に移るも勢いの乗っていないパンチやキックは弱々しく、バキシムは怯みすらしなかった。
「ぜ、全然効いてへんやん。いや、そういうたらあいつボロボロやったっけ……」
車からほうほうの体で脱出した朝日は、ズレた眼鏡の位置を直しながら思わず京都弁で呟いた。
ウルトラマンは変身する前から傷だらけだった。
だというのに、気絶から目覚めた瞬間躊躇いなく変身した。
どう見ても劣勢なのに、少しも逃げようとしない。
「このままじゃ負けてまうで。なんか、なんかあらへんか……」
逃げるという選択肢は不思議と思い浮かばなかった。
少しでもいい。ただウルトラマンの力になりたい。
ただそれだけを思い、そうしてふと、乗ってきた車の中にソレを見つける。
「―――おいおい正気か?」
降りてきたアイデアに、思わず笑ってしまう。
普通なら自殺志願者だと、無謀だと切って捨てるだろうが、やめる気はさらさら起きなかった。
「助けてくれるか、相棒」
朝日はそう言って、長年共にしたサッカーボールを拾い上げた。
非常階段を駆け上がって行く。息が切れても、汗だくになってもその足は止まらない。
朝日は10年前までサッカー少年だった。
父が死に、1人でいることが多くなった妹のために1度はやめたが、その情熱までは捨てていない。
実家にいた頃も、部屋にはサッカーボールとユニフォームを飾っていた。
上京しても、サッカーボールは手放さなかった。
車を手に入れたら、いつでも触れるようにサッカーボールを最初に持ち込んだ。
そして朝日の年代のサッカー少年がすべからく憧れる存在がいる。
プロサッカー選手、斑鳩ジョージ。
かつてはGUYSクルーとしてウルトラマンと一緒に戦ったこともある、生きる英雄。
彼の必殺シュートは、それこそ星の数ほど練習した。
「ハァ、ハァ……よし、間に合った!」
カラータイマーはすでに赤く点滅しているが、ウルトラマンはまだ戦っていた。
何度バキシムに打ちのめされても、頑張って立ち向かっている。
「10年振りや。できるか、俺?」
子供の頃の自分に問いかけながら、サッカーボールを地面に置く。
「……いや、できるかじゃないよな」
コンディションは最悪だ。12階建てビルの非常階段をほぼ休み無しで上がりきったのだ。乳酸が溜まりに溜まった両足は気を抜けばすぐ笑いだそうとするし、息をするだけで胸が痛い。
「やるんだ」
サッカーボールから少し離れた位置に立ち、深呼吸。
覚悟はできた。
「行くでウルトラマン! これが俺の、流星シュートやッ!」
蹴り飛ばされたサッカーボールは途中で炎を纏い、夜空を突き進んだ。
蹴り上げる途中でバランスを崩した朝日は尻もちをつきながらその軌跡を見送る。
「……ハハ、初めて成功した」
流星シュートは想像以上のスピードと威力でバキシムに向かっていき、朝日の狙い通り目に突き刺さった。
『バギャオウ!?』
怯むバキシムに、朝日はテンションフルマックスで指を突きつける。
「見たか! これが人間様の底力ってやつや! このクソ怪獣がッ!!!」
そしてそのままこちらを呆然と見上げるウルトラマンへ、指先を移す。
「そんでウルトラマン! なにへばっとるんや! しっかりしぃ! もうちょい頑張れや! ほんに頼むで!?」
ウルトラマンは数秒かけてその言葉を飲み込み*1、力強く頷いた。
消えかけた心の火が、激励により再燃する。
そしてその勇姿に心打たれたのは、ウルトラマンだけではなかった。
GUYSの戦闘機が現れる。
パイロットの彼にも、その流星シュートは見えていた。
『なんだ、おもしれー奴もいるじゃねぇか』
『ジョージさんの流星シュートに負けていませんよ!』
「……ええ、凄い青年です」
『覇気がねえな。
「ッ、分かっています!」
『いい返事だ! メテオール解禁! ブッパなせ!』
「G.I.G!」
青年が魅せた底力に、意地に、勇気に、光に、戦士達が奮い立った。
メテオールが起動し、戦闘機が金色に光り輝く。
その時パイロットの脳裏に浮かんだのは、作戦会議でのリュウとテッペイの会話だ。
『ウルトラマンは非常に消耗しています*2。かと言って、我々にバキシムを単独で撃破可能な兵器は現在存在しません』
『フェニックス1が徹底的に叩く! そして最後にウルトラマンがドカンだろ!』
『その通りですリュウさん』
戦闘機が天高く舞い、バキシムの遥か頭上から急降下する。
『バキシムは全身兵器と言って過言ではありませんが、頭に生えた角だけは1発限りのものです。それさえ避ければ』
『ああ、ガラ空きの頭を撃ち放題だ!』
射出された角を、戦闘機は最低限の動きで回避する。コクピットのスレスレをオレンジ色の物体が凄まじい勢いで通過していくが、パイロットは顔色1つ変えはしない。
それ以上の勇気を貰ったばかりだからだ。
「ハッチオープン! フルバースト!!」
この機体には現在、フェニックスネストに保管されていた特に攻撃能力の高い弾頭の殆どが詰め込まれていた。
バキシムの最も頑強な部位である頭部だろうと、いや頭部だからこそ、その衝撃と威力は計り知れないものとなる。
轟音がオフィス街に鳴り響き、赤い花が咲いた。
頭が半分吹き飛び、片目がえぐれたバキシムが黒煙から姿を表し、嚇怒に燃える青い瞳が戦闘機へ向いた。
残念ながら超獣はこの程度では死なないのだ。
「……やはり撃破までには至らないか……だが!」
ウルトラマンは既に腕を十字に組んでいた。
不意に銀色の目が朝日の方を向く。
そこには彼がもたらした小さな、けれど何よりも大きな勇気への感謝があった。
絶好の隙を晒すバキシムに向けて、ウルトラマンはフルチャージした光線を発射した。
間近で見たその景色を、朝日は一生忘れることはないだろう。
バキシムが爆散し、戦いが終わる。
戦闘機はその身を翻して夜闇に消えていった。
さっきまでウルトラマンがいた場所を惚けた顔で見つめていた朝日は、そこでウルトラマンが元々傷だらけだったことを思い出す。
転びそうな勢いで急いで非常階段を降り、男を探した。
「おーい! おーい! おらへんか!? 返事しい!」
地上はまだ瓦礫による粉塵が煙たかったが、腕をマスクに無理して進んだ。
そしてようやく道路で倒れ伏す男を見つける。
男はやはりボロボロだった。
「見つけた! 絶対死なせへんからな!」
朝日はそこでスマホを取りだしたが、画面がつかない。壊れていた。
舌打ちを1つ。迷うことなく男を背負い、歩き出す。
朝日は数分間、あるいは数十分間、男を背負って歩き続け、救助隊員を目にすると同時に意識を落とした。
◇
「……知らん天井や」
消毒液の臭いと心電図のモニター音で、朝日はここが病院であると気がついた。
首を動かせば、包帯でぐるぐる巻きになった男が隣で寝ている。どうやら気を利かせて同室にしてくれたらしい。ありがたいことだ。
「おーい、起きてるかー?」
「……」
「そりゃ寝とるか」
「……いや、起きてる」
返事が帰ってきたことに驚いた朝日が布団から飛び起きる。
「あんた身体は大丈夫なんか!?」
「いや、見ての通りボロボロだな」
やはりボロボロらしい。
「ありがとう。君のおかげでバキシムに勝てた」
「……別に気にせんでええ。それに俺が何もしなくても、あんたなら勝ててたやろ。GUYSも来てたしな」
「そんなことはない。君がいなければ私はあのまま立ち上がることができず負けていた。君の勇気が、私に再び立ち上がる力をくれたんだ」
「そら、おーきに」
あのウルトラマンからの感謝の言葉に、朝日は照れくさそうに鼻を鳴らす。
それをじっと男は見てから、体を持ち上げた。
「……では、私はもう行こう。この拘束具を外すのを手伝ってくれないか?」
「行く? なにバカ言うてんねん。そもそもそれは拘束具ちゃう。治療具や。包帯や」
「なん、だと……?」
「治るまで大人くしいや。治療費は俺が全部持ったる」
「だが、人間に迷惑をかけるわけには」
「……あんたそんなこと思うとったんか。生真面目なんやなあ。彩葉みたいや」
彩葉? と男が首を傾げた。
朝日は妹や、と返した。
「生きとし生けるもんは全部助け合って生きてるんや。俺はあんたに昨日助けられた。だから今度は、俺が助ける番や」
「いや、むしろ私は助けられた側で……」
「うっさいうっさい! とにかく! 大人しく! 養生しい! ここから動くんやないで!」
全くこれだから頑固族はと、朝日は思った。
そして意識が目覚めたことを伝えるため、ナースコールを押す。
しばらくしてお医者さんが現れた。
地位が高そうな年配の医師だった。
てっきり看護師が来ると思っていた朝日は目を瞬かせる。
「目覚められましたか。良かったです」
「は、はい」
「失礼ですが、気を失われている間に身分証を確認させていただきました。酒寄朝日さんでお間違いないですね?」
「えっと、そうです」
「朝日というのかお前は。ところで何故先程と話し方が違うのだ?」
「あんたは今黙っとけ!」
枕を投げつけて、物理的に男を黙らせる。
医師はそれをにこにこと微笑ましそうに見ていた。
「それとですが、彼の治療にあたり採血をさせていただきました」
「え゛、そ、それってまさか」
「はい。彼、宇宙人ですね?」
断定である。朝日の顔から血の気が引いた。ウルトラマン正体バレの危機である。
男もじっと医者を見ていた。
「ああ勘違いしないでください。政府につき出そうとか、断りがたい取引を持ちかけるだとか、そういった意図は一切ございませんよ」
「なら、なぜ?」
「
だから、と医師は続ける。
「安心してください。私たちは秘密にします。治るまでいつまでも滞在してくださって構いませんよ」
医師がいなくなってから、しばらく2人の間に会話はなかった。
朝日は呆然とする男に笑いかける。
「な? お医者さんもああ言うとるし、しっかり養生するんやで」
「……ああ」
男の視線が天井に向く。
「人は、温かいな」
「何当たり前のこと言うとるん」
◇
男が落ち着いたのを見て、朝日は公衆電話の前にいた。
スマホは壊れたが財布は無事だったため、なけなしの小銭*3で、母や駒沢兄弟に電話を入れる。
案の定しこたま怒られて、心配された。
母は迎えに来ると言ったが、男のことを考えて、非常に申し訳ないが遠慮しておいた。
今度きちんと謝るから、と母が何か言っている途中で電話を切る。
「あとは彩葉やけど……どうすっかなぁ」
連絡先が分からないため、事を知らせるとなれば直接アパートに行くしかないが、喧嘩別れした手前どう顔を出せばいいか。
何秒か考えても、結局答えは出なかった。
「おいそこのお前」
ふと、後ろから声をかけられた。
ぶっきらぼうだが、妙に芯のある声だった。
「俺ですか? ってうわ近!?」
「そうだ! お前が酒寄朝日だな!」
40代の男がグッと近づいてきて、朝日の肩を力強く抱き寄せる。
そこで朝日は、男があのGUYSの制服を着ていることに気がついた。
「あ、あんたもしかしてGUYSの……」
「おう、俺はGUYS JAPAN総監の藍原リュウだ! よろしくな!」
総監! あまり階級に詳しくない朝日にも分かる。確実に偉い人だ。
というか藍原リュウという名前に、何処か聞き覚えがあるような―――
「お前の流星シュート見てたぜ! 根性あんじゃねぇか!」
「あ、ありがとうございます?」
「だからお前、GUYSに入れ!」
その言葉を飲み込むのに、朝日は数秒かかった。
次いで、病院の廊下に絶叫が響き渡る。
朝日の明日はどっちだ。
一応補足
〇一角超獣バキシム
頭の角は単発式のミサイル。
ただ後続の作品では撃ったそばから新しいのがニョッキり生えてきたこともあるので、個体ごとに違う感じかと。
警戒は十分していたものの、結局根っこでは人を甘く見ていたためにやられました。
お疲れさん。
〇ウルトラマン
ウルトラマンは地球人を守らなくてはならない。
ウルトラマンが地球人に迷惑をかける訳には行かない。
認識がガチゴチに凝り固まった生真面目野郎がウルトラマンの正体でした。
流星シュート治療法を受け、ちょっと改心。
ようやく休んで、ウルトラサインを出せそうですね。
出せるといいな。
〇酒寄朝日
サッカー少年は公式設定です。
そのため流星シュート治療法の使い手に就任。
こいつのwikiの記述見る度にジョージのことが頭に思い浮かぶんですよね。
ちょっと超獣が怯む程度のボールを蹴れるだけの、M78ワールドに時々いる外れ値と比べればなんてことはない一般人です。
ウルトラマンと同化するのかと思いきや、保護者枠になりかけ、GUYSに強制入隊されそうになっている巻き込まれ系男子。
実情は「かぐや・彩葉」「GUYS」「ブラオニ」3つの視点を書くのがめんどくさかったため、1つに纏めたかったからです。
あれ、おかしいな。こいつが主人公に見えてきたぞ……?
〇ウルトラマンと朝日が入った病院
久世テッペイの医院。
次こそ彩葉たちを出します。
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