ヤプールを描写するかしないかすごく迷いましたが、もうどうせバレバレなので書くことにしました。
あとバーが赤になってました。評価ありがとうございます!
第1の矢。7体のベムラー。
観測員のウルトラマンが対処に乗り出し、かつ1人でも何とかなると判断する絶妙な数で誘い出し、嬲り殺す。
この時点でならウルトラサインを出されても別に構わなかった。
ベムラー7体は不自然であるがヤプールには繋がらない。またどこぞの侵略宇宙人の仕業だと処理されるだろう。
ヤプールはほとぼりが冷めるまで待つだけで良い。
結果計画通りウルトラマンを瀕死まで追い込むことができ*1、ウルトラマンはウルトラサインすら出せない状態となった。
第2の矢。一角超獣バキシム。
まずリージョン・リストリクター対策として関東圏にある発射可能なGUYS設備をバキシムが奇襲的に破壊。その後孤立無援となったウルトラマンを確実に殺す。
元々ウルトラマンとバキシムの間には大きな実力差があった。例え万全の状態でもバキシムに負けはないと、ヤプールが断言するほどに。
多少の変数は許容範囲。その上で負けるはずがなかった。
負けようがなかった。
そんなウルトラマンの性格すら計算に含めた恐るべき計画は、たった1人の人間によってうち崩された。
「殺してやるぞ、酒寄朝日」
計画を修正しなくてはならない。
少なくとも今、バキシム以上の超獣はすぐには用意できないし、ウルトラサインが光の国に飛ばないよう妨害する必要があった。
ヤプールは元々地球を蹂躙するために控えさせていた宇宙竜ナースを解き放つ。これでウルトラサインを撃ち落とすのだ。
ベムラーによりGUYSスペーシーが全滅したのは幸運だった。これで時間を稼げるだろう。
◇
「彩葉、彩葉ー、彩葉〜、彩葉さんやい」
朝日から逃げた彩葉は、アパートに帰るなり無言で夕飯をかき込み、歯を磨いて入浴したあと布団の中に引きこもっていた。
そのスピードはかぐやが声もかけられない程で、いつもと異なる様子に困惑しながらも心配げに声をかける。
揺する。さする。倒れ込む。暴れる。どれも効果がない。
「ねえ彩葉、怒ってるの? かぐや駄目なことしちゃった?」
最後の手段としてかぐやは涙声で訴えかけた。
するとしばらくして、違う、とくぐもった声が。
どうやら自分が原因ではないらしい。となると外で何かあったのだ。
「なんか失敗しちゃったの? みお某みたいに」
ぴくり、布団が揺れる。
「店長と喧嘩しちゃったとか?」
ピクピク、布団がまた揺れた。
「あ、もしかしてキモイお客さんでも来た?」
そこでバサリと布団が持ち上がった。ビンゴのようだ。
「いろ亀出てきた!」
「いろ亀言うな」
「それでどんなキモイお客さんが来たの?」
「それは……」
彩葉は迷った。このまま兄について話していいものか。
だが言いはぐらかしたとして、果たして追求は止まるだろうか。
ちらりとかぐやを見る。
小首を傾げるかぐや。
……止まる未来が見えない。
数秒見つめ合ってから、彩葉は観念して言った。
「……店にお兄ちゃんが来たんだ」
「え!? 彩葉お兄ちゃんいたの!? どんなの!? 写真は!?」
「そ、それは今どうでもいいでしょ。とにかく色々話して、喧嘩別れ……私から一方的に逃げたようもんだけど、まあ、してきたの」
「わーお……」
流石のかぐやもこれにはどう返したものか、腕を組んで考え込んだ。そしてなにか言おうとしては口を開いて、口を閉じる。その様子がおかしてくて、彩葉は少し気が楽になった。
「いいよ無理しなくて」
「うぅ、ごめんね彩葉」
そこでふと、兄が住民票から住所を知ったと言っていたのを思い出す。
「……ねえ、そういえば昼間誰か来た?」
「え? うーん、誰も来なかったよ? もしかしてお兄ちゃん?」
「アパートのこと知ってるみたいだったし、もしかしたらって思ったけど……ははーん、さてはあいつ呼び鈴を押す勇気が無かったな?」
気づいた彩葉は思わず笑ってしまった。朝日も朝日で彩葉に会うのは緊張していたらしい。
そう思えば今夜の対応も途端に申し訳なくなってくる。腹立たしいのは変わらないが、心配させたのは事実なのだ。ありがとうの一言くらい言えばよかった。
「彩葉、大丈夫?」
「うん。なんかあんまり気にならなくなったかも」
かぐやのお陰かな、と彩葉は小さく呟いた。
もちろんそれを聞き逃すかぐやではない。勢いよく抱きついて、全身で喜びを表現する。
構いすぎた猫のようになった彩葉に引っ叩かれた。
◇
『かぐやいろPチャンネル』の登録者人数は、順調という言葉が生易しいほどの爆発的な勢いで伸びていた。
元々ヤチヨカップは期間内に最も登録者人数を増やしたライバーが勝者となる。
一見新規ライバーにも夢があるように思えるルールだが、地力のある既存の人気ライバーは告知やファンの囲い込みなど、順当に活動すればまず負けない戦いだ。
これを覆すには相当な魅力、ストーリー性が必要となり―――その全てをかぐやは持ち合わせていた。
まず最初はヤチヨミニライブ後の宣戦布告。
たくさんの人間に衝撃を与え、その後すぐさまチャンネルを作り、この時興味を持った人間をバッチリ確保した。
かぐやはそのルックス、トーク力、雰囲気、全てが満点の陽キャであり、記憶喪失故の世間への疎さや、何事にもチャレンジする精神力は、沢山の人が応援したいと思える魅力となった。
新規ライバーが人気ライバーに比べて優位な点は想定される伸び代だ。
仮に人気ライバーと同等の伸びしろがあれば、ゼロから始めた方がより多くの登録者数を見込める。
当初の彩葉が思ってもみなかったことだが、かぐやにはそれがあった。
そして何より時勢というか、怪獣災害で暗い話題が増えた世の中、明るいかぐやが頑張る様子は様々な人間の活力となっていた。
「うぅ、かぐやちゃんの声が身体に染みるわぁ」
フェニックスネストの更衣室でベンチに座りながらスマホ片手に涙する青年が1人。
酒寄朝日23歳。あの後リュウの誘いを断ることができず、助けてくれと契約会社に泣きつけば、スポンサー陣含めて応援される始末*2。ライバー、GUYS、大学生*3、そしてウルトラマンの保護者と、絶望の4足わらじを履くことになった苦労人だ。
心配したのは雷だけだった。
「いやいや、酒寄さんはもっと自信持って良いですって。総監のシゴキにも普通についていけてますし、みんな驚いてますよ?」
そう言って朝日に話しかけてきたのは、GUYS隊長である
彼もあの流星シュートを見ていたそうで、最初に会った時は「君のおかげで勇気が出た」と感謝された。
ウルトラマンみたいな人だな、と朝日は思った。
「それもライバーってやつですか?」
朝日はリョウタよりも年上なため、生真面目な彼は敬語を使っていた。
朝日もまた、隊長であるリョウタに敬語で言う。
「あ、はい。同じ会社のライバーじゃないっすけど、個人的に今の推しです」
「へぇ、僕はそういうのに今まであまり触れてきませんでしたから、なんだが新鮮です」
「そうなんですか? ゲームとかも?」
「ゲームはやってましたよ。単にあまりライバーに縁がなくて」
「なるほど」
朝日には想像のつかない話だが、そういった層は一定数いることは知識としてあった。まさか実在するとは。
「隣、座って大丈夫ですか?」
「あ、はい。どうぞ」
朝日は座っていた場所から少し右にズレてスペースを空ける。
リョウタは手に持っていた2本のペットボトルのうち1本を朝日に渡して、隣に座った。
「GUYSに入って3日。どうです? 少しは慣れましたか?」
「まあ皆さん優しくしてくれますし、慣れてはきましたよ。……ああ、でもちょっとこいつの重みにはまだ慣れませんね」
そうして手に持ったのはGUYSクルーに支給されるトライガーショットだ。
対怪獣・宇宙人を想定して作られたトライガーショットをもし人間に対して撃てば、その命を容易く奪えるだろう。
ゲームの中では感じることがなかった命に対する重みが、そこにはあった。
「酒寄さんは優しい人ですね」
「よしてくださいよ。こんなの当たり前じゃないですか? 人を殺せるんですよ?」
「それでも、です」
リョウタはそこまで言って、「ですが」と続ける。
「確かにそれで人を殺すのは簡単です。ただ同時に、大切な何かを守るための力でもあります。怖がって足踏みしてたら、いざという時後悔しますよ?」
「……隊長」
「……ちょっと厳しいこと言ってしまいましたね。つまりはまあ……『恐れるな、進め、銀河の果までも!』ってことです。簡単でしょ?」
「銀河の果てですか。スケールでっかいすね」
「GUYSですからね」
確かにと朝日は笑った。
と、そこでリョウタが時計を見る。そして何かを思い出したかのように声を上げた。
「そういえば酒寄さん、総監達が休憩が終わったら来るように言っていましたよ」
「それを早く言ってくださいよ!?」
朝日は急いで制服に身を包み、廊下を走った。
フェニックスネスト内は工事関係者で一杯だ。なにせ中枢部にある主砲が破壊光線で撃ち抜かれたのである。そこかしこで工事音が鳴り響いていた。
ただ工事関係者はGUYSと縁のある企業ばかりなのか、朝日が道を聞けば皆親切に教えてくれた。
管制室の扉の前で息を整えてから入室する。
「来たな朝日」
「待っていたよ酒寄君」
「すみません。遅れました」
「気にしなくていいよ。別に時間まで言ってなかったしね」
テッペイが鷹揚に笑う。
「俺は怒鳴ってもいいと思うんだがな」
「全く、それだといつかコンプラ違反で訴えられますよ、リュウさん」
「んなもん勝手に騒がせときゃいーんだよ」
飴と鞭、水と油、体育会系と文系。
正反対を絵で描いたような2人だが、仲は悪くない。
まるで父と母のようで、朝日は2人がすぐに好きになった。もちろん直接には言わないが。
「キミに渡しておくものがあるんだ」
テッペイからおもむろに直径10cmほどの、小銭入れのようなケースを渡される。
「マケット怪獣。大丈夫、使い方は教えるよ」
◇
「これは……ついに来ましたか。ヤプール」
8月8日。
ヤチヨは不意に顔を上げた。
ツクヨミは端から端までヤチヨの庭だ。そこに少しでも不具合や異変があればすぐに察知できる。
ドス黒い悪意が、ツクヨミを侵食しつつあった。
「ですが……もどかしいものですね。分かっていても手を出せないというのは」
未来を知るが故の苦悩。今手を下せば対処は簡単だが、それでは意味がない。未来に繋がらない。
「まあ気楽に行きますか。ヤッチョは信じるのみなのです!」
一応補足
〇酒寄朝日
80も真っ青な絶望の4足わらじ。
本当は大学生を卒業している年齢ですが、間を空けて入学させたことにしています。
高校卒業→プロゲーマー→大学くらい行けと母に怒られる→1年後入学→イマココ
別にとばっちりでヤプールの被害に遭う人数を増やしたかったからとかじゃありませんヨ。
上が軒並みウルトラマンメビウスに脳を焼かれた世代のため、誰もGUYS所属に反対しませんでした。理解ある職場でヨカッタネ。
加えて赤いやつからも熱視線が。朝日くんの明日はどっちだ。
当初の予定にはありませんでしたが、彼を書いている時が1番筆が捗ります。主人公かな?
〇迫水リョウタ
20歳。GUYS隊長。前話で戦闘機に乗っていた。朝日の流星シュートに脳を焼かれている。
そして元サコミズ隊長、は仮の姿、
元サコミズ総監……は過去の姿、
現サコミズ最高総議長の息子である。
奥さんは言うまでもないでしょう。
〇ツクヨミ
なんだか様子がおかしいようで……?
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