クロスワールド 異世界料理記   作:生涯中二病

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第一話 復興のハンバーグ

北には大森林が広がり、西には海が広がり、東と南は大山脈が連なっている。

恐らくここは、東の大陸の空白地帯。

となれば、北の森林の果ては断崖絶壁、山脈には数多の竜が棲まい、西に広がる海の先は海路の開拓もままならぬ難所。

この河も下っていけば途中に滝が待ち受け、その先には水龍の群れが巣食う場所に行き着くだろう。

それ故にこそ、今まで無人であった地域なのだ。

広大な土地だけはあるが、これから先、どうなってしまうのか?

だが甘えは許されない、やっていくしかないのだ。

少なくとも今までよりはマシだ。

 

――有翼の民フェザード種族の日記より

 

浮遊大陸が落着した場所にできたこの国は、当時は肥沃な土地や豊富な食料資源がありながら、難所に囲まれた立地条件故に前人未到の地であった。

この土地に落着した者達によって国が興るのは、歴史と今ここに住まう自分達が証明しているが、相応の苦労があったのは想像に難くない。

 

さて、よく勘違いされがちだが、有翼の民フェザードは、浮遊大陸の支配階層にいたのは事実だが、その大半は奴隷階級であった。

あくまでも一割に満たない、王族や貴族がその支配階層に位置して私腹を肥やし、同種さえ奴隷として使い、また異世界からも労働力として召喚を行っていたのである。

これは当時としても、非常に歪で異常な国体であったといえる。

彼等はその象徴たる翼の片側を切り落とされ、奴隷身分に落とされて過酷な労働を強いられていた。

反乱の折には当然、彼等も決起して戦っている。

 

ニホンジンにより持ち込まれた、ダコン、ニジン、ジャガイモ、ハクサイ、コメ、ダイズ、タムネグと並び、この世界の住人である彼等の知識は生命線とも呼べるものであったようだ。

 

追記。

この日記の著者は空白地帯の立地や情報を知っていたことから、生まれながらの奴隷ではなく、それなりの知識を得られる立場の人物が奴隷に落とされたものと思われる。

 

   ◇◆◇   ◇◆◇   ◇◆◇   ◇◆◇   ◇◆◇

 

「あー、疲れたー」

 

畑の開墾作業に目処が付き、さて明日からはどこで働こうかと忍里 了(しのざと りょう)は独り言ちる。

南の湿原地帯の探索隊にでも加わろうか、街の建築作業に参加するかさて何をするか。

 

異世界に召喚されてから、早5年。

コシンとヨヒトイが北の森で狩ってくる動物や、ジャガイモのお陰で飢えることなく何とか生活ができている。

ジャガイモに続き、玉葱も上手く収穫にこぎ着け、皆の食卓に並ぶだけの供給量の目処が付いた。

この世界に元からあった麦の方も順調だ、次の収穫でこちらも皆に行き渡るだろう。

どうもこの麦も以前、同じような経緯でこの世界に持ち込まれた物らしい。

パンにして食べる品種らしいが、うどんとかには使えるだろうか。

人参の方は、もう2~3年程かかりそうだが、特に問題はなさそうだ。

大根はそれよりもう少しかかりそうだという話。

 

早く食べたいが、まずは増やさないことには。

召喚された時に農家が作物ごとやってきたのは、運が良かったというべきか。

まあ運が良かったら最初から召喚なんてされなかっただろうが。

問題は米と大豆、白菜だ。

これらは数が少なかったこともあり、まだまだ時間がかかりそうだ。

少なくとももう5年~10年は必要だという。

 

これでも相当のハイペースなのだというが、米と味噌と醤油が無い世界なんてクソだ、ディストピアだ。

一刻も早く作らねば、持たぬ時が来ているのだ!

そんなこんなで日本人、皆が鬼気迫る感じで開墾していたが、流石に5年も経つと頑張れる部分も少なくなる。

後はお百姓さんに任せるしかない。

素人は他のところで頑張ろう。

まあその前に何か食べておくかと、了は目抜き通りにやってきていた。

 

目抜き通りではようやくいくつかの飲食店が並ぶようになり、賑わいを見せてはいるが、やはり食材の種類に乏しいため、焼くか茹でるかした肉やジャガイモくらいしかメニューがない。

この通りを歩いているのは、シーノイ種族が多い。

体長が2~3m程もある大柄な種族で、顔が豚に似ているから、了は心の中でオークと呼んでいた。

見た目通り力持ちで、王城跡地から使えそうな建材を運び出して、街の建築作業に活躍している。

そんなシーノイに次いで目にするのがコシン種族。

直立不動した山猫のような種族だ。

狩猟が得意な種族で、北の大森林で狩った動物を卸すために立ち寄っているのだろう。

狩猟が得意といえば、ヨヒトイ種もそうだが、彼等は夜型のためこの時間に姿は見えない。

梟に似た種族でコシン種族と同じく、北の大森林で狩りを担当している。

彼等の狩る動物は貴重な食料源であると同時に、毛皮や骨といった加工品の素材でもある。

他にも様々な種族がいるが、この目抜き通りで主に見られるのは日本人を含むこれら3種族だ。

 

「さて、何を食べるか」

 

揚げ物をするには、油は希少に過ぎるから、焼き物か煮物くらいが関の山。

肉を食べたいが、どうも出回っている肉は硬い。

主に食べられているのは小型の馬に似た四足獣なのだが、肉質がかなり硬いのだ。

いい加減硬い肉は飽きた。

となると・・・・・・ハンバーグ、そうだハンバーグが良い!!

 

だが売っていないのだ。

 

(何で売らないんだよ!!)

 

了は料理を作るのが好きだ。それなりの腕もあるつもりだ。

だから機材さえあれば材料を買って自分で作れるが、肝心の機材が無い。

了は表情に出しはしないが、歩きながら心の中で地団駄を踏む。

金属資源は貴重だから仕方ない。

王城跡地から発掘した物を鋳潰して使っているのだ。

一般家庭まで調理器具が出回るのはまだまだ先だろう。

河で砂鉄でも取れないかな、まだそこまで手は回せないか。

ぐるぐるぐるぐると考えが巡る。

いい加減に諦めて、いつもの硬い肉で済ませるかと思い始めた時、白いものが顔を横切った。

 

「大丈夫かい、爺さん?」

 

背中から白い翼の生えた年配の人だ。

転んだ際に、見えたのはこの白い翼だったようだ。

翼以外は日本人の元いた世界の外人程度の差異しか無い人種だが、片側の翼が切り落とされている。

フェザードと呼ばれる彼等は、日本人を含む多数の種族を、異世界から奴隷として召喚していた種族だ。

とはいえやっていたのは上層部で、彼等の大半もまた奴隷として共に酷使されていたため、そこまで嫌悪感を示す者は少ない。

この切り落とされた翼は奴隷階級の印だ。

 

「い、いや、すみません。あ、痛つつつ!」

 

大丈夫と言って立ち上がろうとするが、どうも腰を痛めたらしい。

結構な荷物を持っていたし、それが原因で痛みを感じて倒れたようだ。

 

   ◇◆◇   ◇◆◇   ◇◆◇   ◇◆◇   ◇◆◇

 

「筋性腰痛症、いわゆるぎっくり腰だね。まあ軽度だから無理をしなきゃ大丈夫だ」

 

医者をやっている日本人の蔵 治(くら おさむ)は、運び込まれたこの有翼人の老人をそう診断した。

 

「異世界人もぎっくり腰になるんですね」

「まあ、骨格は見た目以上に違うけどね、でも基本はそこまで変わらないよ」

 

ぎっくり腰有翼人の老人はササミと名乗った。

サキメビ・サカラガ・ミウフラがフルネームだそうだ。

彼等の名前は、個人名・同性の親の名・異性の親の名で、通称をそれぞれの頭の音を繋げて呼ぶのだそうな。

ここに本来はもう一つ、一族の名前が付くそうだが奴隷階級には無いそうだ。

 

そのササミ老は治医師の指示した腰痛体操を行っている。

 

「いやあ、いくらか楽になりました」

「まあ、あまり無理はしないように。痛みを感じない程度に動かしてください」

 

程なくして連絡を受けたササミさんの娘さんがやってきた。

ササミ老の年齢から、もっと年配の女性を想像していたが、かなり若い娘さんで了も治医師も驚いた。

歳を取ってからできた一人娘らしい。

テンシコウ・バシオギ・サキメビさん、16歳のお年頃だそうで。

 

(続けて読むと手羽先か、父娘そろって美味そうな名前を)

 

「父さん大丈夫?」

「ああ、大丈夫だよテバサ。こちらのニホンの方が運んでくださってな」

「いやいや、困った時はお互い様ってね」

 

聞けば親娘で屋台を出しているとか。

了は考える。

 

(ぎっくり腰で店は無理だよな。人手はいるはずだ。せっかくだし雇ってもらえるように交渉してみるか。上手くいけばハンバーグが作れる)

 

こうして忍里 了は屋台で料理を作ることになったのである。

 

   ◇◆◇   ◇◆◇   ◇◆◇   ◇◆◇   ◇◆◇

 

「よっと!!」

 

久しぶりの包丁の感触に心が湧き立つ。

元の世界の料理を作ってみたいという、了の提案を有翼人の親娘は快く了承してくれた。

何しろ材料も機材もまだまだ乏しいため、差別化が図りにくいのだ。

新メニューは是非ともほしい。

 

まず魔法の札をまな板に貼り、冷却してやる。

肉の劣化を防ぐためだ。

熱を操るこの呪符は実に便利だ。

燃料費が全くかからないため、非常に重宝する。

リズミカルに、馬肉もどきを刻んでいく。

 

(やはり硬いなこいつは)

 

それに脂身も少ない。

一応脂身の多いはずの、腹身を使っているんだが。

もっと多ければ獣脂を取って、揚げ油や調味料に使ったりもできるだろうに。

 

(餌が豊富な環境だから、脂肪を蓄える必要が無かったってことかね?)

 

「えーと、確かハムバーグっていったかしら、この料理? どういう意味の名前なの?」

「ハンバーグな。確か伝わってきた土地の名前が元だったはずだ」

「ふーん、でも何かグチャグチャで、あんまり美味しそうには見えないわね」

「まあ仕上げを御覧じろってね」

 

とはいえ脂身が少ないのは問題だ。

料理油は時折取れる鳥のものを使っているが、そこまでの量は出回らないので節約せねば。

 

「玉葱はあるかい?」

「最近出回るようになった、この実のこと? 辛いし、目にしみるし、どうも使い方が分からないのよね」

 

玉葱をハンバーグに使うのは一般的だ。

だがここはみじん切りにした玉葱に火を通した後、呪符で凍らせてしまう。

 

「凍らせるの!?」

「ああ、この玉葱ってのは生だと辛い、でも熱を加えると甘みが出るんだ。そしてこれが肝心なんだが、玉葱ってのは凍らせてやると細胞が破れて甘みたっぷりのエキスが溢れてくる」

 

食感を生かすなら生のまま凍らせてもいい。

だが今回は粗挽き肉の食感を味わいたいから、玉葱は柔らかくとろけてジューシーになるように、火を入れるのだ。

凍った玉葱と挽き肉に塩を加えてやるが、やはり粘りが弱い。

肉質によっては塩だけで充分だったりするが、この肉では無理そうだ。

ジャガイモをすり潰して、少量加えてつなぎにしてやる。

 

「うん、面白い料理法だねえ」

 

椅子に座って見ていたササミ老が呟いた。

 

「使う肉によっても色々工夫できるね。混ぜる野菜に調味料。違う肉同士を混ぜるのも面白いね。ソースにもバリエーションが多いだろ?」

「ええ、ありますよたくさん」

「やっぱりねえ。そうだ煮るってのもあるかい?」

「煮込みハンバーグですね。ソースで煮てやるんですよ。美味いですよ」

「だろうねえ。石窯なんかを使って焼くのも美味しそうだ」

「この世界にも石窯あるんですか? 使ってみたいなあ」

「今はまだ無理だろうねえ」

「そうですね、もうしばらくは辛抱ですかね」

 

お互い料理に関して、意見を交わし合う。

まず生活基盤を何とかするのに皆一生懸命だった。

こういう趣味の話題に飢えていたのだ。

話しながらどんどん作業を進めていく。

 

「じゃあ形を整えるよ」

 

よくこねたハンバーグの種を成形していく。

そこにテバサちゃんも加わり、肉種をキャッチボール。

 

「こうかしら?」

「うん、少しづつ伸ばすように。空気を抜いてやって」

 

実演しながら、種を次々に加工していく。

テバサちゃんも父親によく仕込まれているようで手際がいい。

 

「真ん中は少し窪みを付けるのね」

「ああ、熱の通りが均一になるんだ」

「そっか、火を入れると膨らむもんね」

 

できたらちょっと休憩。

30分程寝かしてやらないと、割れたりするからね。

 

「じゃあその間に次のも仕込まないとね」

 

   ◇◆◇   ◇◆◇   ◇◆◇   ◇◆◇   ◇◆◇

 

甘かった。

忍里 了は後悔していた。

何故ハンバーグが売っていないのか?

日本人なら誰だって知ってる料理だ。

何故それがなかったか?

ミンチマシーンが無いからだ。

大量の挽き肉を包丁で作ってたら、腕が持つわけがないのは当たり前の話だった。

乾いた笑いを顔に貼り付けながら、それでもひたすらに肉を刻み続ける。

 

「これだけあればいいかの?」

「そうね、充分でしょ」

 

(この2人、人使い荒い・・・・・・)

 

「じゃあ、最初に出来たの焼いてみましょうか」

 

鉄板を呪符で熱してやる。

強火でまずは焼く。

ハンバーグの種を、熱された鉄板に投下する。

ジュォオオっと良い音と匂いが聴覚と嗅覚を刺激する。

 

「わあ!」

 

強火で両面を焼き上げる。

とはいえあまり早く返すと肉が崩れてしまうし、焼きムラができてしまう。

それを見極めねばならない。

 

「そろそろいいと思うよ」

 

ササミ老がそう口にした。

確かにもう頃合い。

何と何と、音だけで焼き加減を判断したようだ。

 

(へえ、凄い腕の料理人なんだなこの人)

 

手早くひっくり返して両面に火を入れる。

そうしたら焦げ付かないように、弱火にして中まで熱を加えてやるのだ。

 

「完成ー」

 

ついに念願のハンバーグが焼き上がったぞ。

 

「へえ、最初はどうかと思ったけど、焼き上がってみると美味しそうね」

「匂いもいいねえ」

「じゃあ早速食べましょうか。いただきまーす」

 

手を合わせる了に続き、2人は指を上に向けてくるりと回した。

これが有翼人の作法なのだろう。

木皿に盛られたハンバーグを、木匙で掬って口に放り込んだ。

口の中で熱々の肉塊に、はふはふと空気を取り込み、冷ましながら咀嚼していく。

しっかりとした肉の噛みごたえ。

淡白ながら、肉の旨味が良い。

やはり脂が少ないのが物足りないが、旨味自体は豊富だ。

そして玉葱を加えたのはやはり正解だった。

じゅわりと口内に溢れだす玉葱のエキスが、その甘さと塩味を絡めて味蕾を刺激する。

とろけるような玉葱の食感と旨味が肉の淡白さを補ってくれている。

ジャガイモの風味も上手くこれらをつないで・・・・・・でもこれって。

 

「うわあ、美味しいねこれ」

「うん、玉葱とは面白い野菜だね。それにこの料理法、肉の旨味をたっぷり味わえるよ」

「あー米食いてえー!!」

 

やはり食材不足、機材不足のため、まだまだ改善点は多いが、これは成功と言っていいだろう。

ササミ老は色々工夫を思い付いてうずうずしているようだ。

テバサちゃんは実に美味しそうにハンバーグを平らげていく。

これからだんだん色んな料理ができるようになっていくだろう。

そうだ、このハンバーグが美味しい料理復興の第一歩なんだ。

 

まあ、なんだ一言言わせてもらえるなら・・・・・・

 

(ハンバーグってより皮のないシュウマイに近いやこれ)




というわけで第一話。
だんだんできるものが増えてく感じで書いてきます。


昔設定考えてたファンタジーを流用改変してたりして。

忍里 了→(りょう)()(にん)
蔵 治→治蔵→なおすぞう
シーノイ→イノシシ

サキメビ・サカラガ・ミウフラ→サメビタキ・サカツラガン・ミフウズラ
テンシコウ・バシオギ・サキメビ→コウテンシ・オバシギ・サメビタキ
それぞれ鳥の名前。

先に言っておくが手羽先ちゃんは、ヒロインじゃないのだ。
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