機械仕掛けのTS魔法少女さん   作:匿名希望

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第二話 ボクの家族①

 

 

 ――ボクには、二組の両親がいる。と言っても、家庭環境が特別に複雑という訳ではない。むしろ他人には言えない事情を抱えているのは、ボクの方であった。

 

 

 ボクはしがないTS転生者。つまり二組いる両親のからくりは、単純に二度目の世界でボクを産んでくれたというだけ。

 前世について、全く未練がない訳ではない。もしも『一度目』の両親に会う機会があれば、「……親孝行すら碌にできない親不孝もので、ごめんなさい」と謝りたいという気持ちが、心の片隅に常にあった。

 

 

 しかし、逆に言えばそれぐらいのもの。ある程度の整理はできている。問題なのは、『二度目』――今世の両親について。

 なにせ、現在進行形の問題なのだから。

 

 

 当然ながら、ボクが転生者であることや性別が変わっていることは、今世の両親に言えていない。

 本来生まれるべきであった一人の少女の自我を食い潰してしまっただけではなく、その罪を隠しながら生きてきた。

 言い訳もできない程に、とんでもない『悪い子』だ。だからと言って、この事実を吐き出して心を軽くすることは許されない。

 今世の家族(・・)を悲しませることに繋がってしまう。

 

 

 そんなボクにできるのは、この『事実』を絶対に誰にも知られることもなく、墓場の下まで持っていき。素直で良い少女を演じること。

 それだけが、今世の両親に対してできる唯一の親孝行。そう考えていた。

 

 

 それはそれとして、前世の憧れからこの世界独自の治安維持組織――『連合』に入り、魔法少女としての活動に狂ったようにのめり込んでいったのは失態でもあった。

 今世の両親に、とてつもない心労をかけてしまっていた。自分の子供がいつ死んでもおかしくない戦場に、四六時中いるのだ。マトモな人の親なら、心配して当然。

 そんな当たり前の事実に、何故気づかなかったのだろう。

 

 

 あるいは、重たい『罪悪感』からの逃避行動だったのかもしれない。そこは自分でも、よく分かっていない。

 でも、役立たずであっても一人の魔法少女として、困っている人達を救いたい。他の魔法少女の負担を少しでも減らしたい。それらの信念に、一切の嘘はないと自負している。

 ……実力が伴っておらず、周りには迷惑ばかりをかけていたと言われたら、何も言い返すことはできないが。それ自体は、紛れもない事実だし。

 

 

 それは置いておくとして、魔法少女としての力を身につけて損はないはずだ。

 転生先であるこの世界は、魔女なんて危険な存在がランダムでポップする物騒な世界観なのだから。

 

 

 あってはほしくはないが、両親が魔女に襲われるようなことがあったら、ボクが守れる。

 『秘密』を墓の下にまで持っていくこと以外の親孝行ができるということだ! あくまでも、もしもの話だけどね。起こらないことにこしたことはない。

 けれど、『その時』が来たとしたら、他人に迷惑をかけない程度には。自分ができることであれば、何でもやる(・・・・・)と決めている。それだけは誰にも否定させない。たとえ、両親であったとしても。

 

 

 

 

 ――私には、大切な家族がいる。生涯を共にすると誓い合った夫。その彼と私との間にできた愛の結晶。目に入れたとしても、痛くないぐらいに愛おしい二人(・・)の娘達。

 

 

 だけど、上の方の子はどこか変わっていた。とても良い子ではある。しかし、下の子とも同年代の子供達とも、どこかズレていた。

 まるで、無理に純粋無垢な子供の仮面を被っているような。演じているような違和感。

 

 

 逆に、私達を含めた周りの大人達に怒られない為に、『壊してしまった物』を必死に物陰に隠そうとする子供としての側面にも捉えることもできた。不思議な子。矛盾を孕んだ子供。

 

 

 それでも、私達の子供には変わりない。むしろ手間のかからない良い子だと思うようにしていた。

 あの子が四歳の誕生日を迎えてから、しばらくが経った『あの日』に、自分達の勘違いに気づかされた。

 

 

 

 

 私はリビングに併設してある台所で、夕食の準備をしていた。あの子はソファに座って、リビングに置いているテレビの画面に釘付けになっていた。

 

 

「わあ……」

 

 

 心を奪われたかのように、あの子は感嘆に満ちた声を漏らす。あの子が何に興味が惹かれたのか気になった。普段あの子が見せる態度が、どこかぎこちない。作り物のように感じられていたが、この時は『本当』の顔が見れるような気がした。

 

 

 鍋にかけていた火を止めて、作業を中断。着ていたエプロンで両手を拭きつつ、ソファの後ろからテレビの画面を覗き込む。

 

 

『くっ……!?』

『皆んなっ!? まだ諦めないで!』

『そう、ですね!』

 

 

 カラフルで、可愛らしい衣装に身を包む少女達――魔法少女。相対するのは、禍々しさを感じられる衣装の少女――魔女。後者は、正気ではないように見えた。

 画面越しに繰り広げられるのは、彼女達による命を懸けた戦い。ピンチに陥る場面がありつつも、狂気に囚われた魔女を正気に戻す。

 最後は少女達の笑顔で終わる、夢と希望に満ちあふれた物語。

 

 

 確かに見応えもある。だが大人の私からしたら、映像を編集した者の意図が若干透けて見えてしまう。不都合なものは見えないようにして、綺麗なものだけを抽出したような感覚。

 

 

 しかし、あの子の心には抜群に響いたらしく、それまで見たことないぐらいに瞳を輝かせていた。そして、私の方に振り返ったあの子は、他の子供にも――いや、太陽に負けない程の満面の笑みを浮かべながら、こう言ってくれた。

 初めての、心からの言葉だった。

 

 

「――()も、魔法少女になってみたい!」

 

 

 その笑顔を見た瞬間、気づいた。気づかされた。『本当』のあの子は、始めから私達の前にいたのだ。まるで今までが『嘘』であると思い込んでいたのは、私達の方。

 一歩下がって考えてみれば、すぐに分かることだ。いくつもの『顔』を使い分けることなんて、自分達だってやっていることなのに。

 

 

 私はその事実を認識した途端、衝動的にあの子を抱きしめていた。体の華奢さや体温が伝わってくる。私達が見ようとしなかったものが、そこにはあった。

 視界が熱い液体によって滲む。

 

 

 一方のあの子は、突然の抱擁に目を丸くして驚きつつも、またはにかんで笑ってくれた。

 

 

 私達は親として、ありのままの子供を愛すればいい。もちろん、全てを盲目的に肯定する訳ではなく。駄目なことは駄目ときちんと教える。

 それを忘れてはいけない。それでも、親として子供のしたいことはなるべく叶えてあげたいと思うのは、自然なことだろう。

 

 

 私も笑顔を何とか浮かべながら、もう一度強く抱きしめた。

 

 

 ――あの子が初めて言ってくれたお願いごと。魔法少女になりたいというもの。叶えてあげたいとは思ったものの、すぐにという訳にはいかない。

 

 

 魔法少女とは、悪い魔女から人々を守る平和の象徴。なりたいと願うだけでなれるものではない。

 

 

 魔法という奇跡を行使する為に必要となる、魔力と呼ばれるエネルギー。それを保持しているかどうかが、魔法少女になる為の最低条件。

 

 

 あの後すぐに確認してみた『連合』の公式サイトには、そう書かれていた。自分が子供の時にはその辺りは興味がなかった点や、細かい部分が変更されているらしく、現在の制度への理解が全然足りていない。

 あくまでも私にとって、魔法少女はどこか雲の上の存在でしかなかった。あるいは、友人達と盛り上がる為の、話題の種の一つだろうか。

 

 

(……こんなことなら、もっとちゃんと調べておくべきだったわ)

 

 

 心の中でため息を吐く。そもそも冷静になってみれば、魔法少女なんて物騒な職業(?)に、まだまだ幼い我が子を就けるのは本当に正しいことだろうか。

 

 

 争いごととは無縁で、健やかに育ってほしい。それとは相反する思い――魔法少女にしてあげたいという気持ちもある。

 

 

(……私一人だけで考えても仕方ないか。あの人が帰ってきたら、相談してみましょう)

 

 

 あの子の父親であり、私にとっての夫。大事な娘の一生を左右しかねない問題を、私が一人先走って決められるはずもない。

 

 

 仕事帰りを待ち、夕食や入浴も済ませて、子供達を寝かしつけた後。私は夫に相談した。あの子が、魔法少女になりたがっていたことを。

 それを聞いた夫は複雑そうな表情を浮かべる。

 

 

「普段から遠慮ばかりするあの子が、自分のしたいことを言ってくれたのは嬉しいが……魔法少女になりたいか。俺としても応援してやりたくもあるが、危険すぎる」

「……そうよね」

 

 

 夫も私と同じ考えのようだ。これでは、どれだけ悩んでも答えは出てこない。

 

 

 そう私が諦めかけていたタイミングで、夫が『妥協案』を提示してきた。

 

 

「……とりあえずは、適正検査を受けさせるのはどうだ? 確か、六歳になるまでに一回受けないと駄目なんだろう?」

「うん、私の時はそうだったわ」

 

 

 自分がその『検査』を受けた時のことを思い出す。学校で実施される健康診断のようなものに加えて、何かしらの数値を測定していた。という程度の記憶しかない。

 

 

 それ以外に、事前に調べ直していた『検査』の概要を思い返す。

 

 

 この国において、全ての少女達は十八歳になるまで、定期的な魔力の有無を調べる為の検査を受けることが義務づけられている。

 私は全ての検査で魔力なしと判定されていたので、さほど関心はなかった。

 

 

 しかし魔力がある場合、示される道のりが主に二つ。一つ目は、その才能を活かした奉仕活動――魔法少女としての仕事。

 様々な面で拘束される一方で、報酬が発生する等のメリットは存在する。

 二つ目は、魔力の『封印措置』を受けること。魔法が使えることは二度とないが、魔力が暴走状態になる――魔女になる可能性も限りなくゼロになる。という認識なのだが、果たして合っているのだろうか。概ね間違ってはいないと思うのだが……。

 

 

 私の心配を他所に、夫は話しの続きを口にする。

 

 

「それで才能がなかったら、きっぱり諦めさせる。無理なものは無理だからな。その代わりに、他の言うことは可能な限り聞いてやるつもりだが」

「それで、検査に通ったら?」

「一応はやらせてあげよう。……もちろん、規則上の十歳になってからだ。その時に、改めて本人の意思を確認する。気が変わるかもしれないからな」

「ええ、分かったわ。そうしましょう」

 

 

 私はその『妥協案』に受け入れて、頷き返した。そして夫の次の休みの日に合わせて、私達は『連合』が提携している施設へと向かった。夫は家で留守番で、下の娘の面倒を見てもらっている。

 本音を言えば、全員で行きたがったが、検査にしては大所帯になるので自粛しておいた。

 

 

 今回の目的はもちろん、魔力の有無を確かめる為の検査を受けること。

 

 

 それを受ける張本人は、詳しい説明をしていないのに、年不相応な察しの良さで、駄々をこねることもなかった。私の右手と手を繋いだ状態で、大人しく付いてきてくれていた。

 この時以上に、この子の落ち着きぶりに感謝したことはない。私達の方が、ある意味では緊張していたから。

 結果がどちらに転んだとしても、あの子には大きな影響を与えることになるだろうから。

 

 

 受付で名前と予約を確認されて、しばらくの間、玄関付近の待合スペースで待機させられる。病院のものと似た、無駄な要素を削ぎ落としたような印象を抱かせてくる。

 胸のざわめきを紛らわせる為に、ちらりと視線を周囲に走らせる。

 

 

(……多いのか、少ないのか分からないわね)

 

 

 待合スペースにいたのは、私達以外に十三組。少女達の年齢もバラバラ。家の子と同じ年くらいの子もいれば、それよりも大きい子もいた。

 順番に呼ばれて、一組ずつ奥へ消えていき、途中から入れ替わるように待合スペースに戻ってくる。

 

 

 私達が呼ばれたのは、六組目であった。

 

 

「じゃあ、行きましょうか」

「うん」

 

 

 私はあの子の手を引いた状態で、奥の検査室に案内された。それから女性スタッフの指示の下、身長や体重を測られたり、血液を採取されたり。腕に用途不明な機械を付けられて数値の測定。

 全ての作業が終わるまでに、一時間ほど要した。私は付き合いでずっと一緒にいたが、あの子がぐずることもなかったので、検査の様子を眺めているだけで時間を持て余していた。

 

 

(……私が受けていた頃とぱっと見では変わらない感じね)

 

 

 そんなことを考えていると、検査の終了が告げられて、廊下に備えつけられたソファで待つように指示される。待機中に、私は小声で隣でちょこんと座ったあの子に尋ねた。

 

 

「何も怖いこととかなかった?」

 

 

 尋ねたのは、検査の感想について。いくら検査を受けている時に騒ぐことがなかったとしても、心理的なストレスは少なからずあったはず。

 母親として、我が子のメンタルケアは必須だろう。そう思っていたのに、あの子はいつもと同じ調子で「何でもないよ!」と答えてくれた。

 

 

 その答えは本心ではあるのだろうが、私に気を遣っているようにも感じられた。そのことに少しショックを受けつつも、それを含めての我が子のありのままの姿として受容する。

 そうすると決めたのだから。

 

 

 それ以降は「今日の夕食は何にする?」といった当たり障りのない会話を小声でしながら、適当に時間を潰していると、先ほどとは別のスタッフに声がかけられる。

 その案内に従って、私達はこれまた病院の審査室に入り、軽く互いに挨拶を交わした後、椅子に座るように促された。

 対面に座るのは、白衣姿の女性だった。こちらが緊張しているのが分かるのか、それを解すような柔らかい笑みを浮かべる。

 

 

「そんなに不安にならないでください、お母さん。この場で伝えるのは、ただの検査結果だけです。その結果を踏まえた上で、どのような選択をするにしても、私達も最大限サポートさせてもらいますので」

「……ありがとうございます」

 

 

 短くお礼を返す。

 その言葉のお陰で、ある程度の冷静な思考が戻ってきた。それに我が子の前で、これ以上の醜態を見せる訳にはいかない。

 

 

「……もう大丈夫です。お願いします」

「それでは、まずは検査結果の方から。お子さんに魔力は……あります。ただし……」

「もしかして、何か体に悪影響でも……!?」

 

 

 身を乗り出すようにして、女性に詰め寄ってしまいそうになる体を押しとどめる。魔力の有無自体よりも、自分の子供に何か問題があったのかと余計な想像を巡らせてしまった。

 しかし、その直後に女性が慣れた様子で話しを続ける。

 

 

「大丈夫ですよ、別にお子さんに異常らしい異常はありません。ただお子さんの魔力の保有量は平均よりはかなり低いです。

 突発的な魔力暴走の心配はほぼないでしょうが、こちらとしては魔力の『封印措置』を受けて頂いて、今まで通りに暮らしてもらう。それを一番お勧めします」

「……そうですか」

「他に何か質問はありませんか? なければ、魔力の『封印措置』のより詳しい説明と実行に移させてもらいますが」

 

 

 その言葉に。提案に安堵の息を吐きそうになってしまう。その道に携わっている人間直々に、「危ないことには関わらない方が良い」と言われているのだから。

 だが、それに頷くということは、あの子が私に見せてくれた願いを否定することになる。夫と最初に取り決めた「資格がないなら諦めさせる」という条件を満たしていないのに。

 

 

 だから、もう一つの親としての側面(理性)は、無意識の内に私の口を開かせていた。

 

 

「……ちなみに今の適正だと、魔法少女としてやっていくのは難しいでしょうか?」

 

 

 私のその質問に、女性は表情を少しだけ曇らせる。

 

 

「……魔力はある以上、魔法少女になること自体は可能です。実際に『連合』に所属して活動している魔法少女には、このぐらいの魔力量の子もいなくはありません」

 

 

 そこで一旦言葉を区切ると、私の目を真っ直ぐに見据える。

 

 

「ですが、あまりお勧めはしません。改善しようという試みはあるのですが、どうしても実力主義的な風潮はこの業界でも消えてなくなりません。

 

 

 それに、もう一つ。既に理解していると思いますが、魔女との戦いで命を落とす危険性は常に付きまといます。それ以外のトラブルに巻き込まれる可能性だって、ゼロではありません。……まあ、お子さんはまだ四歳です。時間はまだまだありますので、他のご家族の方と相談して。何よりも本人の意思を大事にしてあげてください。

 

 

 もしも相談があったら、いつでも乗りますので」

「……ありがとうございました」

 

 

 最後に頭を下げながら、そう言って私達は部屋を退出した。

 

 

 帰り道の道中。検査結果を聞いている間、ずっと無言であった我が子に尋ねてみた。何か分かりにくいことはなかったか、私に対して何か不満に思うことはなかった等。

 

 

 それらの問いに、あの子は淀みなく答える。

 

 

「大体分かっていると思うよ。あまり魔法少女としての力がないことも、それを選んでも辛いだろうなってことも。

 ……でもね、きらきらとしたあの子達みたいになりたい。困っている人達を助けたいと思っちゃったの。それに()が魔法少女になれたら、悪い魔女からお母さん達を守れるしね!」

 

 

 その小さな口が語る答えは、やはり幼い子供のものには見えず。けれども、私が愛すると決めた我が子の『本当』の顔の一つに過ぎなかった。

 

 

「……そうね、楽しみにしているわ。でも、十歳になるまでは」

 

 

 直前までの葛藤は、既に影も形もない。私は自然とそう答えていた。それから家に帰宅した後、夫と二人っきりで話す為の時間を設けた。

 話題は当然、今日の検査結果や今後の方針。そして、私の考えを告げた。

 

 

 夫もまた難しい顔をしつつも、私の考えに同意の意を示す。

 

 

「……そうだな。あの子が十歳になった時に気が変わっていなければ、全力で応援する。そうでなかったら、魔力の『封印措置』を受ける。そういう感じでいこう」

 

 

 

 

 

 ――だけど、私達はこの時の選択を永遠に後悔し続けることになるとは。いや、違う。そもそも悔いる資格すらも『剥奪』されてしまうのだから、今ではあの子のことを思い返すことすら――。

 

 

 

 

 ――月日はあっという間に流れて、あの子は十歳になった。依然として魔法少女になるか、ならないかの運命の分岐路に立たされている。

 私達は、あの子がどちらを選んだとしても受け入れるつもりだった。

 

 

 あの子は六年という年月で心代わりすることなく。むしろ、より魔法少女への憧れを強めていった。それが周囲との摩擦を起こす原因になるのかと、一時期は心配したこともあったが、その心配は杞憂で終わった。

 学校生活も楽しんでいるらしく、食卓で学校での話を笑顔で聞かせてくれる。それが私達の日々の楽しみであった。

 

 

 あの子が十歳の誕生日を迎えた次の日には、六年前から何度もお世話になっている『連合』が提携している施設――『検査』を行った場所――へと向かった。

 

 

 いつものように、待合スペースで待機。順番で呼ばれて、私達は奥の部屋に通された。その部屋で待っていたのは、年齢の経過を感じさせない白衣姿のあの女性だった。

 

 

 これまた、こちらの不安を和らげるような笑みで出迎えてくれる。入って椅子に腰をかけて、挨拶を交わして早々、本題を切り出された。

 

 

「じゃあ、今日は前々から聞いていた通り、『連合』に入る――魔法少女になるということでよろしいでしょうか?」

 

 

 その問いに対して、あの子は覚悟を決めた表情で。真剣味を帯びた瞳で女性を見つめ返しながら、しっかりと宣言した。

 

 

「――はい。()は魔法少女になって、たくさんの人を助けたいです!」

「……分かりました。確かに宣誓は受諾しました。次に保護者の方とご一緒に、こちらの書類を確認後、サインのご記入をお願いします」

「はい!」

 

 

 あの子は元気よく返事をして、私の手を取り、近くの机の上に置かれた書類を見てほしいと促してくる。その様子を見て、私はふふっと口角を持ち上げる。

 

 

(普段は大人っぽいけど、時々見せてくれる不意の年相応な所が可愛いのよね)

 

 

 まあ本人に直接言ったら、確実に拗ねてしまうだろう。でも六年前の『あの日』以前に比べたら、確実に良い変化だった。

 

 

「はいはい、すぐに行くから」

 

 

 そう返して、細かい文字がびっしりと敷き詰められた書類群と向かい合う。やはり幾つになっても、こういう書類への苦手意識は消えそうにない。

 しかし、あの子にも関係しているものだ。私は見落としがないように、目を皿にして最初の一行目から読み進めていく。

 時間をかけて、内容を頭の中で咀嚼していく。

 

 

(……良し、大体理解できた。当たり前だけど、特に変なことは書いてない……と)

 

 

 最後に、保護者の欄に私の、契約者本人の欄にあの子の名前を書き、印鑑を押す。それを白衣の女性に提出した。

 女性は書類を受け取ると、サインに不備がないかを最終確認を行う。そして頷いた。

 

 

「……はい、これで事前の手続きは全て終わりました。次は別室にて、『変身』及び『固有魔法』の鑑定に移ります。危険ですので、保護者の方はこちらでお待ちください」

「分かりました!」

「……分かりました。気をつけてね」

「大丈夫だよ、お母さん!」

 

 

 女性に連れられて、あの子はまた別の部屋に移動した。私は特にすることもないので、椅子に座ったまま、色々と考えごとをして暇を潰す。

 

 

 どのくらい時間が経っただろうか。女性に手を引かれて、あの子が姿を現す。その服装は一変していた。家から着てきた私服姿ではなく、あの子の純粋無垢な心を象徴するような、白いワンピースドレスを身に纏っていた。

 しかも、目には見えないオーラのようなものが感じられる。これが魔力と呼ばれるものだろうか。

 

 

 あの子はついに、念願の魔法少女への変身を果たすことができたのだ。私も感慨深くなり、思わず涙腺が緩みそうになる。

 何とかそれを堪えて、「……おめでとう」と短く祝福し、あの子を抱擁しようとした――だが、あの子自身の異様な雰囲気を感じ取り、それを躊躇してしまう。

 

 

 魔法少女になれたというのに、あの子の表情は暗い。一体何があったのだろうか。その原因を知っているであろう女性に、そっと視線を送る。

 彼女の表情も明るいものではない。だが、私の視線に気づいたのか、彼女は重たい口をゆっくりと開いた。

 

 

「……お子さんには、なかったんです。魔法少女であったら、絶対にあるはずの固有魔法が」

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