機械仕掛けのTS魔法少女さん   作:匿名希望

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第四話 ボクの家族③

 

 

 上の娘のあまりの異様な様子に呑まれて、声をかけることを躊躇してしまう。口をぱくぱくさせるだけで、出てくるのは乾いた空気だけ。

 一人の親として、すぐさま子供の傍に駆け寄り、その小さな体を抱きしめてあげなければならないと思っているのに。私の足は一歩も動いてはくれなかった。

 

 

 そんな私の醜態を一切気に留めた素振りを見せず、あの子は淡々と。感情の起伏や発露を感じさせない声色で、口を小さく開く。

 

 

「ただいま」

 

 

 いつも聞いている挨拶、ありふれた挨拶。そのはずなのに、あの子が決定的に今日の朝までと変質してしまったことを認めざる得なかった。

 その『何か』について考えようとしても、すぐに思考が霧散してしまう。何とも言い難い気持ち悪さに襲われて、吐き気を催す。

 

 

 あの子は眉を少しだけぴくりと動かしただけで、私の返事を待たずに、踵を返すとそのままリビングを出ていってしまった。

 昨日までだったら、「今日の夕ごはんは何?」と聞いてくれて、そこから会話が弾んでいったのに。そもそも私に限らず、調子の悪そうな人がいたら、真っ先に介抱しに行く程の優しい子であったはずなのに。

 

 

 思考はぐるぐると同じ場所を空回りするだけ。その背中に、私はついに声をかけることができず、呆然とその場に立ち尽くすことしかできなかった。

 

 

 ――それから、どのくらいの時間が経ったのか。放心状態であった私の意識を現実に戻してくれたのは、もう一人の愛娘の声であった。

 

 

「ただいまー……って、どうかしたのお母さん? ぼうっとしてて。……もしかして調子でも悪いの!?」

 

 

 上の子と三歳差の少女。どちらかと言えば、内気なあの子とは真逆で、快活な性格。その子が慌てた様子で、私に声をかけてくれる。

 何とか取り繕い、私は答える。

 

 

「……大丈夫、ありがとうね。それよりも、早く手を洗ってきなさい」

「はーい」

 

 

 さっきとは打って変わった、気の抜けた返事。それが私の揺れ動いていた心を安定させていく。

 一度深呼吸をした後、私は先ほどの上の子の異変について考える。その『原因』に関しては、努めて触れないようにしながら。

 

 

 あの子は変わってしまった。母親としての直感で。いや、あの子と関わりが少しでもある人間にとって、それは疑いようのない事実だろう。

 だからと言って、私があの子への対応を変える果たしてあるだろうか。そんな訳はない!

 

 

 私が『本当』のあの子を見つけた六年前のあの日から。あの子が魔■少■になりたいと言ってくれた日から、とうに私の心は決まっている。多少の『違和感』ぐらいで崩れたりはしない! 人としての道を踏み外したりしない限り、ありのままのあの子を受け入れよう。愛してあげようと。

 

 

 そう覚悟を新たにした私は、気づけの為に頬を軽く叩く。バチンと乾いた音が響く。

 

 

「……良し!」

 

 

 今の私にできることは、あの子の心が少しでも癒えるように、いつも以上に美味しいご飯を振る舞ってあげることだ。

 私は早速、中断していた夕食の準備を再開した。

 

 

 

 

 ――その日から、さらに数日が経過した。

 

 

 その間あの子がまた笑ってくれるように、私はできる限りの手を尽くした。娘の好きな献立を毎日作ってあげる。無理に「何があったの?」と聞き出すのではなく、「いつでも話してね」と受け身の姿勢で、安心できる空気を作る。

 魔■少■関連の話題は、あの子の前では絶対に避ける。等など。

 当然、夫や下の娘も協力してくれた。小学校の先生やお友達からも心配の電話を経て、私の目が届かない所でのあの子を支えてくれる人達も力を貸してくれた。

 

 

 

 だというのに、何も変わらない。

 

 

 あの子はただの一回も表情を変えることもなく。ルーティンを機械的になぞるように、日常生活を送っていた。

 唯一あったと言える変化も、決して歓迎できる類のものではない。

 

 

 学校から帰ってきたあの子は、ほとんどの時間を何もすることもなく、自分の部屋でただじっとしているだけ。夕食の準備が整って、誰かが声をかけるまで、ずっと。

 記憶に残っているあの子は、ここ最近は家に帰るなり、魔■少■の活動に出かけていたような――。

 

 

 ――あの子についての、大事な『何か』に触れることができない。あの子が変わってしまった日から、何度も味合わされる『違和感』。

 それを見て見ぬふりをして、停滞した――緩やかに悪化しつつある状況をほんの僅かでも打開する為に、私は仕事帰りの夫にとある提案を持ちかけた。

 

 

「おかえりなさい、あなた。……ちょっと、話があるの」

「ああ、ただいま。……それで、話というのは」

「あの子についてね――」

 

 

 真剣な面持ちで、夫は私の話に耳を傾けてくれた。

 

 

 

 

「準備は良い? 忘れ物とかはないかい? 二人とも」

「私は大丈夫」

「……私も」

「良し、なら行こうか」

 

 

 夫からの問いかけに、私達はそれぞれ返事をする。私は笑顔で。……あの子は相変わらずの無表情で。

 

 

 ――とある土曜日。私達の家族は三人(・・)で、隣街の遊園地に遊びに行く予定を立てていた。いないのは、下の子。

 本音を言えば、家族全員で行きたかった。けれど前から友達と遊ぶ予定が入っていたらしく、別の日にしようにも夫の仕事の関係上、中々土日に休みが取りにくい。

 という訳で、仕方なく私達は三人で出かけることに決まったのだ。

 

 

 今回の目的は、先日夫に提案したあの子を笑わせてあげること。今までは受け身な対応であったので、方針を少しだけ変更。こちらからも、歩み寄る姿勢を見せることにした。と言っても、本当にちょっとだけだが。

 今のあの子の精神状態は、かなり危ういバランスなはずで成り立っているように見える。あまり刺激しないことは絶対条件である。

 

 

 遊園地までの移動は、夫が運転してくれる自家用車。運が良いことに、土曜日であるにも関わらず、交通量は平日よりも僅かに多い程度。

 私や夫があの子に話を振るような形で、車内を楽しく盛り上げようとして空振りしつつも、事前の想定以上に、早く目的地に到着することができた。

 

 

 駐車場に止まってから、車から降りる。道中の車が少ない方であったとはいえ、辺りを見渡せばやはり車や人の数は多い。

 アトラクション一つを利用するのにも、それなりの時間を要求されることは簡単に予想できる。だが、頭を振って、そのマイナスな思考を振り飛ばす。

 あの子を楽しませようと計画した私達が、こんなつまらないことで顔を一々しかめる訳にはいかない。努めて笑みを浮かべて、あの子と手を繋ぎながら顔を見る。

 夫はあの子の反対側の手を握っている。

 

 

「じゃあ今日は一日、めいいっぱいに楽しみましょう! もちろん逸れないようにね」

「そうだね」

「……うん」

「なら、最初はどこから見て回りたいとか希望はある?」

 

 

 私の質問に、鉄仮面のような無表情ながらも、あの子はしばらく考える素振りをした後、ぼそりと小声で答えてくれた。

 

 

「……ジェットコースター」

 

 

 あの子の頬は若干赤く染まり、顔を逸らす。どうやら照れているらしい。

 意外な答えに、私と夫は少し驚く。だが、この子もまだまだ小学生。そう考えれば、この選択肢も自然なものだ。一つでも多くのアトラクションを巡る為――一つでも多くの楽しい思い出を作る為に、私達は夢の国へのゲートを潜った。

 

 

 案の定、遊園地の中は人混みでごった返しになっていた。それでも逸れてしまわないように、しっかりとあの子の手を握る力を強める。そうすると、あの子の方からも年相応な程度の力ではあるが握り返してくれた。

 その事実に内心嬉しく思うと同時に、今日という日を境に明るい未来に向かっていける。そんな予感がした。

 

 

 気持ちが前向きになったお陰か、長蛇の列による待ち時間を苦ではなく、行きの車内とは違い。細々としたものではあるが、親子三人による会話に花を咲かせることができた。

 

 

 そして待ちに待ったジェットコースター。じわじわと最高高度に登っていき、心臓を握りしめられているような恐怖。

 そこから一気に下降し、体全体で感じられる風を切る感覚と爽快感。年甲斐もなく、大きな声を出して叫んでしまっていた。それはあの子や夫も同じようで、ジェットコースターから降りた後は、三人でお互いの顔を見ながら笑い合っていた。あの子も含めて。

 

 

 久しぶりに見た、無理をして浮かべたものではない自然なあの子の笑み。心が温かくなる一方で、下の子にも見せてあげたかった。そう思ってしまう。

 それが表情に出ていたのか、あの子に気づかれないように夫が小声で声をかけてきた。

 

 

「……今度は、四人全員で来よう。なるべく早い時期に、僕も次の休みが取れるように職場にかけあってみるよ」

「……そうね、そうしましょう」

 

 

 夫に短くそう返して、私達は次のアトラクションを求めて歩き出した。

 

 

 ――それからの数時間は、まさに夢のような楽しい時間だった。あの子の年齢からしたら、少々退屈に感じられてしまうかと思っていたメリーゴーランドやコーヒーカップ。

 だけど、それが逆に新鮮であったようで、予想以上にはしゃいでいた。その様子を見て、顔を綻ばせる私と夫。

 

 

 次に向かったお化け屋敷では、暗い通路の死角から飛び出してくる脅かし役に親子揃って、まんまと驚かされてしまう。それを夫にからかわれる。少々悔しくはあるが、あの子も同じ気持ちらしく、久方ぶりに通じ合えた気がした。

 

 

 それから、それから――。

 

 

 ――あまり遅くなってしまっては、下の子に悪いということで、最後のパレードは見ずに、次の観覧車で締めくくることにした。

 今回もまた順番待ちで、ようやくやって来たゴンドラに三人で乗り込む。私とあの子が同じ席で、夫はその反対側に腰をかける。

 スタッフさんが安全確認した後、ゆっくりとゴンドラが上昇していく。

 

 

 高い所はあまり得意ではないが、ジェットコースターの時とは違い、激しい動きがあるようなものではない。ゆったりとした時間。ゴンドラが一周するまでの間、ガラス越しの景色を堪能することにした。

 横目で見れば、あの子や夫も眼下の景色を思い思いの様子で眺めている。私も彼らに倣って、下を見る。

 

 

 近くの方には、今日一日をかけて巡った遊園地。少し遠くに目を向ければ、茜色に色づきつつある街並み。それぞれの営みを送る人々の姿を、まるでミニチュアを俯瞰しているな気分になる。

 バリエーションは多岐にわたり、私の目は飽きることを知らなかった。

 

 

 ゴンドラが半周を過ぎた頃、私はふと下の方――遊園地のエリアに向ける。何かに惹かれたかのように。

 昼間よりも減った雑踏の中心部に、ソレはいた。

 

 

 ソレは遠目で分かり難いが、中学生ぐらいの子供に見えた。しかし、ソレの格好は子供らしい服装ではないものの、ある意味では遊園地という舞台に相応しいもの。カラフルな、特に目が痛くなる程の赤が一番目立つ配色の服装と、それに似合った戯けた化粧――道化師(ピエロ)。そうとしか表現できない存在が、そこにはいた。

 

 

 終幕のパレードに参加する為の、遊園地側のスタッフの一人だろうか。それにしては、少々記憶しているパレードの時間よりも早い気がするが――。

 

 

 そんなことを考えながら、私はぼんやりとその『道化師』を視界に収めていた。

 

 

 『道化師』が近くにいた男性を適当に指で指す。そうすると、手品のような。魔法のような現象が起こる。男性のお腹に糸が絡まる。その糸は上空に向かって伸び、繋がっているのは真っ赤な風船。

 

 

 男性は困惑しつつも、その風船を自分の体から外そうとする。しかし、よほど複雑に絡まっているのか、中々解けそうにない。

 そんな男性の体は、風船の浮力に引っ張られて、段々と浮かび上がっていく。周囲の人間達も、上手く状況を呑み込めていないのか、呆然と立ち尽くすのみ。

 

 

 そうしている内に、男性の体はかなりの高度に達する。その様子を『道化師』は、ニコニコと見つめ――口を動かす。何を言っているのか、私には分からないが。

 

 

 そう思った瞬間。風船が眩い光と大きな音を立てて弾ける。真っ赤な『花火』が咲いた。その残骸が辺りに飛び散り、夢の国を鮮血に染めていく。

 

 

 遊園地内部が園内の場違いな音楽を残して、音が消える。だが、『道化師』をそれすらも上書きするかのように笑った。嗤った。ただの化粧としてではなく、口角に亀裂が入りそうな程の本物の嗤い。

 

 

『――ギャハハハハっ!』

 

 

 距離があるはずの私の耳にも、すぐ傍にいるのかと錯覚する程の声量で届いてきた。凄惨な光景に目を瞑り、不愉快な音声に耳を塞ぎたくなる。

 しかし、それを実行に移す前に、私の――いや、園内中の人間が持つ携帯端末から一斉にけたたましいアラート音が鳴り響く。『魔女警報』。

 

 

 ようやく、その『道化師』の正体に思い至る。悪意の象徴――魔女であると。

 

 

 周囲の人間達が悲鳴や怒号を上げて、やっと魔女から逃げ出そうとする。だけど、その行動はあまりにも遅すぎる。致命的な隙。

 

 

 魔女はまるで壇上に立つ指揮者のように――違う。無邪気な子供のように、無茶苦茶に両手を振るう。五指それぞれで、適当な人間を選びながら。

 

 

 不幸な抽選に当選してしまった人間達の体には、先ほどの男性と同じように体に風船が絡みつく。そして、たどる末路まで一緒。

 悲鳴を添えて、無数の深紅の『花弁』が咲いていく。

 

 

 魔女は歪な嗤い声を上げながら、犠牲者を量産し続けた。――地獄のパレードが幕を上げる。

 

 

「――おいっ!? 大丈夫かっ!?」

「あ、あ……」

 

 

 情けないことに、私はその惨劇を前にしてただ掠れた声を漏らすだけ。夫が声をかけてくれることで、辛うじて意識を繋ぎ止めることができていた。

 何度も深呼吸をして、乱れた思考を落ち着かせる。

 

 

 私達が乗っていたゴンドラ――というよりかは、観覧車は緊急用の安全装置が作動したのか停止していた。つまりは地上に降りることもできず、この狭い場所に閉じ込められたことを意味する。

 いくらあの魔女がいる場所から離れているとはいえ、果たして魔■少■達が来るまで私達は無事でいられるのか。

 

 

 その事実に絶望するよりも先に、もう一人の同乗者――あの子のことを思い出す。こんな非常事態に、我が子よりも自分の身を真っ先に案じるとは!? 親として失格――そんな些末なことを考える暇があったら、不安や恐怖で震えているはずのあの子に、早く寄り添ってあげないとっ!

 

 

 そう体を動かそうとした瞬間、視界の端で赤い『絨毯』の上を歩く魔女が、遠くの私達に目がけて人差し指を向けるのが見えた。――その動作は、先ほどまで嫌という程見せつけられた惨劇を引き起こす為の『トリガー』であり――。

 

 

 私とあの子への射線上を遮るように、一つの人影が。夫が躍り出る。夫の体に風船の持ち手が巻き付いた――そう思う間もなく、夫はそれまでの犠牲者同様に弾けてしまった。

 

 

 ゴンドラの中が赤く染められて、私の頬にも生温かい液体や柔らかい何かが付着する。

 

 

「――え?」

 

 

 『ソレ』の正体に、夫の末路には必死に考えないようにする。だって、そうしないと今度こそ正気を失ってしまう。まだ、あの子がいるのに。

 

 

 あの子の存在があることを支えにして。あの子を無事に帰すことに縋って、私は這ってでもあの子の傍に行こうとした。

 あの悪辣な魔女は、次の標的にあの子を狙いそうな気がしたから。

 

 

 だけど、そんな私の予想を裏切るように、不思議と何も起きなかった。そのお陰で、私はあの子の近くに行くことができた。

 意外なことに、あの子は取り乱したり、恐怖に呑まれている様子はない――いいや、きっと感情の許容範囲を一気に超えてしまい、上手く現実を受け止め切れていないのだろう。

 私は傷心状態なはずの我が子に向けて、声をかける。

 

 

「……大丈夫。大丈夫だからね。お母さんが、ここにいるから……何があっても、あなたを置いていったりしないから……っ」

 

 

 私が差し伸ばした右手をあの子が手に取ろうとした瞬間――背中に悪寒が走る。体に何か細いものが絡みつくような感覚。咄嗟にあの子から距離取ろうとしたタイミングで、私は凄まじい衝撃と痛みに襲われた。

 

 

 ――さらに不幸なことに威力が低かったのか、どうやら私は即死できなかったようだ。指一本も動かせないが、聴覚と視覚だけは僅かに機能していた。

 あの子を助けられず、事切れる。そんな現実を突きつけられようとしていた。もしも、あの魔女が意図したことであるならば、何と邪悪なのだろうか。

 

 

(ご、ごめんなさ……い)

 

 

 明滅する視界であの子を捉えて、今際の際の言葉として謝罪を心の中で紡ぐ。

 

 

 先ほど突き飛ばした拍子で、尻もちをついてしまったあの子が立ち上がる。

 

 

(どうか、あの子だけでも――)

 

 

 最期の祈りを捧げようとした瞬間、停止寸前の聴覚が『ノイズ』を拾う。

 

 

「忘れてた。ボク、■法■女だった。いつ、どうやって成ったんだっけ? ……まあ良いか。忘れるってことは、それほど重要なことではないか。早く、アレをどうにかしないと。

 ――『機械仕掛けの女神様(デウス・エクス・マキナ)』。ボクは、お父さんとの思い出(『宝物』)を『対価』として差し出します。

 あの魔女を倒せるだけの力をください」

 

 

 あの子の姿が私服姿から一変していく。布の量が多い純白なドレス姿に。頭の上には、天使の輪っかを連想させる歯車の輪。背中からは、廃棄物の集合体で構成された両翼。

 天から遣わされた、機械仕掛けの女神様のような神々しさと歪さを肌で感じ取る。『違和感』の一端に触れることができた気がした。

 

 

 それと平行して、記憶に欠損が発生していく。夫があの子――『誰か』と触れ合う場面が、どんどんと抜け落ちていく。

 これは不味い。この『喪失感』を自然なものとして受け入れたら、大事な人を。我が子を一人、未来永劫に失ってしまう。そんな予感があった。

 

 

 だけど、焼けただれた私の喉では、制止の言葉をかけてあげられない。

 

 

「――――『機械仕掛けの女神様(デウス・エクス・マキナ)』。続けてボクは、お母さんとの思い出(『宝物』)を『対価』として差し出します。

 魔女に殺されてしまった人達を生き返らせて、傷ついた人達を元の体に治してください。

 

 

 ……それと最後に、謝罪をする猶予を。ボクの両親であってくれた人達へ、あなた達から、一人の子供を奪ってごめんなさい。ようやく、その罪滅ぼしができます。ボクのことを忘れて、お元気でお過ごしください。……それと今日一日は、とっても楽しかったです。ありがとう――」

 

 

 私の体が温かい優しい光に包まれる。失われた五感が回復していく。記憶の中から、一人分の『空白』が生じていく。小さな機械仕掛けの女神様は、ゴンドラから飛び出すと魔女の方へ飛んでいった。

 

 

 ――それが、気絶する前に私が最後の光景だった。

 

 

 意識を取り戻した後、異変は全て解決していた。遊園地に突如として現れた魔女は、何故かただの少女に戻っていて。建物への損害以外は、特に被害なしという奇跡。

 

 

 そのような説明を、駆けつけてきた『連合』の魔法少女達や職員達からされ、怪我も特にないので多くの一般客が家へと帰された。私達も、その例に漏れず。

 

 

 夫との思い出作りとしては最後には散々ではあったが、より次こそは一人娘を含めた家族全員で、リベンジマッチに挑みたい。そう固く決心した。

 

 

 ……ん? 私、何かおかしなことを言ったかしら? 家はあなたの一人っ子(・・・・)でしょう?

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