機械仕掛けのTS魔法少女さん 作:匿名希望
――TS転生をしたボクには、三つの年齢が離れた可愛い妹がいる。妹の為であったら、どんな苦痛に耐えられると自負ができるぐらいには。
いつどんな時でも、ボクの背中をちょこちょこと追いかけてくる姿は、とても愛くるしいものである。
お互いに年齢を重ねる内に、妹の方に気恥ずかしさでも芽生えたのか、そういったことは最近は徐々に減りつつはあった。けれど、ボクと妹との仲は決して悪いものではない。
ついこの間も、確か一緒に最寄りのデパートに出かけたりもした。また別の機会では――。
……そう言えば、ボクが魔■少■になった時には、自分のことのように喜んでくれたっけ。他にも、お祝いしてくれて、身近で支えてくれた人達がいた気がしたけど、一体誰だっただろうか? その人達の顔が靄がかかったかのように思い出せない。
彼らとボクの関係性は……でも、おかしいな? ボクの家族は妹だけだったはずだけど……それだと生活の面倒は一体……まあ、いいか。|思い出せないということは、あまり重要ではないのだろう《・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・》。
気にし過ぎは、却っての毒になるとも言うらしいし。
そんな顔も碌に記憶にない赤の他人よりも、優先して思い出さないといけないことがある。唯一の家族である妹と暮らしていた家の場所だ。
住んでいる街並みの景色には見覚えがあるのに、自宅までの道のりがすっぽりと抜け落ちていた。何とも言い難い、もどかしいというか、気色の悪い感覚に昨日からずっと苛まれている。
お陰で、十歳にして一日限定でホームレスの真似事をする羽目になっていた。ああ、早く妹の待つ我が家に帰りたい……。
大人達――警察や施設などに保護を求めることも一度は考えたのだが、そうしようとしたら頭痛が走り、本能レベルで拒絶反応が出てしまった。
詳しい原因は分からないが、
そう思い至り、昼間からぶらぶらと街を彷徨っている。……平日に制服姿で出歩いているせいか、周囲からの視線が痛い。通報されて補導されないように、人気が無い場所を経由しながら、ボクは自分の家探しに躍起になっていた。……妹に寂しい想いをさせない為にも。
◆
――私には三歳ほど年齢が上の姉がいる。我が姉について、一言で表すのであれば……憧れに
私が物心がついた時には、姉には将来の夢というものがあった。魔法少女――悪い魔女から、たくさんの人達を助けるお仕事……ボランティア? に就くことだった。
両親や姉本人から聞いた話では、四歳の時には魔法少女になりたいと言い出し、適正とその時のやる気次第ではあるが、『連合』に入ることの許可を両親からもらったのだ。
私には、とても真似できそうにない行動力であった。
魔法少女になれる――正式に『連合』に所属できるようになるのは、国の法律で十歳以上と厳しく決められている。私が見ていた姉がその十歳になるまでの間、姉は行く先々で困っている人達を助けようとしていた。まるで、もう魔法少女に――正義の味方になったかのような調子で。
迷子の子供がいるのであれば、一緒に親を探したり、交番まで届けてあげたり。重たいものを持っている老人がいたら、少しでも持って手伝ってあげたり。学校で喧嘩であるようなら、真っ先に突っ込んで仲裁に入ろうとしたり等など。
姉の人助けエピソードに加減するという概念は、どうやら存在しないらしい。人によってはただの偽善だ、単なる自己満足に過ぎない、狂っていると言うだろう。
特に、最後の「姉は人助け狂い」という意見には私も賛成であった。両親は姉を誇らしく思いつつも、どこか歪な所があるのを理解していたのに、わざと過干渉しようとはしなかった。
際どいバランス感覚で成り立っている姉の心が、壊れてしまう。そう思っていたのだろうか。所詮は子供でしかない私には、両親の考えは想像することしかできなかった。
だからこそ、両親や他の助けられるだけの人達に代わりに、私は姉を見守る義務があった。だって、普通に考えれば当たり前に分かることが一つあるだろう。
人助けに奔走する姉は、一体誰に助けを求めればいい? 誰に弱音を吐き出したらいい? いざという時に支えられる役割を果たせるのは、妹である私しかいない。
という訳で、私は小さな時から姉の後をついて回った。だけど、本当に魔法少女になってからは忙しそうで、前のように一緒に行動する機会は減っていった。
それでも偶のお休みが取れた時には、しっかりと息抜きをさせた。無理やりにでも休ませた。そうしないと、いつまでも他人の為に姉は自分の身と時間を削ろうとするから。
例えば、つい最近で言えばショッピングに出かけたり――。久しぶりに楽しい時間を過ごせたと思う。べ、別に一緒にいられる時間が少なくなって、寂しいと思ってはいない。断じて。
それはそれとして、やっぱり私はそんな誰かを助ける姉の姿が好きなのだろう。気づかない内に、私は私で姉の背中に
でも不快感など一切ない。むしろ姉の負担を少しでも減らしたいという想いから、私も魔法少女を目指そうと自然に志すようになっていた今日この頃。
私がいつも通りに、クラスメイトの皆んなで机を並べて、先生の話に耳を傾けながら、黒板に書かれた文字をノートに書き写していく。私やその他大多数にとっても、ありふれた授業風景。
今書かれた板書が消されて、新しいものに書き換わる前に急いでノートに鉛筆を走らせていたタイミングで、ソレは訪れた。
――板書を書き写す作業に全神経を注いでいた頭が、唐突に痛みを訴え始めた。記憶という巨大なパズルから、勝手に何ピースか持って行かれるような『違和感』に襲われた。
その気持ち悪さに耐え切れずに、右手に持っていた鉛筆を放して、両手で頭を押さえる。鉛筆はころころと転がっていき、机の上から落ちてしまう。乾いた落下音が教室に響く。
「うっ……!?」
「だ、大丈夫っ!? 先生っ!?」
「残りの授業は自習です! 今すぐに保健室に――」
教壇に立っていた先生が授業を中断させて、慌てて私の方に駆け寄ってきた。私の体が持ち上げられる。揺さぶられる感覚を味わいながら、私の意識は途切れた。
――結果的に言えば、私には何も異常はなかった。保健室で少し休んだら、体調はばっちりと回復した。先生達は家に電話して迎えに来てもらおうかと言ってくれたが、この程度で迷惑をかけたくない。
ただでさえ姉が魔■少■になってから、両親は気を揉んでいるというのに、私まで悩みごとのタネを増やす訳には……? あれ……姉はどこにでもいる普通の女子小学生のはず。特にスポーツや習い事で力を入れて、結果を出しているという訳でもないのに……この拭い切れない『違和感』は?
喉に魚の小骨が引っかかってしまったような不快感に悶々としながらも、私は保健室のベッドから立ち上がり下校の準備を進めていく。
ランドセルや、持って帰らないといけない宿題とプリント類はクラスメイト達が運んできてくれたので、準備はすぐに済んだけど。
そんな私の背に、保健室の先生が声をかけてきた。
「じゃあ、気をつけて帰るように。もしも明日も体調が悪くなるようだったら、無理をせずに学校を休むこと。いいわね?」
「はーい。さようなら、先生」
「さようなら、また明日ね」
了解の返事をし、別れの挨拶。そのまま私は家までの帰路についた。友達は待たせるのは悪いと思って、今日は先に帰ってもらっている。
なので普段とは違い、一人で帰ることにはなっているが、周りには通行人の姿がちらほらとあるので不安はない。
むしろ病み上がりのはずなのに、私の足取りは弾んでいた。
明らかにおかしな思考が混ざっているのに、私はその事実を正しく認識できない。
見慣れた我が家が見えてきて、鍵がかかっていないので中に入る。玄関には、母親の他に姉の靴がある。私よりも先に帰っていたようだ。うん、何も異常はない。
この時間帯であれば、母親は夕ごはんの準備で台所にいるだろう。そう当たりをつけて、私は台所の方へと向かう。
体調不良で保健室に運ばれた事実を気取らせない為に、わざと声を張り上げる。しかし、その心配は必要なかった。
扉の先にいた母親は、エプロンを着けたまま放心状態であったから。一目見て尋常ではない様子に、私は自分のことは棚上げにし、慌てて呼びかける。
「ただいまー……って、どうかしたのお母さん? ぼうっとしてて。……もしかして調子でも悪いの!?」
だが、一声で母親の瞳には光が戻ってくる。何ともないといった様子で答えてくれた。
「……大丈夫、ありがとうね。それよりも、早く手を洗ってきなさい」
「はーい」
(……ただの気のせいか、お母さんも毎日の疲れが溜まっていたのかな?)
そうだと信じたくて、現実から目を逸らし私はリビングを後にした。自室にランドセルを置き、姉の部屋の前まで行く。コンコンと軽く扉を叩きながら、声をかける。
「……ねえ、お姉ちゃん。いる?」
「……いるよ」
たっぷりと間が空き、まだ姉は帰ってきていないのか。そんな諦めが顔を覗かせ始め、自分の部屋に戻ろうとした頃合いを見計らったように返事があった。
だけど、その声はとても平坦で、感情には起伏が感じられない。まるで機械音声のように聞こえてしまった。
昼間の学校での一件、そして母親に続いて姉にまで『何か』が起きている。偶然で片付けるには胸騒ぎが酷く、姉の顔を見て、やっぱり私の勘違いであったと安心したかった。
「……何か用なの?」
扉が開けられて、見慣れた姉の姿に私は安堵を覚える――ことはなかった。人助けや魔■少■の活動にひたむきで、喜びを感じていた――最近は義務感に縛られていたようにも見えたが――私の自慢の姉の面影はそこにはない。
あの機械的な声色に違わず、その表情も虚ろ、感情が抜け落ちた無が張り付いていた。視線にも温度はなく、目の前の私ではない、どこか遠くを見ているかのように焦点が合っていない。
「な、何でもないよ……お姉ちゃん。顔が見たかっただけだから」
「そう……」
その圧に負けてしまい、たどたどしくか細い声で答えることしかできず、そんな私に興味を失くした姉はすぐに部屋に引っ込んでしまった。
後に残されたのは、扉の前で立ち尽くす私だけ。
――それからだった、姉の人が変わってしまったのは。学校に行く以外の時間は、部屋に引きこもり、ただぼうっとしている。
あれだけ憧れていたはずの魔■少■の活動の為に、『連合』の支部に顔出しすら……ん? 姉どころか我が家は国が直接運営するようなお硬い組織に縁はなく、一度ですら行ったことは――そんなことよりも、今は姉のメンタルケアを優先すべきだろう。
両親も姉の変わりぶりには、大変心を痛めている。
そして、そんな両親が計画したのは家族での遊園地デート。……残念なことに、せっかく父親が取ってくれた休日には、私が前から入れていた友達との予定とブッキングをしてしまっていた。
友達には悪いけど断ると言ったら、「今度は家族全員、一緒に行こう」と約束してくれて、今回の分は私は見送ることに。
……少しでも元気になってくれたら良いな。
そんな想いで、姉や両親をマイカーで出かけるのを見届けた後、戸締まりをしっかりと確認し、私も友達の家に向けて出発した。
頭の片隅では姉のことで心あらずで、今一気分が乗り切れなかった。ゲームで対戦プレイをしていた最中に、軽い『頭痛』を覚えたことで、この前のことを思い出させて心配をかけてしまったことも原因だろう。
本当に、友達には悪いことをした……。せっかくの休日であったのに。
そんな風に過ごしていると、友達の母親が血相を変えた表情で一つの『バッドニュース』を私に伝えにきた。
「……あのね、落ち着いて聞いてちょうだい。貴女の
その知らせを聞いた瞬間、取り乱して何度も問い詰めてしまった。それは事実なのか、と。
その時の私は間違いなく鬱陶しかったに違いないが、友達やその母親も優しく、根気よく宥めてくれた。
それだけではなく、夕ごはんまでご馳走になってしまった。至れり尽くせりで、頭が上がらない……。
ちょうど夕食を食べ終わった頃を見計らったように、両親から電話が、私のケータイにかかってきた。
『……ごめんなさいね、心配をかけちゃって。すぐに帰るから』
母親の無事な声を聞き、また私は涙腺が緩みそうになる。私の鼻声を耳にして、母親は少し笑った。
『……今度は
(……ん?)
私は自分の耳を一瞬、疑った。何かの聞き間違いかと。母親が魔女の脅威に晒されて、一時的に混乱しているだけだと。
だから、もう一度さっきの台詞を言ってほしいと頼む。
ケータイを持つ手の震えが止まらない。視界が涙や頭痛も合わさり、ぐちゃぐちゃになる。平衡感覚を保てそうになかった。
母親の『喪失感』を一切感じられない声音が、ケータイのスピーカー越しに私の鼓膜を震わせ、正気を削り取っていく。
『……ん? 私、何かおかしなことを言ったかしら? 家はあなたの
――え、何を言っテるノ? お母さん。嘘か何かの冗談……だよね? だって、私にはお姉ちゃんが――。