総理大臣、ダンジョンを駆ける~憲政史上最低支持率◤4.6%◢の総理大臣がダンジョンで無双した結果、日本までもが無双する~   作:三月菫

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第30話 

 お化け屋敷を出たあと、迅一郎の腹がぐうと鳴った。

 腕時計を見ると、針はちょうど正午を指そうとしている。

 

「二人とも、そろそろご飯にしないか」

「うん! たべるー! おなかすいたー!」

 

 その提案に、元気いっぱいに両手を上げるあかり。

 迅一郎は愛娘のはしゃぎ様を優しい眼差しで見つめたあと、ポケットから折りたたまれた遊園地のガイドマップを取り出して手元で広げた。

 

「あかりは何を食べたい? レストランに入ってもいいし、売店でホットスナックを食べてもいいな。確か入口のほうにキッチンカーが数台止まっていたね——」

 

 マップを覗き込む迅一郎。

 その横顔に、結月がためらいがちに話しかけた。

 

「先輩、あの……」

「ん?」

「もしよければ……外で食べませんか? お弁当、作ってきたんです」

「弁当を? 君が?」

「はい。あかりちゃんに『ピクニックみたいなのがいい』って言われまして」

 

 迅一郎はあかりを見やる。

 

「そうなのか、あかり?」

「いったー! ゆづちゃんのおべんとーがいいってー!」

 

 無邪気にはしゃぐあかり。

 

「よし、じゃあ少し歩いた先に芝生広場がある。そこで食べようか」

「わーい! ぴくにっくだー!」

 

 三人は笑い声を交わしながら、芝生広場へと向かった。

 

 芝生広場は、やわらかな日差しに包まれ、十一月らしらぬ温かさに満ちていた。

 

 結月は周囲を見渡し、陽当たりのいい場所を見つけると、背負っていたリュックを下ろした。

 折りたたまれたレジャーシートを取り出し、地面に広げる。

 次に保冷バッグを取り出し、中から取り出した弁当箱や水筒を手際よく並べていく。

 

 こうしてピクニックの準備が整った。

 

「随分大きいリュックだなと思っていたけれど、お弁当が入っていたんだね」

「はい、先輩とあかりちゃんのお口にあえばいいんですけれど」

 

 結月が弁当箱の留め具を外して、蓋を開けた。

 

「これは……すごいな」

「わあああああああ!」

 

 中身を覗き込んだ迅一郎は思わず息をのむ。

 あかりは身を乗り出して、目をキラキラさせた。

 

 一段目には、可愛らしいフォルムのおにぎりと稲荷寿司が仲良く並ぶ。

 二段目には、香ばしそうな唐揚げと、小ぶりながら存在感のあるミニハンバーグ。

 そこに、卵焼きとミニトマトとブロッコリーと彩りが添えられる。

 隅には、きんぴらごぼうとほうれん草のおひたしが、小さなカップに詰められていて、全体のバランスを整えていた。

 

 見ているだけでワクワクしてくるような、彩りの弁当だった。

 

「わーい! ハンバーグ! これ、あかりのいちばんだいすきのやつ!」

「うふふ、いっぱい食べてね」

 

 二人の反応を見て、結月は微笑む。

 その顔を見ながら、迅一郎の胸に小さな棘のような申し訳なさが刺さった。

 この弁当を作るため、きっと彼女は早起きをしたに違いない。

 

「休日に付き合ってもらっただけじゃなくて、こんなに手の込んだ弁当まで……なんてお礼をいったらいいのか。本当にありがとう結月」

「気にしないでください。今日のことは全部、私がしたくてしたことですから。それに——」

 

 結月はそこで言葉を区切ると、はしゃぐあかりの顔を見つめた。

 

「あかりちゃんがこんなに喜んでくれて……本当に嬉しい。ふふ、早起きしてよかった」

 

 あかりはお弁当を前に、体をそわそわと揺らしている。

 もう待ちきれないといった様子だった。

 

「ねえ! パパ! ゆづちゃん! はやくたべようよー!」

「ああ、だがその前にきちんと手をふこうか」

「はーい!」

 

 手早く食前の準備を終えてから、お弁当を前に三人で手を合わせる。

 

「「「いただきまーす」」」

 

 あかりがフォークでさっそくつまんだのは、卵焼きだった。

 一口、口に含んだ瞬間——。

 ほっぺをおさえ、目をまんまるにして笑顔をはじけさせた。

 

「おいひい〜! パパ、これとってもおいしいよ!?」

 

 あかりの声が弾む。

 その無邪気な笑顔に釣られるように、迅一郎も箸を伸ばした。

 

 一口かじると、ふんわりとした食感とやさしい甘さが口いっぱいに広がる。どこか懐かしい味だった。

 

「……本当だ、美味しいな」

 

 自然と笑みがこぼれる。

 お世辞ではない、心からの感想だった。

 

 続いて箸を伸ばしたのは、唐揚げ。

 冷めているのに、外の衣は香ばしくカリッとしていて、口の中で噛みしめると肉汁がじゅわっと溢れ出した。

 

「……うまっ」

 

 思わず声に出た。

 あかりは頬をハムスターのようにふくらませ、幸せそのものの表情で何度もこくこくとうなずく。

 

「ゆづちゃんのおべんと、ほってもおいひいね!」

「ああ、本当に。絶品だ」

 

 迅一郎はあかりと顔を見合わせ、思わず笑みを交わす。

 

 視線を向けると、結月が照れくさそうに、けれど嬉しそうに微笑んでいた。

 

 彼女が用意した山盛りのお弁当は、あっという間に三人の胃袋の中に収まってしまった。

 

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